Phantasm Maze   作:生鮭

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テスト的に短いのを一つ。いつもの3分の1程度です。1日くおりてぃはお察し。


出不精とはかくもありき

 ある日、私はチェスに興じていた。と言っても普通のチェスではない。

 

「うーん、……Re3」「Nf3」「ぐっ……Qxb5」「Qxb7」

 

 脳内将棋ならぬ脳内チェス。……をやっているのはフランだけで、私はフランの言った通りに扉越しに駒を動かしている。

 

「Qxe6」

「……なんかヤケになってない?」

 

 失敬な。これは何十手先を見通した神の一手!

 

「Ba7+」「……Kc9」

 

 冗談ですごめんなさい許して。

 

「Rc2#はい終わり〜」

「ま、参りました……」

 

 やっぱり、今回も、ダメだったよ。

 

 

 

 フランと遊ぼうとすると互いに顔を合わせられないという条件のため、遊ぶ手段が自然と限られてしまう。しりとりとかヌメロンとか山手線ゲームとか。言葉遊び以外に無いように思っていた。

 

 しかしある日フランがチェスの本を読んだらしく、脳内チェスをしようと言い出した。私としては願っても無いことだったが、問題があった。なにぶんルールというか棋譜が難しすぎる。駒を取るときは×だとかチェックは+だとかチェックメイトは#だとか。

 

 でもフランは理解できるそうで、姉たる、一応これでも姉である私が分からないというのはどこか私の心を抉っていった。

 

 つまり何が言いたいかと言えば……フランにバレないように脳内チェスをやっている体を装う私を、生暖かい目で見てくる小悪魔が鬱陶しいということだ。

 

「お姉様弱すぎー」

「返す言葉もございません……」

 

 可愛らしい声でどうしようもない事実を突きつけてくるフランに少しむっとしたが、敗者に口答えする権利はなく、ただ従順に去るのみである。

 

「くっ、ここで私が倒れようとも第2第3の私が立ち塞がるだろう、フランドール・スカーレットよ」

「お姉様が何人来ても負ける気しないけどねー」

 

 最後にそれっぽいセリフを吐いてみたが、速攻で粉々にされた。それもそうだ。今のところ通算18敗目である。と言うわけで、妹接待用かませ犬の私に代わってオウレットに相手してもらう。

 

「あとは……任せたよ」

「安心しなさい。今回こそ仇を討ってあげるわ」

 

 そう言う大魔女殿も既に負けた数が二桁の大台に乗ろうとしている。なんとかそれを阻止しようと意気込むオウレットを尻目に、毎度のごとく私がいると邪魔なので図書館を出た。

 

 

 

 特に行く当てもなくぶらぶらと歩いていると、妖精メイドが掃除をしている姿が嫌でも目に入ってくる。どうやら小悪魔のメイド育成教室は一定の成果を得ていたようで何よりだ。

 しかし私から頼んでおいてなんだが、今更あの喧騒が少し懐かしく思えてしまった。しっかりメイドとしての本分をこなしてくれることと天秤にかければ取るに足らないものなのだろうが。

 

 なんだか妙な寂しさを覚えつつ歩き回っていたら、ふと美鈴に貸した本のことを思い出した。

 

 つい先日、いつも通り門番をしている美鈴に暇つぶしにと思い、街で買った小説を貸したのだ。活字が苦手と言っていたのもあり、苦い顔をしていたが受け取ってもらえた。

 もうそろそろ読み終わってもいい頃だと思うし、感想を聞きに行くことにしよう。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「感想ですか?そうですねぇ……いや、面白いことには面白かったんですが、やっぱり活字は苦手というか……そんなにしょっちゅう読みたいとは思いません」

 

 門の前で目をつぶっていた美鈴と「寝てる?」「瞑想です」といった受け答えのあと感想を聞いてみた。

 美鈴に貸した本はどこにでもある推理小説。私的には結構面白い部類だったのだが、活字自体が苦手だという美鈴には受けが悪かった。

 

「おまけにいくらめくっても細かい字ばかりで眠く……いえ、飽きてしまうもので」

 

 ……途中の言葉に言及するのはやめておこう。でも確かに代わり映えのしない景色はいつか飽きがくるように、何かしらの変化があった方が楽しめるのかもしれない。

 

 

 そうだ、いいことを思いついた。

 

 

「美鈴、貴女はいままでよく忠実に紅魔館の門番として仕えてくれました」

「へ、へ?んーっと、どうも?」

「よってその功労を称え、慰安旅行をプレゼントします!」

 

 慰安旅行。それは日々の辛い労働に対する対価。癒し。飴と鞭の飴に当たる、ひと時の安息。慰安旅行の間は楽しいことで頭がいっぱいになるが終わりが近づくにつれて日々の過酷労働に憂鬱になっていく。それはさながら始業式前日の最後の夏休みを楽しめない学生である。

 ……というのは一般的な慰安旅行。今回私が指す慰安旅行とはつまるところただの休暇だ。

 

「ほー、慰安旅行ですか。いいですねぇ、場所はどこに行くんです?」

「え?いや、美鈴が好きな所に行けば良いと思うけど」

 

 

 ……そんなキョトンとした顔をされても困る。

 

 

「……一緒に行かないんですか?」

「私と美鈴が旅行に出かけたら誰がここの門を守るのさ」

 

 門番がいなくて、頭領(レミリア)が門を守るわけにも行かず、引きこもり(フラン)は部屋から出られず、メイドは力量不足で、魔女(オウレット)とその従者は図書館が根城。

 

 

 私が臨時門番をするしかないじゃないか。

 

 

「えー、じゃあ別に慰安旅行なんていらないですよ」

「ダメ、絶対に行ってきて。主人命令」

「そもそも慰安旅行って一人で行くものでしたっけ……?」

 

 ……さぁ?というか慰安旅行ってワードが先走って出てきただけで、休暇と捉えてくれればいい。要は紅魔館がブラック企業じゃないという証明をしたいだけだ。毎日暇そうに見える美鈴も要因の1つだが。

 

「まあまあ、ほら、さっさと行った行った」

「え!?今からですか!?」

「善は急げって言うでしょ。因みに2日経ったらここに戻されるようにしておくから」

「そんな無茶苦茶な……」

 

 ほらほら、と追い立てるように背中を押してあげると、「何処に行こうかなー?」なんてぼやきながら飛んで行ってしまった。

 

 

 

 そしてすっかり美鈴の姿が見えなくなると、門にしっかりと施錠して防護用の魔法を張り巡らし踵を返す。実のところこれで紅魔館のセキュリティーはバッチリなのだ。

 

 それなのに何故門番を雇う必要があったのかとレミリアにいつだったか聞いた事があった。

 レミリア曰く、『見映え』だそうだ。確かに門番がいるというのはそれだけで屋敷の風格を高める気が……しないでもないが、流石に可哀想なので美鈴には黙っておくことにしている。

 

「そもそも私、昼間は外に出られないからね」

 

 吸血鬼の天敵の1つである日光。これが出ている間は私は外に出ることが出来ず、それはつまり1日の半分は門を守れないことを示す。

 日光のことを美鈴に突かれたら言い訳のしようがなかったが、幸運なことにいつも寝ている(本人は寝ていないと言っているが)門番は頭の回転も鈍いようだった(単に吸血鬼の特性を知らない可能性もあるが)。

 

 ……おっと。

 

「いってらっしゃーい」

 

 言い忘れたからと、何処へ行ったのかも分からない美鈴に向かって背を向けながら手を振っておいた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「いやぁ、久々に羽を伸ばすことができましたよ!」

「そりゃ、良かった」

 

 私が飛車角落ちならぬクイーンルーク落ちで記念すべき28回目の敗北を刻み、オウレットの敗北数が二桁に乗り、小悪魔の知られざるチェスの才能が露見したころ美鈴は帰ってきた。

 

「何処に行ってきたの?」

「日数が日数だったのでちょっと帰郷してきました」

 

 故郷……っていうと中国?今は何時代なのだろうか。中国史は詳しくなかったのでよく分からないが。

 

「そこでですねー、旧友と再会したんですよー」

「旧友って、妖怪?」

「ええ、会う度に友人なんかじゃないって言い張ってますが、拳と拳を交わせばもうそれは友人と同義です!」

 

 絶対違うと思う。

 

「向こうでも結構名の知れた妖怪なんでカルラお嬢様でも知ってるかも知れませんよ?」

 

 中国で、名の知れた?麒麟とかキョンシーぐらいしか思いつかないのだけれど。

 

「九尾っていう妖怪なんですが。妲己とか玉藻前って呼ばれてた時期もあったらしいです」

 

 あー、聞いたことがある。傾国の美女の一人としてよく数えられている。確か中国の殷朝を滅ぼしたとかそんな話。

 

「昼間から一緒に酒を飲んだり、晩酌を楽しんだり、月見酒に洒落込んでみたり、久しぶりに殺りあったりして結構有意義な休暇でした」

 

 最後のは聞かなかったことにしておこう。まぁ何はともあれ、休暇を楽しむことができたなら僥倖だ。

 

「ってわけで、紅美鈴、今日から業務に戻らせていただきます!」

「よろしくお願いします!」

 

 大概真面目な顔で敬礼をされたので、こちらもビシッと敬礼を返しておく。たまの休暇でそんなに楽しんでくれるのなら休暇を出した甲斐もあるというものだ。

 

 自室へ踵を返しかけてふと気づく。

 

 ……おっと。

 

「美鈴」

 

 

 言い忘れていたことが1つ。

 

「何です?」

 

 

「……おかえりなさい」

「ただいま、です」

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