Phantasm Maze   作:生鮭

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苦くも温いある日

 吸血鬼と人間。

 その二つの存在は切っても切れない関係で結ばれている。

 

 吸血鬼のモデルとされるブラド・ツェペシュ。通称串刺し公もいかに残忍であれども人間だ。

 

 吸血鬼が眷族を求める時、人間から吸血することによってそれを為す。これもまた関係性を表す一例である。

 

 そして吸血鬼を殺すのもまた、ヴァンパイアハンターと呼ばれる……まぁ、人間である。

 

 さらに人間の生き血を糧に生きるのは吸血鬼。

 

 と、まあこんな感じにつらつら並べ立ててみたが、何が言いたいかというと。

 

 

 

「え、咲夜って人間なの?」

「ええ、れっきとした人間ですよ」

 

 吸血鬼と人間が主従関係にあるのはおかしいのでは無いか、という事だ。

 

 

 

 

 

 

 咲夜はとても腕の立つ料理人だった。洋食を作らせても、気まぐれで教えた肉じゃがを作らせても、毎回ほっぺたが落ちそうなほど美味しい。

 

 しかし料理人だけでは終わらなかった。手が余ったから、と言って洗濯や掃除までしてくれているのだが、なんだか、もう凄い。

 乾いた洗濯物にはシミひとつなく、掃除に関しては短時間で驚くほど綺麗になっている。

 

 これは、あれだ。出来る女ってやつだ。

 

 

 

 

 

 

 咲夜が気まぐれに作ってくれたというプリンに舌鼓を打ちながらそんなことを考えていると、目の前にコーヒーが置かれた。

 

 鼻をつく苦そうな匂いに反射的に顔をしかめてしまう。

 私はコーヒーが苦手だ。匂いが苦くて、味も苦い。なんなら飲んだ後さえ苦味がしばらく抜けないのだ。

 

 別にコーヒーを卑下しているわけでは無い。砂糖をこれでもかと言うほど入れて、薄茶色になるまでミルクを混ぜたコーヒーは好きだ。少しの苦味もアクセントとして悪くは無い。

 

 それカフェオレや。

 ……つまるところわたしの味覚がお子ちゃまなだけである。

 

「……苦い」

 

 しかし私が好きでは無いからと突き返すのは、些か失礼だと思い無理に飲んでみた。が、溢れ出る苦味に耐え切れなかった。

 

「ごめん、咲夜これ飲めない」

「……そうですか。それは失礼しました」

 

 無表情だが、少ない言葉数の中に微かに悲哀が滲み出ていて心が痛む。思わず止めようと思ったが、すでにコーヒーは無くなっていた。

 

 伸ばしかけた手が宙をさ迷い、結局何もせずに元の位置に戻す。ちょっとだけ気恥ずかしくなり、もう一人の同席者に話を振る。

 

「どう?終わった?」

「それ、さっきも聞いたわ。もちろんまだ終わっていないのだけれど。……これ、普通に美味しいわよ、咲夜」

 

 なんの話かと思い目をやれば、私の飲みかけのコーヒーはオウレットの手元に移動していた。

 ありがとうございます、と返す咲夜の顔は心なしか嬉しそうで、いっそう罪悪感が増した。

 

 今日は兼ねてからオウレットに頼んでいたあるものが完成しそうだということで、図書館を訪れていた。もちろん昼間に。そこに咲夜がプリンを持ってきたのだ。……まさかコーヒーと一緒だとは思わなかったが。

 

 鬱蒼とした気持ちに浸っていると、コトッと目の前に紅茶が現れた。思わず咲夜を見上げれば、無表情のまま、さらにシュガーポットが卓上に追加された。

 

「……どうぞ」

 

 思わず涙が出そうになった、と言っては大袈裟だが不意な心遣いが琴線に触れた。

 

「あ、ありがとう……」

 

 胸が温かくなるのを隠すようにシュガーポットから角砂糖を3個ほど紅茶に投下する。溶けきったところでそっと口に含む。

 

 するとどうだろうか。

 

 

 

馬鹿苦ぇ。

 

「ゲホッ!ゴッホ、ゴッホ!」

 

 ぐああぁぁぁぁ。砂糖をあんなに入れたのに、口の中で苦味だけが暴れまわっている。先ほどのコーヒーの比じゃない。

 

「しゃ、しゃくや、これ」

「ニガヨモギを煎じたものです」

 

 あまりの苦さに口が拒絶して舌ったらずになってしまったが、そんなことより、……何してんねん。

 ニガヨモギ、ニガヨモギだなんて……!……知らないけどいかにも苦そうなものを!

 

「最近お顔色の方が悪そうに見えたので、少しでも眠気覚ましになれば、と」

「そう、かな」

 

 まぁ、実際かなりの日数徹夜していることは確かで、だとしたら有り難い……のか?下手に睡眠薬とか飲まされるよりは遥かにマシだけれど。

 

「そうそう、いくら吸血鬼でも適度な睡眠は大切よ」

 

 いや、睡眠が必要ない魔女に言われても嫌味にしか聞こえない……と言いそうになったが、頼みごとをしている身なので黙っておく。変なところでヘソを曲げられちゃ敵わない。

 

「はぁ……」

 

 結局、開きかけた口を閉じ、飲みかけのニガヨモギ茶にも手を出す気は起こらず、手持ち無沙汰になったので卓上に重ねられた新聞に手を伸ばす。

 

 ちなみに紅魔館では3紙ほど新聞を取っている。

 主にレミリアが読むためのものだが、読み終わったのは大抵暇つぶしに要因としてこちらに流れてくる。高級紙から地方紙まで色々読めるので結構な頻度でなかなか興味深い記事を見つけることができて、存外楽しいのだ。

 

『一夜にして町が更地に

 

     "紅い悪魔"の仕業か?』

 

「あったり前よぉ、そんなのレミリアにかかればチョチョイのチョイだっての」

 

 ついでにレミリアの記事を見つけるとちょっと嬉しい。

 

「ごふっ!」

 

 突然聞こえた咳き込む音に振り返ると、特に変わったことはなく無表情の咲夜が立っているだけだった。聞き間違いかと思ったが、口端から垂れる液体を見るに大体想像はついた。

 

 全く、自分も飲めないものを人に飲ませるんじゃない。

 

 しばらく読み進めていくと、イギリスの高級紙に興味深い見出しがあった。

 

『またもや殺人事件。

 

     地元警察は連続殺人犯の可能性を視野に』

 

 一面ではなく二面で扱っていることから重要視の程度が知れるが、言ってしまっては、たかが地方の事件を高級紙が取り上げていることに少し惹かれた。

 しかもなによりこの事件、結構近辺で起こっている。試しに地元の新聞を漁ってみれば、一面にデカデカと載っていた。

 詳しく見る前に、少し予想を立てる。

 

「……ん、五件」

 

 お、当たった当たった。

 

『連続殺人犯の仕業と断定されれば

   

     今回の被害者を含めて5件目』

 

 なぜ私がこれを当てることができたかと言えば、単純な話だ。

 

「咲夜ー、これ咲夜でしょ?」

 

 連続殺人犯とは我が紅魔館の料理長のことだからである。

 

「……どうですかね。特に採ったときのことは記憶に残ってないもので。もしかしたらそうかもしれません」

 

 仕方なく、といった感じで新しい紅茶を淹れる咲夜。その所業からは、誰も5人の人間を殺してきたとは思わないだろう。

 

 吸血鬼でなくとも妖怪や悪魔に準ずる存在は、人間の血肉を主な食料としている。別に他の食材が喉を通らないというわけではなく、人肉を喰らう、もっと簡略化すると人を脅かすことこそが私たちの存在意義なのだ。

 

 故に人に認識されなくなると存在を保てなくなる。脅かしてきた妖しい者たちが理屈付けられると人は恐れなくなるからだ。現に21世紀ではそのような怪異たちは存在していない。

 

 ーーーーもちろん吸血鬼も。

 

 存在していた歴史などなく、架空の生物として知られている。

 しかし今現在私たちは『いる』のだ。転生後にこの世界に関して深く考えることはなかった……いや、避けてきたのだが。

 前世と同じ世界線を辿るのか、はたまた全くの別世界として発展していくのかによって今後の身の振る舞いを考える必要がある。

 

 前者の場合、私たち『吸血鬼』は消える運命にあるのだから。

 

「……そう言えば咲夜の種族って聞いたことないね」

 

 咲夜は見てくれは完全に何処にでもいる子供である。これといった怪異たらしめる特徴が外見からは全く見えない。

 咲夜からすればあまりにも脈絡のない話だっただろうが、律儀に答えてくれた。

 

「種族……人間ですが」

「人、……人間!?え、咲夜って人間だったの?」

 

 そして冒頭の会話に戻る。

 

「ええ、れっきとした人間ですよ」

 

 確かに妖精だとか悪魔の一種だとか思っていたわけではなかったが、よもや人間だとは。

 

「オウレット、咲夜人間だってよ」

「知ってたわよ」

「……言ってくれても良かったのに」

「聞かれなかったもの」

 

 衝撃の事実。

 

「いや、だって時間を操作できるんだよ?人間だなんて普通思わないでしょ」

「普通は魔力がないから人間だと判断するのよ」

「……確かに」

 

 はぁ、とため息を一つ零しながらも作業をする手は止めない。どことなく家事をしている時の咲夜と似通った、プロの手つきだ。

 そろそろ完成だろうかと、かけそうになった声をギリギリで止めておいた。また小言を言われるのは勘弁したい。

 

「へぇー咲夜人間だったのか……」

 

 最近で一番衝撃的だった。

 咲夜が人間だと何か変わるのか、と言われると何も変わらない。ただただ衝撃的だっただけだ。

 

「ちなみにレミィも把握しているわよ」

「レ、レミィ?」

 

 再び作業に戻ったと思っていた(事実手は動いていたが)オウレットがまたなんか言い出した。

 

「えーっと、何、レミィって、え?レミリアのこと?」

「私と貴女の共通の知り合いで、他にその名前で呼べるのはいなかったと思うけど」

「それ以前にどっちも外に出ないから共通の知り合いのできようが無いと思う」

「……ぐはっ」

 

 カルラ・スカーレットの 不意に出た 悪意の無い 口撃!

 

 魔女に 大ダメージ!

 

「……ぐはっ」

 

 自分に返ってきて 大ダメージ!

 

「いつの間にそんな親密な関係に……」

「大袈裟ね……たかが呼び名が変わっただけでしょうに」

 

 というかレミリアが知っているということは……

 

「私だけ阿保を曝け出していた、と」

「ま、あんまり気にしない方がいいわよ。貴女がちょっとアレなことは周知の事実なんだし」

「アレってなにさアレって」

 

 どうせ馬鹿だとか阿保だとかネジが抜けてるとか思われてるんだろう。まさか、と咲夜に視線を投げかけると、オウレットの手元に興味があるらしくぽかんと口をあげながら注視していた。

 

 興味なしですか。さいですか。

 

 

 

 

 

 やることがなくなって適当に、本当に適当に選んだ『猫の仕草に隠された100のコト』という本を読み始め、半分ほどまで読み進めた時。ちなみに咲夜はいつの間にかいなくなってた。

 

「ふぅ、終わったわよ」

 

 どうやら頼んでいたブツが出来上がったようだ。てか仕事早っ!まさか3日も経たずにできるとは思ってなかった。やっぱり持つべきものは天才魔女なんだなって。

 

「お疲れー。ふむふむ、なるほど。これが……」

 

 手渡されたものを万が一にでも壊さないように、オウレットがそんなに柔いものを作ってるはずはないのだが、慎重に目の前に掲げた。レンズの部分がシャンデリアの光を反射する。

 

「作っておいて今更なんだけど、本当にそんなものが欲しかったの?私にはそこまで価値があるようには思えないのだけれど」

「……いや、見た目は完璧だよ。それだけでも価値がある。あとは性能だけど……ちょっと試してくる」

 

 そうオウレットに言い置いて、弾む足取りを感じながら図書館を出た。

 

 自室に戻りながら私はどこか冷静な口調とは別に、今までになく気分を高揚させていた。想像以上に見た目が良かったからだ。

 今の時間はちょうど夕暮れ時。夜を統べる(らしい)吸血鬼らしからぬ時間帯である。

 

 やっと着いてドアを開けると、見えたのはカーテンの隙間から漏れるオレンジ色の光。

 

「ーーやっと、やっと念願が、」

 

 苦節うん十年……あまりにも長かった。幼い頃は自分の体質のせいだから、と諦めていた。でもいつか、いつかは出来るようになりたいと努力を重ねてきた。

 

 それが今(努力とはあまり関係ないところで)達成されようとしているのだ。

 

 バルコニーに近づき、カーテンを掴む。

 そして片手に握っていたそれを()()する。

 

 でも付ける前となにが違ったか分からなかった。本当に大丈夫なんだろうな?オウレットの腕を疑っているわけではないが、少し不安になる。

 

「……もし焼けたら恨んでやる」

 

 ちょっとばかし自分勝手だと思いながら、半ば自棄気味な思考でカーテンを思いっきり開け放った。

 

 

 

 そこにあったのは。

 

 

 

「……!」

 

 言葉なんて出なかった。

 

 周りから見ればなんて事のないただの夕焼けに違いない。それは事実間違っていなくて、私は今どこにでもある、46億年前から変わらない景色を見ているのだろう。

 

 しかしこの景色はそんな普遍的でチープなものではなかった。この美しさを知っているばかりにずっと渇望に苛まれてきたのだ。

 

 吸血鬼に転生した今世ではろくに陽の光を拝むことなんて出来やしなかった。手慰みに本の中で満足するしかなかった。

 

「凄い……」

 

 でもそれは本で眺めるのとはまるで違っていた。空を橙に染めている太陽はもう沈みかけだったが、どこか心に深く染み込んでいった。

 

 そして何故だか分からないが、目頭が熱くなり視界が滲んでくる。……そんな夕陽に感動するようなロマンチックな性格じゃないと思っていたのだけれど。

 

「……なんだ、これ」

 

 視界が滲むと同時に視界がぶれ始めた。

 

 ここではないどこかで見た、同じような光景とダブるのだ。紛うことなき前の生での記憶である。

 

 ノイズのように断続的に頭がキリキリと痛む。しかし満足感にも似た身体を包む暖かさが上回り、ずっと見ていられた。

 

 胸が温かくなるにつれて次第に体全体も熱くなってきた。この感覚は知っている。吸血鬼としての体質が太陽光を拒んでいるのだ。

 徐々に燃えるような熱さに変わっていったが、私はこの場を動きたくはなかった。少しでも長く網膜に焼き付けたいと思ったのだ。

 

 本来なら夕陽であっても直接見たら焼け溶けてしまうのだが、今はいくら見たって目だけは無事だ。

 それは偏に今かけているオウレット特性眼鏡のおかげだ。原理はほんと何言ってるか分からなかったが、見事に要望通り、吸血鬼が太陽光を直視できるメガネを作ってくれた。

 

 見た目も細い黒縁のいわゆるウェリントン型になっていて、私がかけていても遜色ない程度に仕上がっていた。本当は片眼鏡とかかけてみたかったけどそれは後で自分で作ろう。

 

 今やりたいのはこの光景を脳に焼き付けることだけ。

 

 

 

 

「あづい……つかれた……」

 

 結局、見る限り赤く爛れていないところが見えないほど日光浴をしてしまった。恐らく目だけは焼けていないため、パンダ模様になっていることだろう。

 

 ふらふらな足取りでベッドに身を投げる。

 

 少しベタつく感覚に、選択をするのであろう咲夜か妖精メイドに罪悪感が湧いた。このまま自然に回復するのを待っていてもいいが、しばらく永続的に続くであろう痛みに耐えられそうにない。

 

 

 

「何してるのよ、全く……」

 

 なけなしの気力で図書館までたどり着いた私を待っていたのは、レミリアの呆れの言葉だった。

 

「いや、日光浴って良いもんだなぁって」

 

 珍客に驚きながらオウレットの治療を受けていると、かけていた眼鏡が外されてしまった。自分でも付けてみたくなったのだろうか。

 

 椅子に腰掛けながら興味深げに眼鏡を弄くり回すレミリアを見てちょっと不安になる。

 

 ……絶対壊すなよ。

 

「へぇー、これにそんな効果がねぇ……」

「……あげないからね」

「分かってるわよ、ちょっと気になっただけ……。うん、よく似合ってるじゃない」

 

 かけ直された眼鏡をまた外してレミリアにかけてみる。……まぁ、悪くはないが色が合わないな。

 

「……何よ、急に」

「レミリアはやっぱり赤じゃないとなぁ」

 

 フレームの色を変えたバージョンでも作ってみるか。ファッションとしての伊達眼鏡だけなら私にも作れる。これで次の誕プレは決まりだな。

 

「変なカルラね」

「いつものことじゃない。夕陽が見たい吸血鬼なんて聞いたことがないわ。ましてや自分から焼かれてくるだなんて」

 

 けっ、勝手に言ってろ。どうせ夕陽が見れなくて悶々とした覚えのない貴様らにはわかるまい。

 

「……うっさいなぁ。それよかレミリアが図書館に来るのって結構珍しくない?」

「ああ、それね。ちょっと相談したいことがあって。ほら、カルラって図書館にいることが多いじゃない」

「相談?」

 

 基本的にレミリアに紅魔館のことは丸投げにしているので(申し訳ない事に)相談に乗ってやれることなんてない気がするが……。まぁ、私にしか相談できないのならしょうがないな。

 

「引っ越し、しない?」

「ひ、引っ越し?」

 

 思わぬワードに馬鹿みたいにおうむ返ししてしまった。私が予想してたのは、もっとこう、……特に思いつかないが別の話だったのだが。

 

「そう、さっき八雲紫と会ったの」

「紫に?また珍しい……って会うの初めてじゃない?」

 

 私とはたまに話す機会があるのだが、タイミングが悪かったり紫自身があまりレミリアと会いたくないと公言してたりして、二人はまだ顔を合わせたことも無かったはずだ。

 

「ええ、なんて言うか、胡散臭いやつだったわね。まあ、それはともかく、八雲紫に『幻想郷』に来ないかって提案を受けたのよ。……言いたいことはわかるわ」

 

 聞いたことのない単語に引っかかっていると、唇に指を当て静かにするよう促してくる。

 こちらが質問する前に言いたいことを察してくれるレミリアさん流石っす。

 

「まず幻想郷っていうのは人間に存在を認知されなくなった、つまり『幻想になった』者が集う、結界……東洋の魔術みたいなものね……で隔離された世界のことよ」

 

「八雲紫はそこの管理人を務めていて、時々外界から人外を引き入れているらしのよ。それで今回私たちに話が回ってきたってわけ」

 

「……あなたも薄々気づいているとは思うけど、このままじゃ私達も近いうちに『幻想』になってしまう。私も以前みたいに幅を利かせることは出来ないし……」

「これみたいに誤魔化すこともできないし?」

 

 レミリアが言いたいことを察して、机の上にあった新聞を指差す。

 静かに頷くレミリアに陰鬱とした感情が陰る。

 

『一夜にして町が更地に?

 

     "紅い悪魔"の仕業か?』

 

 この記事に書かれているのは吸血鬼に対する恐怖心を煽るためにレミリアが行った『()()』である。

 しかし、レミリアが生き残った人間や騒ぎに駆けつけてきた人間に『私がやった』と言っても(ちょっと痛々しく思えるが)新聞には疑問形で書かれる始末。

 

 吸血鬼の存在が疑われ始めていて、『()()』になるまでのリミットが近いのは残酷にも現実なのである。

 

「でも幻想郷に移ればそれは避けられるわ。……正直温情をかけられてるみたいであまり面白くないのだけれど、残念ながら私じゃ今の状況を打開する策は思いつかなかった……。悪いわね。当主失格よ」

 

 ……違う、レミリアが悪いわけじゃない。何もせずに手をこまねいていた私も悪いのだ。だから、そんな申し訳なさそうな顔を向けられる資格はない。

 

「どうかしら?悪くない話だとは思うのだけれど」

「私は……、」

 

 幻想郷。それは破滅への道をなぞるしかなかった私達にとって、地獄に垂らされた蜘蛛糸のようだった。

 

 何も考えずに是非を出すなら迷うことなく賛成だ。紫は日本から来たと言っていたし、幻想郷もおそらくは日本にあるのだろう。

 西欧の雰囲気も良いが、かねてから紫に日本のあれこれを聞いて、帰郷本能に駆られていたのだ。

 

「……ちょっと考えさせて」

「え?あ、ええ、構わないわ」

 

 煮え切らない回答に困惑するレミリアを見て、少し申し訳なく思う。私は賛成だと疑わなかったかのような、虚を突かれた表情だった。

 

 そう、普段なら私はここで直ぐに頷いていたことだろう。実際考えてみても移住に肯定的な意見しか出てこなかったことだし。

 

 

 

 しかし何かが、魚の小骨のように心につっかえているのだ。うまい話には裏がある、と決めつける訳ではないが何かを忘れているような気がして、それが頷くことを良しとしなかった。

 

 故の保留。

 

 もしかしたら杞憂なのかもしれない。

 

 レミリアの妹という位置付けであっても、横に並び立って選択していかなければならなかった筈だ。この保留は、選択するのには向いていないからと、レミリアに丸投げしたことに対する贖罪なのだ。

 

 少しでも自分で考えて道を選ぶ事をしたかったのだ。

 

 

 

「ああ、それとこれ今日の新聞ね」

「……ん、ありがと」

「八雲紫はまた日を開けて来るって言ってたから、それまでに決めておいて頂戴」

「了解」

 

 そう言い置いて席を立ったレミリアに了承の意を伝える。

 

 

 

 レミリアが出て行って、治療してくれたオウレットにお礼を言った後に新聞片手に自室に戻った。

 

 そして何とは無しに新聞を開いた時、

 

『相次ぐ殺人事件』

 

 私は目を奪われた。

 

『手口が類似していることから地元警察は連続殺人犯の仕業と推定。

 

     ()()()()()()()()の仕業か?』

 

 

 

 時間は悠長に待ってはくれないようだった。

 

 

 




何故エエェェェェェ!!

投稿がああぁぁぁぁぁ!!

遅れたのかと言うとおおぉぉぉぉぉ!!

プリヤを見ていたからでええぇぇぇぇぇす!!

ごめんなさい(切実)。

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