ohisasiburidesu.
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ギャップ萌えとは一人の人物に内在する二面性が織り成すユートピア……らしい。クールだと思っていたら甘えん坊だったり、やけに強く当たってくると思ったら急にデレたり。
普段から描いていた人物像を裏切る意外な一面に心がときめいてしまうのだとか。
さらに言及するなら、その意外な性格を発見した後だと、普段の行動全てが可愛く思えてしまう。もしくはその発見は自分しか知らないものではないかと邪推して、独占欲や優越感が湧き上がってくる。
例えば目の前の美人さんはどうだろうか。
妖精のように可憐にも、頼れるお姉さんキャラにも、成熟した大人ように妖しくも見える。これだけ並べると属性としては申し分無い。
しかしその白い肌が覗ける二本の腕には
所々に白い部分が見えるカッターシャツには
私の知っている誰にも劣らない端正な顔立ちには
見た目だけで言えばヤンデレっぽいのだが、内面は
見た目だけでは優しそうだと思っていたら、ヤベーやつだった。そんなギャップ。いや、これで第一印象が決定づけられたのだから、これからギャップ萌えは始まるのかもしれない。
しかし素がこんなである美人さんにギャップ萌えを感じる人は果たしているのだろうか?いるとしたらそいつは被虐趣味に違いない。
そして少なくとも私は心がときめいたりもしないし、早く虐めて貰いたいと息を荒げたりもしない。
つまり私が何を言いたいかというと、
「せめて自己紹介だけでも……」
「あら、貴女はこれから踏み潰す雑草に自己紹介をするのかしら?」
……今すぐにでもこの場から消えてしまいたい。
◇◇◇
時間帯は昼。正確には正午より少し前ぐらい。本来ならば吸血鬼の特異な体質に従って、ヒキニートよろしく屋内で過ごしているのだが、大空に広がる緋色(正直ピンク色だがそれを言うとレミリアに怒られる)の雲によってどういうわけだか、今日に限って美人さんとお花畑デートである。
しかしお互いに初対面なので自己紹介をしようとしたらこの有様。まるで私と言葉を交わしたく無いと言われてるみたい。
何故だか私はこの女性に敵対視されている。
その理由が、ピンク色……もとい緋色の雲を作ったのが私で、その雲が
本当によく分からない理由である。確かに我が子のように育てた草木が他人に踏み躙られたら憤ることもあろう。悲しむことだってある。
しかし雲がなんだというのだ。たかが雲ではあるが、されど雲、ではあるまい。曇りの日ぐらい一年の間に腐るほどあるだろう。何だ?その度に毎回空に向かって怒鳴り散らしているのか?馬鹿らしい。その上この雲だってせいぜいが一週間持てばいいところだ。
そんなことをできるだけ逆鱗に触れない程度に柔和に話したのだが、焼け石に水のようでむしろ殺意が右肩上がりになるばかりである。
そこまでのやりとりで漸く理解した。この場所は彼女にとって聖域なのだ。悪影響が有ろうと無かろうと、もしも良い影響を与えるとしても、異分子が混ざり込むこと自体が許せないのだろう。
つまりはーー、私がここに踏み込んだ時点でぶっ殺案件だったのだ。
「ーーーーいッ!!」
「あら、避けちゃダメよ」
ふわりと形容するのが相応しい笑みに背筋が凍り、直感的に逸らした頭上を黄色い光線が通過する。急な動きに置き去りにされた髪の一部が嫌な匂いを出す。
恐らくは指向性を持たせた魔力なのだろうが、込められている質量が尋常じゃないほどに高い。
「待て待て、なんで私がこの趣味の悪い雲を出したと判る?こんなヘンテコな色の雲を作る吸血鬼が他にいるかもしれない。例えばレで始まってアで終わる私の双子とか」
「だって貴女と同じ魔力じゃない、あの雲」
……いや、いやいやいや、それを言われたらお終いなんだけど。そりゃあレミリアが作ったんだから同じ魔力ですよ。……あれ?合ってるのか。
「術を解きたかったら術者を叩くのは当然よね」
またもやレーザーポイントよろしく放たれた光線を勘だけで首を傾げて避ける。十分に避けれなかったのか、右頬にピリつく痛みが光線の殺傷力が高いことを証明してくれる。
「撃つと動くわよ。……動くと撃つだったかしら?」
「動かなかったら撃たないの?」
「当然……撃つに決まってるじゃない」
正面から魔力の膨張を感じて、必死に横っ飛びする。
あまりの威力に空気の振動音が聞こえて、攻撃すればいいものを思わず振り返ってしまう。
「ウッソでしょ……」
レーザーというより、これは『魔砲』と言った方がその有様を顕著に表している。直径が私の身長の3倍以上はある魔力のレーザーがすぐ横を通り過ぎていった。
吸血鬼の肌を焼くほどの出力を持った魔力で、あの規模を維持しているとしたら、彼女はとても生物という括りで纏められる存在ではない。
地球外生命体と言われた方がまだしっくりくる。
正直勝てる気がしない。
勝てるプランがない。
しかし殺らなければ殺られてしまうのも、また道理であって。
仕方なしに最大限の努力を試みる。
彼女を中心点に見立て、一定の距離を保ったままぐるぐる走り回る。当然先方もそれを愚直に追い立てるわけではなく、時に先読みをしながら、時に退路を潰すように魔砲を撃ってくる。
「ちょこまかちょこまかと……! まるで羽虫ね」
綺麗な顔を苛立ちで歪ませながら、膨大な質量の放出を少しも緩める様子はない。
あれだけの魔力は一体どこから湧いているのか。答えは至極簡単であった。この土地、この花畑全体が彼女の魔力で満ち満ちている。正確には花畑を構成している色とりどりの花の一つ一つが、濃い魔力をベールのように帯びている。
そのお陰か、さっきから魔砲をいくら浴びようとも、さもそよ風に充てられたように揺らぐだけである。
唯一の私の強みである座標を、走り回りながら、時に予測しながら取得していく。
こんなことができるのも偏に彼女が言わば固定砲台のごとく、最初にあった場所から一歩も動かないからである。しかしそれは反動を耐えきれるほどの身体能力があることを示している。
つまり接近戦も期待できそうにない。
クッソ!
ある程度周囲の座標を集め終わったので、反撃と行きたいのだがいかんせん糸口がつかめない。
一つの手として、奴の目がこちらを向いた瞬間に反対側に転移し弾幕を撃ち込むという方法がある。
だが転移先を読まれるリスクを無視できない。
私にとっての勝利条件、触れれば勝ち、というのがもう一歩踏み出せないのだ。
どうしたものか、と思考に集中力を奪われた一瞬。
ーーーー……いないっ!?
私がぐるぐる回っていた円周の中心にいたはずなのに居なくなっている。意識から外れた、と言ってもほんの一瞬だ。その刹那の意識の間を縫うように姿を消された。
慌てて周囲を見渡すーーーーが、それさえも命取りだった。
「のろいわねぇ」
腕の骨を突き抜け、肋骨が嫌な音を立ててひしゃげる。
華奢な体格に見合った細く美しい腕が、らしからぬ衝撃を持って私の腹部を突き抜けた。
後ろに飛んで衝撃を流そうと考えた時、ベクトルが変わった。正面からわずかに角度が付き、地面に擦りつけられるように吹き飛ばされたのだ。
「ぐ……ふっ……!」
言葉のまま内臓をかき混ぜられたような痛みに、背中が地面とぶつかり前後から圧迫され、血が口元までせり上がってきて溢れそうになる。
しかし口の中にとどめた。吐いて仕舞えば止まらなくなる気がしたから。温かい液体を嚥下すると、ぬるりとした感触にまた吐き気が込み上げてくる。
そして少し後悔する。能力を使う上で一番効率がいいのは美鈴と戦った時のように、相手に私の血を飲ませることだ。
また死んだフリをするのは勘弁願いたいが、場合によってはやむを得まい。その上で、
思った以上に重く響いている臓器の損傷を圧して、震える足で立ち上がる。目の前が霞むが、私の前に誰かが立っていることはシルエットで分かった。
「……なんの真似かしら?私を舐めているなら非常に不愉快極まりないのだけれど」
「なんの真似と言われても……見たまんまだよ」
はいはい、デジャヴデジャヴ。
全く同じこと美鈴にも言われたから。
サンドバッグは何度でも殴れるからサンドバッグたり得るのであり、たった一度殴っただけで壊れてはフラストレーションの捌け口には到底なれない。
「ぐっ……!があぁぁぁっ!」
足をグリグリと踏みつけられ、骨にヒビが入る音が聞こえる。激痛に耐えかねてあられもない声を上げてしまう。意識がパチパチと明滅し、視界がぼやける。
そんなにも弱いサンドバッグ擬きを嬲るには弱い力でなくてはならない。少しの力で徐々に壊していくのだ。
痛みに悶絶しながら、元凶になったあの忌々しいピンク色緋色の雲を見上げる。
あれさえ無ければーーーー……。
……いや、これは使えるかもしれない。
しかし一旦距離を取らなければ。
取得した座標で現在地から最も遠い場所を選択する。
その間にも無慈悲なグリグリは続いていて、痛みで集中力が切れそうになるが必死で繫ぎ止める。
痛くなーい痛くなーい痛くなーい。
幸いにも意識が途切れるか途切れないかの痛みで収まっている。いや、相手がそうなるよう調節してるのだ。
全く、天性のサディストだこと!
だが慢心だ。
足を退けるために指をピストルのように構え、がむしゃらに魔力を込めて射出する。
狙いは表面積が一番大きい(と言っては殺されそうだが)腹部だ。それなりの威力を込めた弾丸は、相手が横に躱したことで宙へと消えていく。
脚がようやく自由になったので、座標で跳躍して一旦大きく距離をとる。
「私を置いて何処へ逃げようとしているのかしら」
ちょっとラピュタっぽい。いや、小さい子供を追いかけ回してる点では同じかもしれない。
新説! この人とム○カはロリコンだった?
なんて馬鹿なこと考えていると、ノールックで正確にこちらに向かって先ほどより一回り小さい魔砲を撃ってくる。
足はしばらく使えそうにないので、あまり小回りの効かない空中で躱すしかない。
ーーーー血を捻出。
ーーーー霧状に変化。
ーーーー周囲に散布。
レミリアの雲に着想を得た画期的な案である。
馬鹿高い魔力を持っていたとしても所詮は一生物に過ぎない。この世に生を受けている以上呼吸せずには生きてられない。そこで空気中に私の魔力を散らしておけば勝手に体内に取り込んでくれるって寸法だ。
さらに魔力がそこら中にあるため、転移しても位置バレしにくいってのも利点の一つだ。頭良すぎん?
自分のスマートさに顔をにやけさせていると、果たして魔力が彼女の体内に入ったことが確認できた。
美鈴のときと違って少量ではあるが、どちらにせよ私の魔力が入っていることには変わりないので、この状態で触れて仕舞えばチェックメイトである。
しかし、ふわりとロングスカートを靡かせながら、ゆらりとこちらに鋭い眼光を投げるサディストに内心震え上がっていた。
理由は簡単ーーーー霧を撒いたということは、すなわちいよいよ敵対する意思を自分から見せたということに他ならない。現に、確かな殺意の篭った眼が私を射殺しそうなほど睨みつけている。
怖い怖い怖い怖い怖いっ!
そんな睨まなくてもいいじゃない……。
さっさと終わらせよ……。
自身を隠すように派手な色の弾幕をとにかくばら撒く。出してるこっちの目がチカチカするほど。
なんだったか、一色から特異の色を見つけるのは簡単だけど、多色の中から一色を見つけるのは難しいとかなんとか。そりゃそうだな。
そしてその間に無防備な背後に移動して背中に触れる。同時に能力を使い、『拒絶反応』を誘発させる。
「ハイ終わりっ!!」
一時的に体の自由を奪われているのだから倒れても良さそうなものだが、武蔵坊弁慶よろしくずっと立ったままなのがなんとも不気味だ。
え、……効いてる……よね?
効果が切れるといけないので、早々に空間魔法で銀製の鎖を用意して手袋をつけながら丁寧に巻き付けていく。
いまこいつの体内には私の魔力が流れている。……たぶん。だから銀でできたものには耐性がないのだ。……たぶん。
完全に捕食者を気取っていたのに、あっさりやられて恥ずかしいお顔を拝見しようと回り込むと、
「ひいっ!」
なんとまだ捕食者面した目は鋭く光っており、なんなら形の整った唇は三日月のように醜く歪んでいた。
え、終わりだよね?終わりじゃん。美鈴だとこれで終わったじゃん。もしかして本当にどちらかが死ぬまでの残虐ファイトとか?勘弁してくれ。
でもこれどうするんだ?
私としては紫の友人を殺すのは忍びないし、彼女も身動きが取れないのだから膠着状態に入るのは必然ーーーー……、
バキッ。
嫌な音がした。
からんからん。
金属的な何かが擦れて落ちる音がした。
「
綺麗な声が鼓膜を揺らした。
目と鼻の先で魔力が集まっていく。
「待って、死「私はそこまで優しくはないわよ」
私の視界が白く塗り潰されるとともに、至近距離の魔砲は私の他の五感と意識を奪っていった。
◇◇◇
あれ、生きてる。
閉じていた眼を開ければあいも変わらずピンク色の雲。仰向けになっていることが窺い知れた。
「痛っ」
左手を目の前に持って来ようとすると、じくっとした痛みが走る。痛みをおして無理やり動かせばどうにか開いたり閉じたりすることが出来た。
全身にじくじくと焼けるような痛みを感じる。同時にどこかにデカイ傷口でもあるのか血と一緒に魔力が体外へ流れ出ているのも感じる。
身体の損傷を確かめようと、震える手を律して自身の肌を撫でていく。
ある一部分を指先が通過した時、意識が吹っ飛ぶかと思うほどの激痛が脳天を貫いた。脇腹。それが触った部位の名称だ。
私は幼少の頃から脇腹が弱い。
くすぐられると身をよじってしまうほど敏感だし、強く刺激されると見合わない痛みに襲われる。
今回は仮にもレミリアの魔力を使用しているのだから、その特性というか癖は無くなると思っていたのだが治っていないところを見ると、どうやら脇腹は私の無意識の
「あら、まだ死に損なっていたの」
「……よくもぬけぬけとそんなことを」
大方、殺さない程度に調節していたのだろう。勿論、慈悲ではなく嗜虐心から。先ほどの戦闘からこいつは弱者を甚振り慣れているのだろうと察しがつく。
しかし、残念なことにゲームセットだ。
私にはもう戦う気力も魔力も残っていない。
そんな思考を回している間にもいくつあるかも把握していない傷口から魔力が流れ出ていく。
でも、
最後に力を振り絞って足を奮い立たせる。身体を起こすために地面についた手が痛みを訴えてくるが、なんとか立ち上がるところまで持っていった。
「死に体で何が出来るというのかしら?」
「……別に、悪足掻きと嗤ってくれて構わない」
立つためだけに力のほとんどを持ってかれたせいか、まともな攻撃一つできそうにない。それでも濡れ衣で殺されるなんて嫌に決まっている。一矢報いたいじゃないか。
だから、
「そう、だったら」
「
腹部を一本の腕が貫手よろしく食い破っていった。
私の血で水溜りを作ってしまった地面に、新たに大量の血が流れ出てさながら血の雨が降り注いだようになってしまった。
「
「
私の目は赤く濁っているに違いない。