Phantasm Maze   作:生鮭

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タイトル変更&ユーザー名変更をば。

ユーザー名はどうでもいいとして、タイトル変更の理由はどっか書いときます。




諦めたらそこで試合終了だそうです

 

 驚いたような視線が心地いい。

 

 初めてこいつから殺意と侮蔑以外の視線が向けられている。その事実と溢れ出す全能感にゾクゾクと背筋が粟立ち、えも言われぬ快感を覚える。

 

 ふと視線を下に向ければ、地面に滴り落ちて赤い水溜りを作っていた血は地面に吸い込まれるように消えていっている。

 

 なるほど、彼女が失くした血は地面が吸い上げ、根を通して花を育て、その花が濃い魔力を持ち花畑の一部になっているのか。自分の娘、という表現は血を継いでいるという点では言い得て妙だったわけだ。

 

そしてその花畑(テリトリー)の中では魔力の枯渇はあり得ない、起きようがない、と。

 

 チートだチート!

 

 ただそのアドバンテージはここでしか役に立たないに違いない。逃げれば勝ちだ。魔の領域から外れればいのだ。

 

 

 

 でも、と。

 

 もし私が逃げたらこいつはどうするのだろうか。

 

 地の底まで追いかけてくるか。

 

 それもあるかもしれないが、私はもう一つの可能性を捨てきれずにいた。

 

 それは空を覆う雲の魔力の私ではない方の根源を狙うこと。恐らくは私が今どんな目にあっているか、想像もしていないような姉ではあるが、大事な家族なのだ。

 それにレミリアのスペックでこいつと殺りあったところでまともに相手ができるとは思えない。

 

 

 

 故に――――。

 

「さっきの言葉だけど、そのまま返すよ」

 

 

 

「――――疾くと死ね」

 

 

 

 多量出血で動けない華奢な体に体重いっぱい乗せた拳を叩きつけ――――れなかった。

 

「良いわね、貴女」

「気持ち悪いこと言うな脳筋美女」

 

 何故ならばその拳は無造作に突き出された死に体の赤い拳で受け止められていたからだ。

 

 あり得ないはずの光景を目にして酷く叫びたい衝動に駆られた。だって頭おかしいんだもの。土手っ腹に穴が空いてるんだよ? どこで息してんのそれ。

 

 てかスルーしてたけど、ちゃんと銀で縛ったのに抜け出したのもやゔぁいからね。銀だよ? 吸血鬼キラーとして名高い銀だよ? それを単純な筋力でぶっ壊すって頭イってるからね?

 

「……私が血を流したのは久しぶりなのよ。……フフッ、もっと踊ってくれるかしら?」

「勘弁してくれ……」

 

 じゅうじゅうと嫌な音を立てながら煙が上がり、私の拳一つ分の穴を肉塊が塞いでいく。超至近距離からのあの一撃が割と最高火力だったのに、こうもあっさりと回復されると正直萎える。

 

 三日月に歪めたいろんな意味で赤い唇からから狂気に満ち溢れた笑みをこぼすと、次の瞬間には、空いている手にまるでその場で生成したかのように一本の傘が握られていた。

 

 何だろうか?錬金術とはまた違うっぽいけれども。

 

「出血大サービスよ!」

 

 私と互いに拳を合わせたまま、もう一方の手に握られた傘がこっちに向けられ、一瞬刀剣のように私の首が飛ぶ様を想像する。

 

 ……普通に考えて傘が首を刎ねることが出来るわけないのだが。こいつならやってしまう気がしたのだ。もしくはあまりにも早い振り抜きに鎌鼬が発生するとか。

 

 果たしてそんなことはなく。

 

 先程の魔砲を遥かに超える魔力が傘の先に集約する。

 

 これッ! やばいッ……!

 

「逃がさないわよ?」

「ッくそ! 放せッ……!」

 

 後ろに退こうと、地を蹴る直前に突き出していた拳を掴まれる。今まで何を悠長にしていたのか。さっきの一撃で仕留めておくべきだったか。いや、そんなことはどうでも良い。

 

 こうもしっかり掴まれていると転移しても私の体の一部とみなされてこいつも転移に巻き込んでしまう。

 

「い゛て゛っ゛!!」

 

 仕方なしに空いている手でナイフを取り出して手首ごと切り落とす。焼け付くような痛みを舌を噛んで耐える。やはり銀は吸血鬼の体には良く効くようでなによりだ。

 

 そのまま崩れ落ちるように私の血だけが滴っている地面に伏せ、射線を切る。

 残っている方の手で体を横にずらし、追撃として飛んできた脚を避ける。ちょっと待って、今風切る音したんだけど。アレに当たってたら頭が吹っ飛んでたかもしれん。それかスプラッタに 首がネジ切れるとか、180度回転するとか。全く、ゾッとしないな。

 

「弱いというのは全く、難儀なものね」

「何?嫌味?」

 

 結局、傘の先端に集まった魔力は離散し、距離をとったことで状況だけは振り出しに戻る。

 自分で切り落とした手首は既に治りきっていた。

 

「いえ、今の貴女という不確定要素ではとても強弱を判定できない。嫌味じゃなくて『弱さは罪』と言ってるのよ」

 

 ???

 

 ダメだ。まともに考えちゃいけないなこれ。難しすぎて頭から湯気が出そうだ。

 

「なるほどね。そういうこともあるかもしれない」

「貴女なら分かってくれると思ったわ」

 

 分かってないです。

 

 なんて言える筈もなく。って美鈴のときから何ひとつ成長してなくない?身体の成長と頭の成長が悪い意味で比例するなんて考えたくもないけど。

 

「じゃあ弱い者イジメは止めようってことで……」

 

 これは、良い流れだ。

 

「別に虐めているつもりはないわ。現に貴女、私と同じくらい強いじゃない」

 

 ダメでした。やっぱりお腹に穴をあけちゃったのが悪かったのか。そのまま腹の脂肪でも引き摺り出しておけば体重が減って感謝されたかもしれない。

 

「ああ、もう死んでいいわよ」

「ご免だねっ!」

 

 再び向けられた傘の射線を切るために背後に転移する。そして無防備に見える(どうせ無防備じゃないんだろうけど)背中に掴んだナイフを突き立てる。

 

 つ、突き立て、突き立てる!

 

「ほら、貴女は弱くないわ」

「な、なんでナイフが……」

 

 突き立てたナイフが刺さらない。否、刺さってはいるものの深くまで入り込まないのだ。まるで身体の内部に鉄でも詰まっているかのように。

 

 え? え? 生身だよね? 体内に鉄板とか仕込んでないよね?いやむしろ仕込んでくれてた方が、まだ常識的な気がするが、もしかして筋肉が硬すぎて刺せなかったりする? そんな馬鹿なことある?

 

 ……こいつならやりかねないのがなんとも笑えない。

 

「ちょっと、痛いわ」

 

 脇腹に華奢な足が突き刺さり、強く吹き飛ばされ景色が流れていく。突然の出来事に頭が持っていかれたせいで、至近距離での回し蹴りに対応できなかったのだ。

 

 吹き飛ばされた勢いそのままで背後に咲いていた花のもとに突っ込んでしまう。結構な衝撃だった筈なのに花は一本も折れている様子はない。上手く私の身体をクッションのように受け止めてくれた。

 

 平衡感覚を取り戻しているその間に、ナイフを引き抜かれてしまった。……ねぇ、服に一滴も血が付いてないんだけど身体の構造どうなってんの?それも一応銀製なんだけどなぁ。

 

「不思議ねぇ、こんなものが痛いなんて」

 

 心底理解できないと言った顔でそう呟くと、刀身を掴んでナイフを――――折ってしまった。

 

 再び思考停止。

 

 そして凝り固まった頭を回すと、ある事実に気づいてしまった。

 

 

 

 …………無理です。

 

 ……無理です。

 

 無理なんですっ、安西先生っ!!

 

 無策ここに極まれり。

 

 こいつに対する唯一のメタ武器だった銀も効かない。いつのまにか緋色の雲は掻き消えて穏やかな日差しが爛々と降り注いでいるのに、嫌がるそぶりも見せない。

 

 恐らく流水も意味がないのでは無いか、そう思えるほどに目の前の存在は理不尽という言葉がよく似合った。

 

 刀身の折れたナイフを投げ捨ててこちらに歩み寄ってくる様は、三日月に口を歪めた容貌と相まって淑女足り得ている。

 しかし私には気品を感じさせるその一歩一歩にズシンズシンと、ゴジラの如き効果音が備わっているように思えてならない。

 

 否。

 

 それは実際に幻聴として私の耳にこびりつき、五感を麻痺させ、喉を乾かせてひくつかせている。

 

 死。

 

 その文字が脳裏をよぎって、次第に色を濃くしていった。

 

 恐怖。

 

 死に対する恐怖。身体から力が抜けていく喪失感。意識が繋ぎとめられずに落ちていくあの感覚。

 

 それら全てが偽物(まやかし)であるにも関わらず私の身体を縛って、動けなくしていった。目の前の恐怖に拳を突き立てることもなく、次の一瞬のために逃げることもせず。

 

 恐怖は私に傘を突きつける。魔力が集約していく。

 

「存外に楽しめたわ」

 

 やめてくれ。

 

「でもまぁ」

 

 死にたく無い。

 

「領分を弁えるべきだったわね」

 

 誰か、

 

またいつか(死後の世界)会いましょう」

 

 誰か助けてくれ。

 

 眼前を高温と眩い光が覆った。

 

 思わず眼球を守ろうと本能的に目を閉じる。

 

 

 

 

 

「まぁ、合格点といったところかしら」

 

 結果として、吸血鬼の身体を焦がすほどの光線が私に触れることはなく、代わりにいつかのような浮遊感に襲われた。

 

 花畑に落ちた時と同じ感覚。

 

「このっ……どの面引っさげて……むぐ!」

 

 落とされた時といい、今回といいあんまりな仕打ちに文句を言おうとした口は、しなやかな指で塞がれてしまった。

 何をするんだと、目の前のクソ野郎()を睨め付けるが、返ってきたのは飄々とした薄ら笑い。

 

「悪いことをしたとは思っているわ。取り敢えず、それは追い追い話すとして貴女の妹、どうにか宥めてくれないかしら?」

「ぷはぁっ! はぁっ、はぁっ」

 

 息苦しさから解放されると、いつのまにか私の部屋に戻っていることに気づいた。

 

「え? フランがどうかしたの?」

「いえ、貴女と同い年の方よ」

 

 可笑しなことを言う。フランは妹だが、レミリアは双子とはいえ戸籍上は姉のはずだ。

 

「ちゃんと説明したんだけどねぇ、どうにも納得してくれなくて困ってるのよ」

「ちょっとストップ。……なんか間違ってない? 私はレミリアの妹で、レミリアは私の姉なんだけど」

 

 自分で言っても何が何だか分からなくなるようなことを言ったが、果たして紫には正しく伝わったようだった。

 

「ああ、言ってなかったかしら」

「何を」

「確かに外界では貴女の方が妹かもしれないけど、こっち(幻想郷)では貴女が姉なのよ」

 

 ちょっと何言ってるかわからない。

 

「まぁ、分からなくてもいいわ」

「いや納得して無いんだけど」

 

 しかし、納得してはいないが私的にはどっちが姉だとか妹だとかあまり関係ないのか。せいぜい姉妹間の序列が交代するぐらい。……大分重要だった。

 

「そこ危ないわよ」

 

 へ?

 

 突然の忠告とともに、ヒョイっとその場から持ち上げられる。

 

 次の瞬間、私が紫に摘まみ上げられる前までいた場所に()()()()()()()()()

 

 それは見間違えるはずもない我が姉のグングニル。紫のお陰で串刺しにはならずに済んだが、後から冷や汗が止まらない。足の震えも止まらないし、腰が抜けてしまった。

 

「あ、あわ、あわわわわ」

 

 突然の殺意に驚いて口がまともに機能しなくなってしまった。

 

 というかグングニルって追尾機能あったんじゃなかったか。何故か今は私が何百年と夜をともにしてきたベッドに、帽子掛け宜しく直立不動の姿勢を保っているが、ワンチャン死んでたんじゃないか。

 

 私はいつのまに身内に殺されるような業を背負ってしまっていたのだろうか。

 

「こっちに近づいてくるわね」

「ど、どどどど、どうしようどうしよう……」

 

 紫がレミリアの気配を察知して知らせてくる。私の部屋は二階にあるので、床下からグングニルを突き刺してきたレミリアは一階から迂回して上がってくる必要があるのだ。

 

 きっとトドメを刺しにきたに違いない。姉の甘味を盗んだり、怪しい薬を盛ったり、パーティを投げ出したりした不埒な妹を殺しにきたのだ。頭数が一人でも減れば食費も浮くだろう。

 

 

 

 私が()るべき行動は既に決まっていた。

 

 

 

「カルラっ! 大丈……何してんの?」

「ごめんなさい許して下さい何でもしますから」

 

 ベッドから降りて両足を揃えて座る。両手を床につけて、お辞儀をするかのように額も床につけ(こうべ)を垂れる。

 

 日ノ国においての最上の謝罪作法。

 

 DOGEZAである。

 

 因みにこの亜種である焼きDOGEZAというものも賭博の世界に存在したらしいが、時間がなかったので叶わなかった。もし出来たらやったのかって?も、ももも、勿論やりましたとも!えぇ! ……痛いの勘弁して。

 

「ほら、彼女もこう言ってることだし許して頂戴な」

「八雲っ! 折角紅魔館からは被害が出ないように取り計らったっていうのに、余計なことを……!」

 

 ……あれ?どうやら怒りの矛先は、私ではなく紫に向いているようだ。こんなにも息巻いて怒りを露わにしているレミリアは見たことないのだが、何をやらかしたのか。

 

「何の話?」

「貴女をこいつが戦線に駆り出したっていうから……。何のために私がここ(紅魔館)を侵略の起点にしたって、貴女やフランが防衛ラインとして前線に出なくていいようにする為よ」

 

 へー、そんな深い思惑があったとは……。道理であのレミリアが文句の一つも言わずに他の奴らに従ってたわけだ。

 

 私の知らなかったレミリアの心遣いに感謝を、そんなことを知りもしなかった自分に少し腹を立てていると、むんずと肩を掴まれた。

 

 うおっ、なんだ急に。

 

「……大丈夫? 怪我してない?」

 

 こちらを気遣わしげに覗き込む顔にはどこか不安が感じ取られた。まるですぐに壊れてしまうガラス細工に、ヒビが入っていないか確認するような。

 

 それは行き過ぎた過保護のようだったが、実際問題割りかし死線を彷徨ってきたので強ち間違いでもない。

 

「大丈夫だって。過保護過ぎだよ」

 

 しかしいくら死にかけたとしても今生きていることには変わりないので、下手に心配させる必要性もない。それにそんなに心配そうな目で見られると背筋がムズムズしてくるのだ。慣れないことはしないでくれ。

 

 レミリアを引き剥がしつつ無事を伝えると、まだ瞳に不安を湛えながらなんとか引き下がってくれた。

 

「そう……なら良いけど」

 

 そう言うとレミリアは、瞳に潜む感情を不安から憤怒に変えて紫を睨みつける。その刺すような視線を向けられた紫はというと、何処かこちらを嘲るような目で見ていた。私がそれに気付くと同時に、嘘かと思うほど消え去ったが。

 

「さっきの話、詳しく聞かせてもらおうかしら」

 

 さっきの話、というと私が虐められてた話だろうか。

 

「……? 違うわよ、貴女と私どっちが姉かって話」

「そっち!?」

 

 ……私の中ではかなりどうでもいい話題に成り下がってたんだけど。

 

「ええ、良いわ。どうせだし一度きっちり話しておきましょうか。お茶はアッサムでお願いできるかしら」

 

 え? そんな場を改めるほど重要な話題だったの?

 

「分かったわ、咲夜やフランも呼びましょう」

 

 

 

 ――――え? 私の認識……甘すぎ!?

 

 

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