Phantasm Maze   作:生鮭

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妖力、魔力その他に関する独自解釈が含まれています。
苦手な方はご注意を。


≪追伸≫
次話も短くなりそうだったので繋げてしまいました。
かなり強引かもしれませんがご容赦ください。


日常にある想い

 私の能力が判明してから、数か月が経った。能力の概要としては「能力を使いながら対象物に多少魔力や妖力を流すと、流した力と同じものが自身と同格になる。」らしい。

 例えばここになんの魔力も無い本があるとする。ここに私が能力を使い、魔力を流しながら文字を書くと途端に魔道書(グリモワール)と化す。まあ魔道書といっても形だけのもので魔法陣や魔術式を書かないと意味がないわけだが。

しかし魔力が私より低い者がこの本を読むと、本の持つ魔力が読者に流れ、術や陣を形成する際の手助けとなる。意外と便利な能力だったりする。

ただこの能力にはデメリットがいくつかある。それは、いくら能力の補助があって同格にしているとはいえ、実際は自身の力を消費しているという点と、永久に同格にするのは難しいという点、同格といっても全盛期の自分が基準という点だ。結構欠陥品だな。

 

と、ここまでが私の能力の概要なわけだが、父が最後に言っていた曲解による用途の拡大はよくわからない。まあ、あれだ、のんびり探していこう。時間は有り余っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつから自分はこんなセクハラもどきをするようになってしまったのだろう。いや、姉妹だし、年も同じだからセクハラではないんだろうが・・・。床で息も絶え絶えになりながら時折ピクピク痙攣するレミリアを見て思った。

 ことの発端はいつもの喧嘩なのだが、珍しく私が取っ組み合いを制し、脇をひたすらくすぐっていたのだが、途中からどうにも止まらなくなってしまい、やりすぎてしまったというわけだ。因みに喧嘩の原因は万国共通のプリン争奪戦である。3連プリンの罪は重い。

 

「ぜえ、ぜえ、はあっ、はあっ。」

「ごめんなさいね?ちょっと止まらなくなっちゃって・・・。ね?」

「ね?ってなによ。さすがに、はぁ、これは、やりすぎよ・・。息ができなくなるかと思った、わ・・・。」

「ほら、いつもやられてばっかりだから・・・。日ごろの恨みってことで許して?」

「日ごろの恨みって・・・私カルラからそんなに恨まれていたのかしら?」

 

 レミリアが疑念に満ちた目で見てくるが気にしない。気にしない。

 

 

 今はちょうど勉強の合間のティータイムだ。

 勉強といっても両親が私達に教えているわけではなく、数学に興味を持ったレミリアに私が教えている。

しかし、吸血鬼というスペックのせいか、はたまた才能ゆえなのか、1年も経たないうちに高校生レベルの数学は終わってしまった。

 

レミリアはよく私のことを頭が良いと言っているが、前世から引っ張ってきたものなので反則に近い。近いうちに抜かされることだろう。そのことを伝えると、

 

 「あら、そんなことないわよ?」

 

と返ってきた。

 

「どうして?もう数学で教えられることなんてないけど?」

「カルラは数学以外でもたくさんのことを知ってるじゃない。それともあなたが図書館で学んだすべてをもう教えたというの?」

「そんなことはないけど」

「だったら今はまだあなたのほうが賢いわ。しかもまだまだ学ぶことができる。追いつくのは当分先よ。」

 

そんなものだろうか。というか、

 

「追いつくことは否定しないんだね・・・。」

「それは、まあ、姉だもの。」

「生まれた日は変わらない癖に。」

 

澄ました顔で自信の程をさらりと混ぜてくるレミリアを見て思う。

これは慰められているのだろうか?この自称姉は時々言い回しが難しくて真意が解りづらい。

 

「褒めているのよ。」

「ナチュラルに心読まないでくれる?」

 

すごく呆れた顔をされた。

 

「あなた・・・結構思ってることが顔に出てるわよ。」

 

ショックだった。

 

「え・・・?自分からするとポーカーフェイスのつもりだったんだけど。」

「・・・ポーカー、やってみる?」

「いいよ、負けたほうが一回言うこと聞くって事でどう?」

「乗ったわ。」

 

数分後には床につっ伏せる結果となった。それはそれはもうボロ負けした。

 

 

「・・・能力使ってない?」

「こんな遊びに体力ごっそり持ってく能力(チート)使わないわよ。」

 

 

 絶対服従といってレミリアが告げたのは今夜一緒に寝ることだけだった。ついでに私も勝ったら添い寝にしようとしていた。これぞ双子。なんと睦まじい双子愛だろうか。

 

 

 ちなみにこの夜、寝像が悪かったのか一人ベッドから転げ落ち、したたかに頭を打った。

 

 

 

 

 

 

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 6歳の時、私は父に嫌われているのを知った。

 

 嫌われている、というより好意を向けられていないと言ったほうが適切かもしれない。一見同義に見える両者だが、好きの反語は無関心というように、好意を向けていないとは嫌いのように見えて無関心に近い。

私が言いたいのはそれに近い。いわば父は私に形式的に愛情を注いでいるようなのだ。プライドの高い吸血鬼ゆえか、親としての責任のように感じているのか。

 

対して姉のレミリアには甘い。いや、あれを表すにはこっちのほうが良い、『期待』と。私には、生涯向けられることのない感情であると感じたのは早かった。

最初の1,2年はあったのだろう。高校生というハンデによって勉強に関してはかなりのアドバンテージがあったし、多くの知識を活かしだいたいのことは卒なくこなすことができた。

 

 しかし今はどうだろうか。私が前世で十数年かけて積み上げてきたものを、レミリアは僅か数年で追い付き、あと数年で私を置き去りにしていく。どちらが優秀で、どちらが期待されるかなんてわかりきっている。

 それに体質的な問題もある。生まれつきなのか、小さい時に小食だったせいなのか、私は体が弱い。それに比べてレミリアは吸血鬼としての身体能力に、天賦の才を持ち合わせている。これも比べるまでもない。

 

 妬んだことはないか?無いわけがない。当然ある。だが、私が着たこともない煌びやかなドレスを身につけてはしゃいでいる顔はとても無邪気だったし、私の分のドレスがないことを知ると貸してくれたりした。彼女にはなんの罪もない、そうした思いとともに『諦め』という感情が心に流れて込んできた。

 

父に期待されることを『諦め』、

 

姉と同等の愛情を向けられることを『諦め』、

 

姉に追いつくことを『諦めた』。

 

 

 

私は、レミリアを尊敬しているし好きだ。

 

しかし一方で、こんな『諦めた』私を姉は好きでいてくれるだろうか。

そんな想いが時節私の心を締め付けてくるのだった。

 

 

 

 




次回はやっとフランちゃんが出てきます。

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