Phantasm Maze   作:生鮭

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いつ書いた話か全然覚えてないので初投稿です。

この小説をお気に入りしてくれた人は、果たしてどれくらい生き残っているのだろうか…。

現在別の小説も並行して書いているので、執筆ペースはお察しですが、生涯をかけて完結させます(たぶん)。


その血の運命

 「今夜は月が綺麗ですね」なんてセリフは実に有名である。夏目漱石が「I love you」の訳を生徒に教えるために使ったとされる同セリフは、英語には見られない日本人的奥ゆかしさを表現しているとされる。

 

 今夜は月が綺麗ですね、の後に(あなたの方がもっと綺麗ですが)というキザな言葉を隠していたり、「私とあなたで綺麗という感情が通じ合っている!きゃあ素敵っ!」といった意味で捉えたりしても良い。

 

 まぁいずれにせよ、異性へと思いを伝えるにはありふれた言葉として後世に伝わっている。

 

 では「今夜は月が紅いですね」なんてのはどういう意味になるのだろうか。

 

 前述の文と照らし合わせるなら、「私とあなたで紅いという価値観を分かち合ってるきゃあっ!!」といったところか。文章自体は意味不明だが。

 しかしともすれば、例えば、想い合う二人ではなく、悪魔の館に正義の鉄槌…お祓い棒?を振りかざす巫女と、その巫女が守る箱庭を荒らす極悪非道吸血鬼との一幕であったなら。

 

「今夜は月が紅い…でもお前はこれからそれさえ霞むほど真っ赤になるんだがな!」

 なんて、前衛芸術家もびっくりのあーてぃすていっくな意味が込められているのかもしれない。

 

「楽しい、」

「永い、」

 

 ohマイフレンドよ、私はどうしてかくも心を痛めているのでしょう。いや、痛めているのは胃か。

一切血の流れないはずのルールで殺気むんむん、…いやびんびんの二人を観ながら、私は胃薬を所望せずにはいられなかった。

 

「「夜になりそうね」」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

『まず言うべきことがあるでしょ?』

 

 いつだったか、どこだったか、誰だったか。頭の隅に普段はステルスしていながら、往々の状況にして浮かんでくるこのセリフは、今回も果たしてしっかり機能したのだった。

 

「誠に申し訳ございまぐぎゃぁ!」

「私の目を見て話しなさいよ」

 

 誠心誠意首を垂れて謝罪の意を表明したってのに、脳天を足蹴にされる始末。誰とも知らぬ誰かさんよ。選択コマンド『開口一番謝罪の言葉』は間違っていたというのでしょうか。

 ちなみに他のコマンドは『逃走』『敵前逃亡』『指詰め』である。

 

 つむじに一点集中のトラックがぶつかったような心地になった私は、見事な後転からのびた止め高得点・・・とはいかずゴロゴロ無様に転がり、背後にあった調度品を壊す前に気合で踏みとどまった。脚やら背中が悲鳴を上げている気がするが気にしないことにする。

 

「そこらの木っ端妖怪ならともかく、貴女にそれされると虫唾が走るわ」

 

椅子に腰掛けたままこちらに向き直り、人を他界させそうな視線を吸血鬼に向けてくる。吸血鬼じゃなければ即死だった!

何がそんなに気に入らないんだ・・・。まさか最上級の陳謝、DOGEZAをするしかないというのか。仕方ない、ならば見せてやろうではないか、本当の土下座ってやつをよぉ・・・。

 

「あとこれ以上やったら土に還ると思いなさい」

 

フローリングに三つ指をつこうとした手ががちりと固まる。恐る恐る顔を上げると害虫を見るような二つの目と合ってしまった。あぁもう何をすればいいんだ。謝ってもダメ、土下座もダメ。

 

「あの、私はどうすれば…うびぁ!」

「そのへり下る態度が気に入らないのよ」

 

馬鹿正直に聞こうにも、お気に入りの日傘を鼻面に突きつけられて言葉が詰まる。その先に魔力が集中していく。ああその綺麗な顔を最後に私は逝ってしまうのですね史上の喜びあばばばば…。

 

「そのぐらいにしといてあげなさいな」

「年増は帰りなさい」

 

ohマイフレンド!やっぱり助けてくれるのは君しかいない!ただもうちょい早く声をかけてくれると助かるかな!

 

まだじんじんと痛む脳天を抑えながら、私と風見幽香の間でニコニコしている紫にじとっとした視線を送る。てかこいつには年齢いじりされても怒らないのな。

 

「あら、しばらく見ないうちにしわが増えたんじゃない?」

 

そんなことなさそう。

そしてみなまで言い終わらないうちに、声の方向へ日傘を向け特大レーザーをぶっぱする風見氏。まさか本当にぶっ放すとは思っていなかったので、お口がアングリアである。まぁ家主だからいいのか。

 

そう、ここは風見亭である。人里からは少し離れた、紅魔館からはもっと離れた位置にある太陽の花畑。誰もが知っている凶暴な妖怪が根城とするこの場所には、小さな一軒家があった。

家族で住むには狭く、一人で住むには少し広い、客人を呼べばちょうど良いくらいの手狭さ。遠目で見れば外見は質素で、特徴といえば少し明るいオレンジの屋根ぐらいなものだ。しかし景観を崩さない程度。近くで見ると、・・・うん、少し引く。

 

こんな自然に囲まれた生活を送る人なんて、心の中も綺麗に決まっているそうに違いない。いやそうでなくとも勝手に浄化されていくだろう。

 

「ちっ、早くくたばんないかしらあの×××」

 

風見さん!放送コードに引っ掛かってます!

…と、このように例外もいる。

 

「あれでもあなたのことを認めているのよ、小指の先ほどには。だから媚びるのではなくて、正面から交渉してみなさいな。…期待しているわよ、当主さん」

 

声は聞こえど姿は見えず。そんな芸当ができる友人に私は一人心当たりがある。そいつの気配は空に消えていった。

 

「あらまだいたの。あなたも消し飛んでみる?」

「いえ、・・・いや遠慮しておく。それで話なんだけど、ちょっとお願・・・頼みごとがあって」

 

またへりくだりそうになったので、あわてて訂正する。というかこうやって気を使っていること自体アウトじゃないかという気がするが。

あとあれだけぶっ放してどこも損壊していないこの家にも異議を唱えたくなる。おとなしい外観に遜色なく内観も特に目立ったものはない。椅子に机やベッドなどの家具や、中段以降スッカスカの本棚、シューズラックと一緒に置かれているちょっと煤けたクローゼットにカウンターキッチンなど普通の家っぽい。

 

強いて言えば小窓という小窓から植物のツタが侵入しているのが気になるところだ。玄関から入る際に少し注意して見れば、地面から生えた植物がこの家の支柱部分に溶け込んでいるのが分かった。それもこの家を離さないとでも言っているかのように、絡みついている。

 

こんな風見幽香の胃の中みたいな家にお邪魔してまで頼むことといえば。

 

「またあの霧ばら撒くのでどうぞ良しなに…」

「しばき回すわよあんた」

 

気負わないようにと気負ってでたよくわからない宣言には、暖かくも冷たくもない無感情な視線と罵倒が返される。

しかし意外にも予想していたよりも遥かに軽度に怒られた。てっきり一文字目を発した直後にぶん殴られる覚悟ぐらいあったのに。覚悟損ではある。

 

「まぁ、いいわ」

「…いいんだ」

 

前はあんなに怒ってたのに。

 

「そのかわり、一つ条件がある」

 

背もたれに身を預けながら、人差し指が掲げられる。なんだか交渉っぽくなってきたぞ。

 

「ほう、その条件とは?」

「…これをあなたが育てなさい」

 

条件というか命令なんですがそれは…と、幽香はいつの間にかその手にあった種子を差し出してくる。しばらく見つめていると、だんだん顔が険しくなり口からレーザーでも吐きそうだったので、慌てて手に取る。

なんだかハム太郎が齧っていそうなそれは、つまり向日葵の種に酷似していた。

 

「なん、なにこれ?」

 

努めて敬語を外そうと苦心していると、幽香は説明もなしに椅子から立ち上がり食器棚から二つティーカップを取り出し、ポットに茶葉を入れ始める。食器棚には他にカップはなく来客用のを使っていることがわかる。

もしかして、もてなそうとしている?

あの傍若無人邪智暴虐不倶戴天の風見幽香が!?

 

「まぁ、気まぐれよ」

 

空いた口が塞がらないとはこのことか、と驚愕している合間にも紅茶特有の清涼感と噛み締めるような渋みを含んだ香りが部屋に広がる。

しばらく種子を見つめていたが、何も分からないため紅魔館の自室に空間魔法で放り込んでおく。

そのまま沈黙が数分続き、耐えられずに口を開きそうになったところで、テーブルの対面にティーカップが音を立てた。

 

「粗茶じゃないわ」

「じゃないんだ、、、」

 

まぁこのクリーチャーの辞書には謙遜や気遣いなんて言葉はないだろう。しかしそれを抜きにしても上質な香りが鼻腔をくすぐる。

珍しいのでもう少し香りを楽しもうと思っていたが、幽香はなんでもないようにさっさと口をつけてしまった。そしてこちらを射殺すような眼光を向ける。、、、なんで?

高貴な香りを楽しんでいたつもりが、緊張と恐怖で分からなくなってしまった。なんだなんなんだ何を求められているんだこれは。

 

「、、、何か?」

「いえ別に」

 

絶対そんな感じじゃないだろと思いつつも、カップを持ち続けていた腕が震え始めたので(疲労か恐怖かはさておいて)、ゆっくりと傾け琥珀色の液体を嚥下する。

ふむ、わからん。というのも嗅覚がまともに作用していない時点で正確に味を感じ取ることなど不可能に近いのだ。しかし、ここは。

 

「・・・美味しい」

「当たり前じゃない」

 

当然のように返される音声。でもいつもの調子、傲慢不遜とは少し違っていて、ワンオクターブ上がっているのをこいつは分かっているのだろうか。わかってないんだろうな、と思いながらも地雷をぎりぎりで回避した自分に賛辞を贈る。

落ち着いてから飲むと、しっかりとそのおいしさを感じ取ることができた。

 

「・・・」

「・・・」

 

・・・空気重っ!!

静かすぎて紅茶をすする音が聞こえてきそうなくらい静かだ。どちらも無心で紅茶を喉へと流し込んでいく。唯一助かったのは味わっている風を装って目をつぶることができる点だ。しかしそう長くは続かない。てかもう瞼がぴくってきた。

 

なにか、何か話題は。

 

「・・・趣味とかあります?」

 

もうだめだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

地獄のような空気を抜け出してやっと我が家にたどり着いたときには、もう日も暮れようかというというところだった。あの家を出た途端に転移してきちゃったけど大丈夫だろうか。お花摘みの途中で逃げ出さなかっただけ情状酌量の余地を認めてもらたい。

 

「あら、もどってたの。・・・って何よその恰好」

「死地から逃げ帰ってきたナマケモノのぽーず」

 

そもそもナマケモノは外敵から身を守るために木の上に登ったんだから、そんな状況は有り得ない・・・と頭の中では考えていてもそれ以外の形容が思いつかなかったのだから仕方ない。さらにソファに身を委ねて両手足を投げ出しているさまはどうみても夜の眷属たる吸血鬼の姿ではない。

 

どこへ行っていたのか珍しく図書館を空けていた魔女殿は、こちらを一瞥するとため息をこぼし、いつからか定位置になったアームチェアに背を預け本を開いた。

そうそうこれだ。もはやこの図書館には本がただ並べてあるだけでは足りない。こいつがカチッとあの場所に収まることによって完成する。

 

「オウレットって電球みたいだよね」

「それ褒めてる?貶してる?」

 

あの椅子がソケットで、オウレットという電球がそこに収まると図書館全体が息を吹き返すように一つの画として完成する、気がする。

微妙な顔でこちらを見る魔女にはどうやら理解してもらえなかったらしい。

 

まぁこんな益体もないやり取りが懐かしく思えるほどに疲れ切っていたのだと自覚した。瞼を閉じれば酷使していた眼球がしびれるような感覚とともに温かさが溢れてくる。そのまま目元の筋肉の力も緩み眠ってしまいそうになるが、寸でのところで押しとどめる。まだやるべきことがあった。

 

「いいわよ、そのまま話してくれれば」

 

体を起こそうとした矢先に近くから声がかかる。その声を聴いたとたん、余計な力が抜けてしまったのは家族のなせる業なのだろうか。

 

「ありがとうレミリア」

 

いつの間に忍び寄ってきたのか、そもそも最初からこの部屋にいたのか、などという疑問はいったん置いといて、だ。こちらを労わるような声色は私のそんな疑問を押し流して、感謝だけがするりと出てきた。

 

一息つくと、やわらかいソファに身を委ねたくなる誘惑を押しとどめ、報告しなければいけないことを整理する。

ふと目を開けると近くの椅子を引いてきて座ったレミリアが、こちらをのぞき込んでいた。こちらの報告を待つ無機質な瞳は、しかし時たまバグのように小さく震えた。不安と心配に濡れたそれは家族思いのバカ姉の証であった。

 

「…別に何ともないって」

 

むず痒さを振り払うようにぶっきらぼうな調子になってしまったが、レミリアはため息一つついて先を促すだけだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「そう、取り敢えずは一安心といったところね」

「私の心労と引き換えに得た安心だよ大事に使ってね」

 

まーじで胃が痛かった。もう一回同じことしてくれと言われても、秒で断ってヒキニート始めるね。・・・フランに頼んでもらえるのなら頑張らなくもないけど。

 

「あとは・・・博麗の巫女、だけど八雲が手をまわしてくれているはず」

「ゆかりんマジリスペクト」

 

重力が腕を引っ張るのに任せ、怠惰なマイボディはソファから一歩も動こうとしてくれない。いつも口元を隠しながらニコニコ眼だけで笑っている友人に、語彙力ゼロの賛辞を送る。

ちなみに幽香からもらった謎の種は美鈴に丸投げしてある。もし枯らしたりなんかしたら、塵も残さず蒸発させられるからね仕方ないね。部下の手柄は上司の手柄、上司の責任は部下の責任(ぐう社畜)。

 

「決行は一か月後よ」

「りょーかい。なんか手伝うことある?」

「何もない・・・といいたいところだけど、」

 

レミリアがソファの背からこちらをのぞき込んでくる。なんだどうしたと見つめ返すと、眉を下げ少し思案するようなそぶりを見せた後、ふっと笑った。・・・笑われた。

 

「なんか今失礼なこと考えなかった?」

「いやぁ何にも。気の抜けた顔してると思っただけよ」

 

めっちゃ失礼じゃん。あーもうむかついた。後でこっそり咲夜に言って、レミリアに出すお茶めちゃ苦い奴にしてもらおう。

 

「はいはい、ごめんなさいね。そんな顔しないで。少し無理させすぎたかなって思って」

「まぁ疲れたことには疲れたけど。いいよ別に、・・・フランのためでしょ」

「そうね・・・ありがとう、今度は失敗しないわ」

 

こちらに背を向けレミリアの顔が見れなくなる。かくいう私もレミリアの真面目腐った顔なんて見たくないのでちょうどよかった。

シリアスな空気はあまり得意じゃない。

 

「ごめん、ちょっと休む」

 

少し考え事をしようと、目を瞑ると深海に沈んでいくような心地がしたため、レミリアにそう告げる。

あまり寝すぎないと良いけど。

 

「いいわよ、ゆっくり休んで。お休み」

 

飾らない、それでいて優しく包み込むようなレミリアの声に送られて睡魔に身を委ねる。そして沈んでいく意識とともに、どこからともなくあの音が聞こえる。

 

 

 

ーーーピ、ピピッ、ピーーーー、

 

ピーーーー ーーーーー ーー ーー

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どうも初めまして!私、清く正しい新聞記者!射命丸文と申します!」

 

誰だお前。

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