Phantasm Maze   作:生鮭

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初めのほうに書いた話の手直しが終わったので投稿します。
レミリア視点のお話。
フランは次です。必ず!

文法がおかしい点があるかもしれません。
ご容赦を。


姉は妹を想う

 私、レミリア・スカーレットはスカーレット家の長女らしい。らしい、というのは双子の妹であるカルラのほうがよほど姉らしいからだ。勉強は私よりできるし、手先が器用で要領もいい。そしてなにより可愛い。青みがかっている私の髪と違い完全な銀髪だ。今では慣れたもののはにかんだ笑いを見るたびに可愛すぎて頭がクラッとくるのはヤバイ。いろんな意味でヤバイ。気を抜いたら抱きしめたくなるほどだ。そんなカルラに勝っているものは取り留めもないものばかりだ。

 

 例えば父が言うところのカリスマ、支配力と言い換えてもいい。これ関して詳しく説明すると、元から魔族、とりわけ私たち吸血鬼に高い水準で備わっている能力のようなものらしい。

父によれば私はその中でも群を抜いているという。まあ、そんなに高くなくてもカルラの性格に難がある時点で、ほとんどの同族にカリスマ性という点で負けているのだが。

 

 父はそんなカルラのことをあまり好いていない。

実に不可解でありながら、当然と言えば当然と言える。吸血鬼は頭の良さや小手先の技術より、多くの妖怪を統べるカリスマとそれに恥じないだけの実力を優先する種族なのだから。

でもあまり好いていないといっても親子としての愛は薄れていない。だが私となにかにつけて比較しているのがよくわかる。それに比べて母は私たち姉妹に分け隔てなく接してくれているので、私達は父はもちろんだが母は大好きだ。

 

 そんなこともあり父はよく私を優遇する。同族に紹介する時には私に煌びやかな服を着させ、自慢話にしたって私の話はよくするが、カルラのことは滅多に出さない。

そんなことがよくあったので母とよく口論になる。その口論を聞くたびに私はカルラに申し訳ない気持ちになる。決してカルラが悪いわけではなく、生まれついての能力差が悪いのに虐げられている現状を不憫に思うのだ。しかし父にスカーレット家の将来を期待されている以上裏切るわけにはいかない。

期待されるというのはとても気分がいいのだ。

 

 

 父に嫌われたくないためイイコで居続け、そのくせ善人ぶって妹に謝り続ける。

「こんな私でゴメンナサイ」と。

 どっちつかずの状態で日々を過ごす私はとても弱く、卑劣で、臆病な生き物なのだ。

 

 

 そんな私をカルラは慕ってくれている。

 ある時、カルラに私を恨んでいないか訪ねたことがある。するとカルラは一瞬寂しそうな表情を浮かべた後に、

 

『確かにお父様は私よりレミリアを優先することがあるし、それが私のカリスマとか、能力だともわかってる。でも私はお姉さまより勉強が得意だし、料理とかができることを、なんていうのかな・・誇り・・じゃなくて自慢に思ってる。だからお姉さまを恨んでもないし、才能にしても羨ましいけど私に無い才能を持つレミリアを誇らしいと思ってる。だから、その・・・大好き!!』

 

といって抱きついてきた。私は抱きついて離さない妹を見ながら茫然としていた。恨まれて当然だと思っていたのにこんな臆病者(わたし)を姉だと認めてくれた上、誇りにまで想ってくれているのだ。

 

 

 頬のあたりを生温かい液体が伝う。体勢からカルラには見えることはないだろう。情けない姿を見せなくていいのは有り難かった。

そしてその温度は決して冷たいと感じることのない、心にまで沁み渡るほど暖かいものだった。

 そしてそれを手で軽く拭うと、

 

「私もよ、カルラ。私もあなたのことが大好きよ。」

 

と、この世に一人しかいない最愛の妹を優しく抱き返した。

 

 

 

「こんな私でも?」

 

 返事が帰ってくるとは思わず、え?と声が出てしまった。

 

「私は、才能というものが無いに等しいのよ。さっき挙げた才能は全部他人と比べれば少しできるだけ。そんなのを誇れるのも今のうちにだけ。勉強もいずれは置いてかれる。『諦め』てしまっているのよ、私。こんな私でもレミリアは好きって、嘘偽りなく、言える?」

 

淡々と話していた声は途中から少しだけ震え始め、最後には涙声になる。それでも自虐的な笑みを絶やさないカルラ。これが彼女の素なのか。

 私の言葉を待つ彼女の肩は小刻みに震えていた。そんなに私の答えを聞くのが恐ろしいのか。答えなんてものは、あなた(カルラ)が生まれたときから決まっていたというのに。

 

「くだらないことを聞かないで頂戴。」

 

カルラの肩がビクッ!と跳ねた。

 

「あなたは私の妹じゃない。私があなたを好きでいるには十分すぎる理由よ。」

 

抱きしめた体勢のまま背中を優しくさする。

 

「カルラ、確かにあなたには私のような才能はないかもしれない。それでも()()()()()()()()は必ずあるのよ。そしてそれは勉強の才能かもしれないし、料理の才能かもしれない。もしくはまだ見つけられてない才能かもしれない。でも『諦めて』しまえばそこで終わりなのよ。勉強や料理や未知の才能が見つかることは決してないわ。殆ど無いじゃなくて全くない、0%になってしまう。・・・だから、諦めないでカルラ。私もあなたの才能を探す手助けならいくらでもするわ。」

「お姉さま・・・。」

 

カルラは後ろで私を掴んでいたてを離すと、顔を胸のあたりに押し付け、泣いた。

 

「うっうぅっ、ひくっ、ううっ。」

 

私の服にしみ込んだ涙はさっき私が流したものよりずっと暖かかった。その温度は私の悩んでいた時間とカルラの悩んだ時間の差を現実に示しているようで、不甲斐なく感じた。

 

「ありがとう、レミリア・・・」

 

 

 

二人が8歳になったときの出来事だった。

 

 


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