Phantasm Maze   作:生鮭

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少し遅れましたが今後もこんな感じです。


妹が生まれた

 フランドール・スカーレット、それが今度生まれてくる私の妹の名前だ。フランドールは呼びにくいから愛称はフランだろうか。

 前世で兄弟や姉妹に縁がなかったせいか、ついこの前テンションが上がりすぎて痛い目を見たばかりだというのに、またなんか昂ぶってきた。さすがにもう外に出ようとは思わない。だがなにかしたい。

 そうだ、フランのためになにかしよう。しかし具体的な案が思いつかない。レミリアにでも相談してみようか。生れたときから女の彼女になら解ることもあるだろう。

 

 

 

「というわけで何か良い考えない?」

 

 ここは姉の自室。余談だが私達には一人一部屋が割り当てられていてそれでもまだ余分な部屋があるというのだから紅魔館のデカさがよくわかる。因みに客間や家族の部屋は2階に集中している。

 

「そうねぇ・・・・・・・・・・。」

 

一分、二分と時間だけが過ぎていく。・・・長くないか?まさか・・・いやそんなことが・・・

 

「・・・・・・なにも思いつかないの?」

「いや!なにも思いつかないわけじゃないけど、なんかこう具体的なのが浮かばないというか・・・」

「はぁ・・・」

「あなたもなにも思いついてないでしょうに・・・」

 

 めっちゃ悩む。子供向けにおもちゃとかだろうか?それとも服とかのほうがいいだろうか。いやでもサイズがころころ変わってしまうと長く持たない。せっかくプレゼントするなら長く使ってほしい。

 

「靴とかは?」

「却下。」

「酷っ!」

 

 足のサイズなど真っ先に変わってしまう代表格ではないか。再び長考。そうだ、食べ物とかはどうだろう。いや、生後間もないとなればまだ母乳の時期、そのあとは離乳食とまともなものを食べれるのはまだまだ先だ。

 

「ワ、ワインよ!よく贈り物に使うし!」

「却下!」

 

 反射的に頭を引っ叩く。なんかこっちを泣きそうな顔で見てくる馬鹿が見えるが知ったことじゃない。なに幼児にアルコール飲まそうとしているんだろう。正気を疑う。

 

「手作りの遊具とかどう?」

「いいんじゃない?大きめに作れば長く使えるし。さすがレミリアだね。セカイイチー」

「ま、これが姉ってもんよ!」

 

 レミリアチョロすぎ。最後のドヤ顔めっちゃうざかったけど。

 

「遊具って言っても何にする?」

「それには考えがあるわ!」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 なんとか間に合わせることができた。なにをつくったかというと木の枝に縄を二つ垂らし、そこに丸太を取り付けたいわば、簡易式ブランコである。まあ小さいうちはあまり使うことはないだろうが、かなりの間使えるよう丈夫に作ってある。途中で作るのが面倒になって、魔法でどうにかできないかと言われたがこういうのは手作りが良い。真心や想い、苦労を込めることができる。フランがこれに乗って遊んでくれるのが楽しみだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 父の言いつけにより母の出産に立ち会うことはできなかたったが、無事に出産を終えることができたようだ。ようだ、というのはまだ妹の姿を見ていないからで生れたというのも、この館に務めている執事から聞いたに過ぎない。

 そんな訳で今はレミリアと一緒にフランのもとに向かっている。

 

「レミリア!早く早く!」

「カルラおおお、お落ち着きなさい!しゅ、淑女たるもの常に向上心を持って生活するべきよ!」

「向上心持ってどうするの・・・」

 

 せめて平常心を持とう。

 

 

「ここね・・・」「ついたわね・・・」

 

 落ち着いて、深呼吸・・・

 

「「せーのっ!」」

 

 ドアを開けると最初に目に飛び込んできたのは、椅子に腰かける母の背中とその脇のあたりから飛び出している宝石だ。

 母は私達が入ってきたのが分かったのか体をこちらに向けた。

 

「フラン、あなたのお姉さんが来たわよ。」

 

 思わず私達は息を呑んだ。驚きと美しさで、だ。本来吸血鬼には蝙蝠に近い翼がが生えてくるはずだ。はずというのは、知っている吸血鬼が家族内でしかないからなのだが、それでもそれほど間違ってはいないだろう。私のも灰色ではあるが、例にもれず蝙蝠型だ。

 しかしフランの翼は一言で言うと異形だ。申し訳程度に翼手があり、本来あるべき皮膜が無くその代わりに八色の宝石のような羽がある。すごく・・・・・綺麗です。

 

「綺麗な羽ね・・・・・」

「そうでしょう。」

 

 母は膝の上で寝ているフランの髪をなでながら続ける。

 

「でも・・・・・・・・良くないのよ。この羽。」

「?どういうこと?」

 

 

 

 

『持ち主に狂気を宿すのよ』

 

 

 

 

「狂気といっても一時的に情緒不安定になったり破壊衝動に駆られるだけなんだけどね。病気の性質としては、文字通り時間が解決する類のものね。だから治らないわけじゃないの。年をとるごとに狂気の頻度は低下していって最終的にはなくなるのよ。無くなるのは七、八百年後かしらね・・・。だけど幼いうちはかなりの頻度で症状が表われるから、私の能力を使って精神的な面をカバーしてるわ。でもいつ狂気になるかわからないからある程度頻度が落ちるまで付きっきりね。・・・そんな顔しないの。あなたたちの妹でしょう。できる限り会って負担を減らしてあげて。」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 母の話を聞いて酷く怒った。なぜフランだけがそんな不憫な病気を患って生れてこなければならなかったのかと。自分だったらよかったのにとも思った。おそらくそれは、レミリアも同じだったことだろう。しかしそんなことを嘆いても仕方ない。今はどうやって狂気による負担を減らすかだ。

 

「私は、能力を使ってフランの狂気が完治するのを早めるわ。」

 

レミリアが意を決したように宣言するのを聞きながら私には何ができるかを考えた。しかし私の能力はレミリアのような妹を救う使い方はできない。結局、

 

「私は・・・私はフランのそばに居続けるり」

 

これぐらいしかできない。

 

「そう、あなたたちフランドールをお願いね。」

 

これほどまでに自分の無力さを呪ったことはない。妹がこれから先苦しみ続けるのが解っていながら何もすることができない。せいぜいが一緒にいてあげられる程度のことだ。妹がこんなに不幸な境遇でこれから生きていかなくてはいけないことが許せない。私の妹は、私の生きがいと同義だ。私の姉も、私の生きがいと同義だ。彼女らに降りかかる災厄は私が振り払い、代わりに被ることも厭わない。

 

 

 


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