Phantasm Maze   作:生鮭

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追記
フランの能力名が間違っていたので直しました


遊びは本気で

 フランが生れて早4年が経つ。狂気の頻度は確かに収まりつつあるがどうにもおかしい。

フランの狂気が収まるのは七、八百年後だったはずだが、狂気の運命をみると短くなっているのだ。具体的には、100年ほど縮まり、つまり650年ほどになっている。

狂気に関して載っていた文献が1200年ほど前のことだったし、誤差の範囲だろうか。両親に相談してみても二人ともあまり気にしてないようだった。まあ長くなったわけではないので当然だろう。

 

 そんなことより重大なことがある。母の体調が明らかに悪くなってきていることだ。仕方のないことなのだろう。フランの狂気は頻度が落ちているとはいえ、不確定要素が多く気が抜けないため、ほとんど母が付きっきりで能力をいつでも使えるよう注意を張り巡らしていなければならない。

 集中力を常に削られているうえ、3日に一度能力を使いフランの精神を安定させなければならない。これでも最初の1日に一回よりマシになっている。そんなこんなで4年間も身体を酷使し続けていたせいか最近は寝込むことも多い。父は最近まで忙しかったらしいが、ときどき母を休ませ代わりに狂気と正気の均衡を保つことによりフランを抑え込んでいる。

 

 二人のことを直接手助けできない私は能力によって間接的に手助けをしている。フランの狂気の頻度を意図的に下げているのだ。

 私の能力は基本的に相手の運命を弄ることにある。しかしその能力を応用すると、ある運命を見たことによってもう訪れることのない未来ができあがる。そうやって運命を一つずつ潰していくことにより自分の望んだ運命へと持っていくことができる。

 

 バタフライエフェクトという言葉を知っているだろうか。蝶の羽ばたきによって竜巻を起こすことが可能かどうかという講演で用いられたのが起源と言われている。

本来は蝶の羽ばたきにあたるものを初期値鋭敏性としたり、他にもカオス理論やら力学系やら小難しい用語を交えながら話すのだが何分意味が解らないの一言に尽きる。こんな本がたくさん置いてある部屋に何日もこもるなんてカルラはどうかしていると思う。でも一心不乱に目の前にある本を読みふける姿もなんだかそそるものが・・・・・じゃなくて話を戻そう。

 要約すると、未来の事象に現在の時点で、ほんの少しの偶然を紛れ込ませることにより起こる影響を肥大化させてしまうことを言う。つまり今この時点から未来に干渉することができるというわけだ。

 まあ実際は、バタフライエフェクトなるものを定義することはできても結果を想定することが限りなく不可能に近いため、実用性のあるものではないと著者を含む学者達は諦めていた。一応確率的には10の-50乗あたりで予測することも可能なのだが寿命がある人間がやるにはあまりにも遠すぎる確率と言えるだろう。

 

 しかし私の持つ能力はその結果をはじき出すことをいとも簡単にやってのける。簡単とは言ったが何分運命というものとは複雑怪奇なものでそれを操るというのはいかなる能力を持ってしても難しい。

だが、()()()()私は吸血鬼だ。不死に近い生命力と壊れにくい頑丈な肉体を併せ持っている。おかげで実験じみたこともし放題だ。長年の、といっても十数年だが、練習のおかげで数年先の運命なら8割ほどのバタフライエフェクトを予測できる。ただ勘違いしないでほしいのは、他者による運命への介入があった場合私にはどうすることもできない。

 悪魔が運命を操る等々いいながらこういうことを言うのは滑稽だとわかっているが敢えて言わせてほしい。

 

その時は『神のみぞ知る』と。

 

 

 

 

 ということで今夜も小さな歪み(バタフライエフェクト)を起こすべくフランを図書館に連れ出すことのできるよう、父と交渉している。

 

「昨日、アレが出たことはもう知っているわ。最近フランとも遊べてないし・・・・・お願い?」

 

 ポイントはこういうお願いは上目づかいで頼むことだ。私の経験上これをするだけで2割は成功率が違う。

 

「・・・ぐっ、いや、しかし・・・」

 

 父はフランを目の届かないところにいるのが不安らしい。フランの能力である『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は確かに危険だが、狂気でなければ滅多なことで使おうとしない。そんなに不安なら一緒に遊べばいいと思うのだがそれはそれでだめらしい。よくわからない。

 

「私もフランと遊びたいな。」

 

と声がしたほうを見るとちょうどカルラが部屋に入ってきたところだった。いままでどこにいっていたのだろうか。疑問符を浮かべる私をみて指で地下を指し示す。ああ、図書館にいたのか。

 

「まあ、そこまで言うならいいだろう。少しでも兆候が見えたらすぐに呼ぶんだぞ。」

 

 一瞬複雑な顔を浮かべた後、許可を出してくれた。フランが生れてからというもの父はカルラに優しくなった。娘が一人増えたことにより甘くなったのだろうか。

 

「ありがとう!」

 

 なんだあの笑顔、天使かよ。悪魔なのに天使とはこれいかに。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「今日はなにして遊ぶ?」

「レミリアお姉さま、前回の続きのチェスやろチェス。」

「本とか読みましょうか、なんの本がいい?」

「チェ「かかかかくれんぼとかどうよほら体動かさなきゃ。」

「はあ・・・・・」

 

 これみよがしにため息をつくカルラ。チェスをしろとせがむフラン。

 私達は今図書館にいる。フランとの遊び場としてはこの図書館だけが唯一許されている。理由としては地下にあるのでそれなりに騒いでも大丈夫な点や、広さが十分な点が挙げられる。

 

 先ほどの会話は前回フランと遊んだときにチェスをやったのだが、その時にハンデをつけようとカルラとフランの共闘を認めてしまったのだ。カルラがチェスをやってるのを見たことが無かったので大丈夫だろうと思ったのが運の尽き、瞬く間に追い詰められ、キングが一人で逃げ回るだけになってしまった。

 因みに罰ゲームが設定されており、その内容は極悪非道なものだった。

勝者が敗者にプリンを上げなければならないのだ。三連プリンの悪夢は去ったのではなかったか。あの血で血を拭う戦いは三姉妹になったことで伝説になったのではなかったのか。

 

 大げさに語ってみたが所詮遊びの延長線上でしかない、本当にガチでやるなら能力を最初から使っていた。遊びに能力を持ち込むなんて馬鹿げている。

 わかってはいるのだが、もしかしたら、もしかしたら今からでも逆転できる奇跡の一手があるのではないか。そんな希望が捨てきれない。・・・ちょっとだけなら・・・えいっ。

 

『諦めるが吉』

 

 そっと泣いた。

 

 

 

 

 

 レミリアがプリンであそこまで真剣になったことに驚愕する今日この頃。もう涙目なんだけど・・・

 私は将棋が得意だったようで似たようなルールのチェスならすぐに理解できた。というかフランがルールの把握から応用まですぐにできて頭良すぎぃ。お姉ちゃんは嬉しいよ。

 

 この後 プリンを1.5人分食べれた。

 レミリアがもの欲しそうにこちらを見つめてきたが、慈悲はない。

 


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