書けなかった設定とか話もあるので、いつになるか分かりませんがまたいつかこれの長編が書けたらいいな。
杖で浮かばせていた男たちを庭に転がすと、白い孔雀が背の低い生垣を超えて近寄ってきた。
この孔雀は、私の誕生祝いとして私と同じ月に生まれたものを父が購入したと聞いた。
私の横に居座り感情の読み取れない目で横たわる男たちを見つめる孔雀の、その豪奢な尾羽を撫でると、柔らかく、温かい羽根が私の手を押し返した。
久々に感じる温もりにほうと息を吐くと、煩わしそうに身を震わせて手を払われた。
どうやら私が触ったせいで毛並みが気に食わなくなったらしい。彼は自分の美しい姿を保つため身だしなみに気を遣う孔雀なので、こういうことはよくある。
「ごめんなさい」
一瞥もくれずに去っていく彼を見送る。
動物とは得てして奔放で思い通りにならないものだ。それが許される彼らを羨ましく思いつつ、あまり油を売っているとベラトリックスに何を言われるか分からないので、憂鬱だがそろそろ屋敷に戻らなければならないだろう。
「どうやって私の金庫に入った?」
ベラトリックスの怒りに満ちた叫び声が聞こえる。
先程ポッター達を連れてこられた部屋の方だ。
「地下牢に入っている薄汚い小鬼が手助けしたのか?」
部屋に入っても誰も視線をよこさなかった。なぜなら、みんなベラトリックスとグレンジャーに釘づけだったからだ。
何をやっているのか気になってそちらを見たが、すぐに後悔する。
すすり泣くグレンジャーにベラトリックスが質問し、グレンジャーが首を振るとベラトリックスはその手に持つ銀のナイフをさっと滑らせた。それだけでグレンジャーの内側から押し上げるような瑞々しい肌が裂け、赤い鮮血が流れる。
「小鬼には、今夜会ったばかりだわ!あなたの金庫になんか入ったことはないわ……それは本物の剣じゃない!ただの模造品よ、模造品なの!」
息をするのもつらいのか、彼女は喘ぎながら泣き叫んだ。
しかしベラトリックスの目は爛々と輝いたまま、グレンジャーの哀れな泣き顔をじっと見つめる。
「偽物?…ああ、うまい言い訳だ!」
甲高い声でベラトリックスが言うと、今度は父が口を開く。
何故か父は私の方を見た。
「いや、簡単にわかるぞ!デネボラ、小鬼を連れて来い。剣が本物かどうか、あいつならわかる!」
私は頷くと、懐から杖を出して地下に向かった。
頭上に光の球を浮かべると、地下牢の分厚い扉に触れ、震える呼吸を誤魔化して声を掛けた。
「全員、扉から離れなさい。後ろの壁に並んで立つように」
杖を奪われないようにしまってから、扉を開ける。なるべく誰の顔も見ずに小鬼に近寄り、私よりだいぶ低い位置にある腕を掴んで地下牢から出し、また扉に鍵を掛ける。杖を振って明かりを消すと、先程の部屋へ小鬼を連れて入った。
私が踵の音を鳴らして近寄ると、ベラトリックスはこちらを見て鼻を鳴らした。
小鬼をベラトリックスの近くまで連れて行くと、地下から"バチン"と大きな音が聞こえた。
「あの音は何だ!?」
父が叫ぶ。
確証はないが、あれは姿現しの音のように聞こえた。
何が起こるのか分からない恐怖に母にすり寄ると、母は労わるように私の腕を優しく擦った。
「デネボラ!ワームテールを呼べ。奴に地下を調べさせるのだ!」
父は私がワームテールを嫌悪し、憎んでいることを知らない。
私は思わず顔を顰め、呪文を唱えて仕舞っておいた紙を出した。
その紙に魔法を掛け、メッセージを吹き込めば吠えメールとなる。さらに杖を振ってワームテールの所へと送ると、私はこの部屋の惨状を見ないように壁に近寄り、寄りかかった。
その場が静まる。再び物音がしないか、警戒しているのだ。
やがてバタバタとやかましくワームテールが走ってくると、父は奴に地下を調べるように命じる。
やることは吠えメールで伝えたはずだが、一度では分からなかったらしい。
ワームテールが地下に向かう様子を苦々しく見送ると、母は気遣わしげに私の腕に手を置いた。
ワームテールの姿が地下に消えると、ベラトリックスは小鬼に尋問を始めた。
その手に持った剣を小鬼に渡し、小鬼が真剣な表情で鑑定するのを食い入るように見つめる
小鬼はこの状況に置かれても興味深いと言いたげな様子でその細長い指で持った剣を様々な角度に動かし、観察する。
やがて、小鬼はその剣を贋物と断定し、ベラトリックスの顔に安堵と喜色が浮かぶ。
「それでは、闇の帝王を呼ぶのだ!」
勝ち誇った声を上げた彼女は、高々と掲げた腕の闇の印に人差し指で触れた。それと同時に私の左腕の印も熱くなり、眉を顰める。
「それでは、この"穢れた血"を処分してもいいだろう。グレイバック、ほしいなら娘を連れていけ」
そう言ったベラトリックスの声を聞いたとき、何気なく客間の入り口に目を向けると、エメラルドをはめ込んだようなアーモンド形の目がこちらを見ていた。
目が合って、杖に手を伸ばす。
「エクスペリアームス!武器よ去れ!」
私が杖を取り出すより先に、ウィーズリーが杖をベラトリックスに向けて叫ぶ。反応できなかった彼女の杖はあっけなく宙を飛び、ポッターの手の中に収まる。
ポッターが続いてその杖を父に向け、呪文を叫んだ。
「ステューピファイ!麻痺せよ!」
父が暖炉の前に倒れるのを横目に、私も杖を取り出してポッターに失神呪文を放つが、彼の反射神経で避けられた。
「やめろ。さもないとこの娘の命はないぞ!」
ベラトリックスのドスの効いた低い声が反抗する二人を威圧する。
見ると、グレンジャーの喉元にナイフを突きつけて人質に取っていた。
ポッターは隠れたソファーの影から立ち上がり、ウィーズリーは放心したように固まっている。ベラトリックスがグレンジャーの首にナイフを押し当て駄目押しにもう一度脅すと、二人は慌てて杖を足元に落とした。
ベラトリックスに命じられて杖を回収すると、腕の熱がまた更に上がるのを感じた。
闇の帝王が、近くまで来ている。
顔から血の気が引くのが分かる。言うまでもなく、私はあのお方が怖い。機嫌を損ねれば手下であろうと気に入りであろうと呪いを放ってくる。
そんなことを考えていると、ふと頭上で何かがガリガリと不穏な音を出しているのに気づいた。全員が上を見上げると、大きなシャンデリアが小刻みに揺れている。思わず一歩引くと、シャンデリアかそれとも天井か、何かが軋む耳障りな音を立てて、真下に居るベラトリックスに落下した。
複雑に光を反射するカットが施されたクリスタルの欠片が私の方に飛んできて、頬が切れる熱い感覚がスッと走った。
それ以上怪我をしないように頭を抱えて身体をくの字に折って庇っていると何かが物凄い勢いでぶつかって来て、目を閉じていて反応すらできない内にそれは倒れた私から杖を奪って呪文を唱えた。
「ステューピファイ!麻痺せよ!」
杖を奪ったのはポッターだった。彼の声がすぐそばで聞こえ、閉じた瞼の裏にまで赤い閃光が光るのを感じた。
目を開くとグレイバックが天井まで吹き飛んで、床に叩きつけられている。
母に庇われる形で引き寄せられると、母が杖をドアに向けて叫び声を上げた。
「ドビー!」
肩が跳ねる。
私もそちらを見ると、信じられないことにかつて父に解雇された屋敷しもべ妖精のドビーが震える指先で母を指さしながら小走りで荒れた部屋へと入ってきた。
「あなたは、ハリー・ポッターを傷つけてはならない」
ドビーはおびえた様子を見せながらも、その大きな目だけはしっかりとこちらを――正確には母を見つめていた。
状況からして、シャンデリアを落としたのはドビーだろうか。屋敷しもべ妖精が魔法使いを傷つける行為をしたことに驚いていると、さらに私を驚かせる言葉が聞こえた。
「殺してしまえ、シシー!」
「ま、って!」
無意識だった。思わず母のスカートを握ると、母の腕が一瞬躊躇する。
その一瞬の躊躇を見逃さなかったドビーは、母の杖を奪った。
それを目にしたベラトリックスが、怒りからこれ以上ないほど目を見開いて唾を飛ばしながら喚いた。
「この汚らわしいチビ猿!魔女の杖を取り上げるとは!よくもご主人様に歯向かったな!」
「ドビーにご主人様はいない!ドビーは自由な妖精だ。そしてドビーは、ハリーポッターとその友達を助けに来た!」
それを聞いて、先程の、無意識の行動の理由が分かった。
私は、ドビーにこれ以上傷ついてほしくなかったのだ。彼がマルフォイ家に仕えていたとき、仕置きに泣いているのを何度も見た。助けようと何度も思ったし、一度実行しようとしたが、それを父に知られると父は烈火のごとく怒った。それ以来純血主義と同じく、それも文化の違いと見て見ぬフリをしてきたが、それでも心は苦しかった。
しかし、この状況はまずい。
こちらの武器という武器はベラトリックスのもつ小さなナイフくらいで、捕らえたはずの捕虜にいつの間にかこちらが追い詰められている。しかし、私たちの焦りは違うものだった。あと数秒もしない内に、闇の帝王が来ることを知ったからだ。もしここで彼らを逃したら、"用事がある"とわざわざ言い置いて外出したあの人を呼び寄せたことが無駄になってしまう。
しかし、そんなことは知らないポッターは焦った様子でウィーズリーに杖を投げると、偽物のはずの剣を何故か未だに大切そうに抱えたままの小鬼を引っ張り出し、ドビーと手をつないでその場で回転する。姿くらましをするのだろう。私がそれを苦々しく見ていると、歪んだ空間に消えつつあるテニスボールのような大きな目と目が合った。それも消えるというときに、ベラトリックスの投げたナイフが一緒に吸い込まれていく。
残ったのは静寂だけだった。
ベラトリックスのナイフに刺さり、ハリー達を助けて死んだ勇敢な自由の妖精の墓を作り終えると、ハリーは額の傷に強烈な痛みを感じ、続いて燃え盛る怒りが自分を支配するのを感じた。先程はドビーへの哀悼の念が勝り怒りの支配から逃れたが、また何か怒らせるような出来事があったらしい。
―――
次の瞬間、ハリーは何故かデネボラだった。
彼女の視点で先程の出来事を見、彼女の感情の記憶を共有した。ヴォルデモートが、開心術でデネボラの記憶を覗いているらしい。
見るべきところを見ると、視界いっぱいにデネボラの大きな目があった。ヴォルデモートに開心術を掛けられた際、無理やり顎を掴んで目を合わせられたのだろう。デネボラは他人に頭の中を覗かれる不快な感覚に眉を顰めたが、それ以上に恐怖が勝ったのか静かにそのアイスブルーを揺らしていた。
「なるほど」
デネボラの肩が跳ねるのを見ても、ヴォルデモートの心は一つも動かない。ネズミを追い詰める蛇のように、ねっとりとした猫撫で声で彼女に囁いた。
「しもべ妖精を哀れに思い、邪魔をした、と。お優しいことだな、デネボラ」
「申し訳」
バシッと、部屋中に響くような音がして、デネボラが顔を伏せる。ヴォルデモートがみなまで言わせずに手の甲で彼女の皮膚の薄い頬を張ったのだ。
後ろでナルシッサが息を飲むが、ヴォルデモートの心には同情の気持ち一つですら湧かない。
ハリーにはヴォルデモートが一体何が彼女にぴったりの仕置きか考えているのが感じられた。ヴォルデモートはおもむろに立ち上がると、彼女の両親に磔の呪いをかける。苦しみ、叫ぶ二人を路傍の石のようにつまらなく思い見ていると、不意にローブの裾が引かれた。
「どうか、どうか、仕置きは私に……
ハリーは大層驚いた。
あの気位高く、自尊心の強いマルフォイが、床に額を付けて懇願していたのだ。
そしてそれを見下ろすヴォルデモートの心に、怒りの代わりに愉快な気持ちが勝るのを感じた。
デネボラは今まで「我が君」と呼んだことはあるが自分を主人と呼んだことはないからだ。呼び方などそれぞれなので偶然かと思っていたが、今のデネボラの行動で意図的にそうしていたのが分かる。
「しかしデネボラ……お前の失敗は親の失敗だと、前にも言っただろう」
気遣わし気な声を出しつつも、ヴォルデモートは笑みが堪え切れなかった。純血一家の令嬢が無様なものだと。またそうするのが自分だということに気分の高揚を覚えた。
今日は苛立たしいこと続きだった。気晴らし程度にはなるだろう。
ヴォルデモートは立ち上がると、その杖先をこちらを見上げるデネボラの額にぴたりと合わせた。
ハリーの知らない呪文が口から飛び出し、途端にデネボラは何か衝撃を受けたかのように目と口を開く。一瞬後に聞く者の心を引き裂くような痛々しい悲鳴が聞こえ、ハリーがこれ以上見ていられないと感じると自然とヴォルデモートとの繋がりは切れた。
有難うございました。最後まで救いがないドラ子でした。
もし気に入っていただけたら、お暇な時にでも私の他の作品も覗いてやってください。