本日は快晴、絶好の登山日和に、雪山は一般開放エリアまできました。
普段の雪山エリアといえば、
……正直、乗り心地はいいものではなかったけど。
でもまぁ、自分の足で移動しない分体力も節約できるし、そのあたりはいいよね。
この一般開放エリアは、クエストを受注したポッケ村から一番近いエリアにあたる。
とても大まかに雑に説明すると、遠くなれば遠くなるほど未開の地が広がっている。
そして、奥地であればあるほど生息するモンスターも強く、クエストの難易度も上がるといった仕組みだ。
上位クエストになればエリア奥地まで行かねばならず、その際荷車での移動は困難を極める。
まずは気球や飛行船に乗り空の旅、そのエリアについたらどこであろうと下ろされてしまうという迷惑極まりないランダム仕様のクエスト開始。
これには多くのハンターも苦汁を舐めさせられている。
わたしもそのうち上位クエストにも行くようになるのかなと思うとそれはそれでワクワクするのだが、まだ当分は先の話だろうと目の前にあるアイテムボックスを見やる。
ここに入っているギルドフラッグを雪山の山頂に立てればクエストクリアだ。
ご丁寧にギルドフラッグを握る用の厚手の手袋なんかも用意されていて、なるほどこれは一般人向けのクエストだと再確認させられる。
わたしはハンター見習いだけどまだ一般人の区分なので有り難く頂戴することにする。
卑怯とか言わないで。
さて、ギルドフラッグを持つ前にまずは腹ごしらえだ。
肉焼きセットは持ってきたし、一旦エリアに入ってポポでも狩ろう。
反り返った巨大な牙と長い体毛が特徴の大型草食獣であるポポは、寒冷地域に群れを作り、基本的には温厚な性格をしていることで知られる。
家畜として飼われているポポであれば、荷物の運搬や耕作といった農業への貢献も大きく、そして肉は栄養価が高く味も良いときたもんだ。
噂に聞いた話だと、牙獣種ガムートと共生関係にあることも判明している。
ガムートの子供をポポの群れに受け入れ共に暮らし、小柄な外敵からはポポが、群れに近づく大型の外敵からはガムートが守る役目を請け負う。
なんて便利な生き物なんだろう、ポポ。
群れから1頭だけ離れたポポに目標を据えて、落ちていた石ころを投げる。
こちらに気が付き、反撃しようとしたところで後方に回り込み、片手剣を数発叩き込んだところでポポは息を引き取った。
コツさえ掴めば、そこまで難しい狩猟相手じゃないんだけどね、ポポ。
でも群れにそのまま挑んで返り討ちにあうハンターも少なくないんだって。
まぁおっきいしなぁ……それに、子ポポから攻撃しちゃうと親ポポが怒るしね。
とりあえず、生肉とポポノタンを剥ぎ取り、あとは自然に還そう。
ベースキャンプに戻ってきたわたしは、肉焼きセットを取り出した。
火をおこす台座と、生肉を乗せる支柱2本。
生肉の骨の端にハンドルを取り付けて、着火。
ここからは肉全体に火がしっかり通るようにハンドルをぐるぐる回すだけだ。
ゲームの中なら10秒程度でこんがり肉ができたけど、ここは現実なので……10分くらいは焼かないとね、おなか壊しちゃうよね。
時折ハンドルを回しながら、ポポノタンに鉄の串を刺して、こちらも同じく火で炙る。
なんてマイペースにベースキャンプでキャンプよろしくBBQに興じていると、ハンターズギルドの気球からピカピカとライトで合図をされた。
急げってことだろうか?それともこの肉食べたいのかな?
あげないけどね!これはわたしの肉だ!これはわたしが狩った分!食いたきゃ自ら狩るんだな!
さて、ベースキャンプからギルドフラッグを持ち、いざ登山へ。
獣道を抜けると、広大な湖が眼前に広がり、奥を見やると雪に覆われた山が悠然と
ピクニックには寒すぎるけど、紛うことなき絶景だなぁ。
夜になるとオーロラも見えたりするんだよ、すごいよね。
山頂に行くには2つのルートがあるんだけど、わたしは湖の縁をなぞるように西へと進んだ。
程なくして、断崖絶壁の聳え立つ麓の草原の端まできた。
断崖には数か所足場があり、それを利用し崖の中腹まで登る。
まずはこの崖を登り切らなきゃ話にならないので、植物の蔦を使い最上層部まで。
この蔦も、比較的頑丈な植物を幾つか用いて梯子代わりに作られているもので、何人ものハンターが利用しているものだ。
先に進むと控えているのは大型モンスター―――といっても、今回のクエストには出てこないけど、主に狩猟目的になる獲物が生息するエリアに繋がる。
今回のわたしの目的は、どこになにがどれくらいあるかといった、ある意味では調査になるのだけど、今わたしが移動してきたエリアの中で特別真新しいものもなく、中腹の横穴にあった洞窟もスルーすることにした。
ただね、何も考えずに登る雪山、結構楽しくって。
このままダダダーっと登っちゃってギルドフラッグ立ててクエスト完了してもいいかなって……いやほら!アレだよ!あのーほら、今わたしハートがとってもブロークンだからさ?かよわい女の子の傷心登山みたいなところがあるからさ?いいんじゃないかなって。
と誰にするのかわからない言い訳を考えながら、気が付けば目の前は銀世界。
マフモフ装備のお陰でホットドリンクは必要ないのだけど、ここらでホットドリンクを飲んで一息つくことにする。
恐らく半分ほど登ったこの雪山で、小型モンスターすらも姿を消している違和感を覚えなかったのは、このクエストが一般人向けと
幾度目かの新雪をギュッ、ギュッと踏みしめ、先へ進むとテントの残骸を見つける。
昔ここを開拓したハンターのテントだったのだろうか?
にしても、片付けなかったのにはきっと理由があるんだと思う。
生体調査をしている最中に大型モンスターに襲われて、そのまま……と、嫌な想像をしてしまうが、ハンターが高収入なのは危険と常に隣り合わせだからなのだし、命が惜しければ別の職につくべきなのだ。
命を落としたハンターは、この世界に何人いるのだろうと、朽ち果てつつあるテントを見て物思いに
ここまでくれば、山頂まではあと少しだ。
最北端にして最奥部、最も高所に位置する場所まできた。
東側の岩壁に進み、人が一人通れる程度の横穴を通り抜け、岩壁の裏側へ。
更にその岩壁を登ると、途中、赤茶けた巨大な物体が横たわっていた。
ゲームの知識から引っ張り出したそれを当てはめると、これは確か、古龍種である
これは、金目の物になるかもしれない。
奴らがここまで登ってこれるかは全くわからないけど、一応念頭に置いておこう。
ギルドフラッグを立てるのは、この抜け殻の隣に聳える岩壁を更に登った先。
あと少し、あと少しでクエスト完了だ。
登った先に広がる絶景にわたしはしばらく心を奪われていた。
トントン拍子に登ってこれたし、道中何か大変なことがあったわけでも、危険を避けたわけでもない。
なのにここまで感動がわたしを襲うのは、きっと山が魅せる技で、それこそが登山という一つのコンテンツの最大の魅力なのだろう。
360度パノラマに広がる大自然、ため息が出てしまうほど雲一つない青空。
まぁ少し離れたところに気球が浮かんでるけど、それはそれとして。
しばしの放心状態を余儀なくされたわたしは、山と言えばのアレを実行してみた。
「やっほー!!!!」
(やっほー)
(やっほー…)
(やっほー……)
前世では、この反響して遅れて音が帰ってくる現象を、山の神や妖怪に例えられる山彦が応えたとする現象と考えられて、山彦と呼ばれていた。
もうね、山に登ったらやらずにはいられないよね。
すごい爽快感です、ありがとうございます。
よし、ギルドフラッグをここに突き立て―――
突如聞こえる
空気がピリピリと張り詰め、何者かの出現を物語る。
ドゴォン!とすぐ近くで落ちた雷に身を竦めるのも束の間、警戒心を一気にピークにまで引き上げ、わたしは周囲を確認する。
(なに!?どうしたの急に!)
すぐ下の、南側に開けた場所を確認すると、そこにはゲームの中でしか見たことがないアイツが闊歩していた。
闊歩とは、その言葉の持つ意味としては"堂々と歩く"とされるが、この世界においては少し別の意味として使われる。
古龍種の特異個体が共通して行う攻撃方法として伝えられるこの〈闊歩〉であるが、特定の自然現象を自在に司る角を持つ古龍種が、ただ歩くだけでそれを象徴するかのように周囲へ自然現象を起こし、それがそのまま攻撃になる。
故に、〈闊歩〉。
雷が起こす閃光により、はじめはうまく姿を確認することが出来なかったが、徐々に相手を捉えられた。
頭に一本の角を持つ、ユニコーンのような姿をした幻想的なモンスター。
アフリカにいる黄色と茶色の首長動物である〈ジラフ〉とは名前の由来からして異なっており、中国神話に出てくる動物が前世知識に近いだろう。
嘶き一つで雷を操る古龍、キリンである。
美しく白銀に光る体毛に覆われた小柄な体躯は、一見すると中型モンスターと見紛う程度の大きさである。
しかし、矮小にも見えるその体とは裏腹に、このキリンが誇る能力は非常に特異で、並み居る大型モンスターさえ凌駕してしまうほどに危険だ。
また、ハンターズギルドでは、その予測不可能な出没情報と、目撃例の少なさから情報が錯綜し、幻獣と呼ばれていた。
キリンと言えば睡眠爆殺ですよね。
ダブルクロスになってからはあんまりやってないモンスターです。4Gの頃はクソほどやったなぁ……。
ところで、ニャスケと出会う話なのにニャスケが出てこない話が続いてて、読者のみなさんよりも頭に疑問点が出まくってる作者です。