ランサーとは対峙したものの、まだまだ監視を続けるルルーシュ。
そんな中、セイバーに、異常な興味を示します。
そして、少しずつ、聖杯戦争攻略の仕込みをして行きます。
カレンに振り回されながら……
「“ギアス”(絶対遵守の力)って何?どんな力なのですか?」
「まあ、簡単に言えば強力な暗示……そうだな、サーヴァントに対しての、マスターの令呪のような物だと思ってもらえればいい。これに掛かった者は、俺の命令には絶対に逆らえない……例え、“自害しろ”という命令であろうと。」
「ふうん……凄いですね……」
私は、少し考え込んだ後、率直な疑問を彼にぶつける。
「でも、そんな力があるんなら、一気に聖杯戦争を終わらせられるんじゃないの?」
「何?」
「わざわざ、こんな所に隠れて作戦を練らなくても、片っ端からギアスを使えば、一晩で決着がつくわ。」
すると、またルルーシュは、手で顔を覆って天を仰ぐ。
「いかにも、ものぐさなマスターが考えそうな事だが、そんな簡単な話では無い……この力は、俺の宝具だと言ったろ。発動させるのには、多大な魔力を消費する。生前は無制限だったが、英霊となった今は、お前からの魔力供給だと……そうだな、週に2~3回が限度だろう。」
「あら、そうなの?」
「それに、いろいろ制約もある。この力は、相手の目を直接見ないと行使できない。バイザーや目隠しで目を覆われると、機能しない。」
「はあ……」
「あと、ひとりに対して、使えるのは一度きりだ。同じ相手に、二度使う事はできない。」
「ふうん……意外と、不便なのですね?」
「だから、完全にギアスを行使できる状態に、相手を陥れる必要があるのだ。」
そう言って、ルルーシュは、再び水晶玉の前に立つ。
「まだ、続けるのですか?」
「当然だ!セイバーとアーチャーの、動向が気になるからな……もう、マスターの自宅には居ないな。何処に行ったか……」
ルルーシュは、画面を切り替えてセイバー達を捜している。仕方が無いので、私も水晶玉を覗き込んで、一緒に探す。
「……居た。」
「本当?」
「ん?……セイバーひとりだな?……ここは、教会か?」
私の目に、あまり見たくない景色が飛び込んで来る。
「ああ……言峰教会ですね……」
「言峰教会?」
「この聖杯戦争の……案内所みたいな物です。監督役の、“言峰綺礼”という似非神父が居ます。」
「似非神父?」
「神父と言ってるけど、実は魔術師で、第四次聖杯戦争ではマスターでした。魔術師のくせに八極拳の使い手でもあり、最悪な事に、私の実の父親です。」
「父親?……最悪って、お前……父親のことが嫌いなのか?」
「そうよ、悪い?」
私は、少し不機嫌そうに答える。すると、ルルーシュは、同情的な目で私を見る。
「いや……それ程、珍しい事でも無いからな……」
その言葉に、妙に親近感を感じて、私は聞いてみる。
「ひょっとして……あなたも、自分の父親が嫌いなの?」
「ん?……ああ、大嫌いだ。あいつは、最低な男だった。自分の野望の為には、弱者を踏みにじり、家族でさえ平気で見捨てる人でなしだ!」
「ふうん……あなたの境遇って、私と似てるのね?」
「お前の父も、そんな男なのか?」
「野望があるかどうかは知らないけど、人でなしなのは同じよ。」
そんな事を言い合ってる間に、教会から、遠坂凛とセイバーのマスターが出て来た。
3人は合流して、共に教会を後にする。
「何だ、戦わないのか?……まさか、こいつら……?!」
突然、ルルーシュの顔色が変わる。
「どうしたの?」
「何だ?この魔力は?」
「え?」
「とてつも無く、強大な魔力だ!」
そう言って、ルルーシュは水晶玉の画面を切り替える。そこに映っていたのは、常人の倍以上の大男と、まだ幼い少女だった。
「何?この怪物は……まさか、バーサーカー?」
「この化物もそうだが、この少女も異常だ!まるで、魔術回路の塊だ!」
バーサーカーとマスターの少女は、セイバー達と邂逅する。
水晶玉の向こうで、バーサーカーのマスターが、遠坂凛に挨拶をした。
『始めまして凛、私はイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン……アインツベルンって言えば、分かるでしょ?』
「アインツベルンですって?」
「知っているのか?」
「遠坂家と同じ、第一次から参加し続けている、魔術師の家系の名門です……あの娘、アインツベルンが聖杯戦争用に育てた……いえ、造り上げた人形かしら?」
「造り上げた?」
「全身が魔術回路なんて人間が、存在すると思いますか?多分逆、魔術回路を人間に造り替えたのです……」
「成程……だから、あそこまでの強大な魔力を持てるのか……」
そして、バーサーカーと、セイバー・アーチャー連合軍の戦闘が開始された。
セイバーがバーサーカーと対峙するが、その圧倒的な戦闘力に、翻弄されるばかりだった。アーチャーが、ようやく弓を使い援護を入れるが、半端な攻撃ではバーサーカーはびくともしない。
「全然、相手にならないわね。これで、セイバーもアーチャーも消えるかしら?」
「いや……違うな、間違っているぞ、カレン!」
じっと、無言で戦況を見詰めていたルルーシュが、私の言葉を否定する。
何故か、この言われ方には抵抗を感じた……理由は、分からないけど……
「セイバーは、何かを狙っている……見ろ、防戦一方に見えるが、少しずつ場所を移動している……おそらく、都合のいい場所に誘い込む気だ。」
ルルーシュの言う通り、セイバーは、墓地にバーサーカーを誘い込んだ。
「本当……これだけ障害物が多いと、逆にこの図体では戦い難いわね。」
「……戦術だけでなく、戦略にも長けている……欲しいな、この戦力……」
「え?」
何やら、ルルーシュが呟いた独り言が耳に入った。
欲しい?……どういう事?
戦いに、更なる動きがあった。ここぞと思ったのか、セイバーは一気に間合いを詰め、カモフラージュを解いた剣でバーサーカーの心臓を貫いた。
「やった!」
バーサーカーは完全に沈黙し、その場に蹲る。
「流石だ、セイバー!あの怪物を、初戦で打ち破るとは……」
ルルーシュは、興奮気味で水晶玉に見入っている。バーサーカーを見た時は、どちらかと言えば恐れを感じていたようだったけど、今は、どう見ても喜んでいる。そんなに、セイバーが気に入ったのだろうか?
「な……何?!」
嬉々としたルルーシュの顔が、一瞬で曇る。
何と、完全に沈黙したと思われたバーサーカーが、再び動き出したのだ。
「さ……再生している……」
見る見る内に、セイバーに貫かれた傷が無くなり、元の状態に戻って行くバーサーカー。
「何だこれは?……この力は?」
そこに、遠方からの強力な射撃があり、一帯は一気に火の海と化す。おそらく、アーチャーによる攻撃だろう。しかし、これでは、セイバーや自分のマスターまで巻き添えにしてしまわないか?
だが、結局は、皆助かったようだった。バーサーカーも当然無傷だったが、マスターのイリヤスフィールは本気では無かったのか、その場はセイバー達を見逃して引き上げて行った。
今夜の監視は、そこまでで終わった。
居間に戻ったルルーシュは、ソファに深く腰掛けて、ずっと考え込んでいる。
「何を、そんなに考え込んでいるの?セイバーの事?それとも、バーサーカーの事かしら?」
「……もちろん、バーサーカーの事だ……あいつは、間違い無くセイバーに倒された。だが、直ぐに蘇生した……」
「それが、そんなに問題なの?」
「当然だ!この謎が解けない限り、迂闊にバーサーカーには手を出せん!」
「どうして?」
「考えても見ろ!もし、うまくギアスが使えて、奴に“死ね”と命令できても、死んだ後に直ぐに復活するんだぞ!」
「ああ……そうか……」
「そしたら、もう奴にギアスは通用しなくなる。」
「そっか……まともに戦ったら、ひ弱なあなたじゃ瞬殺でしょうしね。」
「大きなお世話だ!俺はキャスターなんだ!元々、肉弾戦をするクラスじゃ無い!」
また、ルルーシュは黙って、考え込んでしまう。
私も、特に名案がある訳でも無いし、考えるのも面倒なので、迎いのソファに座って悩む彼をただ見ていた。
何か、頭の中で色々とシミュレートしているようで、表情がころころと変わる。渋い顔をしていたと思ったら、何かを閃いたかのように明るい表情になる。しかし、また直ぐに暗い表情になる。見ていて、結構面白い。
「……おい……」
そんな私に気付いたのか、いきなり低い声を出して、私を睨んで来る。
「人が悩んでいる姿を、面白がっていないか?お前……」
「あら?分かっちゃいました?」
「いったい、誰のために、こんなに悩んでいると思ってるんだ?お前も、少しは考えたらどうだ?」
「ああ……それは無理です。」
「何?」
「私に戦略の才覚なんて無いし、他人と戦った経験なんてゼロですもの……だいたい、素人の私が意見出したって、全部却下するでしょ?あなた。」
「う……」
図星を突かれて、彼は言葉に詰まる。
「……分かった、なら、せめて他の部屋で休んでいてくれ。」
「はい、はい……それじゃあ、方針が決まったら呼んで下さい。」
そう言って、私は部屋を後にする。彼は、また固まって考え込んでいた。
私は、特にする事も無いので、寝室に行ってそのまま寝てしまった。
その日は殆ど一日中寝ていたので、翌日は、朝早くに目が覚めた。
着替えて居間に行くと、ルルーシュが、昨夜と同じようにソファに座って考え込んでいた。
もしかして、一晩中考えていたの?
「おはよう。」
私は、居間に入って行く。
「……おはよう……今朝は早いな、カレン。」
「何か、いい戦略は浮かんだ?」
「いいや、駄目だ……相手のサーヴァントの素性が分からないと、どうにも……」
「ああ、それなら、ある程度予想はつきますけど。」
「何だと?」
「そうか……あなたは異世界の英雄だから、この世界の英雄は知らないんでしたっけ……」
「何で、昨夜にそれを言わなかった?」
「だって、聞かれませんでしたから……」
ルルーシュは、いつもの呆れポーズで天を仰ぐ。
「……それで、何が分かった?」
「まず、セイバーですけど……」
「ああ、」
ルルーシュは、身を乗り出して来る。
「バーサーカーを、一度は仕留めたあの剣……その瞬間だけカモフラージュを解いたけど、黄金に輝く、聖なる力を感じる剣でした……多分伝説の、“聖剣エクスカリバー”じゃないかしら?」
「聖剣?……エクスカリバー?」
「そうなると、セイバーは伝説の“アーサー王”という事になります。最も、伝説上ではアーサー王は男性ですけど。」
「そうか……ならば、そのアーサー王について調べれば、セイバー対策はできるな。」
「そして、バーサーカーですが……」
「うん……」
「あの怪力、そして力だけでなく戦術にも長けていました。そんな両方を兼ね備えた英雄というと……ギリシャ神話の“ヘラクレス”かも?」
「ヘラクレス?……そいつは、不死身だったのか?」
「そんな話は無いですけど、常人では無し得ない12の試練を乗り越えた功績で、神になったと言われています。」
「神に?」
「あくまで予想ですけど、その功績で、12の命を持ってるのかも?」
「そうか……では、奴を倒すのには12回倒さないと……て、あんな化け物を、どうやって12回も倒すんだ?」
「そんな事、私が知る訳が無いでしょ。」
ルルーシュは、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……それで、アーチャーは?」
「あれだけは駄目、全く思い浮かびません。」
「そうか……いや、助かった。これで、少しは前に進める。」
ルルーシュは立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「何処か行くのですか?」
「今、教えて貰った英雄について調べて来る。ここには、何の資料も無いからな。」
「待って、なら、私も行きます。」
「ほう?珍しいな、ものぐさなマスターが協力してくれるのか?」
「そうじゃないわ。少し、街を見学したいの。」
「……期待した、俺が馬鹿だった……」
私達は、新都の街中に来ていた。
ルルーシュは、流石にゼロの恰好は止めて、カジュアルな普段着に身を包んでいる。あの仮面では目だってしまうので、大きめのバイザーのようなサングラスで、顔を隠している。
「霊体化すれば、変装する必要も無いんじゃないの?」
「俺は、これから図書館に行って調べ物をするつもりだ。本が、ひとりでに開いていたら不自然だろう?」
「ああ……そうね。」
私達は、図書館の前で別れた。彼は、英霊について調べるために中に入って行った。私は、大橋を渡って、深山町の方に足を延ばす。
何気無しにぶらぶらと歩いていると、見覚えのある学校の前に着く。
あ……ここって、昨日ランサーとアーチャーが戦っていたところね。
もう、授業が始まっている時間なので、校門の付近に人影は無い。ちょっと中を覗いて行こうと思い、門をくぐると……
「な……何?!」
何とも言えない違和感が、頭に襲い掛かって来る。
こ……これは?結界?
間違い無い、この学校には結界が張られている。それも、サーヴァントによるものだ。
セイバーの物じゃ無い……あのセイバーがアーサー王なら、結界を張る能力なんて無い筈だわ……なら、アーチャー?……違うわね、昨日の戦い方を見る限り、そんなタイプじゃ無い……じゃあ、誰?この学校に、もうひとりマスターが居るの?
家に戻って、私は、この話をルルーシュにする。
「あの学校に結界が?……もうひとり、マスターが居るだと?」
「ええ……」
ルルーシュは、水晶玉に学校を映し出し、観察する。
「うむ……確かに、結界が張られている。昨日は、気が付かなかった……いや、昨日よりも、結界が強くなっているから気付いたのか?」
「どうするの?」
「しばらくは、様子をみよう。セイバーとアーチャーのマスターも、この結界には気付く筈だ。近い内に、必ず動きがある……だが……」
「だが……何?」
「この手があったか?」
「この手?」
「この結界は、学校の生徒達から、生気を吸い取る目的で張られているんだ。それを、そのまま吸収して、自分の魔力をより高めるために。」
「マスターが貧弱で、魔力供給が足りないから?」
「それもあるが、どんな優秀なマスターでも魔力供給には限界がある。あの、アインツベルンの小娘は例外だがな。」
「あなたも、私の魔力供給じゃ不足なのですか?」
「不足という事では無い。あって困るものでは無いから、上限なんて無いからな。ただ、俺が考える戦略を実現するには、お前からの魔力供給だけでは十分では無い。」
「なら、どうするの?あなたも、学校に結界を張る?」
すると、ルルーシュは、真剣な目で私を見る。
「お前は、正義を貫く者か?」
「はあ?」
いきなり、何を言い出すの?この人は?
「己が目的のために、関係の無い者を巻き込む事を嫌うか?」
ああ、そういう事か……
「心配しないで、私は他人がどうなろうと、いちいち気にするような人間じゃありません……むしろ、幸せそうな人を見ると、無性に気分が悪くなります。」
「そうか……ならば、問題は無いな。」
「魔王のくせに、随分人に気を遣うのですね?それで、何処に結界を張るの?学校は、もう売約済みだけど……」
「そんな、小規模な結界では埒が明かん!やるなら、新都全てを対象範囲にする。」
そう言って、ルルーシュは部屋を出て行こうとする。
「もう始めるの?」
「既に、聖杯戦争は始まっている。今からでも、遅いくらいだ……」
「行ってらっしゃい。」
もう慣れたのか、他人事のように見送る私に、特に反応もせずルルーシュは出て行った。
大分夜も更けた頃、ルルーシュは帰って来た。
全く何もしないのにも気が引けたので、夕食の準備をして待っていた。
「何だ?これは?」
「何だって……麻婆豆腐ですけど……」
「そんな事は分かってる!何で、こんなに真っ赤なんだ?」
「普通赤いでしょ?麻婆豆腐は……」
「尋常な赤さじゃ無いぞ!これは……」
「嫌なら、食べなくてもいいわ。」
私は、構わず自分の分を食べ始める。黙々と食べる私を見て、ようやくルルーシュも一口食べる。
「ぐはっ!」
しかし、直ぐに咳き込んで、慌てて水をがぶ飲みする。
「辛い!半端無く辛い!」
「そう?」
「よくこんな物を、平気でかっ喰らえるな?」
「あなたこそ、よくあんな味の無い食事を、毎回できるわね。」
「味が無い?俺が作った食事がか?」
「ええ。」
「どういう味覚をしてるんだ?お前は?」
どういうと言うか、私の味覚は、とうの昔に麻痺してしまっている。このくらいの辛さで無いと、味を感じないのだ。
「無理に食べなくてもいいわよ。あなたはサーヴァントだから、別に食事を取らなくても問題は無いんでしょう?」
すると、ルルーシュは少し考え込んで……
「い……いや、確かにとてつもなく辛いが、不味いという訳では無い……折角作ってくれたんだしな……」
そう言って、悪戦苦闘し、顔中汗まみれになりながら、何とか完食した。本当に、律儀な人だ。
しかし、この夜以降、ルルーシュが私に食事を作らせる事は無くなった……
相変わらず、カレンに振り回されっぱなしのルルーシュ。
とどめは、父親譲りの激辛麻婆攻撃(綺礼から学んだ訳では無いですが)。
さしものルルーシュもたじたじです。