遂に動き始めたルルーシュ。
その暗躍の過程で、アーチャーと遠坂凛と対峙する事に……
更には、今迄何の手掛かりも無かった、最後のサーヴァントとも……
そして、相変わらずカレンには振り回されます。
私達は、居間でテレビを見ていた。
ニュースでは、先日から連続している、新都でのガス漏れ事故、昏睡事件の報道をしている。詳しい原因は掴めていず、冬木市には、警戒警報が出された。学校等は下校時間が早まり、市民の夜間外出にも注意が促された。
まあ、夜間に外出しても、この事件の犯人に襲われる事は無いのだけれど……
その犯人は、満足そうに、ソファーに腰掛けてそのニュースを見ていた。
「随分派手にやってますけど、他のマスターに気付かれないの?」
「いや、とっくに気付かれているだろうな。」
「大丈夫なんですか?それで?」
「心配か?」
「いいえ……」
「だろうな……」
他のマスターが私達の事に気付いて、ここに攻めて来て、自分の命が危うくなっても……私は、別に慌てないだろう。自分の生に対して、さして執着が無いから。
それに、ルルーシュは安心しきって話している。この人が、簡単に自分達の隠れ家が見つかるような手段を取る筈が無い。
その日の夜、遠坂凛とアーチャーは、新都を調べて回っていた。
昏睡事件の現場を調べ、吸い取られた生気の流れを確認していた。
「やはり、流れは柳洞寺か?」
「そうね、奪われた生気は、みんな山に行ってる。昏睡事件の犯人は、おそらくキャスターね。」
「柳洞寺に巣食う魔女か?」
「キャスターを追うわ!柳洞寺に逃げ込む前に、片をつける!」
新都の仕掛けを施したゼロは、夜の街を浮遊し、帰路に就いていた。
「ん?」
しかし、自分を追ってくる魔力を感じて地上に降りる。
「やはり来たか……」
ゼロは、それまで向かっていた方向と、違う方向に向かって再び飛び始める。そう、柳洞寺に向かって。
サーヴァントとなったルルーシュは、常人よりも遙かに優れた運動能力を有する。他のサーヴァントのように、空を浮遊する事も出来る。但し、その能力はサーヴァントの中では最弱に近い。追ってくる敵に、直ぐに追いつかれてしまう。
「見つけたわ、アーチャー!」
ゼロの姿を、凛とアーチャーが捉えた。
「ちっ!」
ゼロは、真下にある河原に着地する。凛とアーチャーも、それに続く。
遂に、ゼロとアーチャー・凛が対峙する。
「これは驚いた。てっきり、魔女だと思っていたのだがな……」
「生憎だったな、私は魔女では無い、魔王だ!」
「魔王ですって?」
ゼロの言葉に、呆れ顔をする凛。
「私に、何か用かな?」
「用かなじゃ無いわよ!ふざけた仮面なんか被って……観念しなさい、キャスター!」
「遠坂の娘、私の事をキャスターと呼ぶな。」
「はあ?」
「ゼロだ!私の事はゼロと呼べ!」
一瞬の静寂の後、凛が口を開く。
「……あんた、頭がいかれてんじゃないの?」
「ゼロ、お前のマスターは何処だ?」
アーチャーは、冷静にゼロに問い掛ける。
「さあな?」
「お前……まさか、マスターに無断で……」
「あんた、自分が何やってるか、分かってるんでしょうね?」
「無論だ……新都の方々から、生気を提供して頂いている。」
「提供ですって?」
凛は、もう頭に血が上っている。
「強奪の間違いでは無いのか?」
アーチャーは、いたって冷静だ。
「まあ、無断で拝借してはいるがな……奪うばかりで終わるつもりは無い。私が聖杯を手にした暁には、生気を提供して頂いた市民には、相応の褒美を取らせよう。」
「褒美?……あんたいったい、何様のつもりよ!」
「さっき言っただろう、魔王様だ!」
「な……」
とうとう、凛の理性は完全に吹き飛んだ。
「アーチャー、あんなふざけた奴は、今直ぐ塵にしてあげなさい!」
「やれやれ……トレース・オン!」
アーチャーの両手に、白と黒の夫婦剣“干将・莫耶”が投影される。
「はあっ!」
アーチャーは、ゼロに向かって一直線に突進し、両手の剣でその体を切り裂く。
「何?!」
だが、感触は殆ど無く、切られたゼロの姿は塵のように消えて行く。
「ちっ……やられた!」
舌打ちをするアーチャー。
「え?……ゼロは?」
「私達が話をしていたのは、幻だ!もう今頃、柳洞寺に辿り着いているだろう。」
「ええええええっ?!」
柳洞寺では無く、新都の外れの隠れ家の前に、ゼロの姿が現れる。
「……アーチャー、常に冷静で、思慮が深い。侮れん相手だ……遠坂の娘は、与し易いがな……」
ゼロは、ゆっくりと家の中に入って行く。
河原では、凛が顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
「もおおおっ!あったまに来た!アーチャー、今直ぐ柳洞寺に乗り込むわよ!」
「落ち着け凛!冷静さを欠いては、ゼロには勝てないぞ。」
「こんなに馬鹿にされて、黙ってられないわよ!」
「それが奴の手だ!踊らされているぞ凛、少し頭を冷やせ!」
「ううう……」
凛は、まだ腹の虫が収まらないという感じである。
「柳洞寺が奴の本拠地なら、それ相応の罠が仕掛けられているかもしれん。今はまだ、乗り込むべきでは無い。」
「ううう……」
アーチャーに諭され、怒りの収まらぬまま、その日は帰宅する凛であった。
翌朝、例によって私達は居間でニュースを見ていたが、昏睡事件のニュースに続き、昨夜新都で起こった惨殺事件のニュースが流れる。
「何?」
このニュースに、ルルーシュの顔色が変わる。
「惨殺だなんて……ここまでする必要があったの?」
私の問いに、ルルーシュは……
「馬鹿を言え!俺は、そんな事はしていない!」
「え?」
「税金というものは、より多くの市民から少しずつ、長くに渡り徴収し続けてこそ意味がある。一度に限界まで絞り取って、徴収源を潰してしまっては元も子も無い。そんな愚かな事は、俺はやらない!」
「じゃあ……この事件は……」
「他のサーヴァントの仕業だろう?」
「もしかして、学校に結界を張った……」
「いや、あんな隠れて回りくどい手を打つ奴が、こんな目立つ行動に出るとは考え難い。」
「アーチャーでも無いのよね?」
「ああ、奴らは、俺の行動を非難していた。そんな奴らが、こんな非道をする筈が無い。」
「セイバーは?」
「絶対に有り得ない!奴は、騎士道を重んじる戦士だ!一般市民を巻き込んだりはしない!」
相変わらず、随分とセイバーの肩を持つのね?
「バーサーカーも除外だ。あの小娘に限って、魔力不足という事はあり得ないからな。」
「という事は……」
「今迄、何の痕跡も見せなかった、最後のサーヴァントという事だ。」
「ライダーかアサシン……その、どちらかね?」
「状況的に、アサシンの可能性が高いな……」
「じゃあ、学校に結界を張ったのが、ライダー……」
少しの間考え込んで、ルルーシュは言う。
「よし、今夜網を張って、そいつの尻尾を掴む。」
「私も行くわ。」
「夜の街だ、見学しても、さして面白味は無いぞ。」
「見学じゃ無いわ……私も、一応はマスターですから。」
「ふん、ようやく、マスターとしての自覚が出て来たか……ならば、戦闘になる可能性もあるから、それなりの準備をしておけ。」
「ええ……分かりました。」
そして夜……隠れ家の前で待つルルーシュのところに、準備を終えた私が出て行く。
「お待たせしました。」
しかし、私の姿を見て、ルルーシュは硬直する。仮面で顔は見えないが、おそらく、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしているだろう。
「な……何だ?そ……その恰好は?」
「戦闘にもなる可能性があるとの事なので、その備えです。」
「い……いや、そういう事じゃなくて……」
「この、赤い布を気にしているのですか?これは、マグダラの聖骸布と言って……」
「だから、そうじゃ無い!言われなければ分からないのか?お前、スカートを穿いていないぞ!」
「これは……ファッションです!」
しばしの間、沈黙が続く。その後、ルルーシュは、前に向き直って言う。
「……では、行くぞ……」
もう、私には何を突っ込んでも無駄だと悟ったのか、以降、彼は私の恰好については何も言わなかった。
新都の路地裏で、妖しい影が、何やら蠢いている。
その影の周りには、ばらばらになった人の体が転がっている。妖しい影は、その一部を喰らっていた。それは、ひとりの老人であった。
「浅ましく思うか?こんな事をしてまで、生に執着するわしを……」
「いいえ……それでこそ、我がマスターにふさわしい……」
老人の後ろに、もうひとり妖しい影が佇む。痩せこけた体を、黒いローブで纏い、顔には髑髏のような白い仮面が装着されている。アサシンのサーヴァントである。
「何だ?人を喰らっているのは、サーヴァントでは無くマスターの方か?」
そこに、仮面の英霊“ゼロ”と、マスターのカレンが現れる。
その声に、老人は人肉を喰らうのを止め、ゆっくりと立ち上がってゼロに向き合う。
「お主が、今回のキャスターか?」
「ゼロだ!私の事は、ゼロと呼べ!」
「ゼロじゃと?……ふっ、面白い男じゃな……」
「ゼロ……あの老人、間桐臓硯です。」
カレンが、老人の正体に気付く。
「間桐臓硯だと?」
「聖杯戦争を始めた御三家の、最後のひとつ、間桐家の長老です。」
臓硯は、カレンを見て言う。
「お主は……聖堂教会から派遣された娘か?」
「私を、知っているのですか?」
「わしはあちこちに顔が利くのでな……伊達に、長くは生きておらん。」
「人を喰らって、生きながらえて来たのか?それで、聖杯に望むのは不老不死か?」
ゼロの言葉に、臓硯は、しばしの間沈黙する。
「中々、頭の回転は早いようじゃな……で、わしをどうする?」
「分かっていて聞いているのだろう?仲良く、お茶をする訳はあるまい。」
「そうじゃな……」
臓硯が言い終わらない内に、アサシンが動いた。
ゼロに向かって、黒塗りの短剣を投げ付けるアサシン。しかしゼロは、防御壁を張ってこれを防ぐ。今度はゼロが、ガンドを放つ。アサシンはこれを素早く交わし、ビルの上に駆け上がって行く。
「カレン!お前はマスターをやれ!できるな?」
「はい!」
ゼロも、アサシンを追ってビルの上へ飛ぶ。
ビルの屋上で、再び対峙するゼロとアサシン。
“ちっ……仮面を付けられていては、ギアスは使え無い……まず、あの仮面を剥ぐしか無いか?”
路地裏では、臓硯とカレンが対峙している。
「見たところ、さして戦闘力が高いようには見えん。老いぼれとはいえ、わしは間桐の長老、勝算はあるのかの?」
「別に、勝つ必要はありません。ゼロの戦いが終わるまで、あなたを足止めしておけばいいだけです。」
「できるかの?」
「あなたが、男性である限りは。」
カレンは、マグダラの聖骸布を放つ。それは、瞬く間に臓硯の体に絡み付き、完全に動きを封じる。
「その拘束は、男性では絶対に解けません。これで、あなたはもう戦う事も、逃げる事もできません。」
しかし、臓硯は動じる事無く、笑い始める。
「ほっほっほっほっ……わしが、男性ならばな……」
次の瞬間、臓硯の体が崩れ始める。
「えっ?」
カレンの拘束は、中身を失って解けて地に落ちる。臓硯の体は、無数の蟲に変わり、カレンに向かって飛んで来る。
「きゃあっ!」
カレンは思わず目を瞑り、両腕で頭部をガードする。蟲は、カレンの体をすり抜けるようにして、そのまま彼方に飛び去ってしまった。
「な……何だったの?今のは……」
カレンは、蟲が飛び去った後を、呆然と見詰めていた。
ゼロとアサシンの戦いは、遠方からの牽制の域を出なかった。
共に、肉弾戦の能力が低く、白兵戦用の宝具を持たないため、相手に不用意に近付く事はしなかった。
次々と、戦闘場所を変えるアサシン。ゼロは直ぐに追いつくが、常に一定以上の距離をとって対峙していた。その内に、ゼロはアサシンの動きの違和感に気付く。
“こいつ……最初こそ先制攻撃して来たが、以降は、自分から仕掛けて来ない。”
ゼロがガンドを放つ、するとアサシンはそれを交わし、死角に回り込んで短剣を放つ。その繰り返しだった。
“俺が、接近するのを待っているのか?確かに、接近しなければ奴の仮面は剥げないが……”
試しに、ゼロはアサシンとの距離を少し詰める。
“?!”
しかし、一瞬アサシンの右腕が反応したのを見て、また直ぐに距離を取る。
“間違い無い、奴は、俺が近付くのを待っている……あの、黒いローブで隠された右腕に、何が?”
次に、アサシンが移動した時、もう、ゼロは後を追わなかった。
“ここは、カレンと合流して、マスターを抑える方が得策か?”
アサシンの魔力が感知範囲外に出た所で、ゼロは、直ぐにカレンの元に引き返した。
「カレン!」
呆然と佇むカレンの元に、ゼロが現れる。
「奴はどうした?」
カレンは、自分の目の前で起こった事をゼロに話す。
「何だと?間桐臓硯は、人間では無いのか?……」
この夜以降しばらくは、間桐臓硯とアサシンは、ばったりと姿を見せなくなってしまった。
HFルートでは無くセイバールートをベースにするので、黒い影は出て来ません。
なので、間桐臓硯をアサシンのマスターにするのは抵抗があったのですが、話の都合上ルルーシュでは無理なのと、他のシリーズのマスターやオリジナルキャラでは難しかったので、臓硯にしてしまいました。
ですので、この話では、臓硯はあまり本気で勝ち残ろうとは思っていません。
余談ですが、間桐臓硯って、風貌が“妖怪ぬらりひょん”みたいなんですよね。
ルルーシュの声が福山さんだから、ルルーシュと臓硯の会話って、奴良リクオとぬらりひょん(お爺ちゃん)の会話を連想してしまいます。