最初は三人称視点。
では本編どうぞ。
『……雨が酷くなってきたな』
『早苗……大丈夫かな?』
守矢神社にいる二神──八坂神奈子と守矢諏訪子は縁側から早苗のことを心配していた。やっぱり、体調が悪いのは明らかだった。止めれば良かったと後悔している。
そこに──空から翼が生えた、誰かが神社に向かってきていた。二人の目線は当然向ける。
「……ん? 誰かがこちらに向かってきたな?」
「背中に誰か乗せているようだけど──あれっ!? もしかして背中にいるのって早苗!?」
「何っ!?」
諏訪子が衝撃的な発言をし、神奈子は目を懲らして見ると──見覚えのある巫女服が少し見える。その色は青白だ。誰かの背中に乗せられている。翼のある妖怪というと天狗を思い浮かべる。
だが……実際には違かった。赤い翼で、まるで龍の翼のよう。幻想郷では珍しい学生服を着た──辰上侠。
侠は神社に降り立つと翼をしまって、二神に急いで話しかける。
「この子ってここの神社の巫女ですよね!? 山の中で倒れていました! 応急処置をしたいのでこの子は寝かせることが出来る環境を作って、着替えさせてくれませんか!? 一刻も早くしないと!」
「わ、わかったっ! 諏訪子! 私は布団を用意するから着替えを持ってきてくれ!」
「了解したよっ!」
そこからの行動は迅速だった。早苗を寝かせられる環境が整い(早苗の自室だが)、諏訪子が早苗を着替えさせると、侠は桶を借りて水を入れ、氷水の力を使い水を冷やす。寝かされた早苗の額にタオルを乗せて、症状を緩和する。短い時間でタオルを濡らして額に乗せるのを繰り返す。
……数十分後。
「──とりあえずは息切れはなくなりましたね。これ以上の悪化はなさそうです」
早苗を看て侠はそう言った。それを聞いた二神は安堵した様子を見せた。
……ちなみに侠は火炎の能力で服と肌をを乾かしたが、現在は作務衣に着替え直している。無論早苗の体温も火炎で上昇を促した。片手は早苗の布団に触れ、火炎の応用で暖かくしている。寒気など、体温の低下も問題ない。
そして二神は名前の知らない侠にお礼を述べる。
「助かったよ。親切なお前がここまで来ていなかったら危なかった……」
「あーうー……本当にありがとう!」
「困ったときはお互い様ですから。自分は辰上侠っていいます」
「おっと、早苗を助けてもらっていたのに自己紹介をしていなかったな。私は八坂神奈子。軍神をしている」
「私は洩矢諏訪子。祟り神だよ〜。それで君が運んでくれたのは守矢神社の巫女の東風谷早苗っていうの」
「そうですか……あ、そろそろ水を入れ替えますね」
侠は立ち上がって台所を借り、氷水の能力で桶の水を入れ替えた……。
「……諏訪子、あの辰上侠は確か日食の異変を解決した人間じゃないか?」
「あの記事は衝撃的だったね〜。外界で人気モデルだった本堂静雅が起こした異変だけでも驚きなのに。霊夢はその人気モデルに勝てなくて、早苗を連れてきてくれた侠が解決したんだよね。幻想郷の新たな異変解決者ってことで取り上げられていて、しかも静雅と親友なんだもん。静雅の写真はあったけど、侠の写真はなかったし」
「それに……侠に違和感を感じないか?」
「そうだね。並以上の妖力と──神力も感じる」
「……神力? 私には感じなかったが……?」
「あれ……? 私に感じたなら神奈子にも感じると思ったんだけど……どっちみち侠に尋ねる必要があるね。普通の外来人ではないことは確かだし」
〜side 侠〜
とりあえず水と氷を入れた桶をまた持ってきて、東風谷の額に乗せているタオルを濡らし直してまた乗せていると……八坂さん達が話しかけてきた。
「侠……早苗を助けてくれたことは感謝する。しかし……お前の体から何か感じるんだが……それは何だ?」
「私もそれ気になってたんだよー。侠ってただの人間じゃないよね? あの翼も気になるし」
……この二人は神様だし、やっぱり気づくんですよね……。
『「説明は頼む。何度も説明するのはめんどいの」』
ですよねー……。
ご先祖様に言われたのも含めて、大雑把に自分の事を伝える。
「それは自分がこの幻想郷の創造神の先祖返りだからだと思います。加え、その創造神の意思が自分に取り憑いているからかと」
「…………は? 創造神の先祖返り?」
「…………え? それって……龍神の血筋って事?」
……うん。ある意味呆然か驚く事は予想出来ていた。二人の神様は前者のようだけど。
ゆっくりと、自分の簡単なことを伝えることにした……。
少年説明中……
「──と、いうことですが……わかっていただきました?」
「……何だ? それってもしかして私達より位が高いんじゃないか?」
「自分は先祖返りってだけで厳密には人間ですし。心にご先祖様はいますが、今を統次する龍神ではないので」
「……それってあれ!? それじゃあ早苗が昨日人里で誰かが信仰を受けていたって──」
「まぁ……間接的ですが、ご先祖様ですね。その事」
うん……説明中も凄い驚かれた。幻想郷だからこそ受け入れてもらっているけど……外界にいる本家だと凄い糾弾すると思う。自分がそういうことは認めてもらえないだろう。
少し困ったように二人の神様は自分に言う。
「それは困ったな……私達は信仰を得るために幻想郷に来たんだが……博麗神社に信仰がいってしまうとは……」
「ずるいよー! 私達は無名から信仰を集めていたのに最高神の肩書きで信仰を集めるなんてー!」
「そ、それはすいません……」
『「謝ることは無いと思うがのう……」』
いや、この人達にとっては死活問題みたいですよ?
『「ならここの巫女の病状が良くなったら、一緒に信仰活動したら良いではないか。我はどの神社の助けとなる。霊夢は大して信仰は気にしてはいないからの、そういうことで良いであろう」』
「えっと、ご先祖様の言葉で東風谷がの体調が良くなったら一緒に信仰活動をしよう……と、言っていますがどうでしょう?」
そう伝えてみると二人の神様は──
「本当か!? 最高神がウチの神社の信仰活動を手伝ってくれるとは……!」
「まさかの棚ぼた!? いいよいいよそういうのー♪ 私達も安泰だね! 初代龍神様にありがとうって伝えといて!」
──凄い喜んでた。確かにご先祖様の後押しって凄い力ですよね。
でも……ここに来た目的は風の力を持つ東風谷と弾幕ごっこをして【力】を手に入れるのが目的なんだけど……戦えない状況だからねぇ……。
『「主よ。一先ず人里に戻ると言うてみぃ。それで主の今後が決まるであろう」』
……元々人里を拠点にするつもりだったし、何も変わらないじゃあ……?
「じゃあ雨はまだ降っていますけど、人里に戻るのでこれで失礼します」
そう言って立ち上がって去ろうとしたけど……何故か洩矢さんが服の裾を掴んできた。どうして?
「? どうかしたんですか?」
「……侠って料理できる?」
「最低限なら出来ますが──」
「だったら早苗が完治するまでで良いから家事をやって欲しいんだよーっ! 私達まともに家事が出来ないの!」
「……ゑ?」
子供が我が儘を言うように頼みかける洩矢さん。自分が意外なことで驚いている中、話を続ける。
「今まで家事は全部早苗に任してばっかりだったし、ここにはコンビニもないし、食事処も遠いし、私達まともな料理が食べれなくなっちゃうっ!」
「……八坂さんもですか?」
「……済まないが、その通りだ……作れたとしても粥ぐらいでな……」
うわぁ……小粥だけじゃ栄養バランスが悪すぎる。そもそも小粥は病人食だし。東風谷にはちょうど良いかもしれないけど。
「家事をやる期間って……ちょうど東風谷は風邪を引き始めましたし、長く見積もって一週間ぐらいかかるのでは……?」
「だったら一週間住み込みで良いから! ちょうど部屋は余っているところがあるし、布団もあるから心配しないで! 人助けならぬ神助けと思って! きっと侠には御利益一杯になって返ってくるから! お願い!」
『「主よ、受けてやると良い。これは我達にとってもプラスとなる。ちょうど我達も守矢神社の巫女に興味があり、拠点も守矢神社になる。願ったり叶ったりなのだ」』
……これを狙ってそう言ったんだ。何て腹黒い。
「まぁ……分かりました。東風谷が完治するまで家事をしましょう」
「やったー♪ ありがとうー♪」
「悪いな、侠。そして初代龍神にも悪いが……助かる」
「いえ、お構いなく。ではそろそろ日も暮れますし……適当に作りますね。東風谷にはちょっと工夫した小粥でも作ってきます」
そう言って自分は料理をするために、台所で食材を確認しに行った……。
「……中々良い青年じゃないか。顔もそれなりに整っているし、家事も出来て性格も良い。これなら早苗の婿にしても良いんじゃないか?」
「うんうん! 顔も性格も合格範囲だし、さらには初代龍神の先祖返りときた! これほど高スペックな人間に出会えないよ! 侠が婿になってくれたら守矢神社は永遠に安泰だね! ……でも、早苗の意思を尊重してあげたいから、早苗次第かな?」
「諏訪子が言う『早苗の初恋』以上になってくれればの話か?」
「うん……いっそ、その侠が初恋の人だったりしないかなー……?」
「残念ながらそれはないんじゃないか? 外界で偶然隣町だったようだが……早苗に会っていたとしたら、自分から言ってきているだろ」
「だよねー……。まぁ、早苗との相性が良いのを願うしかないね……」
あり合わせの食材で料理を作った。自分の火炎と氷水の能力をフル活用しながら三人分の食事を居間の卓袱台に運ぶ。その二人は自分の料理を食べてみると……。
「……普段食べている早苗の料理とは違ううまさ……侠の個性が出ているんだろう」
「おいしーよ! 全然問題ない!」
「それは良かったです……では、東風谷にも運んでおきますね」
東風谷にはただの小粥を少しアレンジして、親子丼風にしてみた。もちろん全体の量は少なめ。少量だがサラダも作ってある。
お盆に載せて、襖からそろりと覗いてみる……どうやらまだ寝ているようだ。規則正しい寝息が聞こえてくる。
東風谷の近くに料理を置いた後、改めて部屋を見てみると……いかにも女学生っぽい部屋だった。勉強机もあれば、中学校の教科書とかもある。部屋の周りは……ロボットのプラモデルもあったり、家庭用ゲーム機……趣味は男っぽいが現代っぽい。守矢神社や妖怪の山は間欠泉センターとかで電力を作っているらしく、電気が通っているらしい。
まぁ、女の子っぽいファッション雑誌もあったけど……少し壁に掛けられていた──黒いコートが目に入った。
「……女の子の部屋なのに黒いコート……?」
どうして……男物っぽいコートがあるんだろう? あることがおかしいけど──
「──別に良いか」
他人の事情に深く考えず、自分は居間に戻っていった……。
八坂さんに割り振られた部屋に案内してもらい、荷物の整理をしていた頃……再び八坂さんが部屋に入ってきて話しかけられた。
「どうだい? 居心地は」
「慣れが肝心だと思っています」
「そうか……ところで、侠はどこかに信仰しているのか?」
急に信仰の話になった。神様だから気になるんだろうか?
「信仰は考えたことはなかったですね。外界にいた頃は神様なんていないと思っていましたし」
「……現実主義者なんだな、侠は」
『「我の存在が否定されていたのう。まぁ、信じろというのは無理な話だから仕方ないの」』
神様なんて空想の産物と今まで思っていましたし。幻想郷に触れてからいるんだって思ってるくらい。
八坂さんは腰を下ろして──話を切り出した。
「何処も信仰していないというのなら──私を信仰してみな──」
「しないですけど」
「返答が早いな!? しかも断られるとは……」
すぐに断られるとは思ってなかったのか、かなり八坂さんは意外そうだった。そして自分は今まで思っていたことを話に切り出す。
「神様を信じて世の中救われるのなら、どれだけの貧困層が救われると思っているんですか?」
「本当に現実主義者だな……心の中に初代龍神がいるのにも関わらずか?」
「ご先祖様はワケが違いますし。信仰はしていませんが、信頼はしています」
『「その信頼がウマウマだの」』
……時折ご先祖様の発言がおかしいのは気のせいだろうか?
「別に信仰するとしないとでは大きな差が──」
八坂さんが言いかけている途中で、視線がある方向に固まった。その方向を見てみると──ハンガーで干されている学生服のズボンに付いてある博麗神社のお守りだ。その一点に視線が向けられている。
視線が固まっている八坂さんに話しかけてみると。
「……どうかしましたか?」
「あ、いや……何でもない。今の話は忘れてくれ。それより……風呂に入ってきたらどうだ? 侠で言う火の能力で乾かしたのは良いが……まだ汚れてはいるだろう? 早苗を助けてくれたんだ。先に入ってくるといい」
「……そうですかね? じゃあお言葉に甘えて」
急な話題の逸らしかたが気になったけど、八坂さんの言葉に甘え、道具を持って風呂場に移動することにした……。
「……霊夢がわざわざお守りを渡す相手? 確かに居候先は博麗神社と聞いたが……あの霊夢が普通渡す物だろうか……? 手を出したらいけない気がする……」
……お守り。
ではまた。