うど──鈴仙視点。
では本編どうぞ。
永遠亭の主である姫様の部屋に向かう途中……この屋敷でもてゐの罠が仕掛けられているのを忘れ、足に引っかかった罠でタライが落ちてきて私の頭に当たった。その時の静雅の愉快そうな笑い方は今でも忘れない。
『ちょ(笑) 上からタライとか(笑) 何時の時代だよ(爆笑)』
『……その笑い方止めてくれる? すごくうざい』
『だろうな。オレもやっていてそう思った』
『……だったらそんな笑い方をしないでよ……まだ、てゐの仕掛けた罠を進むことになるけど、それはあなたも同じよ? 何時引っかかるのかわからないし』
『じゃあオレが前に出ようか? 面白い物を見られたお礼として』
『えっ? 自ら罠に引っかかるの……?』
『そんな変な目やめい。単にオレが無力化するだけだ。うどんは後方から姫様とやらの部屋までの道を指示してくれ』
……それから以降、罠が発動しなくなった。立ち止まることもなく、姫様の部屋へ向かっていく私達。
おかしい……私だったら運が良くてもこの道中で三つぐらい引っかかるんだけど……静雅が前を歩き始めて以来、罠が作動していない。
当然その事に私は疑問に思い、静雅に尋ねてみる。
「……どうして静雅が前に出てから罠が作動しなくなったの?」
「それはオレのうどんへの愛の量で決まる」
「うぇっ!? じょ、冗談よね!?」
「残念ながら冗談だ」
「……残念って何よ残念って!? 質の悪い冗談を言わないでくれる!?」
「お? もしかして一瞬本気になったのか? それはすまなかった。でも照れた顔オイシイです」
「あ・な・た・ねぇ〜っ!」
「ははは、悪い悪い。本当はオレの能力で何とかなるんだ。単に話すだけじゃつまらないからこういう話も交えてみたんだが……ダメだったか?」
「用件だけ簡潔に答えなさいよ、もう……」
いっそ狂気の瞳で精神を狂わしてあげようかと思ったけど……どうしてか狂気を感じにくいのよね。それが静雅の狂気なのかしら?
今度は静雅から私に話を振ってくる。
「お前さんと先生さん、姫様とやらは月から来たと言ったが……どんな目的で三人一緒で地上に来たんだ?」
……月から来た理由、ね……。
「……違うわ。師匠達の方がずっと先に地上に来て、私は後から来たの」
「へぇ〜? うどんは地上に何か惹かれた物があったのか?」
「…………私は──」
『おかしいウサね……予想とは違って全然トラップが作動していないウサ……故障ウサか?』
理由を説明しようかと悩んでいたとき、ある意味ちょうど良く目の前に服が汚れているてゐが現れた。
……良かったかもしれない。あまりこの事は……他人に話す事じゃないもの。
とはいえ……お灸を据えたい相手が現れたんだから、ちゃんとしなきゃ!
「てゐ! また落とし穴を作ったでしょ! おかげで私も落ちたんだからね!」
「……うん、まぁ……鈴仙はいつも通りとして──そこの男! 良くもてゐちゃんを埋めてくれたウサね!」
……え? てゐが埋められた? 静雅がさっき言っていたマイブームか何かじゃないの?
よく見たらてゐの服は汚れているし……それに対して静雅は気楽そうに答える。
「落とし穴があったら穴を埋める。これ、常識じゃね?」
「埋めるんだったらまず人がいないか確認するウサよ!? しかも今回の場合はお前に突き落とされて私がいたウサ!?」
「落とし穴を作った張本人が悪いだろう? そこに落とし穴がなかったらそんなことにはならなかった。そうだろ?」
「すごい正論を言いながら自分のやったことを棚に上げている!?」
……あぁ、うん。理解した。てゐを埋めた本人が静雅なんだ……多分、八割方私を落とすための落とし穴を作って、静雅が引っかかったんだ。会ったときもそう言っていたし。てゐが確認しに来たところを、能力みたいな変な力で自分は地上に上がって、てゐを落としたんだ。それで報復として埋めたと。
どっちにしろ──
「落とし穴を作ったてゐが悪いじゃない……」
「鈴仙が裏切った!? どうして私の味方をしてくれないウサ!?」
「自分のやったことを思い返しなさいよ……とりあえず今回のことも含めて言いたいことはたくさんあるんだからね! 覚悟しなさいよ!」
「くっ……鈴仙だけならともかく、未知数Xの存在がいる……ここは──逃げるが勝ちウサね!」
さすがに分が悪いと思ったのか……てゐは逃げだそうとした。もう……! てゐは逃げ足が速いから私じゃつかまらない──
「──ほいっ(ガシッ)」
「…………ウサ!?」
「…………えっ!?」
「とりあえず【捕まえたことにしておいた】ぞ。後で煮るなり焼くなり好きにするといい」
えっ……!? てゐが逃げようとしたはずに、いつの間にか静雅が首根っこを掴んでいる!? 距離もあったはずなのにどうして!?
まさか……捻挫を治した云々は置いておくとして──
「あなたってあの職務怠慢の死神と同じ【距離を操る程度の能力】!?」
「? 誰だその死神というのは? 確かにオレは能力を使ったが、そんな能力じゃないぞ?」
「じゃあ今のは何!?」
「さすがにそれはトップシークレットでね。むやみに教えたらいけない能力なんだ」
そう言いながらてゐを私に渡してくる。当本人のてゐは不思議そうにしている……私もだけど。
てゐも頭の整理が出来ていないようで、思った事を呟いていたけど──
「おかしいウサ……こんな人間見たこともないし聞いたこともないウサ……」
「あ、言っておくとオレ人間じゃないぞ。荒人神という神様」
「ウサァッ!?」
「人間じゃなかったの!? あなたって外来人のはずよね!? 妖怪の山の方と同じ理由で幻想郷に来たの!?」
どんどん驚愕的な事実を言っているんだけど!? 何なの静雅って!?
「いや、何度も同じ理由を言うのは飽きるんだが……そろそろ姫様の部屋に着かないのか? せめて姫様を交えて話さそう。どうせ同じ事を聞かれると思うし、まとめて話しておきたい」
「え、えぇ……わかったわ」
「……そんなことよりお風呂に入りたい。服の中まで泥だらけウサ」
「わかったわかった。綺麗にしてやるから」
そう言いながら静雅は手の照準をてゐに合わせると……汚れていたてゐの服と体がいつの間にか綺麗になった。
……もう、何が何だか分からない……。
てゐも今の現象に戸惑いながらも、静雅に尋ねる。
「……そういえば、よく見たら太陽の畑に行ったはずの男ウサね。太陽の畑からその能力で生還してきたのウサか?」
「見てたのか? 確かにその時フラン嬢と共に太陽の畑に行ったが……普通に幽香と紅茶を飲みながらお喋りしてたぞ?」
「一生信仰します神様」
てゐが心変わりした!? 土下座してまで……というより大妖怪と恐れられている風見幽香とのパイプもあるの!? 紅魔館だけじゃなく!?
その様子を見ながら呆れたように言葉を返す静雅。
「神様って呼ばれても実感がないなぁ……一応自己紹介するとオレは本堂静雅。紅魔館の執事をやらせてもらっている。お前さんの名前はまだ知らないから聞いておこうか」
「私は因幡てゐウサ。今までやったことを許して欲しいウサ。まさか敵に回すと恐ろしい相手をイタズラしているとは思わなかったんだウサ……」
「まぁ、オレに悪戯すると倍返し以上はするからな。逆にてゐの罠がうどんに引っかかったときは大爆笑ものだったな! 古典的だが面白い!」
「ウササッ……!? まさか神様に褒めてもらえるとは思ってもいなかったウサ……!」
「あぁ! 誇っても良いと思う! 一応オレにはトラップの類はもう効かないし、相談があれば相手をするぞ! イタズラの相手にもよるが……人手が足りないときは呼んでくれ!」
「これはこれは……お主も悪よのう……ウサ」
「いえいえ……そちらこそ……」
あ、やばい。この二人が組むと厄介なことになるかも。
一応だけど、釘を刺しておく私。
「変な悪巧みは止めなさいよあなた達……」
「うどんよ、これは悪巧みでは無い。【協定】だ」
「そうウサよ。【協定】であり友好の証ウサ……ところで鈴仙のスカートを捲り上げるのにどれくらいかかるウサ?」
「一秒もかからない」
「ちょっ!? 怖いわよ静雅の能力!? そんなことも出来ちゃうの!?」
「できるぞ。だが紳士的じゃないからしないけどな。同性ならともかく、異性がやったら単なる変態じゃないか。オレだってそんな人物になりたくない」
……良かった。最低限の良識は持っていた。
でも……これって安心して良いものなの……?
能力の正しい使い方なのだろうか……?
ではまた。