三人称。
では本編どうぞ。
「何か今日は色々あったなぁ……どうして風呂で起こった出来事をバラされたんだろう……?」
本日起きたちょっとした出来事を湯船に浸かりながら、一日を侠は振り返っていた。
「(……結局、東風谷達は自分を改めて居住をどうかって言われたんだよね……レミリアやゆゆさんと同じく。それと……今日、慧音さんに人里の警護をどうかと頼まれたけど……それは霊夢に断れって言われたし……)」
そして……侠が今まで考えていたことを思い浮かべる。
「(外界に帰ったら……繰り返す事はもう解決しているだろうから、義父さんに真実を聞かなくちゃ。でも……その事を聞く前に本家を何とかしなきゃ聞けないことだろうし……)」
彼は考えて、深く考えて──決心する。
「(……やっぱり、【下克上】が手っ取り早いか。静雅も同伴してもらって、本家はズルを使うから無効化してもらう……それがいいね。うん。例え『辰上の汚れた血』と糾弾されても、ご先祖様に出てきてもらえば何とかなるだろうし──あ、はい。ありがとうございます)」
心の中で初代龍神の同意をもらい、今後の方針が決まってこれからの生活をどうしようか考えていたときに──侠に話しかける声がドア越しに聞こえてきた。
『……侠ー? 湯加減はどう?』
「ん? 霊夢? 特に問題は無いよ?」
『…………なら、ドアに背を向けるように座り直りなさい』
「? う、うん……」
霊夢の言った通り侠はドアに背を向ける。数秒待つと再び霊夢の声が聞こえた。
『……座り直したわね?』
「とりあえずはだけど……」
『──決して振り返るんじゃないわよ』
「…………ゑ? 霊夢、それはどういう──」
彼が疑問そうに言いかけていたその時──扉が開く音が聞こえて、侠は気配を感じ取った。その意味を理解し、振り返ろうとするが思いとどまり抗議の声を彼女にあげる。
「ちょっ!? 何で霊夢も風呂場に入ってきているの!?」
「う、うっさいっ! 何か妖夢や早苗とそういうお風呂での出来事を知った瞬間……すごいムカついたのよ! わ、私とはそういう事柄が起こってなかったのに……! だから私も入ることしたの! 家主権限よ!」
「横暴すぎるよそれっ!? 何でそうなった!?」
抗議するも、振り向くなと言われているので対面しながら話すことが出来ない侠。そんな侠をお構いなく霊夢は桶で湯船のお湯をすくい、侠の耳にはお湯の流れる音が聞こえてくるだけ。
「(何で霊夢は対抗意識を燃やしているの!? 何でそういう考えにいたったのかさっぱりわからないっ!?)」
いろんな考えを展開するも、何故霊夢がこんな行動を取り始めたのか理解できなかった。
「侠……もう少し詰めなさい」
「…………ゑ?」
「いいから詰めなさい」
必死に考えていたが、霊夢の声が聞こえた侠は逆らえないと反射的に感じ、詰めると──急に風呂の水かさが増してゆくのを感じた侠──
「──いや待って霊夢っ!? まさか……入ってきているの!?」
「…………そんなことわかるじゃない。言わせないで」
そのまま霊夢は入ってきて、彼女はもたれかかるようにして侠の背中の人肌が触れた瞬間……彼は体を震わせた。
「ひゃあっ!?」
「!? い、いきなり変な声あげないでよ! ビックリしたじゃない!」
「いやいやいやいやいや……だって人肌がっ!? タオル巻いてないの!?」
「……事前に言ったじゃない。決して振り返らないでって」
「…………ひょっとして…………」
「…………」
……沈黙の意味を理解した侠は、流れるように立ち上がって去ろうとしたが──
「……のぼせそうだから上がるわ自分──」
「予想済みよ」
彼の行動に合わせて、霊夢は振り向かずに彼の左腕を掴んだ。当然のように彼は動揺しながら彼女に言葉を。
「お願いだからあがらせてよっ!? 何か霊夢変だよ!?」
「……そうね。確かに最近の私は変よ(……特に侠が異変解決したときから)」
「……霊夢?」
「しばらくあんたは動かない。わかった?」
上がろうとした侠の腕を霊夢が掴み、湯船に引き戻した……。
……そのまま、背中合わせのまま時間が過ぎていく。霊夢は侠の背中に体重をかけて背もたれの代わりにしているようで、侠は体を動かせない状況にいる。時々霊夢の髪の毛が彼の肩に当たってくすぐったがそうだが。
その状況を変えたのは霊夢だった。背中越しに彼女は侠に話しかける。
「今回のことを含めてだけど……どうして私は侠の住む所を博麗神社にして、昨日あまり出かけないように言ったのか分かる?」
「最近フラフラしていたのが原因じゃなかったけ?」
「ううん。本当はね……単純にあんたのこと、もっと知りたかったのよ」
「……え?」
侠の間抜けな声が浴場に響いたが、霊夢は話を続ける。
「最近考えてたのよ……侠には一方的にここの幻想郷のことを説明してばかりだったなーって。侠はここでの知識とかはついたのかもしれないけど、私は侠の事を詳しく知らないなって」
そして……確かめるようにして侠に尋ねた。
「侠はさ……いつかは外界に帰っちゃうんでしょ?」
「……ん。その時は静雅も一緒だね。後は五徳も」
「もし、侠がいなくなったら……私に残るのは侠と過ごした思い出だけ。せっかく居候しているのに、それだけってあんまりじゃない?」
「……思い出は宝物だと思うけど」
侠は淡々と答えるが、それに丁寧に言葉を並べる霊夢。
「確かにそうかもね。だったら侠がこの幻想郷に来た印として、あんたの事を知ろうと思ったのよ。もし侠が帰っちゃっても、この博麗神社には辰上侠という外来人がいたって説明できるじゃない。私の他にも侠の事を知っている人もいる。侠がこの幻想郷にいたということを示せるのよ。……まあ、それでも侠は初代龍神のティアーの先祖返りだから誰もが知っていることだと思うけどね」
「……自分を偉人にでもするつもり?」
「少なくても文の新聞には残るわよ。写真と一緒に。それに阿求の幻想郷縁記だってね」
そこで話を区切り──霊夢は侠に聞かせるように言葉を繋げる。
「ねぇ……侠の事、教えてくれない?」
その言葉でしばらくの間、沈黙が流れた。
そして数十秒が経っただろうか……侠は口を開き、彼女の問いに答える。
「……今はまだ話すことが出来ないよ。外界に戻って、過去と真実を知る必要がある。外界に帰って区切りが付いて、もしも幻想郷に戻ってくることが出来たら……その時には話せるかもしれない。本当の自分を」
「……もしも、ね。今はそれで良いわ。でも……出来ればあんたが幻想郷にいる時には話しなさいよ?」
「(……もし、幼い頃に外界で霊夢と知り合えていたらきっと──)」
「侠……? どうかした?」
「ううん。何でもない」
しばらくの間、奇妙な空間でありながらも時間は過ぎていった……。
慧音云々のところは閑話シリーズで一部書かれます。
次話、フラグ回です。ですが、次話のフラグ回の回収はもう少し先になりそうですが。
ではまた。