幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 お久しぶりの特別番外編です。これは過去に行った特別番外編『烏天狗と取材動向?』を利用した活動報告での企画で出来た特別番外編です。私の組み込んだ相手の取材順番を当てる企画ものでした。そして……見事に正解者がいたのです。まぁ、その活動報告を見ればわかるとは思いますが……。

 こんなところさんリクエスト、【夜雀の怪】ミスティア・ローレライのメインの話です。一話で完結。何とお相手は表主人公である辰上侠。特別番外編四度目にして初である。

 では特別番外編どうぞ。


 ※この話は本編と直接は関係ありませんが、本編の設定を受け継いでいる箇所などがあります。もしもの世界のIFstoryです。本編を読んでいただけると内容が理解しやすいと思いますので、初めての方は読んでみることを推奨します。



特別番外編『夜雀と過ごした時間』

 よく人里の近くで、鰻を使った料理を出す屋台がある。今、その屋台の中では――

 

 

 

 

 

『女将! 鰻の蒲焼きを頼む!』

 

『こっちはお酒を追加して頂戴ー!』

 

「――はーい! もう少しお待ちをー!」

 

 

 

 

 

 ――寺子屋の生徒で夜雀の妖怪でもある、ミスティア・ローレライ。彼女は一人で屋台を経営していた。客が入ってくれる事は喜ばしい事なのだが……最近、多くの客が屋台に出入りしている。多く稼げる一方、人手が不足していた。

 

「(う~……お客さんがいっぱいなのは良いけど、休める事が出来ない~……。だからといって友達に手伝って貰うのはどうかと思うし――)」

 

 彼女は悩んでいた時――ある人物の事が頭の中によぎった。その人物は今となっては身近であり――命の危機を救ってくれた人物を。

 

「(――! ダメ元でも、頼まないよりは良いよね♪ さっそく、明日――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――最近、屋台が忙しいから自分に手伝ってほしい?』

 

「そうなんだけど……手伝ってくれる――侠?」

 

 彼女は寺子屋の教師であり――今では異変解決者、幻想郷を創った創造神の先祖返りでもある――辰上侠に話を持ちかけていた。

 

 ……正直に言うと彼女は手伝って貰うより、傍にいてほしいという願望の方が強かったりするが。

 

 彼は悩むような素振りを見せた後――決断。

 

「うーん……良いよ。手伝っても。特に予定もないしね」

 

「本当にっ!? ありがとー侠♪」

 

 ミスティアは望んでいた答えを聞き――わかりやすく体で表現するように、彼に抱きつく。

 

 しかし彼は、冷静に彼女を引き剥がして注意の言葉を。

 

「うん……嬉しいのはわかったけど、一先ず落ち着こうか? 異性がそう簡単に抱きつくものじゃあないよ」

 

「えぇ~……。じゃあチルノはどうなの? チルノも侠に会う度に抱きついているのにー……」

 

「チルノの場合、今じゃ陽花――義妹と行動原理が被るんだよね……。だからあまり気にならないというか。それよりもちゃんと離れる」

 

 侠に促されて渋々の様子のミスティアだが……内面では、嬉しく思っていた。

 

「(それって……つまり、チルノには妹として見て、私を異性として見てるって事だよね♪ 侠が望むならその先だって――)」

 

 ミスティアは先のピンク色の想像をしているが――流石に表情に出ていたのだろう。侠は気を使うような声で彼女に話しかける。

 

「……ミスティア? 何か頬が赤いような気がするんだけど……大丈夫?」

 

「…………はっ!? 大丈夫心配無いから!」

 

「……なら良いけど……」

 

 彼はひとまずミスティアの言葉を信じる事にして会話を打ち切った。

 

 そしてミスティアは侠の手をとりながら、行動を促す。

 

「じゃあ行こう侠! 屋台の備品とか色々教えるから!」

 

「あぁ、うん。その前に博麗神社に荷物置いてからで良いかな――」

 

 侠はミスティアに誘導されながらも、ミスティアの屋台へと向かった……。

 

 

 

 

『――へぇ。侠が夜雀の屋台でねぇ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 侠は一時神社に荷物を置き、作務衣の格好で侠はミスティアの屋台まで来た。当然彼女も女将服に着替えて屋台にいる。

 

きちんと屋台に来た事を確認したミスティアは、覇気のある声で侠に行動を促した。

 

「じゃあ侠! 大雑把だけどやる事を説明するね♪」

 

「うん。ざっと教えて」

 

 

 

 

 

 女将説明中……

 

 

 

 

 

「――という手順でやるんだけど……わかった?」

 

「大体理解した。じゃあさっそく仕込みに移そうか」

 

「そうだね……あ。その前に侠が一つ鰻を焼いて見てくれない? 現状での侠の実力を見てみたいの」

 

「そう? 試しに作るよ」

 

 彼はミスティアが渡した三角巾を頭に縛り、彼の手順で鰻を調理していこうとする。

 

 侠が作業に取りかかっている時に、彼女は心の内でこう思う。

 

「(侠はこういう作業をしたこと無いって言ってるし……間違えるはず。その時は――訂正する時には合法的に侠に触れるよね♪ その時は耐えきれなくなって――きゃあ~♪)」

 

 

 

 

 

 

 

「――ミスティアー? 一応出来たけど……さっきからどうしたの?」

 

「…………大丈夫。私の事は気にしなくてもいいから…………」

 

 ミスティアは侠が手順を間違った時は訂正(肉体的接触も含める)しようとしたが……一度も手順を間違えなかった。それどころか――

 

『――ミスティア。さっき説明してくれたやり方よりも……こういうやり方の方が効率的だと思うんだけど……』

 

『え――あ、こんな方法でやったら確かに……』

 

『加えて言うならば、自分はちょっとした事情で火が使えるんだ。これを利用すれば――ほら。表面も炙れるからひっくり返さなくても良いでしょ? 時間短縮も出来て、必要以上にひっくり返した時のタレを節約も出来たりする』

 

『!? いや逆に大丈夫なの!? 焦げないの!?』

 

『大丈夫大丈夫。こういうのは【直感】でなんとかなるから』

 

 ――その結果が侠が皿に移した鰻だ。ミスティアが作った鰻より早く出来、良い焼き加減で見た目だけで食欲が誘われる。さらには良い具合の匂いが胃袋を刺激された。

 

 そして、ミスティアは恐る恐るに一口食べてみるが――

 

「(…………私より美味しいのはどうして…………?)」

 

 女将としても、女としても――ミスティアは敗北を感じた……。

 

 そのような彼女の心境を知るはずもない侠は評価を求める。

 

「初めて鰻を焼いてみたけど……どうだった?」

 

「――侠。お願いだから私の補佐をして……」

 

「あれ? 口に合わなかった?」

 

「ううん……そもそもお客さんは私の焼いた鰻を求めるから、念のために侠の実力を見ただけだから……。一応、私が体調不良の時に任す事が出来るというならわかったから……」

 

「あ、そうなんだ。それならわかったよ」

 

 侠はミスティアの言葉を耳に入れ、片付け作業に取りかかった。

 

 彼を見ながらミスティアはある決心を。

 

「(――侠が屋台をやるって言ったら絶対止めなくちゃ……!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が徐々に沈んでいき、月が空に現れる頃。ミスティアの先ほどの落ち込んだ様子はなくなり、意気込むようにして侠に話しかけた。

 

「これからがお客さんが入ってくる時間帯だから、頑張るよ!」

 

「この時間帯からなんだ……でも、一番乗りで来る人物なんて――」

 

 侠がそう言いかけた時――風が吹いたように、烏の翼を持った人物が屋台に現れた。その人物はミスティア達に話しかける。

 

「――これはこれはミスティアさんに――侠さん! どうやら情報は間違ってなかったようですね!」

 

「……え? 確か新聞の――」

 

「射命丸か。何か用? それともお客さん?」

 

 彼が言ったように、現れたのは烏天狗である射命丸文。彼女は気楽に喋っている侠に確認するように話しかけた。

 

「侠さん……あなたは自分が与える影響力を把握しなさ過ぎですよ? 幻想郷の創造神の子孫がミスティアさんの屋台を手伝っている――そのような情報が幻想郷に広がっているのです」

 

「……ゑ? 自分、この事は誰も話してないよ?」

 

「とある情報提供者から聞いた話でしたけどね。ま、私も広めましたけど」

 

「えっ!? それじゃあ――」

 

 話の途中で察したミスティアの言葉を遮り――文は飛翔しながら言葉を残す。

 

「ミスティアさんが思っている以上にお客さんは来ると思いますよ! 侠さんが手伝う程の屋台はどれほどなのか……もしくは侠さん目当てで! それではまた!」

 

 そう文は言葉を残すと飛翔して去っていった。急な事を言われたミスティアは呆然するばかり。

 

「……侠の知名度は全く考えてなかった……」

 

「……とりあえずは、準備を始めようか――」

 

 彼がそう言った時――急に現れる人物二人。その内一人は彼が最も親しい友人である。

 

『おー! 侠にミスティア! さっそく準備をやり始めるところか?』

 

『案外、私達が早く着いたわね……』

 

 紅魔館従者組である本堂静雅と十六夜咲夜だ。二人はそれぞれの反応をしながらも、侠は答えるように話しかける。

「本当に広まっているんだね……。射命丸から自分が手伝う云々が広まっているってのは聞いたけど」

 

「そりゃあ龍神の先祖返りがアルバイトしている屋台だぞ? 必然的に興味を持つ事柄だと思うな」

 

「まぁ、冷やかしじゃあれだから持ち帰りでちゃんと来たのよ。あなたが手を掛ける鰻を」

 

 咲夜は補足説明をし、侠が手を掛けた鰻を注文しようとしたが――ミスティアは焦るように止める。

 

「ちょっと待って! 侠はあくまでお手伝いなの! 鰻を調理するのは私なんだからっ!」

 

 やけに必死に引き止める彼女の様子を見て――静雅は察した。

 

「(あぁ……大方、侠に作り方を教えたら自分以上の技術を身につけたんだろうな……。せめて店主のプライドは保とうといったところか……)」

 

 そして静雅は妥協案なのか――ある事をミスティアに提案。

 

「じゃあ作る時、役割分担をすれば良いんじゃないか? 一番大事な焼くのはミスティアで、タレを付けるのは侠ですれば解決」

 

「……それは考えてなかった」

 

 彼の提案でミスティアは驚愕していた。彼女が驚いている中、咲夜は侠に尋ねる。

 

「……静雅が言わなかったら侠は何をしていたの?」

 

「食器の準備と片付け全般かな?」

 

「幻想郷の最高神の子孫が雑用ってある意味凄いわね……」

 

 彼の気にしていない様子に呆れている咲夜だが――静雅は屋台の二人に、からかうような言葉を。

 

「ってかあれじゃね? 夫婦の共同作業みたいな」

 

「――ふふふ夫婦っ!? 侠と私がっ!?」

 

「静雅……別に自分とミスティアはそんな関係じゃないし……」

 

 明らかにミスティアは静雅の言葉に揺さぶられているが、侠は流している。場の空気を変えるように、咲夜は本題に戻す。

 

「……とりあえず二人とも、鰻を頼んでもいいかしら?」

 

「了解。じゃあミスティアは焼いて貰える? 頃合いを見て自分がタレを塗るから」

 

「――――う、うんっ!? わかった!?」

 

「ミスティア、静雅の言葉は冗談だから気にしなくていいからね?」

 

 侠はミスティアを落ち着かせながら、行動を促した……。

 

 

 

 

 

 

 

 八目鰻を扱う屋台――ミスティアの屋台に龍神の子孫がいるという情報は幻想郷に広がっているようで、いつもの倍以上は確実に出入りしていた。人里の住民の他に――二人の知り合いまで。

 

 

 

 

 

『――侠君……本当に手伝っていたんですね……』

 

「あ、東風谷。一人という事は、もしかして持ち帰り?」

 

『はい! もし……よろしければこのまま侠君をお持ち帰――』

 

「生憎お仕事中だから私用は終わってからお願いしますっ!」

 

 

 

 

 

『――ふむ。精が出るようで何よりだ』

 

『……何か随分格好が幻想郷に溶け込んでいるよな――むしろ溶け込んで当たり前か』

 

「慧音さんに妹紅。妹紅はともかく……慧音さんはやっぱりたまに来ているんですか?」

 

『あぁ。教え子がこうして経営しているからな。たまに妹紅と一緒に来ているよ。それで今回は侠もいるみたいじゃないか。その様子を見ようかと思ってな』

 

「うーん……まさかの視察ですか」

 

『とりあえず慧音も私もさ、ここで食べてくよ。女将さん、いつも頼む』

 

「あ、はい……(うぅ~……慧音先生達はしょうがないよね……)」

 

 

 

 

 

『美味しそうな匂いに釣られてやって来たー!(ジュルリ)』

 

『みすちーにキョー! 来てあげたわよっ!』

 

『こんばんは。失礼ながら、私達も来ちゃいました』

 

『なんか二人が並んでも全然不自然じゃないね……』

 

「(それって――侠とお似合いって事っ!? ……えへへ♪)」

 

「ルーミアにチルノ、大妖精にリグルまで……。イメージ的には大妖精とリグルは大丈夫な気がするけど……ルーミアとチルノはちゃんとお金持ってるの?」

 

『持ってないー』

 

『凍らせたカエルじゃダメ?』

 

「ダメ――と、言いたいけど……ミスティア、この四人のお金は自分が払うよ」

 

「えっ!? 侠が代わりに!?」

 

「手持ちは余裕あるから大丈夫だよ。大妖精とリグルも大丈夫だから」

 

『わ、私達も良いんですか!?』

 

『良いんですか!? ……ありがとうございます!』

 

「(こうして見ると本当に侠って優しい……何時か、その優しさが私だけにならないかな……♪)」

 

 

 

 

 

 

 

 色々な客が来たが、二人は対応していく。効率的に動いて、接待も欠かさない。そして――客の出入りが圧倒的に少なくなり、最後の客が出るのと同時に侠はミスティアの指示で暖簾を下ろした。ミスティアは背筋を伸ばして疲れたように言う。

 

「あぁ~……疲れたー……。こんなにお客さんが入ったのは初めてかも……」

 

「途中で列が出来てたぐらいだしね。やっぱり普段はこんなに来ないの?」

 

「私一人でも問題ないレベルかな? でも、侠は大丈夫なの?」

 

「特には」

 

「(……私、少し疲れているんだけど……? そこは龍神の先祖返りの特徴なのかな……?)」

 

 彼女は侠の体の構造が気になっていたが……侠は確認するように話しかけた。

 

「それで……明日以降もなるべく手伝った方がいいの?」

 

「…………えっ!? い、いいの本当にっ!?」

 

「いやいや……むしろこんなにお客さんが来たのは今日だけで、最近が忙しいんでしょ? そもそも1日だけじゃ意味が無いと思うし……大勢のお客さんに慣れるまで手伝おうか自分?」

 

 まさかの手伝いの延長。彼女にとって棚ぼたの状況だった。思い上がるところに――ある事をしなければいけない事を思い出す。

 

「あ、そうだ……侠にお給料あげなくちゃ。今回は沢山のお客さんが出入りしたから、それなりに儲けはあるし――」

 

「ううん。お金は別にいらないよ。ただ――別なモノで貰ってもいいかな?」

 

「…………別なモノっ!? それって――」

 

 彼女にとって、別なモノの想像が展開されていく――

 

 

 

 

 

『――それはもちろん、ミスティア自身に決まっているだろ?』

 

『そんな……!? 私目的だったの!?』

 

『あぁ。それ以外何があるというんだ? こんなに体で働いたんだ。だから相応の時間で――体で払って貰おう――』

 

 

 

 

 

「――い、いいよっ! 侠になら――」

 

 脳内の展開前提でミスティアは承諾し、言葉を続けたが――彼は彼女の話を遮って言う。

 

「ほんと? じゃあもちろん――鰻、貰っても良いかな?」

 

「体全部――え?」

 

「いやいやいや……流石に鰻の体全部じゃなくて、ミスティアが焼いた鰻をね」

 

 彼が呆れたように言葉を直し、彼女が焼いた鰻を求めたが……先を見通したに加えたうえの勘違いに顔を赤く染めながら行動に移す。

 

「そ、そうだよね! 鰻だよね! わかった!」

 

 彼女は顔を隠しながらも作業に入る。勘違いによる顔を見られたくないため。

 

 当本人を侠はというと――

 

「(……せめて霊夢にお土産は持っていかないとなぁ……)」

 

 彼なりの家主への気遣いがあったようだ。

 

 一先ずはだが……変わった屋台での1日目が終わった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 侠がミスティアの屋台を手伝い始めてから、二週間ほど経過した。1日目ほどの客の量ではないが、二人は順調にこなしている。

 

基本的にはミスティアは調理全般、侠は雑用と――注文された際の記憶。彼女はそんなに鳥頭という事ではないが……少々覚える事は得意ではなかった。むしろ、彼女が忙しい際の難所がそこだ。作業に没頭するあまり、注文を忘れる事も稀にある。

 

 それをカバーするのが侠だ。彼は覚える事は不得意ではないようで、彼がキチンと覚えている。彼女が彼に問いかければ彼がフォローしてくれる。それに加えて勘定の計算なども彼の方が断然早い。彼曰わく、「それぞれの値段も把握している」という事。

 

 そのような頼れる彼の姿を感じて――ミスティアはより侠に惹かれるようになった。

 

 そして――ある日、寺子屋での授業が終わった後、ミスティアは侠にある事を伝えた。ある事を聞いた彼は聞き返すように問いかける。

 

「――八目鰻の調達を一緒に行く?」

 

「うん! 今までは私一人で調達してきたけど……この際、侠にも覚えて貰おうかなって!」

 

 本日は屋台で使う看板料理の素材、八目鰻の調達に行くという。本当ならば彼女はもっと早く誘いたかったのだが……迷っていたのだ。

 

「(……二人きりで落ち着いたら――私の気持ち、伝えるんだっ!!)」

 

 迷っていた理由――それは彼に異性としての気持ちを、何時に伝えるかどうかだった。

 

彼が屋台で手伝っている間に伝えられば良かったのだが、静かになる事は無く騒がしかった。仕込みが終わった時、彼の支度が終わった時、屋台の作業が終わった時など……タイミングが悪かった。すでに仕込みをしている時に既に客が待機していたり、彼は仕事が終わったらですぐに博麗神社に戻ってしまう。時間はあるようで無いような時間だった。

 

 例え彼女の想いに彼は答えられないと言われても――彼女は諦めるつもりはさらさら無い。彼が本当に誰かと結ばれているなら話は別だが、そうでなかったら彼女は根気よくアタックを続けるつもりなのだ。

 

 心の中で彼女は決心しながら、彼女なりに表面上は取り繕いながら……頬を少し赤く染め上げて、上目遣いをしながら彼に返事を求める。

 

「そ、それで、すぐに行こうと思うんだけど……ダ、ダメ……?」

 

「……ミスティア、そんなに懇願するように言わなくても大丈夫だから……。じゃあ行こうか」

 

 彼女の隠しきれてない表面に困った表情をしながら承諾。

 

 ミスティアは満面の笑みを浮かべながら、彼の腕に自分の腕を絡めて――

 

「♪ じゃあ行こうっ! 侠!」

 

 ――侠と一緒に寺子屋から出て行った……。

 

「(……何か最近、ミスティアに甘い気がするなぁ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山のとある河に八目鰻がいるという。ミスティア先導の元で侠はそこに来ていた。

 

 そこでは人間の出入り禁止だが――龍神の先祖返りである侠は例外で認められている。社会的な天狗は上の圧力――天魔の鶴の一声だ。道中、すれ違った天狗は侠にかしこまっているが……天狗達は侠が人格者という事は広まっており、鬼と比べて精神的に全然楽だった。

 

 ミスティアはすれ違う天狗の侠の態度の理由を彼から聞き、一言。

 

「……それって実質的に侠が妖怪の山を支配しているって事だよね?」

 

「……本来はご先祖様だけど……自分も適用されているみたいだからねぇ……」

 

 改めて彼の影響力を知ったミスティアだった。

 

 閑話休題。

 

 侠達は河に着いては見て、彼はミスティアに話しかける。

 

「……結構深いね」

 

「八目鰻がそれなりに大きいってのもあるけど……大きいのは深くに潜んでいるしね。まぁ、さっそくとろう!」

 

 ミスティアは浅瀬に近づき、手足の服の袖を捲り上げる。そして、靴を脱いで河の浅瀬へと入っていった。彼女は侠に行動を促す。

 

「ほらっ、侠も早く入ろうよ!」

 

「……うん、わかった」

 

 彼は学生服の上着を脱ぎ、ミスティアと同様に袖を捲り上げた。靴と靴下も脱いで裾を捲った後、彼も河に入る。

 

「ミスティア……鰻の取り方について何かコツがあったりする?」

 

「あるよー! じゃあまずは取り方について説明するね――」

 

 彼女は侠の疑問に答え、鰻を取り始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 取り始めてから一時間ほど過ぎた頃。二人という効率性のおかげか、目標の数を突破しているのだが――彼女はどうしても、彼に腑に落ちない事があった。

 

「(……何で侠は初めてって言ってたのに――私より多く取っているのっ!? 時折取り方を見ても、何か私より上手いし!?)」

 

 そう。彼女はいつもの取り方を教えただけだった。しかし彼は――ほんの数分でマスターしていた。それだけではなく、彼女から見ても侠の取り方は彼女自身よりも効率的だった。屋台の事と同じで――侠はミスティアの持つ技術以上を身につけていた。

 

 彼女は少し疑心暗鬼になりつつも、再確認するように彼に話しかける。

 

「ねぇ……侠って鰻取りも初めてなんだよね? 私より多くの鰻を取っているような気がするんだけど……?」

 

「偶然自分の取っている場所に鰻が多くいたんじゃない?」

 

「(……そうなのかな、本当に……?)」

 

 納得しきれない気持ちが彼女にあったものの、偶然だと割り切る事にした。

 

 そして……ミスティアは今の現状に気がついた。

 

「(あれ……もしかして、今完璧な二人っきり!? もしかして――今なら言えるっ!!」

 

 彼女は改めて周りを確認する。黙々と作業を続ける侠。他の人物の存在を感じられない。ミスティアは今が好機と感じた。

 

 彼女は慌ただしいような、口ごもっているように――

 

「えっと、その――きゃうっ!」

 

 ――噛んだ。彼の名前を呼ぶ際に上がってしまい、変な声をあげてしまった。

 

 一応、彼は自身の事を呼んでいるのか……作業を中断し、羞恥に染まっていく彼女を見て気遣うように話しかけた。

 

「……大丈夫? それで自分を呼んでいたみたいだけど……どうしたの?」

 

「え、えと、その、ね――」

 

 呂律が回らないのか、頬を染めて、両人差し指の先を合わせるようにしながら言葉にならない声が出ているが……彼女なりに落ち着こうとしている場面で侠は急変する事になる。

 

「――ミスティアっ! すぐその場から離れるんだ!」

 

「えっ!? 急にどうしたの――」

 

 彼の【素】の言葉遣いに彼女は動揺し、侠が視線を向けているミスティア自身の後方に顔を向けると――

 

『――ッ!』

 

 ――普通の鰻ではない、ましてや鰻みたいに細長くもない。ゆうに全長数メートルは越えているであろう――大ナマズがミスティアに迫っている。

 

「…………え」

 

 急な場面でミスティアは思考が停止した。その停止した時間を大ナマズは見逃さなく、大ナマズは彼女の服に噛みつくように口に加えた。そのまま大ナマズは――深い水中の場所に引きずりこもうとする!

 

「――ミスティアっ!!」

 

 当然、辰上侠は彼女を助ける為に動き出す。即座に龍化で翼を出し、彼女の元に駆けつけようとする。

 

「た、助けて――」

 

 彼が駆けつけるよりも、無情にミスティアは水中に引きずり込まれた。幻想郷は弱肉強食の世界だ。客観的に見れば、自然の摂理なのかもしれない。

 

 ――だが、彼は諦めない。

 

「間に合ってくれ……! 必ず助ける――適合【ブリザードオーバードライブ】っ!!」

 

 彼の姿が一瞬変わるのを見たミスティアは、意識が消えながらも――伝えたかった事を思う。

 

「(……大好き、侠……)」

 

 彼女の意識が消えゆく中で、彼を想い浮かべて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――けほっ――あれ?』

 

 ある少女は目を覚ました。彼女は水中に引きずり込まれた事は覚えている。目覚める場所は三途の川の近くだろうと考えていた――ミスティア・ローレライだが……目の前に広がっていた光景は――安堵したような、辰上侠の顔。

 

「! 良かった……! ちゃんと目覚めてくれた……!」

 

ミスティアは彼の顔が近い恥ずかしさよりも、何故助かったのかの考えが多いようだ。彼女は上半身を起こし、状況を確認すると――彼女の上半身の服は侠のYシャツとブレザーを着ていた。まずその事に疑問を持ったようで、彼女は慌てるように彼に問いかける。

 

「――えっ!? あれっ!? 私の服は!?」

 

「……その事なんだけどね……」

 

 珍しく、彼にしては気まずそうにとある場所に視線を向いたので彼女も確認すると――凍りついた大ナマズと、形を保っていない彼女の服が。

 

「……大ナマズから君を取り返したのは良かったんだけど……服のダメージがひどくてね。大ナマズは君の服をおもいっきり引っ張っていたみたい。だから代わりに自分の服を、ね……」

 

 ミスティアは侠の言葉を頭に入れた後……とある事を問いかける事に。

 

「…………じゃあ――きょ、侠は……私を着せ替えたの……?」

 

「…………うん」

 

 侠の肯定の意味。それは彼女の肌を見たという答えだった。仮に、ミスティアは侠と赤の他人なら怒りを含めていたのかもしれないが……彼女は顔を染めながらも、彼にお礼を。

 

「……大丈夫だよ。侠は下心無しでしてくれたんでしょ? 私の服が破れていたから。それに――」

 

 彼女は適度な距離であった――焚き火を見ながら言葉を続ける。

 

「水に落ちた私を気遣って、火をつけてくれたんだよね? 身体が温かいし……。本当にありがとう、侠……」

 

 愛おしいように、彼女はお礼を言ったのだが――彼は、気まずそうに彼女から視線を反らした。

 

「(……あれ? 普通に返事をしてくれると思ったんだけど……?)」

 

 彼の不自然な対応に疑問を覚えたミスティアだが――彼はぼそっと呟く。

 

「(……それよりも取り返しのつかない事をしてる――)」

 

「侠? 今何て――」

 

「あ、うん大丈夫。何でもないから」

 

 彼女の問いかけを露骨に話題を逸らす侠。それでも彼はミスティアの顔を見ようとしない。

 

 単純に彼女自身の顔に何か付いているのかと思ったミスティアは確認するものの、特に変なものが付着しているのはない。

 

 だからこそ、彼女は気になった。彼が何か隠し事をしている事に。

 

「侠……? 一体どうしたの――」

 

「今日はさ、ミスティアは大事をとった方が良いよ。ミスティアの服は静雅にでも頼んでおくから。この大ナマズに関しては天狗にでも引き取って貰おう。ミスティアはここで待ってて。とりあえず巡回していると思う犬走を探してくるから」

 

 言葉を並べ、彼はまるでミスティアから逃げるかのように河原から去っていく。

 

 どうも、彼は何かを隠しているしかないとミスティアは思った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 侠はちょうど巡回していた犬走椛に事情を説明し、大ナマズに関しては天狗が引き取る事になった。

 

 そして――侠とミスティアは二人で山を下山していたのだが……侠が一向にミスティアに視線を向けようとしない。時折向ける時はあるのだが、彼女が彼に視線を向けた時に反らしてしまう。

 

 いつもと違う彼の態度を見てか、心配したように彼女は話しかける。

 

「……ねぇ、侠? 私が溺れてから何かおかしいけど……どうしたの?」

 

「……ゴメン、ミスティア。悪いけどすぐ帰る」

 

 彼女の質問から逃げるように――彼は龍化の翼を出し、飛翔して帰っていこうとする。

 

「あっ……!? 待って侠――」

 

 彼を引き止めたかったが、間に合わなかった。彼の飛んでいる姿が見えなくなった頃、彼女は侠が貸してくれた学生服越しに胸に手を当てて――

 

「侠……一体どうしちゃったの……?」

 

 締めつけるような痛みをこらえながら、悲しげな声が透き通った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 河原の出来事で、侠がミスティアに対する態度が変わった。後日に侠は直された彼女の服を届けると、すぐに離れてしまう。寺子屋でも侠は上の空だったり、珍しく慧音に注意されていたり。そしてミスティアを含めたチルノ達とも極力関わりを避けていた。彼女達は彼の行動を不審がっていたが――ミスティアはある共通点が思い浮かんだ。

 

「(……もしかして――私を避けているの……?)」

 

 侠が具体的に様子がおかしくなったのは河原での一件。そして、屋台にはきちんと手伝いに来てくれるのだが――業務的だ。最低限の会話。ミスティアが雑談を振ろうとしても、彼は話に淡白か話題を変える。そのような日々が続いた。

 

 そして……今度はミスティア一人で問題となった場所の河原に来た。そこで――今までの思いを吐き出すように言う。

 

「……侠……本当にここで何があったのか、教えてよ……!」

 

 彼女の目頭から頬に伝うモノが流れた時――河原から誰かが泳いで来ては上がって、ミスティアに話しかけた。

 

「――あ。鰻の女将さん。アレから大丈夫なの?」

 

「……えっと、あなたは河童の……?」

 

 ミスティアに話しかけた人物は、大きなリュックを背負っていて緑の帽子を被っている――河城にとり。彼女は岸に上がると、ミスティアに気遣いの言葉を掛けた。

 

「大ナマズの件、本当に大丈夫だった? 私も助けられたら良かったんだけど……その、気まずい場面に遭遇しちゃったから……」

 

「……え? 気まずい場面?」

 

 にとりは喋っている途中に【気まずい】場面を思い出したようで、頬が赤く染まっていく。

 

 ミスティアの中では気まずい場面というのは着せ替えた事だろうと思い、にとりに確認をとる。

 

「それって……侠が私を着せ替えた事?」

 

「まぁ、それもそうかもしれないけど――あれ? 他に盟友から聞いてないの?」

 

「…………え」

 

 まさかの食い違い。二人の中では話の内容が違うらしい。今度は逆にミスティアに確認をとるにとり。

 

「……盟友が話していないというのは予想外だよ……。やっぱり、盟友自身も伝えにくかったのかな?」

 

「……侠は何か私に後ろめたい事を隠しているの?」

 

「いや、世間的に見れば誇らしい事だよ。じゃあ、話すけど――」

 

 にとりでの気まずい場面を喋り始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し離れた先の河原で河城にとりがいて、その時の彼女は好物である胡瓜を味わっていた頃。彼女はポリポリと胡瓜を食べて舌鼓をしていたところ――

 

「やっぱり、河で適度に冷やした胡瓜は美味しい――」

 

『――ミスティアっ! すぐにその場から離れるんだ!』

 

「ひゅいっ!?」

 

 焦りのあるような声が彼女の耳に届き、反射的に光学迷彩のスイッチを彼女は入れた。

 

 声が響きわたった後、彼女は冷静に先ほどの声の主を思い出す。

 

「……今の声って――龍神様の子孫の侠? それで聞こえた名前は……八目鰻の女将さん? 何かあったのかな……?」

 

 色々と頭の中で考えが交錯し――にとりは音がした方向へと残りの胡瓜を食べながら、光学迷彩のスイッチを入れながら進んで行く。

 

 胡瓜を食べ終わって、まずにとりが最初に視界に入れたのは……凍り付いている大ナマズ。まず彼女はそれに驚愕した。

 

「(嘘っ!? ここの河原で生息している大ナマズだけど、実物を見たのは初めてだよっ!? それで捕まえたのは――)」

 

 最初は良い意味で彼女は驚いていたが――次の二人の様子を見て、意味が変わった。

 

『――ミスティアっ! しっかりしろっ!』

 

『…………』

 

 切羽詰まっている侠と、動く気配がないミスティア。侠はひたすら心臓マッサージをしながら、彼女に呼びかけている。

 

 そして、今の状況を河城にとりは理解した。

 

「(もしかして溺れたの!? それで、侠は助けている最中で……これは私も手伝った方が――)」

 

『――なかなか飲み込んだ水を吐き出してくれない……やっぱり、これだけじゃダメか……!?』

 

 彼女は助けに行こうとしたが――侠が苦虫を噛み潰したように心臓マッサージをしながらミスティアを顔色を見たが……彼は数秒、動きを止めて彼女の顔に視線を向ける。

 

 ……そして、彼は――

 

『――仕方ないっ!!』

 

彼は彼女の胸から手を放し……ミスティアの気道を確保しながら、彼女の鼻のつまみ――

 

 

 

 

 

 

 

 ――彼女の唇に彼自身を唇を合わし――人工呼吸を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「(――ひゅいっ!? ま、まさか口を合わせて……!?)」

 

 にとりは今すぐ侠の助けに行きたかったが――目の前で行われている行為に釘付けになる。純粋な医療行為だが――彼女の視線はずっと定まっており、恥ずかしさも感じていた。

 

 それから侠は何回、何十回と重ねて続ける。全ては目の前の少女を助ける為。息を送り込み、彼が呼吸して整えているところで――

 

『――げほっ!』

 

 彼女は咳き込むように水を吐き出した。水を吐き出した後はゆっくりと、彼女自身で呼吸をしていく。同時にミスティアの顔色が心なしか明るさを取り戻していく。

 

『……良かった……! 本当に良かった――』

 

 息を吹き返した事を確認して安堵の表情を浮かべていた侠だが――急に彼の頬が赤く染まっていき――唸るような声を出し始める。

 

『うぅ……やってしまった……。初めてが人工呼吸ってどういう事……? それに相手はミスティア……どうすれば良い……!?』

 

 ……実は少なくとも侠はミスティアに好意が寄せられているというのはわかっていた。だが、今までの侠は幻想郷で恋愛はするつもりなんてなかった。確かに彼女とはそれなりに仲は良い事は把握している。ここ最近、彼女に屋台なんだの誘われていたからだ。侠自身は生徒だから極力協力していたのもあったのだが……彼女は自分の事を信頼しているうえでの好意だと理解していた。

 

 彼が望む、悪意や偽善なんて無い――信頼性のある純粋な好意。何よりも――自身の存在を受け入れている。彼は心のどこかで、ミスティアの好意を嬉しく思っていたのは事実だった。

 

 しかし、侠は本来外界に帰らなければならない。幻想郷にいるのは一時の時間。今回の事で――彼女の事が頭から離れない。

 

 彼はミスティアの状態を確認する。まず、第一にしなければいけない事は彼女の服装を整える事だった。大ナマズに引っ張られた影響でミスティアの服は破れている箇所が多数ある。彼は迷いながらも決断。

 

『……服を貸してあげた方が良さそうだね。それで火炎の能力で体温の上昇を促して。まずは乾燥している枯れ枝とか集めなきゃ……!』

 

 彼はすぐに行動を起こし、ミスティアのアフターケアを。そして、にとりは先ほどの光景が頭から離れず――侠が犬走椛を連れて来るまで動けないままでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――多分盟友が女将さんを避けている理由としては気まずいと思うんだよ。医療行為とはいえ……その、口を重ねた事が。異性として意識しているなら、そうなる……って私は思う……」

 

 にとりから話を聞いたミスティアは恥ずかしさより――安心と嬉しさの想いが強かった。

 

 

 

 

 

 ――彼は私を嫌っていなかった。

 

 

 

 

 

 彼女は指で自身の唇をなぞりながら思う

 

 

 

 

 

 ――彼は私を異性として意識している。

 

 

 

 

 

 頭の回転があまり良くない彼女でも、そう推察が出来た彼女は――頬に涙が伝った。

 

 彼女が急に涙を流した事により、にとりは焦りながら心配するように話しかける。

 

「!? どうしたの!? まさか侠とそういうの嫌だった!?」

 

「違うの……っ! 侠に嫌われてなくて、ちゃんと私の事を異性として意識してもらっていた事が、嬉しくて……っ!」

 

 涙を拭いながら、ミスティアは彼女の言葉を否定。にとりは彼女の様子に安堵しながら、気遣うようにして話を続けた。

 

「そっか……じゃあ、盟友にちゃんと話をしないとね。今まで逃げている分、元を取らないと」

 

「……うんっ! ありがとうっ!」

 

 ミスティアはにとりにお礼を言った後、飛翔して――侠を探し始めた……。

 

 

 

 

 

「……私もそういう相手が欲しいなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミスティアが侠を探している頃。本人の彼は誰もいない霧の湖で悩んでいた。悩み事はもちろん――

 

「……あの時の出来事を話さなきゃダメなんだろうけど……まともにミスティアの顔を見れないでどうすればいいんだろう……?」

 

 ――当然、ミスティアの事で悩んでいた。仮にも人工呼吸を相手が見ず知らずの他人ならば気にならなかったかもしれない。しかし、彼女の場合は非常に身近だ。寺子屋でも触れ合い、屋台も手伝いもしている。

 

 幻想郷では誰かを好きになるつもりはなかったはずなのだが――河原での出来事以来、ミスティアの事を完全に異性として意識をしていた。

 

「……明日にはちゃんと伝えようか――」

 

『――侠……やっと、見つけた……!』

 

 彼はこれからの方針について決めかけていたところ――背後から気にかけている少女の声が耳に入った。侠は振り返って確認すると、どこかよそよそしい様子で彼女に話しかける。

 

「……ミスティア? 何か用かな?」

 

「えっとね、侠にまず言っておきたい事があるの――」

 

 彼女は一度言葉を区切って――お礼を言う。

 

「――助けてくれて、改めてありがとう」

 

「……うん、どうもいたしまして……ミスティア、君に話したい事がある。あの河原で自分が君に距離を取り始めたのか――」

 

 彼は決心がついたように、頬を少し染めながら話そうとしたが――彼女は察しがついていた事なので、彼よりも早く、躊躇いながらも話を切り出した。

 

「知ってる――私を助ける為に、その……人工呼吸、してくれたんでしょ……?」

 

「…………ゑ!? どうして知っているの!?」

 

「ちょっと、ね……あの時に見ていた人がいたみたいで、その人から教えてもらったんだ……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 お互いに気まずそうにしながら、会話の本題を認識しあう二人。

 

 そして……ミスティアは侠への気持ちを伝える。

 

「もしも、他の男の人だったらその人を恨んでいたかもしれないよ。私……初めてなんだもん。女の子の大事な事。でもね――侠だったら全然構わないのっ! だって――私は侠の事が大好きだからっ!!」

 

 頬を染めながら、目を閉じながらの大きなミスティアの声。彼女の心からの声がはっきりと侠に伝わる。

 

 しかし……彼はある意味では、聞きたくなかった内容だった。今の彼の考えを揺さぶる内容だった為でもある。

 

 だから、彼は今まで決めていた決意が揺らがないように、否定しようとしたのだが――

 

「ミスティア……わかっているかい? 自分は特殊だけど、外来人。紫さんとの約束で一定の期間だけ幻想郷にいるだけなんだ。だから自分よりも、ずっと幻想郷にいる人物の方が――」

 

「言い訳しないでよっ!」

 

 彼の遠回しの言い方にミスティアは言葉を遮り、目元には涙が溜まっていた。彼女の様子を見て侠は少し躊躇いの様子が見える。

 

 言葉を投げつけるかのように、彼女は涙を流しながら侠に話を続けた。

 

「何時か外界に戻っちゃうから私の気持ちに答えられない!? そんなの関係無いじゃんっ!! 外界でも幻想郷でもそういう難しい話は無しで――単純に侠が私の事をどう思っているか聞きたいのっ!! ちゃんと答えてよ!!」

 

 ミスティアは侠に言葉をぶつける。欲しい物を欲しがる子供のように。

 

 彼女の要求は彼は理解している。だが、彼は答えてしまうと――もう戻れない。そのような考えが頭によぎり、より躊躇ってしまう。

 

「……君の言いたい事はわかるけど……自分は――」

 

「――あぁっ! もうじれったい!」

 

 彼の躊躇いを見てミスティアは堪忍袋の緒が切れ……侠に飛びかかり、勢いを含めて彼を押し倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま――ミスティアは侠の唇と重ね合う。

 

 

 

 

 

 

 

 彼は彼女の急な行動に戸惑うばかり。ほんの数秒間の接吻。

 

 少し時間が経過した後にミスティアは侠の唇から離れ、彼に覆い被さって、改めて侠に問いかける。

 

「侠……私はこんなに大好きなんだよ? だから、どういう答えでも……ちゃんと返事を聞かせて欲しいな……」

 

 不安を表すような言葉の後のミスティアは、侠の事をじっと頬を染めながら、涙を侠の顔に落としながらも伝えた。

 

 彼はというと――覆い被さっている彼女の体を抱き寄せた。急な彼の行動に彼女は焦ったが……侠のこの行為を、彼女なりに解釈しながら彼に言葉を。

 

「侠……!? これって――」

 

「……ミスティアの気持ちには前から察していた。あれだけ露骨にアピールされてちゃな。俺は……信じるのが苦手なんだ。過去の出来事で何時か信じていて、後に裏切られることが。だからこそ――いや、それはいいか……。ミスティア……こんな俺を信頼してくれてありがとう……」

 

 ミスティアの存在をより確かめるかのように、侠は彼女を頭を何時かと同じように撫でた。

 

 この侠の行動を答えを知ったミスティアは、ポロポロと涙を流し――

 

「うぅ……侠……ありがとう……!」

 

 彼女も嗚咽を含めながらもまた、彼の存在を確かめるようにより強く、抱きしめた。より強く、彼の存在を確かめるかのように。

 

 その森では、しばらくの間は夜雀の歌声(なきごえ)しか聞こえなくなった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――最近、みすちーの屋台が人気なのかー?」

 

「そうみたいだね。何時の間にか侠さんも私達と触れ合うようになったよね……一時よそよそしかったし」

 

「……む~……」

 

「? どうしたのチルノちゃん? 唸るような声を出して?」

 

「何か面白くないっ!! キョーは何かみすちーばっかり気にかけている気がするのよ! もっとアタイと遊んで欲しいのにー!」

 

「(……私は口が堅いって事で教えてもらったけど――)」

 

 どこか不満そうに言うチルノが言う中、大妖精は二人の関係を思い起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――やっぱり、恋人関係って秘密の関係が憧れるのかな――

 

 

 

 

 

 

 

 




 これにてミスティアの特別番外編、終了です。そして、ガラケーで書いてて思ったこと。

 辰上侠が主に関わってくる場合は真面目・シリアス重視になる。せめてもののギャグは一切ない。今回のこの話も後半は思いっきりシリアスだったですし。何だかんだ特別番外編で本堂静雅が人気があるのがわかった気がする。

 そして一部東方で出てくるキャラでもある大ナマズ。彼(?)の出番はここしかないと思いました。実際は非想天則の美鈴ストーリーに関わってくるキャラですが。イメージとしてはそういう感じです。

 過去の活動報告で次に予定しているのは……何故か本編上は回想しか出ていない表主人公の義妹である辰上陽花。そして静雅を中心とする秘封倶楽部。後者の特別番外編は、この『幻想世界に誘われて』が完結してから書けると思います。少々、色々とIF設定を考えなくてはいけないので……。次に投稿するのは陽花の特別番外編になりそうです。

 次話は現時点でのスペルカードや補足情報をまとめる予定。その次が閑話シリーズ1を投稿予定です。

 ではまた。
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