三人称視点。
では本編どうぞ。
急に現れた天人達が侠の隣にいた天子を非難し始めた。天子は感情的になっている。普段はまだ冷静になる事が出来るのだが……元々最初に住んでいた地上を非難されて黙っていられなかった。
天子は、天界での生活が嫌いだ。退屈だから。
しかし、地上はそうではなかった。異変や、おかしなことが起きている。それは未知なる興味の対象でもあった。過去に天子は博麗神社と関わりを持たせるために異変を起こした。結論からは失敗だった。だが──異変が終わったらと思ったら、とある鬼が天界にて宴会を開くと伝え回った。そして異変に関わった一部の人物たちが参加。時間には余裕があったので天子は弾幕ごっこをした。それでも博麗神社の巫女であり、異変解決者でもある霊夢は来ていなかったので、天子は地上に降り立って再び霊夢と弾幕ごっこをした。その後、宴会が開かれる。
その時の光景が、天子が望む光景でもあった。
天界の変哲もない宴会とは違い、種族間の壁を感じない。言葉ではぶっきらぼうに返事をしていたかもしれない。しかし、天子は【地上人】との触れ合いを楽しんでいたことには変わりはないのだ。
その地上人が何も知らない天人に非難されている。型にはまったような生活をして、天子からの目だとつまらない生活をしている天人に怒りを覚えていた。
だが、その天人達が言う事は間違っていない事も含んでいる。天子自身の事だ。彼女は天人としての格を備えていない。他の天人から見れば逸脱した行動だ。その天子の行動に不快に思っている天人もいる。それが目の前にいる天人達だ。
そして──今まで天子のその行動にほぼ味方する者はいなかった。お目付け役でもある永江衣玖がまだ、味方かもしれない。そしていつの間にか天界の一部を自分の領域にしている鬼は味方かもしれない。しかし、この場においてその二人はいない。
──少なくとも、この時までは。
天子は一方的に言われることを理不尽に思っていた。関わりの人物から言われるのはともかく、関わりのない人物から腹を立てるのと同時に、言われる事がきつかった。
だからこそ、表面上は強がって天子は屁理屈なり言おうとしていたが──
「ふ、ふん! 地上にすら行ったことのない奴が何を──」
「貴様らはもう黙れッ!!」
刹那の出来事だった。天子は言いかけたが……それよりも速く、天人の男の顔を――隣にいた侠が殴り飛ばした。
本来、天子よりも天人として生きている天人だ。天界の桃を食べ、ナイフすらはじくほどの防御力を持っているはずの天人なのだが……男の顔から出血としていた。
『がっ……天人の僕に傷を……!? 地上人、お前何様のつもり──』
「黙れと言ったのが聞こえなかったのか?」
天人の男が言いかけているのにも関わらず、侠は再び殴った。そして殴るのに使った腕は──龍化しており、拳にある龍の鱗が飛び出していた。その拳には殴られた天人の血が付着している。よほどの事がない限り傷つかない天人の体がいともたやすく傷つけられていた。男の傍にいた女の天人も、隣にいた天子さえも驚くことである。
ふと我に返った男の傍にいた女の天人が侠に抗議しようとしたが──
『ちょっとっ!? こんなことしてただで済むと──』
「俺は黙れと言ったはずだ!」
今度は天人の女に侠は鳩尾を狙って殴った。殴られると思っていなかった天人は膝をつき、苦しそうな表情を浮かべていた。そして天人の防御力が関係ないように、痛がっていたのだ。
しかし……この場でものすごく驚いているのは天子だ。彼女は様子を確かめるべく侠を止めようと前に出たが……。
「あんたっ!? 一体どうしたのよ!?」
「天子。気にすることはない。俺は目の前のクズ達に腸が煮えくりまくっているところだ」
淡々と答えた侠だが……天子は気づいた。彼の目から──生気が感じられない。そして言葉でもわかるのだが……【怒り】の表情に溢れていたという事だ。
「(もしかして……私の為に怒ってる? でも、どうして……?)」
侠は普段怒ることはない。たいていは受け流せば事が収まり、癪に障るようなことがあっても精々呆れることぐらいだ。
だが天子は……会ってまだ間もない侠が自分の為に怒っている理由がわからなかった。
そして侠は倒れかけている天人に向かって見下すように話しかける。
「さっきから聞いてりゃ、天子を随分【差別】するんだな……? 成り上がりだからなんだ? いけないことなのか? 大したことをしていない天人様はそこまで偉いのか? アァッ!?」
『お、お前には関係ないだろ!? 何だ!? 地上人が天人に逆らうってのかっ!?』
「……そういやァ、俺達【地上人】についても差別していたなァ? それで天人の格上が【龍神】だと?」
『そ、そうだ! 龍神はこの幻想郷を創った創造神でもある! それには逆らえないだろ!』
「そうかァ。なら貴様らの人生はもうバッドエンドだ。この姿を見て後悔しろ──同化【ティアー・ドラゴニル・アウセレーゼ】!」
侠が新しいスペルカードを掲げ宣言すると──みるみると姿が変わっていく。手は赤い鱗で包まれた腕に爪が鋭く、赤い鱗の尾が見えてきて、どんどん【龍化】が進んでいく。赤い翼に──龍の頭を模した被り物。その被りものの龍の顎の中に彼の顔が隠れており、妖しく光る侠の眼光。その右目は赤く染まっている。そして──頭上には紅白の後ろ向きの二本角が出現後ろ髪は腰まで伸びては、その髪の色は赤く染まる。さらには赤いコートを羽織っては赤いズボンへと変わっていった。
その姿こそ──赤い鱗で覆われた龍の力を振るう人間。かつて幻想郷の創造神であるティアーの【竜人】としての姿であった。
侠が竜人へと変化したことにより、並以上の威圧感が付近に広がる。獲物を狩るような目で二人の天人を竜人──侠は見ていた。
言葉がしばらく出てこなかった天子だが……ようやく、現状を呑み込めた彼女は侠に話しかけた。
「それってもしかして──龍を人の形にした姿!? そんな事が出来たの!?」
「『これが出来るようになったのは先ほどご先祖様から聞いたばかりだ。天子の【力】を得たからこそ、最低限の龍神の力を取り戻せた。天子がこの幻想郷にいなければこの姿になれることはなかった。俺は天子の存在に感謝している』」
威圧感があるものの、どこかに残っている優しい言い方。侠の口から天子の存在の感謝を聞いたとき、彼女の胸の内から波紋のように温かい波が広がる。
「(私が……必要な存在だった……?)」
そして侠は二人の天人に向き直る。だが……その二人は侠の姿におびえていた。
『てぃ、【ティアー・ドラゴニル・アウセレーゼ】……様!? ま、まさかあなた様が龍神様だったとは!? ご、ご無礼を申し上げますっ!!』
『さ、先ほどまで龍神様の陰口をたたいてしまって申し訳ありませんでした!!』
さっきまでの態度はどこにやら。どうやら天人の二人はティアーの事は知識として知っているみたいだ。まさか目の前の存在は龍神(とはいっても曰くの子孫なのだが)だと知って、百八十度態度を変えている。
そのへと姿を変えた侠は……辛辣な言葉を並べ始める。
「『俺の目の前から消えろ。そして──二度と比那名居天子を悪く言うな。それを他の天人にも伝えろ。もし、貴様らのような輩が天子を再び非難するような事柄があったとしら──貴様らもろとも、地獄の底まで叩き潰してやるっ!!』」
咆哮に乗せられる声。その声は瞬く間に咆哮は空気を振動させては、大地へと振動が伝わる。それは一種の地震とも捉えられる雄叫びで。天人二人は涙目にしながら、腰抜かしかけそうになりながらその場を去って行った。
それを見届けた侠は赤い光に包まれていき──竜人状態から人間状態へ。元に戻った侠の目にはもう生気が感じられる。そんな状態の侠は天子へと話しかけた。
「……驚かせたな。その点についてはすまない」
「べ、別に……驚いていないっていうのだったら嘘になるのかもしれないけど……その、どうして、まだ会って間もない私の為に怒ってくれたの? それに竜人みたくなってまで……?」
「……俺はさっきみたいな輩が大嫌いなんだ。性格的も、人格的にも。人の事をちゃんと見ないで、勝手に差別する輩が。長所を見ようとしない輩が。あの輩については大きな力や格上を示せば、態度が急変するからな……それを利用してこの場から消えてもらっただけだ」
侠はそう言いながら……天子の目を見ながら言った。
「むしろ……天子を【あの時】の俺と重ねたからかもしれない。さっきまでの状況は昔の俺と近かったんだ」
「……私と近い?」
「今じゃあ、俺は【龍神の先祖返り】ということで周りにちやほやされているかもしれないが……それ以前は【身元不明の拾われ子】として外界の家の偉い奴に扱わられていたんだ。天子が元地上人で、位の高い天人としたら……俺は当初どこの子供かわからないで、実は龍神の子孫だった。でも、その時は俺が本家に龍神の先祖返りと伝わるのはヤバいことだったんだ。その時、本家は人工的な先祖返りを作るために人外的な実験を行い、俺も巻き込まれた。だが……唯一、オレだけがその実験に生き残ったんだ。偶然と言えど、本家が望む天然の先祖返りだった。偶然と言えど、ご先祖様の思念が俺に憑りついた。まぁ、これは置いておくことにして……本当の両親がその真実を隠して、身元不明の子供として義理の家族に引き取ってもらって。本家の反対を振り切ってまで、俺の事を受け入れてくれたんだ」
「……それじゃあ、言い換えてみればその当時は成り上がりの【辰上】の存在だったの?」
「あぁ。天子と同じ、当時は俺も成り上がりの存在だったわけ。途中、心が壊れかけた時もあった。だが……家族と親友がいてくれたこそ、今の俺がいるんだ。そう思っている」
侠は言葉を区切り、天子に真剣な目で問いかける。
「天子は……心が許せる大切な友人はいるか?」
侠の重い問いかけ。彼女は少しの間黙っていたが……声が小さいながらも答えた。
「…………いないわ。衣玖は単なるお目付け役だし、子鬼はそこまでは絶対思っていない。私が過去に起こした異変だって……そこまでの関係になった事なんて一人もいない──」
天子はそう言いかけていたが……侠が左手を天子の目の前に差し出した。突然なことで困惑した天子は彼に問いかける。
「……それは何?」
「なら──俺と友人になればいい」
「…………え? 友人? それって……あんたと友達って事?」
彼女は急に友達にならないかと誘われた。今までそういう事を言われていなかった天子は動揺していた。
彼は話を続ける。
「何か今回の事で天子を放っておけなくなった。それだったら友人関係になれば……天子の悩みは解決するんじゃないか? 退屈になっても、つまらなくなっても、暇なときは──俺を呼べばいい。悩み事があったりでも、問題ごとが起きても、迷った時も──俺に頼ればいい。まぁ、しょうもないことでも俺の時間が空いていたら……俺が天子の相手をしてやる」
そうは言っても幻想郷にいる時だけだけどな、と補足しながら彼は手を出し続ける。
だが、それでも天子は迷った。彼にどう反応すれば良いのかわからない。
「で、でも……私は周りから【不良天人】って呼ばれているから、龍神の子孫のあんたに迷惑をかけちゃんじゃ──」
「構わない」
「そ、それに……あんたには好感がある人物でも、私の評価は低いかもしれないのよ──」
「構わない」
「や、やっぱり、幻想郷いる時限定なんでしょ? それだったらずっと迷惑をかけるわけには──」
「天子──」
いつまでも迷っている天子に向けて侠は、真っ直ぐ彼女の目を見ながら言葉を発した。
「──なら、俺がいる間迷惑を掛けてしまえ。天子の時間に俺を巻き込んでも構わない。俺はお前の──力になりたい」
侠がそう言葉をかけて、天子の耳を通した時──彼女の目頭に温かいものが溜まり始めた。
ずっと彼女に共感してくれる人物はほぼいなかった。
ずっと彼女を味方をしてくれる人はほぼいなかった。
ずっと彼女自身を見てくれる人物もほぼいなかった。
そして──ずっと彼女の短所まで受け入れてくれる人物もほぼいなかった。
「──う、うぅ……」
天子はゆっくりと、求めていた光へと手を伸ばし──侠の真正面へと体を近づけた。手を掴まずに……彼の存在をより強く感じる体へと手を伸ばす。彼の肩に手を置き、そして彼の胸元に顔を当てながら──
「──うわぁあああんっ!!」
本当に求めていた人物の胸元を借りて泣き始めた。いつも強がっていた彼女が。我儘娘だった彼女が。他人に迷惑を掛けていた彼女が。目の前の人物に涙を見せた。そして侠は受け入れるように彼女の頭の帽子ごとに左手を置き、ゆっくりと撫で続ける。
「(……静雅達も、こんな感じで自分を説得したのかな……?)」
侠は天子が泣くのを止めるまで優しく、撫で続けた……。
次話で表の章は終わりです。
ではまた。