三人称視点。
では本編どうぞ。
侠達が向かっている地霊殿。この地霊殿の主──古明地さとりは自室で紅茶を飲みながら、過去に静雅の心を読んだ情報についての考え事をしていた。
「(……静雅さんの親友──辰上侠さん。その方はこの幻想郷を創った創造神の先祖返りである。詳しくは静雅さんも知らないみたいでしたけど……一度、外界で過ごし──どうしてか寿命があって亡くなったはず。それが亡霊……というよりも守護霊的なものかしら? 侠さんの心臓に初代龍神の細胞が埋め込まれている……ここまで静雅さんの心を読んで知った時は怒りを感じましたよ。同じ人間の同族なのに、保険の意味合いで実験道具にされてしまっていた事に。まぁ、結局は侠さんは幸運に恵まれていたおかげで助かったのかもしれないですけど……)」
そして紅茶のカップから口を離して……最も、興味のあった内容を思い出しているところで──
「(……静雅さんが、こいしが心を閉ざしていると知った時。彼の心が大きく揺さぶられた。私の妹であるこいしと……主であるフランドールさんを重ねたのが──)」
『おっすさとり。優雅に紅茶を飲んでいて何よりだ』
「…………能力でひょっこり現れないでくださいよ……内心驚きました」
「だろうな。持っていた紅茶のカップの中身が揺れていた」
再び紅茶を飲みながら考えようとしたところで──本堂静雅を筆頭に、辰上侠、比那名居天子がさとりの部屋に出現した。彼女は数少ない静雅の能力を知っている一人。能力で来たことを理解しながら紅茶の入ったカップをテーブルにおいていると、天子がさとりに視線を送りながら呟く。
「……第三の目って額にあるものじゃないの?」
「……『それに加えて小っさい体』ですか……それは否定しません。私は体の成長が遅いもので」
「あー……やっぱ心読めるのね……」
「……ちなみに言うと──」
さとりは天子の心を読んで情報を得た後──彼女が密かに抱いているコンプレックスを口にした。
「──胸のカップの表示でしたら、私の方が上ですよ?」
「…………はぁっ!? ななな……何よ!? 何で急にむ、胸の話題が出てくるわけ!?」
「私の能力に掛かればお茶の子さいさいです。どうやら毎晩胸を大きくする体操を欠かさずしているみたいですね。何時かは……竜宮の使いの永江衣玖さんですか? その人を同じぐらいの大きさに──」
「お、男がいる前で何喋っているのよーっ!?」
天子はさとりに慌てて捕まえようとするが、心を読んでか最小限の動きでさとりは躱す。天子の顔は赤く染め上げ、さとりはどこか楽しそうだ。
侠は気まずそうにしているが、静雅は二人に仲裁する。
「さとり、そこまでにしてやってくれ。弄りたい気持ちは分からないでもないが、まずは自己紹介を済ませてから続きだ」
「……そうですね。分かりました」
「あんた!? 続きって何よ!? 私はする気無いからね!?」
天子が異議を唱えているが……一先ずだが、空いている席に三人は腰を掛ける。その中、侠がさとりに向かって話し掛けた。
「自分は静雅から最低限の情報は知っているけど……覚り妖怪で妹がいて、姉である君は名前は古明地さとりでしょ? 自己紹介ってする意味あるのかな?」
「…………」
さとりの第三の目は侠を一度見た後……静雅の方へ一度向け直した後、再び侠へ団参の目の視点を合わせて言葉を返した。
「……まぁ、私は覚り妖怪でもありますからね。過去に静雅さんが地底にいらっしゃったときはそこで情報を知りましたし。ですが、まずはきちんと自分の口で自己紹介をするのが大事だと思いませんか? ──辰上侠さん」
「……正論だね。じゃあ改めて。自分は龍神の先祖返りの辰上侠」
「はい。私は地霊殿の主である古明地さとりです……比那名居天子も改めてお願いします」
「私の日課をバラした奴の言うセリフじゃないわね……仕方ないわね。私は天人の比那名居天子。これで良い?」
「はい、わかりました」
「そんでオレは本堂静雅な。よろしく頼む」
何故かさとりと初対面ではない静雅も自己紹介をし始めた。その事に侠は彼にツッコミを入れる。
「いやいや……何で君まで自己紹介をしているの? 静雅は明らかに必要ないよね?」
「だってよ? オレだけ自己紹介しないとか何というか……疎外感? そんなもんを感じたんだよ。だからオレはこう思ったわけさ……『この自己紹介の波に乗るしかない』と!」
「盛大に波に飲み込まれてるから、それ」
呆れながらきちんと侠は静雅の相手をした。会話の終わりを見計らって、さとりが侠に話を振る。
「ところで……侠さん。あなたは私と同じ動物が好きみたいですね? その中で猫が好きだという。式神の名前は五徳……頭に【五徳】をしている猫は珍しいと思いますが……」
「あ、やっぱりそんなとこまでわかるんだ……」
侠は感心するように言っていたが、その話題に天子は興味を持ったようで彼に話し掛ける。
「何? あんた式神がいたの?」
「至って【五徳】を乗せていること以外は普通のぽっちゃりとした猫だよ。結構癒やされるんだよね。あの丸っこい体を見ていると」
「(……頭に【五徳】を乗せた猫? どっかの本でそういうのを見たような気がするんだけど……?)」
「……案外、天子さんが考えていることは間違いは無いかもしれませんね……」
天子の心をさとりは読んだようで、少し同調するように言う。その事に引っかかりがあるようなそぶりを見せながら天子が考えながら言う。
「あんたは知ってるの?」
「いえ……私も過去に、【五徳】を乗せた猫を見た記憶はあるような気がするんですよね──それはともかくとして。動物が好きな人には悪い人は基本いませんからね──お燐! ちょっと侠さんを案内して貰える?」
さとりはドアに向かって喋ると……数秒後にドアが開き、二本の尾に赤いリボンをした【黒猫】のお燐が出てきた。
「ニャーン?」
「侠さん……お願い事ですが、お燐の遊び相手をしてくれませんか? 私の猫じゃらしの反応ではなく、別の人からも体験させた方が良いので」
「そう? じゃあ……その【お燐】というに着いていけば良いの?」
「はい。もしかしたら他のペットと会うかもしれませんが……その時は一緒に遊ばせてください。龍神の先祖返りの人に遊んで貰えるという機会は中々ないでしょうから」
「……わかった。じゃあ静雅、天子。ちょっと席を外すね」
侠はさとりの申し出を受け入れてお燐の誘導の元、部屋から出て行った。
彼が出て行ったのを確認した静雅は、何かを確信したように、労るようにさとりに話し掛ける。
「オレを見たと言うことは……やっぱり、そうだったのか……」
「……えぇ。まさか二人目をこの第三の目で見るとは思わなかったですけどね……。心の中に初代龍神がいればと出来ないという可能性もありましたけど──静雅さんからの情報で、現在勇義さんと実体化して戦っているんですよね。つまり、今の侠さんは正真正銘、侠さんの心の状態……」
「? あんた達何の話をしてるのよ? 私にも分かるように説明して欲しいんだけど?」
二人はどんな内容か分かっているが、天子はまだ分かっていない。これは当然なことかもしれないが。
その天子の質問に、確認を取るようにさとりは静雅に許可を求める。
「……静雅さん。天子さんにも話して大丈夫ですか?」
「多分問題ないだろ。おそらくだが──侠は天子に信頼をもらっているからな」
「……は? 信頼? 信頼って何よ? そりゃあ、まぁ……あいつとは友達……だけど。それとどう関係してくるのよ」
天子は静雅の特有な言い方疑問を浮かべていたが──さとりが本題を言った。
「彼……辰上侠さんは一部を除いて──心を閉ざしています」
意味深すぎる話の話題。その内容が天子にとっては信じがたい話でもある。
「──はっ!? 心を閉ざしているってどういう事よ!? さっきまでその第三の目で侠の心を読んでたじゃない!」
そう。天子の言う通り、さとりは確かに第三の目で侠を見ていた。それに伴い、侠の情報の式神の情報なり、猫の話題を振った。一見心を読んでいるように見えたはずだ。
しかし……さとりは少し困り気味に理由を言う。
「それは間接的に侠さんの情報を読み取ったのです。彼の親友である──静雅さんの心で【侠さんの情報】を。確かに侠さんは自分の心を読まれたと思っているでしょう。しかし、本人は無意識に第三者に心を閉ざしています。私と話している間、全く読み取れませんでした……」
「……私はそうは思えないわ」
さとりからの情報を天子は否定した。直ぐさまにさとりは天子の心を読み取り、根拠を確認。
「……『心を閉ざしている奴が私の味方をするはずが無い』ですか……。そして──合点がいきました。地底──いえ、幻想郷中振るわせた原因は侠さんの【怒り】。それに加えて……【龍の人の姿】になり、天子さんを悪く言った天人の人を遠ざけた、ですか……」
「……そうよ。侠は私と【友達】なのよ? 侠から友達にならないかって誘ってきたんだもの! 心なんて閉ざしているはずはないじゃない!」
天子も自分の友人が他者に心を閉ざしていると聞いたら困惑するだろう。彼女は怒りを含めてさとりに言ったが……注意するようにさとりは言う。
「私は言いましたよ?【一部を除いて】と」
「…………え?」
拍子抜けた天子の声。続けてさとりは喋り続けた。
「……天子さんと侠さんが話をしていた場面がありましたよね? 式神云々のところで。私は彼の心をじっと見ていましたが……天子さんと話している間、彼の心の中の文章にはならない単語がバラバラになっていました。少なくとも、侠さんは天子さんには完全に心を閉ざしていませんよ。天子さんと話している間に文章じゃなくとも、ほんの少しだけ心を読めたのです」
「……それって相手によって心の状況が違うって事?」
「そうだと思います。私と侠さんは会ったばかりですから警戒しているのでしょう。会ってそうそう心を開く人物はいませんと思いますが……彼の場合は厳重です。例えて言うなら、彼の心を覗くためには閉ざされている扉の【鍵】が必要です。そう簡単に開いて貰えるものじゃありません」
「完全には心は開いていないけど……開き掛けているって解釈して良いのね?」
「はい。そのようなニュアンスだと思います」
「……何だか複雑ね……」
喜んで良いのか、悲しんだ方が良いのか分からない天子だったが……次にさとりは静雅へと話し掛ける。
「一方、侠さんと静雅さんとの会話の心ですが──完全に侠さんは静雅さんに対して心を開いています。どうやら彼は心の中での文章の組み立ては早く、追いつきにくかったですが……ちゃんと文章が成立していました。さすが十数年以上、幼馴染みしていますね」
「逆にオレにも心を閉ざしていたら悲しかったぞ? オレは今までのこと関係なく【親友】と思っているのに」
「大丈夫ですよ。静雅さんに対して侠さん心を開いているということは【完全に信頼】されている証拠ですから」
「それを聞いて安心した。わざわざすまないな、さとり」
「いえ、お気になさらず。心の状態を見ると言ったのは私ですからね」
ちょうど会話が終えたときだろうか……さとりの自室のドアにノックが響き、とある声が聞こえてくる。
「古明地ー? 君の猫が人型になって、何か烏の妖怪もひっついてきたんだけど……?」
「……伝えていませんでしたね。どうでした? お燐が人型になったとき?」
「いや、橙と同じかとぐらいしか。確か橙も猫に変化出来るって聞いたことあるし」
『龍のお兄さん、そりゃないよ〜? 妖怪は驚かすという役目もあるんだから』
『竜ってすごいんだね! 核の次くらい!』
侠とさとりの会話の間に二人の声──火焔猫燐(お燐)と霊烏路空(お空)の声が聞こえてくる。それと同時に侠達はさとりの部屋に入った。侠以外の二人がまず目にした存在は、前にも来たことがある本堂静雅。
「あ、お兄さんいらっしゃい。また来たんだね」
「あ! お静だ!」
「よっすお燐にお空。元気で何よりだ」
一通り挨拶し終えると、天子はその二人を見て呟く。
「……随分妖怪みたいな妖怪ね。猫耳なり、烏の翼なり」
「まぁ、ペットであり家族でありますから。逆に地底に人間の方はいませんしね」
「……逆にいたらそいつは何かしらの力を持っているわね……」
天子言ったことにさとりは軽く説明した。そして静雅を改めてお燐は見てか、あることを尋ね始める。
「そういえばお兄さん、こいし様はどうされました? 真っ先にお兄さんがいると知ったららお兄さんに関わりに行くと思っていたんだけど……」
「そういや今のところ見てないな……まぁ、ひょっこり現れるだろ」
「まぁ、こいし様は神出鬼没ですからね──」
お燐がそう言い終わったとき──扉が無造作に開いた。全員振り向くが……そこには何もないように見える。一見完全に閉められていないから開き始めたと思うのが普通だろう。その事から考えて、さとりは一番遅く部屋に入ったお空を注意しようとしたが──
「お空……一番遅く部屋に入ったわけですからちゃんと扉を──」
「ゑ……古明地? 普通に扉に君に似た子がいるけど……?」
「「「「「…………え?」」」」」
さとり達は扉が無造作に開いて見えたのに対し、侠はさとりに似た誰かがいると言う。さとりも含めて、他の人物達は呆然としているが。
侠は扉に近づき、何もないふうに見える空間に話し掛け始める。
「静雅の情報が正しければ君が古明地の妹である【古明地こいし】かな? 何故か姉と比べて第三の目が閉じているみたいだけど……」
『えっ!? あなた私のことが認識出来るの!?』
侠が話し掛けた空間から声が響いた。それと同時にゆっくりと姿を現す。彼の言う通り──古明地こいしがいた。彼女は認識できた侠に物凄く驚いている。
認識できた侠にお燐はすぐさま話し掛けた。
「龍のお兄さん!? こいし様が見えていたのかい!?」
「見えていたって……こんなに普通に見えていたじゃないか。もしかして自身の存在の認識を曖昧にする能力を使っていたのかな……? 龍神補正としても今はご先祖様は心にいないし……偶然見えたのかもしれないね」
「竜の力ってこいし様を認識出来るの!?」
過ごしてきた時間が長いお燐、お空にとっても驚愕の表情を隠せないでいた。しかし、侠達三人が部屋に入る前に話していた静雅達は心当たりがあった。何故侠がこいしを認識できたのか。
──同じ心を閉ざしている同士だと、もしかして認識が出来る──?
認識出来るのは良いと思った静雅だが、同時に複雑な心境であった……。
次話から本格的にこいし参戦。
ではまた。