幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 二度目の年越しになるとは思わなかったですが、今年もよろしくお願いします。
 三人称視点。
 ではどうぞ。


『裏主人公の練習相手』

 紅魔館の近くにある霧の湖。そこに一人の少年がいた。彼は槍を振るい、時折体術を組み込みながら虚空に放つ。

 

「──はっ!」

 

 気合が入っているのか、槍が振るわれた時に声を出す。彼は紅魔館で住み込んでいる本堂静雅だった。彼は親友に能力を介さない弾幕ごっこで勝つことを目標している。

 

 数分間続け、槍を立てると……深呼吸して体を整える。

 

「ふぃ~……そろそろ実践形式だな」

 

 彼は近くにある木にもたれかかり、考える。どうすれば疑似的でも能力無しで勝てるのか。

 

「(……聞いた話だと、侠は実質的に能力無しで勝ったと聞いた。だからオレも侠と同じ条件で戦う必要がある。でも……勝てるのか? 能力を使う関連なら、侠よりも強いかもしれない相手に──)」

 

『──静雅? 最近、ここにいるのが多いわね……』

 

 考えをまとめている時に掛けられる声。静雅はその人物を確認する。その人物は赤いカチューシャをしており、近くに小さな人形──上海人形が浮いている。そこにいたのは人形をメインとして使う魔法使いのアリス・マーガトロイド。

 

 彼女の言葉に静雅は体を向き直し、どこか気まずそうに言う。

 

「……あまり見てもらいたくないんだけどな。こう影で努力っていうの? そういう事を見られるの」

 

「そんなの今更じゃない。以前の守矢神社騒動から知っているんだし。何ともないわよ」

 

「解せぬ。オレの個人の問題だ」

 

 彼女の気にしない発言にどこか不機嫌そうに言う静雅。普段と違う態度なのか、彼女は疑問を彼に問いかけた。

 

「静雅にしては珍しく機嫌が悪いわね。普段の態度は適当が多いのに」

 

「オレにしたらって何だ? ただの見物ならそっとしてくれる方がありがたい。オレとしても真剣なんだ」

 

「……ところで、いつも一人だけど実践として誰か弾幕ごっこしないの?」

 

 いつもの彼の態度を違うアリスは新鮮かつ興味を持ちつつ、これからの予定について彼に尋ねる。

 

「大体、本来は誰も知られない前提だったからな。咲夜に初めて知られたが……それはともかくだ。確かに、それも必要と思ってきている」

 

 彼女の質問の肯定。アリスは心のどこかでその言葉を待っており、彼女は彼の言葉に提案するように言った。

 

「だったら──私としてみる?」

 

「……アリスと?」

 

「そうよ。静雅がどんな相手を弾幕ごっこをしたのか知らないけど……私みたいな、人形などを使う人物とはしたことが無いでしょ?」

 

「主に道具を使う相手か……確かにないな。アリスみたいなタイプとは無いな」

 

「だったら私とやっても良いんじゃない? 私はあなたと侠なら静雅に勝ってもらいたいという気持ちが強いわ。本当に人は見かけによらないっていうか……こ、こういう静雅は新鮮だし」

 

 少しそっぽを向きながら、腕を組んで言うアリス。しかし……彼女としての本来の目的もある。

 

「(建前はこれで良いわよね……。私としてもそろそろちゃんとした男の子の人形を作れるようになりたいし……。それで、弾幕ごっこが終わった後に静雅に……頼むの。人形のモデルとしてっ。おかしくない理由よね)」

 

 そのようなことを考えている静雅は知らないが……彼が彼女の言葉に答えようとした時──

 

「……確かに一理あるような感じだが──」

 

『えっと……あ。本当に静雅がいた』

 

 森の茂みから聞こえる声。その場にいた静雅とアリスは音源のした場所に振り向くと……そこにはブレザー服を着て兎の耳が特徴な、鈴仙・優曇華院・イナバがそこにいた。

 

 彼女の一言が彼を呼ぶ声だったので、彼は反応して言葉を返す。

 

「お? うどんじゃん? どうかしたか?」

 

「どうかしたってわけじゃないけど……静雅がここに大体いるってことを教えてもらったのよ」

 

「……は? うどんよ、オレは誰かにこの場所で云々は教えていないぞ? 一部の奴は知っているが……」

 

「てゐよ。あの子が散歩していたときにここであなたがいたって事を教えてくれたの」

 

「兎詐欺ェ……」

 

 彼は自身の事でいっぱいだったのか、近くに誰がいたかなどは把握していない。誰かしら魔法の森に入っても影響の無い人物なら大丈夫だろう。彼はてゐに恨めしそうな声をあげているが。

 

 その中、鈴仙はアリスの存在に気が付き、彼女に話しかけた。

 

「? あなたは確か人形の魔法使いの……。どうしたのここで?」

 

「……どうしたこうも無いわ。私はただ静雅に用事があるからここに来たの。私はあなたより早く彼がここで行動している事を知っていたからね」

 

「…………!」

 

 アリスの言葉に、彼女は何かの攻撃的な言葉を感じた。鈴仙はその事を踏まえて、少し警戒するように話しかけ続ける。

 

「……具体的にはどんな用事なのよ?」

 

「教える必要ある?」

 

「……まぁ、良いわ。私も静雅に用事があって来たんだから」

 

「うどんもオレに用事が?」

 

「えぇ。そうよ」

 

 彼の疑問の言葉に肯定し、ポーチからタオルや飲料水、さらには小さな箱を取り出しながら答える。

 

「静雅、私としてもかなり予想外だったけど……ここで修行しているんでしょ? それだったら少しでも体の回復を早くするために、効率的に何か手伝ってあげようかと思ってね。この薬は私が調合したものだけど……疲労回復には役立つと思うわ」

 

「お? 確かにそれはありがたいが──」

 

「だからね、静雅。一人で修行するよりは二人の方が効率が良いでしょ? こうして薬もあるんだし、私があなたの修行をサポートしてあげる」

 

 間接的に言えば、彼の弾幕ごっこの相手も兼任するという事。彼女の言葉に反応したアリスは少し怒りを込めながら鈴仙に牽制する。

 

「ちょっと待ちなさいよっ! 私が先に静雅の相手をするってさっき言ったの! あなたは後日にしなさい!」

 

「……それは関係ないじゃない? 私は静雅に借りもあるし、そのお返しをしたいだけよ」

 

「借り……あぁ、静雅とあなたの秘密事ね。彼が頑なに話そうとしないやつの。でもそれが何? 私は……静雅と一緒に人形制作した事があるの! 弾幕ごっこが終わったら彼をモデルにして男の子の人形を作ろうと思っているのよ!」

 

「はい? アリス、それは聞いてないんだが──」

 

「弾幕ごっこが終わったら言おうと思っていたのよ! 私の中ではそういう予定だったの!」

 

 途中のアリスの予定に静雅は聞き返したが、少し攻撃的なアリスの口調に静雅は引っ込んだ。少なくともアリスの性格は把握してきているつもりだ。まだ決着が着くまで鈴仙との口論が続くだろう。最終的には彼の意見に委ねるかもしれないが。

 

 しかし、彼の頭上に影が掛かる。静雅は上を確認すると──箒に跨り、降りてきている人物。その人物はとがった三角形の帽子に、黒い服の上に白いエプロンのようなもの。その人物はアリスとは違う人間の魔法使いである──霧雨魔理沙がやって来た。

 

 さすがに他者が現れたのは二人は気づいたのだろう。彼女達は視線を送るものの、魔理沙は大して気にせず静雅に話しかけた。

 

「……? アリスに鈴仙か。二人は何をやっているかはともかく……静雅。ここにいたんだな。紅魔館に行く前に寄って行って良かったぜ」

 

「今日はたくさん来訪者が来るな……何だ、魔理沙?」

 

「私達がやる事は一つだろ? それはもちろん──弾幕ごっこしようぜっ!」

 

 笑顔を浮かべながら真っ直ぐ勝負を申し込む魔理沙。その事にアリスと鈴仙は彼女に突っかかる。

 

「待ちなさい魔理沙! 静雅の相手は私がやるの!」

 

「静雅には私達から選んでもらうの! 魔理沙はまた今度しなさい!」

 

「……静雅。これは一体どういう状況だ?」

 

「美少女達がオレを取り合っている」

 

「「その言い方何とかしなさいよ!?」」

 

 どこかふざけているような彼の発言に二人のツッコミが入る。彼の言葉の意味を理解したのか、アリスと鈴仙に話しかける魔理沙。

 

「なるほど、お前達も同じ目的だったか。しかし……お前達は私達を知らないみたいだな?」

 

「……どういう事よ」

 

「それだけじゃわからないんだけど……?」

 

「はっ。だったら教えてやるぜ──静雅は私との弾幕ごっこを重宝としているんだ。こいつの目標に、私が必要なんだぜ。何十回も静雅と弾幕ごっこをしているからな。お互いに競い合うライバルみたいなもんだ。お前達じゃ役不足だぜ」

 

「(……何かライバル認定されているなぁ……)」

 

 心のうちで思う静雅だったが、彼の心の状態は知られることは無い。そんな彼に、魔理沙を先導に彼に話しかけてくる。

 

「ま、当然私といつも通りやるんだろ? むしろやれ」

 

「最初に私が話しかけたのよ! あなた達は後にしなさい!」

 

「別に順番とか普段とか関係ないわ。どっちみち静雅が選ぶんだから! ……それで、私……よね?」

 

 三人様々な反応で静雅の答えを求める。彼は思ったことを口にする。

 

「はっはっは。オレってばモテモテだな」

 

「ばっ!? それとは関係ないだろ!?」

 

「そ、そうよ!? どうしてこの様子がそんな風に捉えられるのよ!」

 

「こんな時にふざけないでよっ!? それで……誰を選ぶのっ」

 

 三人とも静雅の狙っているような発言に恥ずかしくし、最後に鈴仙が答えを求める。

 

 だが……静雅は両手を前に合わせて、申し訳なさそうにこう言う。

 

 

 

 

 

「でも──悪いっ。今日は先約がいるんだ。だからまた今度な」

 

 

 

 

 

「「…………え(は)?」」

 

 静雅の謝罪の言葉。その言葉に呆気にとられる。そして先約という単語を聞いてか、アリスはどこか嬉しそうに静雅に言っていたが──

 

「そ、そうよね! 私が先に約束を取り付けたんだから、私が先──」

 

「……本当に悪い。アリスより先に先約が入っているんだ」

 

「──えっ?」

 

 まさかの否定の言葉にアリスも呆気にとられた。この場にいる人物ではないと理解した三人は、魔理沙が代表して問いかける。

 

「じゃあ何だ? 侠と弾幕ごっこをする予定なのか? それなら仕方ないのもわかるが──」

 

「侠は今んところ予定に組み込まれてないな。そろそろ来ると思うんだが──」

 

 

 

 

 

『待たせたわね、静雅』

 

 

 

 

 

 彼の名前を呼ぶ声。四人は振り返り、その人物の確認。その風貌は単純に言えばメイド服を着ており、紅魔館の主の従者である──十六夜咲夜が手荷物を持ってその場にいた。

 

 咲夜は静雅の傍に寄ったが……三人の存在が気になるのだろう。彼にその事について尋ねた。

 

「……その三人達は?」

 

「さっきからオレを取り合っていた人物達だ。まぁ、今さっき先約があるんで断っていたところだが」

 

「そう。ちゃんと本当に断っているのね……普段の静雅ならば、鼻の下を伸ばしていたところだと思うけど」

 

「男が女に鼻の下を伸ばして何が悪いっ!!」

 

「こら。冗談はそこまでにしておきなさい」

 

 咲夜は軽く静雅の額にデコピンをする。軽くお仕置きをした咲夜は三人に体の向きを変えて話しかける。

 

「……悪いけど、静雅の相手は私がする事になっているの。だから彼と約束と取り付けるのはまた今度にして頂戴」

 

「咲夜が静雅と弾幕ごっこをするのか!? それってかなり意外なんだが!?」

 

 魔理沙が驚くのも無理はない。紅魔館で雇われているメイドと執事だ。それに、二人が戦うというのは接点がない。彼女の質問に答えるように咲夜は言う。

 

「一応、私は侠と正式に戦った事があるから。それで私とやってみたいって」

 

「……日食異変の事ね。確かに侠は紅魔館住民と全員と戦って勝ったと聞いたことがあるけど……別にそれは誰でも良いんじゃ……?」

 

 アリスからの疑問。戦うという観点ならば確かに誰でも良いはず。何故わざわざ咲夜を指名するのはまだわからないようだ。

 

 咲夜はアリスの説明を踏まえて補足する。

 

「その時の侠は龍化を能力と思っていた頃なのよ。それでもしかして肉体的強化はしていたのかもしれないけど……確かそれは一瞬だけだったのよね。実質的に考えれば、侠は能力無しに勝ったのに等しい。だから静雅は侠とほぼ同じ条件で戦ってみたいんですって。この場合だと静雅は【完全な能力使用不可】という制限を設けて」

 

「!? それって明らかに静雅が不利じゃない!?」

 

 鈴仙からの驚愕の言葉が飛んでくる。彼は例外を除いてあまり能力を行使しないが、補助する程度だ。能力の補助で静雅はそれなりに戦っているのだが、その補助の全面禁止。加えては咲夜は【時を操る程度の能力】を持っている。前提条件を考えれば、明らかに静雅は不利となるのだ。

 

 彼女の心配を含む声に、静雅は言う。

 

「その不利な条件で侠は勝ったんだ。だったらオレも不利な条件で咲夜に勝たなければならない。侠に勝つ第一歩として。まぁ、お互いの得物に関しては殺傷能力無しという設定でやるけどな。その方がお互い遠慮はいらない」

 

 目に決意を灯しながら彼は言う。そうして静雅は槍を構えなおし、三人に行動を促した。

 

「咲夜が時間を作ってくれたからな。その時間を無駄にしたくない。だからお前さん達は離れてくれ」

 

 彼の言う通りに、どこか腑に落ちない三人は動いていく。その中、三人はふと咲夜の様子を見たのだが──

 

「……(フッ)」

 

 ──どこか誇らしげに、機嫌をよくしていた。少なくとも、彼女がこんなにわかりやすく機嫌がよさそうにしているのは三人は初めて見た事だった。

 

 そして咲夜は近くの木陰に手荷物を置いた後に、彼の正面に立っては両手にナイフを構え──彼に言う。

 

「静雅とこうして戦うとは思ってなかったけど──私は勝ちに行くわ」

 

「上等! オレも勝ちに行く!」

 

 紅魔館従者同士の、弾幕ごっこが始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手始めに動いたのは静雅。彼は槍を持っていない手を構え、円球の弾幕を放つ。それに対して咲夜は単純に体を動かして躱し、ナイフを投擲。彼は防御するために槍でタイミングよく飛来してきたナイフをはじく。

 

「やっぱ咲夜は手馴れている感じがあるな……」

 

「これでもお嬢様に使えている身だからね。それ相応に自分の実力に自信を持たないと」

 

「ま、それでもオレは勝つと思うけどな!」

 

「精々、足元をすくわれないように注意する事ね──【マジックスターシュート】!」

 

 咲夜は両手の指の間に持てるだけのナイフを掴み、それを投擲。そして投擲されたナイフ達は加速する!

 

「おう!? 急加速!?」

 

 静雅は必死に避けるのと同時に、得物の槍ではじこうとする。一応、はじき返したのだが……彼の槍を持っていた手元に痺れが走った。

 

「くっ……重いっ」

 

「私の能力で加速させたナイフだからよ。速さが増すほど、その分攻撃力が高くなり重くなる……威力重視の弾幕」

 

「ナイフ投げの時間を加速させたのか! 止めるだけじゃなく加速できるとは……!」

 

「さぁ、どんどん行くわ!」

 

 彼女はまた同じ弾幕を放ち、静雅を狙い続ける。彼は走りながらナイフの弾幕を避け続けていた。

 

 埒があかないと思ったのか彼は、ポケットからスペルカードを取り出して宣言をする。

 

「狂符【確率事変】!」

 

 過去に紅魔館を場にして寺子屋の生徒達に使ったスペルカード。始めの弾幕の出は遅いが、不規則にそれぞれ多数の円球の弾幕の速さが変わる。相手の躱そうとしているタイミングを狂わせて被弾させるのが目的のスペルカードだ。

 

「これで被弾しちまえっ」

 

「……タイミングが変わるなら、さらに遅くすればいいわ──時符【プライベートスクウェア】」

 

 彼のスペルカードに対抗して彼女もまた宣言。彼女が宣言した瞬間……彼女以外の人物、空間の時間が遅くなる。それによって静雅の展開するスペルカード、彼自身の反応も。

 

「(!? ま、、まずい──)」

 

 彼が心の中で危険を察知しても、体の動きが鈍いおかげで対応できない。彼に構わず咲夜は弾幕の間を走りぬいて彼に近づき、体に体術の攻撃を打ち込んだ。

 

「(ぐっ!? 早く動け……!)」

 

 彼女が静雅にダメージを与えている途中、まだ彼の動きが鈍いのにも関わらず距離をとった。それは静雅のスペルカードの影響を及ばさない位置に。彼女が安全圏に入ったタイミングで、彼の動ける時間が戻ってくる。

 

 咲夜のスペルカード自体の継続時間は短いが、自分以外の空間を遅くすることで攻防に合わせた戦術を組み込むことが出来る。それを踏まえて彼女は適度にダメージを与え、適当な時間で切り上げては自分が被弾しないような位置に移動した。その結果──彼女のスペルカードは時間でブレイクしてしまったが、彼の放ったスペルカードもほぼ無意味となりスペルブレイク。

 

 打ち込まれた痛みを静雅は感じながら、悔しそうに言う。

 

「くそ……! オレのスペルカードじゃ咲夜との相性が悪すぎる……!」

 

「そういえばそんな気がするのよね。静雅はあまり行動を妨害するスペルカードが多数だし……。それだったら、その行動を邪魔すればいい。所謂あれかしら? 自分の戦法が相手に使われると弱くなってしまう事」

 

「SがSに弱いと言いたいのか!?」

 

「いや、そんなマニアックな事を言われても……」

 

「確かにオレは静雅の【S】で咲夜の【S】でもある……逆転、はよっ!」

 

「(……名前のイニシャルは確かに一緒ね……)それだったらまずは静雅が攻めなきゃ始まらないわよ?」

 

「あぁ! 行かせてもらうさ!」

 

 静雅は新たなスペルカードを取り出しては宣言。

 

「荒神【神滅ぼしの末路】!」

 

 彼の宣言により、多方向に小さな円球状の弾幕が放たれる。同時に咲夜を狙うような、連続した槍の形をした弾幕も彼女に襲い掛かる。咲夜に接近した槍の弾幕は──小さな爆発を起こした!

 

「! 槍の弾幕は一定空間になると拡散するのね……!」

 

「ご名答! オレとしたら、単純な攻撃な分類かもしれないが……小細工なものは少ない攻撃で攻める!」

 

 静雅は続けて咲夜へ攻撃する。彼女は手から通常の弾幕を放ったり、ナイフを投げたりなどの相殺。

 

 そう対応している中で、彼女は彼に聞こえるぐらいの声で話しかけた。

 

「……良いんじゃない? 真っ直ぐに勝負を仕掛けようとするのは。それは異性として──純粋に格好いい事だと思うわ」

 

「はいっ!? お前さんこんな弾幕ごっこの時に何を──」

 

「隙あり──傷魂【ソウルスカルプチュア】!」

 

 まさかの戦闘の最中に異性として褒める咲夜。彼女の目論見にはまった彼は珍しい動揺をし、彼女は時を止めて静雅の目の前に現れる。すぐさまにスペルカードを唱えた彼女は……両手にナイフを持っていては、滅多切り。彼の能力で殺傷能力は無いにしても、ほぼゼロ距離にして攻撃を喰らう。加えて両手で振るったナイフかも弾幕が発生。その結果──

 

「がっ──(ピチューン)」

 

 ダメージが積み重なった結果、彼の発動したスペルカードはブレイクし……静雅は片膝をついた。この結果から判断できる事柄は──咲夜の勝利。静雅の敗北。

 

 観戦していた魔理沙、アリス、鈴仙にとっても信じがたい事だった。彼女達の中では、不利な状況だとしても彼が勝つと思っていた。しかし、現実は彼が負けてしまった事には変わりはなかった。

 

「はっ!? 静雅が……負けた!?」

 

「侠とほぼ同じ条件で戦った静雅が……!?」

 

「ちょっと!? 静雅大丈夫!?」

 

 魔法使い二人が呆然としている中、鈴仙は彼に近寄り具合を確かめる。彼女の心配を取り払うように、彼は再び立ち上がり答えた。

 

「いつつ……心配する事はない、うどん。オレは健康体で傷ついてなどはいない」

 

「そ、それなら良いのだけど──」

 

「静雅。私と戦って何故侠は勝てて、あなたは負けたと思う?」

 

 鈴仙の言葉を遮って、咲夜は彼に問う。鈴仙にとっては雑な態度と感じたのだが……静雅は咲夜に体の向きを合わせて考察を言う。

 

「……考えるには、身体能力の差がある。侠はその時の能力が無かったとして考えても、体の反応が良かったはずだ。咲夜との能力での差は身体能力でカバーしていた。オレは神様という分類だが……身体能力に関しては普通の人間と同じぐらいだ。突起している身体能力は無い」

 

「それに侠は龍神の先祖返り。聞いたところだと大体の先祖返りは身体能力がデフォルトに高いのでしょ? 彼はそれに初代龍神によって力の底上げもされているみたいだし。だから侠の身体能力は人間と比べて遥かに高い。そこらの妖怪よりも高いんじゃないかしら?」

 

「だろうな。後は考える力があるからな。侠は本当に頭が良いからなぁ……。オレはそういう勉強方面とか考える力は無い。言うならば、ひねくれた考えの方がまだ得意だ」

 

「後は私の言葉に動揺したのが一番の敗因ね。普段は人をからかうのを得意としているのに、いざ自分がやられるとわかりやすいんだもの」

 

「……解せなさすぎる」

 

 彼女はどこかニヤニヤしながら彼に言うと、彼はそっぽを向きながら不満そうに言った。

 

 その様子を見てどこか違和感を感じたのだろう。アリスは二人に問いかける。

 

「……あなた達、何かあったの? 普段の静雅を考えればおかしいところしか無いのだけど……咲夜。静雅とどういう風になってそんな風になっているのよ?」

 

「……そんなことを言われてもね。精々と言うとすれば、侠から静雅の扱いについて教えてもらっているぐらいよ」

 

「あの野郎また情報を漏らしたのか!?」

 

 どこか彼はデジャヴを感じたのだろう。咲夜の発言を聞いて焦るように彼女に問いかけるが、彼に咲夜は言う。

 

「静雅。戦う前に相手がわかっているならば、その情報を集めて有効活用するのは効果的なのよ?」

 

「……だからと言ってなぁ、そのさぁ……異性として褒めるとか、改めると恥ずかしいんだぞ……?」

 

「それが狙いだから仕方ないじゃない」

 

「(……咲夜がそう簡単に異性を直接褒めたりするもんだろうか……? 何か変なんだよな……)」

 

 二人の会話にどこかおかしいと感じる魔理沙だったが──その場に響く腹の虫の音。その音を鳴らした犯人は自ら発言する。

 

「……咲夜。腹減った」

 

「はいはい。いつも通りに持ってきてるわよ。ちょうど木陰においていた──」

 

 そうして咲夜は木陰に置いてあった場所に視線を向けると──サンドイッチが空に浮かんはみるみるとなくなっていく。まるで空気が食べているように。

 

 その現象に驚愕するアリス達だったが──

 

「!? 何でサンドイッチが空中でなくなっていくのよ!?」

 

「……もしかすると、そこにいるのは──こいしじゃないか?」

 

『このサンドイッチ美味しいー♪』

 

 虚空に響く声。静雅の口から誰かの名前が呟くと……その人物が浮き彫りになっていく。外見は少女であり、リボンの着いた黒い帽子。青く見えるコードは途中で曲がってはハートの形を作っては、閉じられた【第三の目】。地底の覚り妖怪である──古明地こいしが咲夜の作ったサンドイッチを咀嚼していた。

 

 彼に存在を気づかれた事に気付いたこいしは、手に持っていたサンドイッチを口に入れた後に彼に近づいては話しかける。

 

「ふぁっほー。あふぉびにひはー」

 

「せめて口の中を片付けてから喋ってくれ」

 

「(ゴクンッ)お兄ちゃんのセクハラ!」

 

「おかしいよな!? さっきの言葉はどう考えても『やっほー。遊びに来たー』だよな!? 身に覚えのない冤罪をふっかけるなっ!」

 

「犯人は無意識。だから──私は悪くない」

 

「誰か無意識を冤罪から救ってくれねぇかな……?」

 

 彼と彼女にとっては【無意識】を含めた共通の会話だったのだが……とある呼称が気になったのだろう。鈴仙はその事について彼に問いかけた。

 

「……ねぇ、静雅? その妖怪って覚り妖怪の妹よね? どうしてその子から……『お兄ちゃん』だなんて呼ばれているの?」

 

「本人曰く無意識だから気にしないで欲しい。本当に」

 

「えぇーっ!? 静雅は私にあんなことをしておいてそんな事を言うのーっ!? ちょっとそれは……傷つくよ……」

 

「(あ、これは咲夜を除いてやべぇかも)」

 

 どこか白々しい演技をするこいし。ご丁寧に頬を赤らめながら発言している。しかし……彼女の言ったことが当然気になるのだろう。どこかドスの効いた声で魔理沙は彼に話しかけた。

 

「……静雅。地底で他に一体何をして、こいしがこうなったんだ? さっさと言わないと──この八卦炉からマスパが飛び出すぜ?」

 

「暴力反対! 特に何も問題は無い──」

 

 魔理沙の攻撃的な口調に弁解しているところで静雅は気づく。こいしは無意識の所為にして──あの発言をして修羅場にするのではないかと。

 

 そう考えに至った彼は行動を始めた。彼の予想通り、こいしは無意識に口を開き始めていたので──

 

「だって静雅は……私の──」

 

「こいしぃいいいっ! 今すぐフラン嬢に会いに行こうなぁあああっ!」

 

「えっ! フランちゃんに!? なら行くー♪」

 

 言葉を遮って彼女を脇に抱え、その場から消えた。明らかな彼の行動。咲夜を除く女性たちは彼に後ろめたい事があった事を推測した。

 

 そして……彼女たちは行動に移す。

 

「……そうか。どうやら静雅をマスパで撃つ時が来たみたいだぜ……そのついでに弾幕ごっこを申し込んで私が勝つぜ」

 

「手伝うわ魔理沙。人形を展開して彼を抑え込むから。照準が定まったら撃ちなさい」

 

「狂気の瞳で幻影を見せるという手段もありかもね。彼の能力は私の能力を防げるらしいけど──何時間もしていたらさすがに効くわよね?」

 

 怪しい笑顔を浮かべながら彼女達は紅魔館へと向かって歩いていく。何かを狩る目をしながら。

 

 実はというと、咲夜は彼の後ろめたいとある事を聞いていた。彼から素直に話してくれたことにより、彼女は事情を聞いて許していたが……。

 

「……まぁ、大丈夫だと思うけど……自分で何とかしなさい、静雅」

 

 彼の幸運を祈った後、咲夜はその場から消えた……。

 

 

 

 

 




 こいしは場を荒らすタイプ。

 ではまた。
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