幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 過去話。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


『辰上侠のある時』

 辰上侠は今までの人生を総合的に評価するならば、【不幸】なのかもしれない。彼の本当の両親は良識のある親だった。しかし……【本家】の人物からは、彼の両親を快く思っていなかった。彼の母親が【本家】の人物であり、父親は【辰上】とは全く関係無い人物。過去から現在に至るまで、現在の辰上の【本家】が決めた習わしで、【血縁同士での婚約】が決められていた。龍神の血を、可能な限り薄めない為である。彼の母親に決められた相手がいたのだが……自分の心から想いを寄せている人物と駆け落ちをする。そうはいっても、彼の父親の親類は影ながらも支援していた。彼の父親の家系は相手の想う気持ちが本物であれば、そういう事は本人達に任せていたからだ。そして──影で暮らしている中で、一人の息子を授かった。

 

 しかし……両親の子供は攫われることになる。両親の隙を伺い、侠を実験道具にしようとした。【習わし】に反した子供であっても、血を継いでいるには変わりは無いからだ。初代龍神のティアーの亡骸を使って、人工的な先祖返りの実験に彼は巻き込まれたのだが……彼だけは生き残る事が出来た。それは初代龍神の助けに加えて──彼が本物の先祖返りでもあったためだったから。

 

 彼の生還に本当の両親は喜んだものの、それでも状況は最悪だった。もし、このまま息子と長い時間を過ごせば──もしかしたら、本家の人物達に気づかれるかもしれない。本家が望んだ龍神の先祖返りの可能性があり、実験の成功体として本家に奪われる。彼が存在したままだと、現状のままではそれ以上の不幸に見舞われる可能性があったのだ。

 

 辰上の中でも、【分家】で仲が格段に良かった辰上家の人物がいる。侠の本当の両親は、子供をその家族に託したのだ。本家が彼の両親を必要以上に追ってくる。本当の両親が過ごす風景に、侠の姿を見せるわけにはいかない。幸い、幼児期の顔つきは大して他の幼児の差は無い。数ヶ月間わざと孤児院に入れては、分家の家族は侠を養子として引き取った。無論、本家は嫌悪感を示していたが。当時、侠が何故本家に嫌われている理由があまりよくわからなかった。

 

 しかし……確実に物心を自覚した時に、養父から【辰上侠は血の繋がりが無い】と教えられた。物心がついた幼い日に、そんな事を言われても対応に困るだろう。だが、侠はその言葉がどうも印象に残った。それと同時に養父から『【家族】として繋がりがあると覚えていて欲しい』という言葉も彼の記憶に刻み込まれた。それと同時に──彼の親友となる本堂静雅との触れ合いと同時に、彼の両親とも触れ合うようになる。そして……彼女の義妹である陽花が生まれたころでもある。

 

 後に密接にかかわってくる本堂静雅は何回も辰上侠についての情報を耳にタコができるぐらい聞かされた。一番、彼の支えとなるのは親友か恋人だろう。静雅はもちろん男だからこそ、彼の親友になるようにと言われる。彼も侠と触れ合っているうちに、当時の精神年齢が幼いというところもあったのだろう。二人は心から信頼しあう親友へとなった。その二人に、事情をあえて教えていない陽花も加わり。基本的には三人で過ごす日が多くなった。

 

 龍神の先祖返りの影響もあってか、辰上侠は幼稚園から中学生まで、子供とは思えない才能があった。彼は努力をするとしたら勉強ぐらいだ。何度もきちんと本人はするだけ。大した努力はせずに勉学の知識などが周りを比べると、遥かに高いのだ。中には、担任の教師よりも一部の知識量が勝っていたときがある。

 

 そして、辰上侠が最も才能の一つしてあった根本的な考えは──他人が出来ることは自分自身も出来るという事を常に頭に入れていた。体育や芸術面で学ぶ技術は彼が覚えたい技術だけを選び、本人以上の才能として学習していたのだ。一時、担任の書いた書道指導で……担任以上の達筆で周りを愕然とさせたのは静雅自身がよく覚えている。

 

 初代龍神の細胞、龍神の先祖返りで人間以上の身体能力を持つ侠。だが、静雅がいつもストッパーとなっていた。

 

『侠。体力テストの時は手を抜くんだ。良いな?』

 

『どうしてだ静雅? どうせなら俺の限界に挑戦したいというのに』

 

『バカっ。仮に本家よりずば抜けた成績をたたき出して見ろ。間違いなく嫌がらせの言葉がおくられるぞ』

 

『……しょうがない』

 

 彼が抑止力となり、精々侠は【運動能力が基準より高い生徒】となる。加えて同年代でもある本家の息子も侠と同じ評価だ。手を抜いて初めて、本家の息子は侠を同じ身体能力になれることを。

 

 しかし、あくまで中学生の中期までは違った。普通の中学へと進学し、運動神経は同等としても、頭の内容までは同じにならない。【本家】の息子は英才教育を受けて、300人いる同学年の内で2位になれる。しかし、自分で好きなように勉強している侠は──進学してから、ずっと1位を取り続けている。

 

 それだけではない。当時、全国の中学生が受けた模試。何十万人といるなかで、本家の息子は良くて500位以内。しかし、中学内ではワンツーフィニッシュである二人だが……侠の模試の結果では、1位をたたき出している。

 

 少なくとも彼の義理の親は強制させていないのだ。自由奔放にさせているなかでの結果である。正直、義理の親達は驚愕しかなったのだが。

 

『……侠君? この模試の結果だけど……どうしたんだい?』

 

『何か滅茶苦茶簡単でつまらなかった』

 

『まぁ……柊史さん。侠は頭が良いというのはすでに知っている事じゃないですか。今更気にしてもしょうがありませんよ』

 

『いやいやお母さん!? お兄ちゃんが異様におかしいだけでしょ!?』

 

 ……義理の母親はマイペースだったが。

 

 当然、本家の面々は由々しき事態だと感じた。彼ら本家の人物は、辰上侠を赤の他人だと思い込んでいるのだから。辰上の血が流れていない人物が頂点に立つのを恐れた。終いには侠を本家に呼び、きつい口調で罵倒も含めて八つ当たりに近い言葉を浴びせられた事もあった。

 

『何でお前が俺の息子より出来が良いんだっ!? 成り上がりで辰上家に入ってきたくせに生意気だっ!』

 

『どこの子もわからない、辰上家に汚らわしい血が混ざるだなんて……あの分家は一体何を考えているの!?』

 

 その時に侠は怒られている理由がわかるはずもなかった。

 

 ──彼は、別に誰かを競うつもりなど一切ない。

 ──彼は、理不尽な言葉の意味が分からなかった。

 

 その時の侠は一時的にはいえ、養父の言ったいた事は頭の片隅にあった。だからこそ、自分は辰上家とは部外者という事は頭に入れていたのだ。

 

 ……ちなみにいうと、本家としては【侠が養子である事を知らない】事を前提にした罵倒だったりする。本家の捻じ曲がった性質は本当の両親、義理の両親はわかっていたからこそ、義理の親はあえて血が繋がっていないことを侠にあえて教えておいた。中学生となると思春期でもあり、精神状態がある意味揺らぐ時期でもある。少しでも、彼の精神面を助けるために。

 

 加え、本家の息子と侠のそれぞれの印象は他者から違う印象が広まっていたこともある。本家の息子は正直に言って自己中心的でもある。周りにあまり配慮は無く、【辰上】という家柄はそれなりの力があった。彼はそれを七光りの如くに振り回す人物でもあった。この辺りは、本家の家柄として似ているものがある。少なくとも、一般人以上の実力はあるつもりでいる。だから彼に着く取り巻きもいたりした。

 

 それとは正反対で、この時の侠は【お人好し】という言葉がとても良く当てはまった。他人の事を考え、自分の事を後回しにして協力する。その時の侠はそれなりの人気があったのだ。この時からモデルとして活動を始めた静雅とは違う意味での人気。彼は困っている人がいたら助けるという、絵に描いた人物だった。

 

 だからこそ──彼は利用されたのかもしれない。当時でも、本家の大人たちから言われようの無い罵倒を言われていた頃──本家の息子が彼を庇ったのだ。本家の息子の言葉は、本家に雇われている一部の分家には逆らうことが出来ない。侠はその事を不思議に思ったのだが……特に疑いはせず、彼との距離を縮めようという考えが生まれつつあった。

 

 基本的には侠は静雅と陽花というメンツに時間を特に掛けるが……本家の息子との時間も作ったりした。他愛の無い雑談をしたり、侠がやっている勉強法を教えたり。彼のおかげで本家の息子は成績を上げる事ができた。

 

 しかし……中には【お願い事】という事で、無理難題な事を侠は頼まれたことがある。明らかに無理な事柄ははっきりと断ったのだが……それ以外の事柄はきっちりこなしていた。時たま、偶然静雅も同伴し、本家の息子が言った無理難題の頼みごとを何の苦もない表情で侠は語っていたが……静雅は見逃さなかった。本家の息子の口元が悔しそうに歯ぎしりしていた仕草を。

 

 本家の息子にまた頼みごとを侠はされ、道中で静雅は警告するように侠へと話しかけた。

 

『侠……あいつ、気を付けた方が良いぞ』

 

『? どうしてだ静雅?』

 

『あいつはお前さんの利用しているとしか思えない。何か依頼内容も変だろ?  特に最近は【俺に敵対している奴を懲らしめて来い】ってのはおかしい……』

 

『……まぁ、な。さすがにそれは自業自得としか言いようがない。それだけ自分の行動で敵を作っているという事なんだろう。でもな、俺は──認めてもらいたいんだ。例え辰上家の血を持っていない人物でも、本家の助けにはなれるんだって。こうして俺を頼ってくれているんだ。だから──信頼を貰うんだ。何時か、俺は辰上家に必要な人材だって事を。本家の息子に友人として認められるのなら……俺はとても嬉しいことなのだと思う』

 

『…………』

 

『……静雅? どうかしたか?』

 

『いや、何でもない……』

 

 侠の言い分で、静雅は彼の現状の目標を知った。

 

 

 

 

 

 ──辰上家の本家に認めてもらう。

 

 

 

 

 

 至ってシンプルな彼の願いだろう。何時か彼の言われようのない罵倒が止まり、彼を認めてもらう事を。

 

 静雅だって、それを願いたい。しかし、彼からの主観だと本家の事をどうも信じることが出来なかった。

 

 だからこそ、彼は隠密に行動しては【証拠】を見つけることにした。どちらの証拠になってしまう事はわからない。少なくとも、最悪な事態の対策をしなければならない。会話でもなんでもいい。彼は証拠を記録できる一つの道具としてボイスレコーダーを携帯し、本家の息子と取り巻きが普段集まっている人気のない場所へと移動した。

 

 可能な限り気配を隠し、柱の陰から人物を確認する。静雅からみた人物達は、誰もガラが悪く見える。無論、見かけどおりに素行の悪い行動をしている人物もいるのだが……。

 

『──それでよ、またどうすれば良いんだ? 辰上家の本家の一人息子でもある【辰上崇也(そうや)】さんよ?』

 

「どうも何も、お前らがあいつに勝てないのはおかしいだろ! 何人がかりでしていると思っているんだ! あのはぐれ者の相手をっ!」

 

 はぐれ者──その固有名詞を静雅は侠の事だと察した。親友の話題が含まれていそうな話をすると思い、ボイスレコーダーの録音ボタンをオンする。

 

 そして──彼は話に集中。

 

『そんな事を言われても俺達はあんたの指示通りにやっているんだぜ? わざわざ敵対する役目をしているとはいえ……あいつはおかしいんだ』

 

『一対一で負けるのならまだわかるんだけどよ……。三人、五人、七人がかりであいつに現状負けているんだよな……』

 

「何故だ!? あいつは精々身体能力は俺と同じぐらいだぞっ! そいつに複数人でかかって負けるのはおかしいだろ!? しかもあのはぐれ者は無傷で報告してくる! どんな風に完封負けをしているんだっ」

 

『崇也さんもあいつといっぺん喧嘩してくださいよ。あいつは本当に異常でっせ』

 

 会話されていく中、察することがまず一つ。

 

「(……やはり! 侠の指示されていた内容は仕組まれたものだったのか! おそらく、侠を肉体的に傷つけるというのが目的みたいだが……そこらの何にもない、先祖返りと細胞で活性化されている侠がお前さん達に勝てるはずがないんだ。しかし……何故侠を騙す必要がある?)」

 

 考察していく静雅だが……その答えはすぐに知る事になる。

 

「あいつの存在で俺はどれだけ親に叱責されていると思う!?『はぐれ者に絶対勝て』『お前は本家を継ぐものとしての実力をつけろ』『本家の恥さらし』とまで罵倒されてっ! そして暢気にあいつは俺の上に立ち、親に言われても何にも気にしていない素振りを見せ、さらには勉強に関してもだ! 俺の自由時間は一週間の内三時間だけだというのに、あいつは俺ほどに勉強しなくてもずっと一位! こんな事があってたまるかっ!」

 

『俺はそいつと同じクラスだが……授業はまともに受けていそうで、実際受けてなかったんだよなぁ……。教科書とは違う本を開いては、何か書き続けているのをよく見る』

 

『そうそう、俺もそれは気になったんだ。あいつが席を外している内に、ノートを見たら──明らかに中学生がやるもんじゃねぇ内容を書いていた。よく見たらノートの題名で【大学受験振り返り】とか書いてあったんだ。図も書いてあったが意味不明なやつばっかで……あいつは、授業時間は大学受験の勉強にまわしているらしい』

 

「はぁっ!? 俺でも家庭教師で来年の高校受験に向けて勉強している最中だぞ!? だから、あいつは俺の詰まっていた問題をすらすら解いていたというのか……!? それで、あいつは俺以上に勉強の時間に費やして、それでも尚時間に余裕がある──糞がぁっ!!」

 

 辰上家本家の息子である崇也は近くにあったゴミ箱を力任せに蹴り飛ばした。中に入っていたゴミが散らばっている中で、静雅は侠について振り返る。

 

「(あいつは知識に貪欲だからなぁ……。小学校の頃から高校の勉強をし始めたときは狂ってるとは思った事がある。しかも授業時間に。過去に先生に見つかった時があったが……変に文句は言えないんだよな。授業の問題を当てられても難なく察して答える事が出来るし。むしろ先生は『授業内容を把握しているのなら仕方ない』と割り切った事もあったっけな……)」

 

 彼の思っている通りに、辰上侠は知識に貪欲である。疑問に思った事はすぐに追求をする。その事を繰り返していた結果……周りが学習しているモノに満足できなくなった。彼は知識の追求が趣味と言っても良い。知識を蓄えることで、人生に役立つと思っているのだ。

 

 それと同時に──本家に認めて貰いたいという本心もある。

 

 ゴミ箱を蹴り飛ばした彼を見て、取り巻きの一人は冗談のつもりで言ったのだが──

 

『どうすんだ? もしも辰上の当主があいつになったりしでもしたら──』

 

「それは絶対無いっ!!」

 

 響くような声に、周りの取り巻きは驚きの表情を浮かべた。その中、崇也はどこか怪しく笑いながら言葉を続ける。

 

「あのはぐれ者が辰上の当主になるなんざあり得ないんだよっ! あいつは現にあの変な分家以外の辰上家に大抵嫌われている! 辰上の血を持っていない奴が当主になる事なんて永遠に無い! 父や母も同じような事を言っているしな! 辰上の当主は俺のモノだ! 誰にも渡さないっ!!」

 

 そして歪んだ表情をしながら──言葉を言う。

 

「俺はあいつを辰上家とは認めない。精々俺の為に利用させてもらうだけだ。そう、永遠になぁっ!!」

 

 下品な笑い方をし始め、取り巻きは同調するかのように笑い始めた。その時の静雅は──今すぐ本家の息子を蹴り飛ばしたかった。

 

 大事な親友の思いを踏みにじり、くだらない感情に振り回されて。彼の願いという名の夢を。彼の好意を無下にして。

 

 静雅はこらえる。そうすることで冷静になっていく。ここで暴力を振るっては意味が無い。【証拠】は手に入れた。彼はボイスレコーダーの録音を止め、親友に伝えようと体を翻す──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──目の前に、手に持っていたカバンを落とした辰上侠の姿が視界に映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……侠っ!? 何時からそこに──」

 

「……ははは。さっきからいた。静雅の後を着けていったらこの様だ。今日も頼み事を頼まれていたんだが──そういう事だったのか──」

 

 侠の目は、光のあった目から光が無くなり……口元を動かして言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ──しても良いよなァ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静雅は一瞬にして鳥肌がたった。彼が今まで侠と過ごした中で、本気の怒りを見たことがなかった。単なる中学生の怒りなら単純なものだが……彼はそうじゃない。人間以上の体を持っており、普段は静雅がストッパーとなっていた。そして今──それが外れようとしている。

 

「お、おい!? こんな状況で暴力で訴えても──」

 

「邪魔だどけっ!!」

 

 侠は彼を突き飛ばしては、元凶となった辰上本家の息子へ駆け出していく。その走りを利用したまま──彼の顔に侠は、全力で殴り飛ばした。

 

「何だ──グァア!?」

 

 人間が出せる力を超えた拳。その一撃は対象を五メートルほど殴りとばした。そして、彼の顔の形が崩れかけている。おそらく、骨にまで影響を与えたのかもしれない。

 

 侠の出現、崇也の状態に困惑し始める取り巻き達。そして侠は再び動き出す。

 

「貴様らも同罪だっ! こんなクズの協力したことを一生後悔しろォ!」

 

 一人の取り巻きには鳩尾に拳を。違う取り巻きには首の後ろを狙った攻撃を。まだ我を取り戻した取り巻きの一部は侠に攻撃を仕掛けるものの……侠はその攻撃を察知しているのか、カウンターの要領で相手にダメージを与えさせ、気絶までさせて。

 

 取り巻きは五人ほどいた。しかし、侠が動く度に立っている人物達は減っておく。ほんの数分間で──侠の周りには立っている人物はいなくなった。

 

 尻餅をついているなかで、静雅は今彼の事を当てはめる言葉があるとしたら──【悪鬼羅刹】が最も当てはまった。それほど、彼は狂っているように見えた。

 

 そして侠は倒れている崇也へ近づき──蹴りをいれ始める。

 

「グッ!?」

 

「弱いなァ、貴様……よくそんなので当主になるとか言えたものだな? よそ者に負ける辰上の血筋が最もいらない奴だろ?」

 

 喋りを続けながら、侠は再び蹴りをいれる。

 

「カァッ!?」

 

「どうだァ? 見下していた相手に好き放題されるっていうのは? そいつは弱者の特権だから俺にはわからないが。だが──俺は悪くない。貴様が俺の事を【道具】として扱った事が発端だからなァ? ここでもう少し骨を数本、内蔵を破壊しても誰も文句は──」

 

「──侠。そのぐらいにしてやってくれ」

 

 決して静雅は今の侠に話し掛けた。すると彼は不機嫌そうにしながらも、顔だけを静雅に向けては否定的な言葉を。

 

「他人に指図される筋合いは無い」

 

「オレ達、他人じゃないだろう!? 幼い頃から過ごしてきた親友だろうがっ!」

 

「信用ならないな。どうせお前も内心では俺の事を軽蔑しているんだろうが? そんな言葉だけの事を誰が信じると思うんだ?」

 

 幼馴染みでもある静雅の言葉をまったく聞き入れようとしない。まるで──人間不信のように、彼の言葉を受け流している。

 

 だが、このまま続かせるわけにはいかない。静雅は必死に言葉を並べる。

 

「そいつを痛めつけたところで、お前さんの手や足が汚れるだけだ! どうせならこの場にいない、不適合者に制裁としてやれ! 過剰はアレだが、正当防衛ならまだマシだ! このままだと──お前さんはそいつと同類だぞっ!」

 

「……そいつは遺憾だな。では、これで引き上げるとしよう。もう、貴様達に費やした過去なぞ無駄なモノになってしまったが。もう、他人との過去は必要無い。信じられるのは俺自身だけというのがよくわかった。そして貴様達は──二度と俺に関わるな」

 

 複数を対象に言った侠の言葉に、何故か静雅自身も言われている気がした。侠は、その場を去って行く。

 

 彼を追いかけたかった静雅だが……それよりも、向かうべき場所がある。静雅はまずそこへ向かいに行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静雅の訪れた場所。そこは先ほど問題になった人物が住んでいる人物──辰上の本家だった。インターホンを鳴らし、受け答えする人物に否定的な返事をされたが……本家の息子について話があると切り出した時は了承し、家の中に入れた。そして──辰上家の当主、つまりは本家の息子の父親である。

 

 和室の部屋の中に一対一。そして、当主は話を聞く。

 

『……お前はあの分家のはぐれ者と仲が良かった奴だったな。急にどうした?』

 

「……現在、とある事が原因であなた様の息子は病院に運ばれています」

 

『なっ!? 一体何があったんだ!?』

 

 唐突に自分の子供が病院に運ばれていると知ったら驚愕しては、原因を究明するだろう。詰めるように机に乗りだし、情報を求めたが……彼はあるものを机に取り出し、説明を。

 

「まずは、これについてお聞きください」

 

 静雅は──ボイスレコーダーの再生ボタンを押した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──以上が原因のなった事です。あなた様の息子が侠の好意を無下にしたからこそ……起きた出来事です。侠を落とそうとしては、逆に返り討ちに遭いました。これを聞いた他者にとっては、その息子が悪いと言うでしょうね……」

 

『……あのドラ息子……!』

 

 ボイスレコーダーの電源を切り、当主に事の顛末を伝えた静雅。一瞬当主は自身の息子に対して怒りを感じていたが、すぐに話を切り替えた。

 

『何故あのはぐれ者が俺の息子に手をあげた!? そんなの、俺達が普段言っている言葉と変わりが無いだろうっ!? はぐれ者をそう言って何が悪いっ! あいつは俺達辰上家とは関係人物だろうがっ!?』

 

「──うるせぇよ、おっさん。お前さんは自分自身の行動をを振り返ろうとしないのか?」

 

 先ほどまで丁寧な言葉使いだった静雅だが、目の前の人物の言葉に対応を変えた。

 

『お前……! 俺が誰だかわかっているのか!』

 

「逆に聞こう。オレを誰だと思う? 今ではそれなりに人気があるモデルだぞ? 今では、テレビ局なりラジオなりそれなりのコネが手元にある本堂静雅だ。ここまで言えばわかるな?」

 

『餓鬼が何を言っているんだ!? その気になればお前なんて簡単に──』

 

 

 

 

 

 

 

「オレの手に掛かればこの【辰上】を社会的抹殺が出来るんだぞ? 立場をわかっているのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 冷めた静雅の言葉。急な話の持ち出しに当主は戸惑うばかりだ。

 

『……何?』

 

「オレは出来るだけ、お前さん達の失態は記録している。お前さん達がとある組織を脅しているのと同じようにだ。例えば──実体実験の証拠もきっちりと残している」

 

『なっ……!? その案件は、俺達と本家と密接に関わっていた奴しか知らないはず……!』

 

「誰かが喋ったんだろうな。だからこそオレの耳に届いている。その証拠まで丁寧によ」

 

 一部本当だが、一部嘘が混じっている。本堂静雅はあくまで聞かされているだけ。それも、自分の親に侠の義理の親たちによって。彼の言い分はどこか裏切った人物がいるかのような言いぐさだ。少なくとも、当主はそう勘違いをしていっている。

 

 そして、具体的な証拠は──侠本人である。あの実験での唯一の生き残り。彼の存在こそが証拠なのだ。さらに詳しくは、胸元に手術をした後が残っている。侠本人は気にしていないようだが……。

 

 当主は動揺を見せている中で、静雅は話を続ける。

 

「それでこのボイスレコーダーの内容……こりゃあ、シリアスものの企画に持ってこいだよなぁ? イジメ問題にも捉えられる会話だ。辰上家の息子の愚行をテレビでこういうのを流したら──この辰上は社会的に終わるだろうな、確実に。あ、ちゃんとバックアップは取っているからな。それでオレがこの本家から一定時間出てこなかった場合は、そのバックアップをマネージャーに流して貰うことになっている。無駄な抵抗は止めて──侠に危害を与えても同様だ。オレがそれを知った時は──このボイスレコーダーの内容をテレビ局に流す」

 

『この……糞餓鬼……!』

 

 一部嘘である。静雅はこのボイスレコーダーのバックアップはとっていない。一つだけのオリジナルデータだ。それに伴い、マネージャーにこの事は話していない。直接ここまで来たのだ。真実味がある嘘を混ぜては、状況を支配する。それが──静雅の意地の悪い性質だったりする。

 

 彼は立ち上がり、顔を怒りで赤く染めながら激昂の表情を見せている当主に別れの挨拶を。

 

「もう、侠に危害は加えさせない。今後も侠に危害を与えるというのなら──その時は社会的な死を迎えると思え」

 

 そのまま彼は本家を去って行った。後を着けられていない事を確認し、静雅はこれからの行動の予定を決める。

 

「……侠を正気に戻さなくてはいけない。今回の裏切りで、あいつは忘れているんだ──心から想っている人物達がすぐ傍にいることを。まずは……陽花に柊司さんに話す事が先決だな。待ってろ、侠……! すぐに目を覚まさせてやる……!」

 

 彼は悩みながらも、行動に移した……。

 

 

 

 

 

 

 

 この心から信頼して欲しかった人物の裏切りを、まっすぐな夢を否定され。これをきっかけに他者と深く関わることを止めた辰上侠の【ある時】である。

 

 

 

 

 

 

 

 




 結構彼の精神は追い込まれていたんです……。

 ではまた。
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