三人称視点。
では本編どうぞ。
博麗霊夢は現在、飛翔しては雲海を抜けている最中だった。理由は一つ、今の侠の状態で、最も詳しい人物が天人である比那名居天子だからだ。本当なら彼の親友である本堂静雅に聞けば良いのだが……今は侠によって拉致され、行方不明に近い。藁にすがる思いで彼女は天界へと急ぐ。
「(不良天人に侠の事を聞いたら……私は侠を探す手段を見つけなきゃいけない。紫みたいにスキマの中に隠れている中……どうやって侠を探す……?)」
まだ雲海を通過途中の中で──現れる人物が一人。羽衣を纏っている、霊夢とは顔見知りの竜宮の使い──永江衣玖だ。彼女もどこか焦燥の表情を浮かべているが……彼女は霊夢を見つけるなりすぐに話し掛けた。
「これは……霊夢さん。今、侠さんの様子がおかしいではないですか?」
「話は後! それよりも天子に聞かなきゃならない事があるんだから!」
霊夢は彼女を無視して飛翔を続ける。それでも衣玖は話すことがまだあるのか、霊夢と併走するように飛翔を続けながら霊夢に言葉を続ける。
「総領娘様に? それはどのような用件で?」
「侠が何か凄いおかしくなっているのよ! 言葉が荒っぽくなって、かなり攻撃的な性格になって! 過去にその侠を見た事があると思われている天子に、今の状態の侠について聞かなきゃならないの!」
「……荒っぽい侠さん、そして言葉を行動──! 成る程……察しがつきました。ならば総領娘様と直接会って情報交換をしたほうがよろしいですね。霊夢さん、私が案内しますので着いてきてください!」
霊夢の前に衣玖が先導。彼女の飛翔の後を霊夢は着いていく。衣玖と天子はそれなりに関係がある間柄だ。彼女がいれば中継役にもなり、話が円滑に進められるかもしれないと霊夢は考えたため。
そして雲海を抜け──有頂天に着いた。彼女達が降り立っている中、遠くを見つめるように遠くを眺めている人物が一人。腰には七色の飾りと緋色の剣が付けられており、腰まで伸びた長髪に、黒い帽子にはアクセサリーのように桃がある。その人物こそが霊夢の探していた天人である比那名居天子である。
彼女も二人の気配を察したのだろう。振り返っては衣玖と霊夢に声を掛けた。
「……何か地上が騒がしいみたいだけど……衣玖に霊夢? 私に何か用?」
「総領娘様。霊夢さんから少しばかりか聞きたい情報があるみたいなんです。それで──侠さん関連の事です」
「──! ……霊夢、言ってみなさい。この天人の私が聞いてあげようじゃないの」
天子自身も興味のある内容が含まれていたのだろう。天子は耳を傾けては霊夢の話を聞くことに。
「……今の侠がおかしくてね。過去に侠は天界で怒りを表したから、当事者であるあんたに聞きに来たのよ。荒っぽい侠の状態についてね」
「荒っぽい侠……それってもしかして、何というか目に光がなくて……攻撃的な口調になった侠の事?」
「! そう、それよ! それで今、その侠がその状態で暴れまくっているのよ! それで紫を瀕死の状況まで追い込んで、今は魔理沙達が侠を元に戻そうとしているのよ!」
「……ふーん。スキマ妖怪をそこまでする実力があるだなんて……この間戦ったときは本気じゃなかったことは確かね……。で? 私にどうしろっていうの? まさか侠を止めにいけと?」
彼女の質問に霊夢は首を横に振って否定。話を続ける。
「いっそそれでも良いけど違うわ。その侠になる条件みたいなの事知りたいのよ。話し合って情報を交換し合った結果、あの侠になる条件としては【信じていた事の裏切り】か【一定以上の怒り】らしいの。過去に侠が言っていた情報を合わせると後者のようだけど……実際はどうだった?」
「……後者よ。その時の私の状態が過去の侠と被ったらしいわ」
「(……どういう点で被ったのかは知らないけど……天子の場合は怒りなのね。でも、紫にあんな事をしたのは【一定以上の怒り】で合っているのかしら……)」
霊夢は考える。何が原因で【裏】の侠になったのか。どういう過程でなってしまったのかを。
彼女が考えている間に衣玖も天子に質問をし始める。
「現状、私は四代目龍神様に侠さんがおかしい事を伝えられ、情報を集めていたのですが……紫さんが関係するのは確かですね。総領娘様、紫さんと侠さんで何か思い当たる事はありますか?」
「思い当たる事……それでさっきの侠になる条件と合わせると──あるわね」
どうやら思い当たる節があるらしい。その発言に二人は必然と興味を持ち、霊夢がその思い当たる事に詰め寄るようにして質問を。
「!? どんな事が思い当たったのよ!?」
「……侠は何時か外界に帰っちゃうでしょ? それで侠は今じゃ龍神の先祖返りで異変解決者でもあるじゃない? 侠はもう幻想郷中に知名度がある。もう、侠は幻想郷の代表的な人物と言っても過言はないわ」
「総領娘様……つまりどういう事ですか?」
衣玖の問いかけに、天子は自身の考えを告げる。
「私の予想が正しければ──あのスキマ妖怪は侠を外界に帰すつもりは無いと思うわ」
「……紫が侠を外界に帰さない? それって約束を破る事──!? それって……もしかして!?」
言いかけている途中で霊夢は察してしまった。同時に衣玖も驚愕の表情を浮かべながら。天子はまだ自身の考えがあるようで話を続ける。
「大方予想はついたとは思うけど……侠は元々外界に帰る前提でこの幻想郷にいる。今ではもう幻想郷に侠がいて当たり前。それに性格も良いしね。でも……あの胡散臭いスキマ妖怪が考えそうなことじゃない。『こんな利点を持つ人物を外界に帰させるわけにはいかない』的な事を。それはもちろん、侠は怒っても当然な事だわ。そういう約束を信じていたのにも関わらず、帰さない事を知ったら? 怒りももちろんだけど──【信じていた事の裏切り】が最も当てはまるんじゃないかしら? スキマ妖怪への怒りだけならやっつけて終わりだろうし。今でも侠がその状態というのなら……まだ目的があるんじゃないの? その状態でやらなければいけない事とか」
「じゃあ、侠が言っていた騙されたというのは──紫が侠に嘘を吹き込んだ所為でもあるの……!?」
彼と対面していたときに言っていた事。確かに紫は自身の事を騙したと彼は言っていた。それはとある約束事だった──【外界に帰させる】という約束事を紫が裏切った事になる。そう考えてくると……彼の怒りは否定できない。そういう約束柄だったにも関わらず、どういう経緯で知ったかはともかく……彼が嫌いな【信じていた事の裏切り】だったのだから。
だが、それでもまだ謎の部分はある。衣玖もそう考えたのか、自分の考えを意見する。
「ならば……侠さんの目的は【外界に帰る】事。しかし……それならば、まだ幻想郷にいる理由がわかりません。あの幻想郷の管理人の力を手に入れたというのなら、すぐに帰ることは出来るはず……」
「……そうよね。それで静雅を強引に攫った意味がわからない。それならば、事情を話しては帰ることを促したはず。でも、静雅の言葉を待たず侠はあいつを連れ去ったわ。でも……まだ、ヒントになるような事を侠は言っていたかも──」
霊夢はさらに考える。何故、すぐに帰る事はしないでまだ幻想郷にいるのか。そして、彼女は侠のある言葉を思い起こす──
『──これからの目的を達成するためには膨大な力と時間が消費するんでな』
「……まだ、紫の能力は使いこなせてないからこそ、この幻想郷にいる……?」
霊夢が思い起こして呟いた言葉。その言葉を聞き返すように天子が話し掛けた。
「まだ、使いこなしていない……?」
「そもそも紫の能力って結構複雑なのも含めて、難しいものなのよ。確か外界っていうのは無限の存在があるって聞いたことあるわ。紫は頑なに隠しているみたいだけど……。多分、今の侠は元々いた外界を見つけるのは時間がかかるはず。元々いた場所の座標っていうの? 紫から教えて貰うのなら別だけど……今回の場合は教えて貰っていないと思うわ。それは河原ので散らばっているほぼ同じような小石を特別な一つだけの小石を見つけるようなもの。まだ、侠がいた外界を見つけられていないから幻想郷に今もいるんだと思うわ」
霊夢の考察に少し納得する様子を見せる天子。しかし……衣玖はまだ納得しきれないようだ。彼女も自分の意見を述べる。
「それならば……何故、侠さんは外に出ているのですか? 外界に帰るという目的ならば……その特殊な空間の中に居続ければ良いはず。それなのに現在、妖怪の山で非道を行っているという事に意味はあるんでしょうか……?」
「……そうなのよね。本当に外界に帰るだけの目的なら、紫みたいにスキマの空間に居続ければ良いはずなんだけど……。侠は頭が回るから、まだ何か他に目的がありそうなのよね……」
霊夢と衣玖が考えを交換しあう中──天子は飛翔して、地上を目指す準備を始めた。完全に移動する前に衣玖は呼び止めようとしたが──
「総領娘様!? もしや地上に行って──」
「今の侠が私のために怒った状態ならば、まだ私の話が通用するかもしれない! あいつは私の【友達】だから──私が止めてみるのよ!」
そのまま天子は有頂天から雲海へ向かい始めた。それに着いていくように霊夢も向かい始めようとしたのだが……衣玖に制止の声がかかる。
「……少しばかりか良いですか、霊夢さん?」
「何よ衣玖!? 私はあの天子に着いていって侠を止めなくちゃ──」
「いえ。総領娘様は【友人】として侠さんを止めようとしています。霊夢さんは──何として、侠さんを止めに行くのですか?」
どこか意味が深そうな衣玖の質問。霊夢はすぐに質問に応えようとしたのだが……どこか、言葉を詰まらせながら迷う。
「それはもちろん、異変解決者として──あれ……? これは異変なのかしら……? でも、侠が今の状態になるのも頷ける……。しかもこれは、侠自身にとっては間違っていない行動……? 侠は確かに何時か外界に帰らなくちゃいけない……。今、私がしようとしていることは、侠にとっても正しい事なの……?」
彼女は迷う。霊夢は彼が何時か外界に帰ることは胸に刻んでいた。ただ、どういう方法であれ……早くなっただけで、外界に帰ろうとしている。もしも、そういう目的が無く、紫に害する行動ならば単純なのだが……今回のケースは違う。ある意味では紫が引き金だ。彼女の行動に逆らう為に侠は行動している。中には博麗の巫女は、迷い込んできた外来人を帰すという役目もある。侠は迷い込んできた外来人ではないが……【外界に帰る前提】の外来人だ。仮に異変と捉えて彼を退治したとすれば──彼はどうなる?
「私は……何のために、侠を止めようとしている……?」
霊夢は膝を突き、自身の胸に手を置きながら彼の事を思い浮かぶ度に霊夢は、心臓を鷲掴みにされたような痛みが広がる。何のために彼の行動を止めようとしているのか。それがわからなくなってくる。
彼女の様子に衣玖は、ゆっくりととある事について話し掛けてきた。
「……本当は、こういうときに言うべきではないと思いますが……少なくとも、霊夢さんは侠さんに対して【特別な好意】を持っていると思います」
「……【特別な好意】?」
「はい。以前に侠さんと静雅さん、さらには総領娘様が地底に向かった時です。その時の霊夢さんは感情的に侠さんを取り戻そうと奮闘していました。私からの見解で、今までの霊夢さんならば……そういう行動をとったことは私にとっては意外な事でした。どこからか霊夢さんは、他者に対して深く興味は持っていない。それ以前にそれ以上に踏み込まない。言い方はアレですが、どういう人物であれ基本は他者に無関心だったと私は思います」
衣玖は霊夢の手を取って立ち上がらせながら、話を続ける。
「ここからは私の推測ですが……侠さんの事を考えると、胸が締め付けられるような痛みがしませんか?」
「……今もしているわよ。どうしてか知らないけど……」
「……では、二つ目。彼が異性の他人と身近にいた場合、その事について負の感情が湧いてきたりしませんでした? もしくは羨ましいと思ったりなど」
「……妙にイラついた時があったわね。過去に私が侠とやろうとした事が先にやられていたり、私と……その、ここでは言いづらい事に侠は他人となってて──ってそれがどうしたのよ!? 別に侠とそれは関係無いんじゃ──」
「落ち着いてください霊夢さん。次の質問で最後です」
頬を赤らめながら霊夢は衣玖に不満をぶつけるように言うが、衣玖は自身の人差し指を唇に当ててジェスチャーを伝えると……まだどこか納得しきれない様子だったが、霊夢は衣玖に耳を傾ける。
「……で? 最後の質問は何なのよ? 質問次第であんたをしばくわよ?」
「それはご遠慮願いたいですが──」
衣玖は言葉を句切り──最後の質問を。
「──侠さんが身近にいる時──妙に胸の鼓動が早くなったり、嬉しく感じたりする事はありましたか?」
「…………確かに侠の事を思い浮かべては不整脈になったり、気分が良くなった事はあったわ。でも……それがどうしたっていうのよ?」
わかりやすい衣玖の質問なのだが、霊夢はまだ意図がわからないらしく困惑している。三つの質問を通して理解してない彼女に衣玖は、はっきりと告げる。
「もしかしてだとは思いましたが……霊夢さん。あなたは侠さんに──恋をしているのです」
「……………………こい?」
「はい。異性についての【恋】です。感情で表すのなら恋愛感情です」
衣玖の発言に目を丸くしながら復唱するものの、彼女は詳しい説明を加えながら言う。
少しの沈黙の後……霊夢は確かめるように、衣玖へと問いかける。
「……それって……私が侠の事を好きって事?」
「はい」
「……………………………………えぇええええええええええっ!?」
彼女の肯定に霊夢は声にならない悲鳴なような驚きを。それと同時に霊夢の顔はみるみる肌が赤くなっていく。言葉もどこか途切れ途切れになりながら。
「な、何で私、が、侠の事、を……!?」
「……霊夢さんが侠さんにどのようにして、そのような感情に発展したのかはわかりません。ですが……客観的に言うならば、霊夢さんは侠さんに好意があるように感じます。ですが──恥ずかしがる事ではありません。霊夢さんも年頃の女の方なのですから、年相応の感情があっても不思議は無いんですよ。その相手が侠さんだった。むしろ、そのような感情があった事に誇っても良いのです。これで、侠さんを止める理由が見つかるはずです」
「……侠を、止める理由……?」
急な事を言われて頭の回転が遅くなっている霊夢は、まだ自力では答えを見つける事が出来ていないようだ。彼女の道を示すように衣玖は言葉を繋げる。
「本当に過ごしたい人と日常を過ごしたいのなら、傍にいたいという気持ちがあるはずです。ですが、今回の場合だと……侠さんが霊夢さんの傍を離れようとしている。霊夢さんは……どうしたいですか? 博麗の巫女としてではなく、霊夢さん自身は侠さんをどうしたいですか……?」
「…………」
霊夢は考える。侠とどうしたいのか。考えている時に──とある会話を思い起こす。
『ううん。本当はね……単純にあんたのこと、もっと知りたかったのよ』
場所は博麗神社の浴場という不思議な場所だが……二人だけの空間だけで交わした言葉。霊夢は、侠の事を知りたいと思っている。
『もし、侠がいなくなったら……私に残るのは侠と過ごした思い出だけ。せっかく居候しているのに、それだけってあんまりじゃない?』
このまま会えなくなるのはあんまりだ。まだ、彼との思い出が欲しい。
『ねぇ……侠の事、教えてくれない?』
だからこそ、彼女は彼の事を知りたい。その質問に、彼はこう答えていた。
『……今はまだ話すことが出来ないよ。外界に戻って、過去と真実を知る必要がある。外界に帰って区切りが付いて、幻想郷に戻ってくることが出来たら……その時には話せるかもしれない。本当の自分を』
彼は答えた。何時かは彼女に自分のことを話せると。
だが……今の彼は盲目だ。幻想郷にいる人物を敵視し、彼の事を心から想っている人物の事を忘れてしまっている。そして何より──彼と結んでいたとある約束を忘れているのだ。
そして今なら、彼の親友の言葉の意味がわかる。
『お前さん達が侠とどう接しようと全然構わない。だが、プラスとして接していくなら──侠を裏切るな。これだけは約束して欲しい』
彼の親友の願い。霊夢は思う。侠が最も欲しいモノ。それは──自分のことを受け入れてくれる存在。そのお互い信頼関係を元に、裏切りなどがない理想の関係。その理想関係が成り立っているのは静雅と、彼を受け入れた家族。
だから──彼女は決心する。
「博麗の巫女でも、異変解決者でも何でもない! 博麗霊夢が、侠を止める! あいつの事が──好きだから! 私の我が儘で侠を止めるっ!!」
彼女はすぐさま有頂天から、雲海に向けて下降し始める。全ては、自分の我が儘な想いの為に。
彼女を見送った衣玖は、疲れたようにしながら言葉を漏らす。
「……四代目龍神様から、『博麗霊夢の恋心を自覚させろ』と言われた時は本当に焦りましたよ……。でも……これで正しい方向へ導けるはずですよね……? 後は頼みましたよ、皆さん……」
衣玖は彼女達と彼の無事を祈った……。
……かなりここまで書くのに長い時間がかかりました……。
ではまた。
―P,S―
他サイトの画像投稿サイトにて、表主人公の辰上侠を描いていただきました! 右が『侠君』で左が『侠さん』です(侠さんについては共通・第十六章の八話参照)
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