三人称視点。
では本編どうぞ。
妖夢は戦闘から離脱し、未だに気絶している咲夜を背負っては──人里に向かっていた。まだ妖怪の山からは近い場所でもあり、休める場所があると判断したからだ。それと同時に──救援も依頼するのと同時に。
彼女は人里に着き、真っ先に向かったのは寺子屋。侠とそれなりに関わった人物──上白沢慧音に事情を話す事に決めた。妖夢は扉の前に着くと、必死の声で慧音に呼びかける。
「慧音さん! いらっしゃいますか!」
『──ん? その声は──妖夢か? 今、不可解な事が起きていて負傷した人間や妖怪が次々と現れているんだが……そんな焦るような声で、どうかしたのか?』
数秒経つと、ドアを開けて慧音が出迎える。彼女がまず目にしたのは──満身創痍の咲夜。彼女の様子を見るなり慧音は驚愕しながらも情報を求めた。
「!? その人物は紅魔館の……!? 一体どうしたというんだ!?」
「話は後でキチンとします! まずは咲夜さんを介抱しないといけないのでっ! どうかお願いします!」
「あ、あぁ! わかった!」
慧音の迅速な協力により、咲夜は床を用意して彼女を寝かせる。最低限の応急処置をしている中で、妖夢は今の侠の事についての説明をする。
彼の同じ場で働いている彼女にとっては、それは信じられない内容だった。
「バカな……!? あの侠が、そのような暴挙をしているなど……!?」
「……私だって信じたくなかったです。しかし……現に、侠さんは何かの原因で暴れ回っているのは確かなんです……」
「それで八雲紫までもやられるとは……。もう、誰が侠に勝てるんだ!? 龍神の先祖返りで、それなりの実力もある……どうすれば良い……!?」
慧音は状況を飲み込みながらこれからのことを考える。考えがまとまり……妖夢に行動を促した。
「……少し経てば、妹紅も寺子屋に来るはずだ。専門に咲夜を看て貰った方が良い。妹紅にはまず永遠亭の人物を呼ぶように頼んでおく。その間──妖夢は魔理沙達に加勢してやってくれ! 私も妹紅に頼み終えた後、すぐに向かう!」
「はい! わかりました!」
妖夢は寺子屋を飛び出して、魔理沙達への元へと向かっていった……。
妖夢は全速力で戦場へと向かっていく。息を切らしながら、少しでも彼女達へ加勢するため。
「(……どうかご無事で……!)」
そして、見覚えがある場所へとたどり着く。そこで目にした光景は──
もう満身創痍で地面に伏して倒れている──魔理沙にアリス、早苗の姿だった。
「…………!? そんな……咲夜さんを避難させている間に……!?」
信じられないような発言の中で、彼女は思考回路が鈍っていく中──何ともない様子で妖夢の存在を確認した──辰上侠とルーミアが声を掛ける。
「ようやく戻ってきたみたいだなァ? だが……ちょうど少し前に終わったところだ」
「一人増えても、もう同じよね……正直、私は飽きてきているところだけど」
二人はまだ余裕が見える。それに対して魔理沙達は動く様子は無い。明らかに妖夢だけでは対処しきれないかもしれない。
だが──彼女は諦めない。楼観剣と白楼剣を構えて──決意を二人に見せた。
「例え、どのような不利な状況でも──諦めませんっ! かつて、侠さんが手負いで私と対峙した時みたいに! あなたと戦って学んだ事です! こちらは……まだ戦えますっ!」
「……はァ。また相手しなければならないのか──なら、今度は手加減しない」
彼の持つ膨大な霊力が溢れ出す。彼の態度と圧力に当てられて妖夢は震えている中─
『あら──弱い物イジメをしてまでどうしたのかしら?』
上空から響く、甲高い声。三人は声のした方向に顔を向けると──大きな要石が、空から地面に落ちてきた。発生する土埃を三人は払いながら、要石から降りた一人の少女──比那名居天子が妖夢の目の前に、侠とルーミアの前に立ちはだかった。
彼女とまともに対面したことがなかったであろうルーミアは、侠に彼女の存在について問いかける。
「……侠? この女は何?」
「……比那名居天子、天人だ。少々……関わりがある」
天子が現れてからどこか侠は遠慮気味だ。そんな彼をよそに、天子は今の状況を確認する。
「んーと……魔法使い二人と色違いの巫女はダウンしていて……剣士のあんたがまだ残っているわね。妖夢……だったかしら?」
「えっと……はい。そうです」
「……今の侠はよほどな実力が無い限り勝てないわ。まだ、侠は全然奥の手を残している。あんた一人で立ち向かっても……無理よ。おそらくそこの妖怪の相手もしないといけないし……どう考えても勝ち目は無いわ」
現状について語る天子の言葉に、納得しきれていないのだろう。妖夢は感情的に天子に口論しようとしたが──
「! それとこれは話は別です! 今はとにかく時間を──」
「気持ちは分かるけどね。でも……私は色々と侠に聞きたい事があるの。そういうのは話が終わった後にして」
妖夢を制した天子は侠へと体の向きを変え──とある話について切り出した。
「侠……あんたがあのスキマ妖怪に対して怒りを感じたのは同情してあげる。あいつは胡散臭いしね。それで、侠……前に私は言ったわよね? あんたの親友と地底から戻って、ふと私が声を掛けた言葉は覚えてる?『何かあった時は私に頼りなさい』って。ぶっちゃけるなら、その時だったと思うけど……どうして何も言ってくれなかったのかしら?」
過去に天子が侠に言った言葉。どこか心配するような彼女の声。おそらく彼もそれはわかっていたのだろう──彼は彼女の言葉に答えた。
「……頼らなかったんじゃない。頼れなかったんだ」
光の無い目のままで、悲しげな瞳で天子を見る。彼の言葉に彼女は復唱しながら問いかけた。
「……頼れなかった? どういう意味よ?」
「言葉の意味だ。ルーミアは俺の話を聞いて、それを承知してわざわざ外界の俺に協力してくれている。単に気まぐれかもしれないが……そういう約束の下だ。わざわざ……天子まで敵に回る必要はない」
「敵……? それってどういう──」
「……興がそがれた。行くぞ、ルーミア」
体を翻してはルーミアに行動を促していた時──二人に声を掛ける第三者の声。
『──侠。随分と早苗が世話になったみたいだな……』
『それでここまでやるなんて……明らかに普段の侠を考えれば正気じゃないよね』
一人は大きなしめ縄を背負い。一人は目玉がついた特徴的な帽子を被り。彼女達は守矢神社の二柱とも言われている──八坂神奈子と洩矢諏訪子だ。静かに見えるが……彼女達にも怒りの表情が見られる。
彼女達の存在を確認した侠は体を向けたが……特に気にすることは無く、彼は言葉を発する。
「ちょうど良いところに来たな。この二人じゃ大変だろうから、適当に倒れている三人を運んでいってくれ。能力でやっても良いが……如何せん、めんどくさくてな」
「……龍神の先祖返りなどは関係無い! 私達が侠を止めるっ!」
「そうだね! 早苗をここまでやってくれたんだから、責任を取って貰わなくちゃ!」
二人は一斉に侠とルーミアに密度の濃い弾幕を放った。妖夢と天子はその膨大な弾幕量に呆然としていたが……侠はスペルカードを取り出し、宣言。
「──発展【神秘的な多重結界】」
宣言した時、侠とルーミアの周りには何重にも重なった、四方を囲う赤い色の結界が展開された。その防御力は硬く、最高クラスの神々の弾幕に攻撃を受けてもびくともしない。
そして……彼の宣言したスペルカードの語感に、身近に覚えがあったのは妖夢。
「そのスペルカードは──紫様の【結界『魅力的な四重結界』】!? 紫様のスペルカードまで──」
「貴様らに言う。今度俺に喧嘩を売るような行動をとったら──完膚なきままに叩き潰してやる」
結界越しでも伝わる彼のプレッシャー。普段の態度と違う所為もあるのか、二柱も言葉が詰まる。彼は結界内に黒い空間を作り出し──ルーミアと共に入って行く。そして黒い空間が閉じられた頃には……結界も消える。残ったのは──虚無感。
彼の重圧が無くなり、発言したのは神奈子。彼女の発言の後に続いたのは諏訪子。
「……今までの侠とはまるっきりの別人だぞ……? 一体、侠に何があったんだ……?」
「……侠の気配が変わっていて、追えない……。もう、侠は何がしたいの……? 早苗の部屋にあったコートを取り戻しては、幻想郷住民に喧嘩を売るような事までして……」
その状況下の中で、遅れてきた人物がやってくる。その人物は妖夢が救援に頼んだ人物でもある──上白沢慧音。
「遅れてすまない──!? 何だこの状況は……!? これが全部、侠がやった事なのか……!?」
彼女が今の状況に驚いている中、慧音の存在に天子は妖夢に尋ねる。
「……誰?」
「……侠さんと共に寺子屋で一緒に過ごしていた慧音さんです。咲夜さんを送り届けた後、増援としてお願いしたのですが……」
「ある意味では、遅れて正解だったわね……でも、霊夢が来るのは遅いわね──」
ちょうど天子が呟いた頃……上空から一人の少女が舞い降りた。その人物は天子が呟いていた人物である博麗霊夢である。
「……空から変な結界が見えたと思ったけど……侠はもういないみたいね。それで、この状況……」
「霊夢。あんた遅かったみたいだけど……何していたのよ? もう少し早ければ侠と対面出来たっていうのに」
天子からの疑問に霊夢は体の向きを変えて、少し控えめに彼女の質問に答える。
「……衣玖とちょっと話していてね。気持ちの整理が終わったのよ」
「(……? 気持ちの整理ってどういう事かしら……?)」
霊夢は天子の質問に答え終わった後。彼女が侠の居候先というのもあるのだろう。慧音は改めて侠の事について問いかける。
「霊夢……何故、侠は幻想郷に敵対する行動を取り始めているんだ?」
「それについては後で話すわ。それで……魔理沙達を私の神社まで運ぶわよ。咲夜も改めて連れてきて。それで……場合によってはあんた達神様にも協力してもらう事があるんだから」
「……一先ずは協定だな」
「だね。何かスキマ妖怪みたいな能力を手に入れている侠だし、どこからか出現するのかわからないもんね」
「そうしてくれると助かるわ。それで──文。いるんでしょう?」
二柱に協力を煽った後、霊夢は体の向きを変えずにとある人物の名前を呼ぶと──木陰からひょっこり現れる一人の烏天狗。
「……私、出来るだけ気配を隠していましたよ? それでここに来たばかりの霊夢さんに見抜かれるとは……」
「この二柱に侠の状態を伝えたのはあんたでしょ? 正直、今の侠は本気に近い状態。それなりに妖怪の山でそれなりの実力を持っているのはその二人。それで天狗は侠に危害を与えられない。それだったら早苗の身近で実力者を増援として呼ぶのが最善の策。それくらい考えればわかるじゃない」
「……本当に霊夢さんですか?」
「どういう意味よ!?」
文の発言に予想出来ていなかった為か、霊夢は戸惑いを隠せないでいた。先ほどの霊夢の発言に、心の中で考える妖夢。
「(……過去に侠さんの過去云々の事を話した霊夢さんみたく、異様に頭の回転が速いような……?)」
彼女が考えている中で、仕切り直しという事だろうか……不満を抑えながら、霊夢は文にある頼み事をする。
「しばきたい気分だけど……まぁ良いわ。その代わりに文は伝言を頼んで欲しいのよ。この事をレミリアにね。それで『最良の運命になりつつあるか?』って事を聞いてきて頂戴」
「は、はぁ……わかりました」
彼女の指示通りに、文は紅魔館の方角へ飛んでいく。霊夢は見送った後、慧音にも行動を促した。
「それで慧音には……永遠亭の治療出来る奴を最低一人連れてきて欲しいの。念のため魔理沙達の他に、紫の事も看てほしいから」
「その事なら妹紅が寺子屋に呼んでいるはずだ。私は寺子屋に戻り次第、博麗神社に行くように勧めよう。そして……侠のこの事は人里の住民には内密にしておく。もしもこれで侠に影響されて暴動が起こったらシャレにならないからな……」
「ならちょうど良いわね。じゃあ他は……魔理沙達を運びましょうか。一応、永遠亭の誰かには看てもらわないとね……」
霊夢の迅速な命令の行動をここのいる人物疑問に思ったのだが……間違ったことは発言していない。妖夢達は協力して魔理沙達を運ぼうとしている中、霊夢は思う。
「(……侠、待っていなさい! 必ずあんたを元に戻してみせる!)」
一先ずの情報交換になりそうです。
ではまた。