幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 彼のこれから、彼女のこれから。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


五話 『彼女を迎えて』

「…………」

 

「…………」

 

 侠は目の前にいる少女──博麗霊夢と視線を交わしていた。霊夢は侠を見送り。彼女は幻想郷になくてはならない存在だ。加え、幻想郷を担う存在のはず。幻想側の人物が──現実側の世界に来ているという事態が起きている。

 

 その場にいた人物達は沈黙していたが……その静寂を破ったのは侠だった。

 

「──霊夢っ!? 何で自分の家にいるの!?」

 

「えっと、まぁ……紫に……」

 

「だろうね! 紫さんの所為だろうねっ!」

 

 予想がつきすぎる答えに侠はある意味焦りながらも、彼の義妹である陽花は驚愕としている。

 

「……お兄ちゃんが他人を名前で呼んでる……!?」

 

「……さすがのオレもびっくりだなぁ……。まさかこの段階で霊夢がいるとは……」

 

 静雅も驚きを隠せない中……男として髪は標準より少し長めであり、黒いワイシャツを着てはジーンズを履いて、少し痩せ気味の大人の男性。侠の養父でもある人物──辰上柊史(しゅうじ)が納得するように言っていた。

 

「成る程。どうやら霊夢君の言っていた事は本当だったみたいだ。なぁ──佳織(かおり)?」

 

『そうですね、柊史さん。霊夢ちゃんが話していたことは本当──それは【幻想郷】が実在しているという真実……』

 

 彼の言葉に賛同した人物は全体的に白い服を着ており、カーディガンにロングスカート。髪の毛は腰まで長くては後ろ髪の先は縦ロールが掛かっている。おっとりした口調で、外見年齢は二十代にも見えるという──侠の義母である辰上佳織である。

 

 そして侠の養父である柊史は静雅に頼むように話し掛ける。

 

「静雅君。来客してくれて早々に悪いんだけど……陽花君と買い物をしてきてくれないか? 少し侠君と霊夢君と話して──彼女を迎えたいと思うから」

 

「了解した、柊史さん。ほら、陽花行くぞ」

 

「え!? お兄ちゃんが帰ってきたばっかりなのに!? お父さんには悪いけど、お兄ちゃんと──」

 

 父親の頼みごとに不満げな反応を示した陽花だが……彼女の母親でもある佳織は諭すように頼み込んだ。

 

「お願い、陽花。柊史さんの言う通りにしてくれたら──侠がハグしてくれるから」

 

「しずまっちゃんと行ってくるよ! お兄ちゃんも待っててね!」

 

「後で何を買って欲しいかメールするからねー」

 

 手のひらを返したかのように、陽花は内心呆れている静雅の手を引っ張っては出て行った。報酬が彼女にとって嬉しいのか、声が弾んでいたが。

 

 養母の発言に侠は溜息をつきながら反応を顕わに。

 

「養母さん……自分を出汁に使うのはちょっと……」

 

「陽花は昔から侠にべったりだもね。彼女の誘導するのは侠が一番なのよ、お兄ちゃん♪」

 

「はぁ……しばらく顔を合わせていなくても、養母さんはまったく変わりがないですね……」

 

「えぇ。侠は──元通りになっているわね。心の傷が癒えたのかしら? 霊夢ちゃんのおかげで♪」

 

 佳織が霊夢の事を示すと、霊夢は少し気まずそうにしながらも侠に視線を送り続けている。彼としても、【幻想郷】でどこまでの事を話したのか気になるみたいだ。

 

「……どこまで話したの?」

 

「……見送りまで」

 

「ほぼ全部じゃないかっ!?」

 

 一体何時からこの家に居るのだろうという疑問が湧いていくる侠だが……話を変えるように、侠に柊史は本題を移す。

 

「侠君。君はどうやら不思議な世界に行っていたようだね。それも、【辰上】の発祥の地である【幻想郷】に」

 

「……養父さん? 信じてくれるの? そんな非現実的な世界なのに」

 

「少なくとも。霊夢君の目は真っ直ぐ僕の目を見て話してくれたからね。そして、侠君も【幻想郷】を知っている。疑う必要はないよ」

 

 どこか安心するような柊史の物言い。佳織は会釈して席を外したが、彼は話を続ける。

 

「そして。何時の日か、話そうと思っていた一部の真実を知ったんだろう? 君が──【辰上】の血の繋がった、先祖返りである事を。何より──本家の実験で唯一生き残った男の子という事を」

 

「……はい。そうです。そして今の自分には【辰上】の先祖であるティアー・ドラゴニル・アウセレーゼが取り憑いている事も。養父さん、変わった方が良いですか?」

 

「申し出はありがたいけど。それは後で良い。深夜の時間帯にでも話そうと思っている。ご先祖様がそれで良いのならだけど……」

 

『「主よ。柊史に了承したと伝えてくれ。そこからは大人達の話になると思うからの。その時は我は実体化して話す」』

 

 侠の脳内に響く声。その事をきちんと柊史にも伝える。

 

「ご先祖様はそれで良いと言っています」

 

「ふむ。じゃあそれはそれで良い。そして霊夢君から聞いたが……本当にするつもりなのかい? 誰も成功したことがない事をするというのは?」

 

 柊史は真っ直ぐ、侠の瞳を見ながら言う。彼は自信に満ちた声で──肯定する。

 

 

 

 

 

「はい。本家に【下克上】を申し込みたいと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──侠? その【下克上】っていうのは一体何?』

 

 幻想郷で過去に侠が霊夢に涙を流し。落ち着いた頃。彼は考えている事を霊夢に打ち明けていた。これからの侠の外界の目的についての事柄である。

 

 霊夢の質問に侠は答える。

 

『辰上は一つの【本家】と複数の【分家】で成り立っているんだ。基本的に本家と分家を分ける境界線は【子供の才】。大学に入学──と言ってもわからないか。ちょうど本家には俺と同い年の奴と比べて、とりあえず相応の実力を持っている子供がいる家が【本家】になる事が出来るんだ。そして追い抜かされた元本家は分家に成り下がる。ただし……その分ける行事は少なくても数年後。そこで白黒はっきり付ける事が出来るんだが……それよりも早く分家の家が本家になれる可能性のある権利が【下克上】というものだ』

 

『……具体的な内容は?』

 

『至って単純。武道なり一対一のスポーツで勝ち抜けば良い』

 

『……それって、侠がかなり有利じゃない? あんたはただの人間じゃなくて【龍神の先祖返り】なんだし。それで問題無く勝てると思うんだけど……?』

 

 辰上家は基本的には個人の能力はバラバラだ。本家の息子はそれなりには出来る方だが、龍神の先祖返りは侠しかいない。加え、本家が行った産物で初代龍神の細胞で肉体活性されている。カテゴリー上侠は【人間】という種族だが、実際には妖怪に近い人間だ。リミッターを外せば楽に勝てるのではないかと指摘するが……侠は情報を付け足す。

 

『……今まで【下克上】を行ったことがある分家はいくつかある。だが──どの分家も本家に負けているんだ』

 

『……それは単に向こうが強い奴がいたからじゃないの?』

 

『いや、実際にはルールに穴があるんだ。勝ち抜けば良いんだが、『具体的に何人勝ち抜くか』が明言されていない。それに、違う情報で──武道やそのスポーツの道のプロ──所謂熟練者だな。それを金で雇ってぶつけているという話もある』

 

『はぁっ!? そんなのただ卑怯な連中じゃない!? 疲れたところを狙って次々と連戦させるという事でしょっ!? しかも……それって下克上を申し込んだ一人だけで戦うの!?』

 

『そこは救済措置という事で、信頼する仲間を連れてきて良いという事が与えられる。まぁ、普通に考えてみれば相手の指定する武道やスポーツで、プロが出てくるんだぞ? 大体は勝ち目を失ってオーバーキルされるか、降参せざるを得ないというのが普通だ』

 

 彼の説明を聞いて腑に落ちなさそうな霊夢だが……ある事を思いだしたかのように呟く。

 

『…………あ。でも侠は人間以上の身体能力を持って、霊力とかのストックがあるからスタミナ切れをする事は特にないのよね』

 

『ぶっちゃけ勝てると思う』

 

 無駄な心配だったと改めて思った霊夢は安堵した。これなら彼の目的の一部が達成されるからだ。

 

 これからの予定も含めて、侠は続けて霊夢に話を続ける。

 

『まずは養父さんの分家を本家にする事。それからが──俺の目的の本番だ』

 

『……えぇ。ちゃんと果たしてきなさいよ、侠……』

 

 一区切りとして、侠の一部の目的を霊夢に話していた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢は幻想郷で彼の話した事を振り返っている時。柊史は真剣な目で侠に話しかける。

 

「侠君。それはちゃんと勝ち目があるのかい?」

 

「なければこんな事は言いません。養父さん達にも、絶対迷惑をかけません。絶対に──下克上を達成させます」

 

 彼もまた、真剣に養父の目を良いながら言葉に答えた。柊史は彼の思いを受け取ったのか……安堵したように、優しく語りかけた。

 

「……うん。侠君がそこまで言うのなら止めはしない。君も知らなければならない事が山ほどあるんだろう。だったら僕達は──侠君達のサポートをするだけだ」

 

「ありがとうございます、養父さん……」

 

「気にすることは無い。息子を想うのは義理だとしても、親として当然な事だからね。それと……霊夢君。君は紫さんの言う通りならしばらくここに滞在する事になるが……それでいいかい?」

 

 辰上侠の体に電撃が走った。それは、養父の言葉が衝撃的だったことも含めるが……霊夢は彼の事を気にせず、少し頬を赤らめて柊史に挨拶をしかける。

 

「えっと……柊史さん。不束者ですが……よろしくお願いしま──」

 

「いやいや待って霊夢!? 君が外界にいても良いの!? 幻想郷を担う存在なのに!?」

 

 博麗霊夢は幻想郷での博麗神社の巫女──外界と幻想郷を分ける、すなわち博麗大結界の管理もしている。彼女はここに居るということは結界が手薄になっているという事なのだが……彼の疑問に答えるように霊夢は言う。

 

「それについてはしばらくの間、紫と藍が管理しておくから大丈夫って事で、何故か知らないけど『侠の家族と触れ合ってきなさい』という事で、スキマで何時の間にかに……」

 

「(……紫さんの【本当の目的】が達成したからってこれは……)」

 

 片手で頭を抑えるようにして溜息をつく侠。腹をくくったように、彼は彼女に話を振った。

 

「……とりあえず、静雅と陽花が帰ってきたら霊夢の服を買いに行こう。外界でその巫女服は目立ち過ぎる。最初の行きは陽花から適当に服を借りていこう……」

 

「え、ダメなの? この巫女服じゃ?」

 

「幻想郷で霊夢は知り渡っているから良いけど、外界じゃ霊夢の知名度はまったくないし、その格好じゃいろんな意味で浮く。だから、ね……」

 

「……外界って面倒くさいのね」

 

 彼女がそう呟いた時……インターホンの電子的な音が鳴る。その後に扉が開かれては、レジ袋を持った静雅と陽花が居間にやって来た。陽花は荷物を置いて母親に報告しては侠に行動を促そうとする。

 

「お母さーん! 買ってきたのをここに置いておくね! ……じゃあ、お兄ちゃん、ハグを──」

 

「二日後にしてあげる」

 

「ゑっ!? どうして!? お母さんにハグして貰いなさいって言われたよ!?」

 

 突然の彼の拒否に妙な声をあげては動揺を見せている陽花に、侠は少し呆れながらも彼女の質問に答える。

 

「別に時間を指定されているわけでもないしね。それは自分で決める」

 

「はめられたーっ!?」

 

 涙目にも見えるような悲しい顔で彼女は悔しそうに落ち込んでいた。さすがに意地悪が過ぎたと思ったのか、訂正の言葉を付け加える。

 

「まぁ……少し頼み事を聞いてくれるのならすぐにしても──」

 

「ウェルカムッ!」

 

 彼の言いかけている途中なのだが、今度は満面の笑みで陽花は両腕を広げて待機状態。その様子を微笑ましく見ている柊史と静雅に、二人を迎えるために居間に戻ってきた佳織と──不機嫌そうに侠に視線を送る霊夢。

 

 侠は霊夢の視線に居心地を悪くするも、陽花に近づいては軽くハグを。彼女は機嫌良さそうに陽花もまたハグを返すが、侠は本題を振る。

 

「陽花、適当に霊夢に合うような服を貸してあげて。彼女の服を買ってこなきゃいけないから」

 

「良いよ〜。霊夢さんとは後で色々話を詳しく聞きたいと思ってるし、その前払いだと思えば」

 

「だって霊夢。後で陽花と時間を作ってくれる?」

 

 条件付きを確認した侠は霊夢に尋ねると、彼女は肯定。

 

「まぁ、世話になるしね……別に構わないわ」

 

「ん。じゃあ陽花、霊夢のコーディネートお願い」

 

「わかったーっ! じゃあ、霊夢さん。こっちに来て!」

 

 陽花の覇気のある返事と共に、彼女を先導にして霊夢はついて行っている間、侠は養母と静雅にも【下克上】について話した……。

 

 

 

 

 




 少しばかりの外界での生活模様。

 ではまた。
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