三人称視点。
では本編どうぞ。
霊夢と陽花の話し合いから、一日が経った。侠の育て親は彼に後押しをし、侠達は【辰上】の本家へと歩いて向かっている。
本家に行くのは侠だけではない。彼の親友でもある本堂静雅も同行し、外界の服で赤いリボンで結ったポニーテールの霊夢も同行し──侠の義妹である陽花も一緒に居る。
何だかんだで家を出るとき時に霊夢は陽花が何故着いてきているか疑問だったため、この少しの時間を利用して侠に尋ねた。
「……ねぇ、どうして陽花もいるの? 静雅ならまだわかるんだけど……」
「まぁ、陽花が強く志願したというのもあるけど……実は陽花って結構運動神経が良いんだよ。同世代の女の子の群を抜くぐらいだし、さらに言うのなら静雅より良いしね」
「えっ……そうなの?」
目を丸くしながら比較対象でもある静雅に尋ねると、両手を頭の後ろに組みながら静雅は答える。
「そうなんだよなー。陽花はそこらの男子よりも良いしな。結構脳筋の分類に入る」
「勉強の苦手のあたしにとっては唯一の取り柄だからね! 学校ではいつも陸上の助っ人とかにも呼ばれているし!」
胸を張りながら自慢げに告げる陽花。彼女のある部分を静雅は見ながら言葉を繋げる。
「そしてまだ十代半ばというのに発育が良い」
「そうだねー。しずまっちゃんのセクハラ発言はいつも通りだとして……多分、学校でもそれなりにあると思うよ?」
「……エデンに触れても良いか?」
「お兄ちゃんなら許可する」
「自分をさらっと巻き込むんじゃない。それと触れないから」
「ちぇー」
「解せぬ」
三人の特有の会話を聞きながら霊夢はどこか羨ましく思う反面、何故陽花が運動神経が良いのか考えてみると──尤も納得出来る答えが浮かぶ。
「(……ティアーの先祖返りじゃないとしても、微かな影響で肉体が活性化されているのかしら……?)」
ざっと考えたところで霊夢は今日の事柄を確認を取るように、侠へと話し掛ける。
「……今日で、決まるのよね……」
「……そうだね。無論、相手がどんな卑怯な手段を使っても──全力でどちらかがぶっ倒れるまで立ち続ける!」
「もしもの時は私もフォローするからね。その時は頼りにしてなさいよ」
「そうさせて貰うよ、霊夢」
少しだが安堵の笑みを浮かべて答える侠に、霊夢も釣られては笑顔を浮かべる。その中……霊夢に同調するようかのように静雅は肩を乗せるように。陽花は侠の腕に抱きつきながら彼に言葉を贈る。
「忘れちゃならないのが親友の力だよな! オレ達が結束しあえば何とかなるって!」
「そうそう! 妹でもあるあたしもいるんだから! そこらの男子なら全然問題無いよっ!」
「……うん」
瞳を閉じながら侠は同調し、四人は足を進めた……。
そして歩き続けて数十分が経った。侠達の視界に入っているのは──白玉楼に似た、敷地が広い和風の豪邸である。家の前には立派な門があり、気品さを表している。
それを初めて見た霊夢は、どこか憎たらしそうに言葉を漏らす。
「……人に嫌がらせをしておきながら良い所に住んでいるじゃない……」
「今の本家はある意味無駄にお金を集めては、無駄に使ったのがこの表れだからね。それを含めて……正す為にここに来たんだ」
霊夢の言葉に答えた侠は、門に設置されたインターホンを押す。数十秒経つと門が開き、すすめと言わんばかりに道が整備されている。
準備の良さに陽花も霊夢の同じような感想を抱く。
「うわぁー……明らかに一般から考えれば無駄遣いだね。しかも何? この無駄に多い池」
「それに自分達が楽しければ良いという考えがにじみ出ているな」
彼女と静雅がのぞき込むように門の中を見てみると、鯉が泳ぎ回っている池に、鹿威しまで完備。さらには天気の良い日には外で食事もするのか、バーベキューの道具までもがある。
しかし、それを見ていても何も変わらない。三人を促すように侠は言葉を掛けながら前進する。
「……行こう、皆」
侠の後に辿るように、三人は着いていった……。
侠が向かった先には、武道館に似た建物がある。この建物は多種の運動が出来る施設でもあり、今回行う【下克上】の会場でもある。
そして、侠は扉を開けた。四人の視界に映ったのは──多数のそれぞれのスポーツに適した格好をした人物達。加えては──本家の人物達である。
建物にいた人物達は侠の連れてきている人物に驚愕してざわついている中、侠達は気にせずに前進していく。そのまま対面する形で、目の前に居るのは──本家の息子も含めた一族である。
侠達を見定めるかのように確認したのは、本家の息子でもある辰上崇也の父親──所謂現当主である。彼はどこか小馬鹿にしているのかのように、どこか挑発の言葉を掛ける。
「……まさか、女二人を連れてきているとはな。お前の人望それほどまでに少ないのに挑もうとしたのか? しかも連れてきている人物は本堂とはぐれ者がいる分家の娘とはな」
神経を逆なでされたのもあるのだろう。霊夢と陽花は反論しようとしたが──静雅が制し、言葉を返す。
「侠の人望を舐めちゃいけないな。その気になればここにいる人物達より強い人物が駆けつけるんだよ」
「強がってもわかる。もう門は閉めた。これ以上部外者が入る事は無い。そう、一切の邪魔者が来ないようにな」
「ほぉー……。正々堂々を戦うのならば門を開けても良いだろうに」
「フン。正々堂々? 勝った者が正義だ。そんなものはただの負け犬の遠吠えだ」
「はいはい。そういう事にしてやるよ」
呆れたように静雅は手をあげて反応するが、当主はそのまま引き下がる。次に出てきたのは──本家の息子である崇也だ。彼は焦点を侠に集めながら、強きに話し掛けた。
「お前との争いはもう終わりだ。俺が──次期辰上家当主にふさわしい人材なんだ! はぐれ者であるお前に当主の座は渡さない!」
「…………そうだな。俺も過去の因縁を終わらせる為に来た。だから──【本家】の座は渡して貰う」
「黙れ! ……おい、お前の出番だ! しっかりやれよ!」
崇也は引き下がり、代わりに出てきた人物。その人物は拳を構えながら軽そうなステップをしながら現れた。
そろそろ始まると悟った侠は三人に行動を促す。
「……皆は下がってくれ。極力、俺だけの力で突破する」
静雅と陽花は指示通りに離れていく中、霊夢はまだ侠の後ろに待機している。その事に疑問に重い、侠は振り返って確認をとった。
「……? 霊夢、どうかしたか?」
「……侠──」
彼の問いかけに、シンプルに霊夢は言葉を繋げる。
「──頑張れ」
「……あぁ! 頑張る!」
侠は左手を拳の形に変えて霊夢に突きだしては、自信に満ちあふれた顔で彼女の言葉に応える。霊夢は彼の勇ましい表情に安堵したのか、笑顔を見せた後には静雅達の元へと戻っていった。
そして、侠は戦うべき相手と対峙する。目の前にいる男は、どこか人を小馬鹿にしたような態度で侠に話し掛けた。
『おいおい、イチャイチャしてんじゃねぇよ。これからお前の彼女には、お前の醜態が見せられるっていうのに』
「……彼女ではないが。だが──大切な人には変わりはないっ!」
『うぜぇ……! 三秒ほどで熨してやるよ! 素人に俺様が負けるはずないからな!』
そして、男が侠を殴りかかろうとした時──
数十秒前までに戻って、霊夢が静雅と陽花の居る場所に戻った頃。霊夢にどこか静雅は含み笑いのまま手を口に当てては彼女に言う。
「イチャイチャしてんな。思わずパルっちまうぜ」
「イチャイチャって……私と侠はそんな関係じゃないし……」
「(これが勝ち組の余裕……! しずまっちゃんの言った言葉はわからないけど、とりあえず借りてパルっちゃう……!)」
……陽花の妬むような視線は霊夢は気づいてはいないが。
話題を変えるように静雅は侠の方へ体の向きを変えながら、彼の対戦相手を分析し始める。
「……侠の相手、普通に考えればヤバい相手だな」
「……ヤバい? それってどういう事?」
霊夢からの質問に、陽花は何か思い出したようにしながら手のひらに拳を置いて発言。
「……あぁー! 相手って確か、若手のボクシングの準優勝者だ! 本当にプロの人を連れてくるなんて……!」
「……ぼくしんぐ?」
次々と湧いてくる霊夢の疑問。彼女に教えるように静雅は簡略に解説する。
「単純に言えば殴り合いのスポーツの熟練者だ。普段はグローブという、手にはめて殴るという事をするんだが……そのグローブは無いな。それにボクシングのプレイヤーは一般人を殴ってはいけないという規律がある。ボクシングをテレビとか見た事ぐらいしかない、一見ど素人の侠にそういう事をしてはいけないんだ。どれくらい悪いかというと、どっかの小さな裁判長に黒いジャッジをされるぐらいに」
「それって卑怯──あ……でも。侠にその心配はないのよね」
「だよなぁ……」
途中で抗議の言葉が出始めた霊夢だったが……言いかけている途中で納得した。彼女の言葉に静雅も同調。
幻想郷での辰上侠についての情報を詳しく知らない陽花は、二人の様子に疑問を覚えていたが──それは義兄を見て驚愕の表情を浮かべる事になる。
彼、辰上侠は──相手の攻撃を一瞬に躱しては、対戦相手の顎にアッパーを打ち込んだ。
『…………』
静寂が走った。この場では霊夢と静雅以外の人物は良くて善戦、普通に考えては負けると思っていた。しかし……今の現状は──拳を振り上げたままの侠。仰向けに倒れながら気絶している相手。顎で頭を揺さぶられては、そのまま後ろに倒れたのが原因だと思われる。
誰もが言葉を発せなかった時、対戦相手を数秒で負かした侠は、腕を下げた後に崇也に行動を促す。
「……脳震盪を起こしているだろうから、慎重に運んでやってくれ。そして……次は誰だ?」
「──はっ!? おい、お前が相手にしたのはボクシングで準優勝したやつのはずだぞ──って!? 何だ!? その右目は!?」
崇也が指摘した侠の右目。ほとんどの人物が侠の右目に視線が集まる。そう、彼の右目は左目と同じ黒い瞳だったはずなのだが──赤い瞳に変わっている。
侠の赤い瞳に心当たりがあった霊夢は、知っているかのような言葉を漏らした後、静雅に説明を求められた。
「……あ。片目だけの赤い瞳……」
「……霊夢? 知っているのか?」
「えぇ……過去に私と侠が戦ったときにもなっていたわ。侠を和解した後、いろんな侠の情報を教えて貰ったんだけど……あの状態はティアーと同調しているみたいなのよ」
「同調? それって初代龍神とシンクロっていうか、繋がっているって事か?」
「そうらしいわ。赤い瞳はティアーの力を使っている状態なんだって。その赤い瞳に映るものは、数秒先の光景が見えるらしいのよ。咲夜みたいに時を止めて移動する相手でも、姿を消したり認知しづらい相手が隠れていたりしても、普通に動いて見えたりや、さらには耳までも影響があって聞きにくい音でも聞こえたりするんだって。ただ、その光景はあくまで予測みたいだけだけど。ちなみに私の場合には【空を飛ぶ程度の能力】で管轄外だから見えないらしいわ。侠がティアーの力を使うとなると、多少の制限は掛かるみたい」
「……やっぱ、初代龍神も味方なのは心強いよな……」
「しずまっちゃんと霊夢さんは何を話しているの? あたしはちんぷんかんぷんなんだけど……」
二人の話を聞いていた陽花は機械がオーバーヒートしたかのように、頭から黒い煙のようなものが見えるぐらいに頭を悩ませていた。
敵側である本家達は驚きを隠せないままざわついているが、痺れを切らしたかのように侠は言葉を繋げる。
「……これ以上出ないっていうのなら、俺達の勝ちで良いのか?」
「ば、バカを言え! 今のは小手調べだ! ……よし、次はお前が行け!」
崇也は倒れている人物を他の人物に命令して運ばせた後、次は竹刀を持った男が対峙する。
だが、侠は態度を変えないまま、言葉を飛ばす。
「お前には何の恨みは無いが──ここから先は一方的に攻める!」
何時の間にか差し出されていた竹刀を受け取り、【下克上】は再開した……。
運動神経については本文にある通り 静雅<陽花<侠 の関係です。
ではまた。