幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 彼らと別れて。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


十六話『繋がり』

 幻想郷に博麗霊夢が帰還し、一ヶ月が経とうとしていた。幻想郷の創造神の子孫と荒人神がいなくなった事にある人物達は寂しそうにしていたが、時間が経てばそれは緩和される。次第に活気を取り戻しつつある日常だった。

 

「…………」

 

 その中、幻想郷の博麗神社の巫女である霊夢は縁側で虚空を眺める日々が多くなった。今までの彼女から考えたら珍しい光景だ。暇そうにお茶を飲むことはあっても、湯飲みを持ったまま空を眺めてぼうっとしている。それだけで時間が過ぎていく日々が多くなった。

 

 ……ちなみにいうと、彼女と辰上侠──縫ノ宮千里の関係については、感づいていた八雲紫しか知らない。紫からの意地悪な問いかけに軽く怒った事はあった。ある意味千里に告白した早苗からその後について話し掛けられたが、適当に流した。その後は、何かが抜け落ちたかのように彼女は過ごしている。

 

 やはり今の彼女を見て心配になっているのであろう。腐れ縁でもある霧雨魔理沙が彼女の隣に座っては話題を振っていた。

 

「──近頃やけにチルノから勝負を申し込まれることが多くなってな?」

 

「…………」

 

「やけに私の放った弾幕を凍らせてくるんだ。あいつにそんな技術があると思えないからどうしたんだって聞いたら『キョーが教えてくれた』って言ってて──」

 

「千里っ!?」

 

「おおっ!? 急に反応するなよ!? びっくりしたぜ……ってか、千里って誰だぜ?」

 

 時たま、旧名である【辰上侠】に反応する時がある霊夢。この事には驚かせられるのだが……幻想郷の人物で、辰上侠の本名を知っている者は数少ない。八雲紫経由ならば、彼女の親友や式神達は知っているかもしれないが……。

 

 魔理沙を驚かせてしまったことに、素直に謝罪する霊夢。

 

「え、えぇ……ゴメン。ちょっと千里──侠の名前にびっくりして……」

 

「……わからないでもないな。最近までは博麗神社の手伝いをしてて。それに加えてこの幻想郷を創った子孫。霊夢が何だかんだ過ごした日々が長いもんな。今でも人里とか侠を惜しむ声が聞こえてくる時がある。静雅に関しては……男女によって反応が違うな。まぁ、それは置いておくとして。結構霊夢のここのところの様子で心配している奴が多いぜ? これじゃあ異変が起きた時に今の霊夢は解決出来るのか? っていう程に」

 

「……ただでさえ、一番強いんじゃないかと思われる侠に私は勝ったのに?」

 

「……じゃあ心配ないか。最初の模擬弾幕ごっこで戦った侠が懐かしいぜ……。別方向で人間離れしていくもんな、あいつ。だが──静雅ももちろんだが、今度は侠にも勝ってみせるぜ」

 

「侠が勝つ可能性は10割超えだと思うけど」

 

 拳を突き上げながら言う彼女に、どこか水を差すような発言をする霊夢。そんな彼女に根拠を求める魔理沙。

 

「……勘か?」

 

「確信」

 

「おいおい、腐れ縁の私の勝利を信じてくれよ……?」

 

「(……友人より恋人の勝利を願うのは当たり前じゃない──)」

 

 千里との関係で彼を取った霊夢だが──目の前に一枚の紙が落ちてきた。その紙が落ちると共に、空の上から聞こえてくる女性の声。

 

『【文々。】新聞、号外ですよーっ!』

 

 妖怪の山に住んでいるという烏天狗、射命丸文の声が聞こえてきた。彼女は勧誘で新聞の定期購入を促す事が多いが、【号外】という形で新聞をばらまく事は珍しい事だった。

 

「……文か? 一体どんな記事が号外何だぜ?」

 

 魔理沙は気にしては号外の新聞を拾い、霊夢は湯飲みに入っているお茶を飲もうと再開した時──魔理沙の読み上げた記事内容に耳を疑う事になる。

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、何々──【幻想郷の創造神の子孫の親友、心お気楽荒人神『本堂静雅』帰還!】──はっ!? はぁっ!? 静雅が幻想郷に戻ってきた!?」

 

 

 

 

 

 

 

「!? 静雅が帰ってきた!?」

 

 さすがの彼女も必然的に興味を持ったのか、焦りの表情を浮かべながら魔理沙に問いかけるものの、彼女も困惑するばかりだ。

 

「さすがにガセネタが多い文でも、こんな誰もが注目する記事内容をガセでは書かないとは思うぜ!? それにしても静雅がこんな早くに帰ってくるだなんて──」

 

「急いで紅魔館に向かうわよっ!」

 

 急かすようにしながら霊夢は湯飲みを縁側に置いてすぐさま飛翔。彼女の反応に遅れたが魔理沙も立てかけていた箒に乗って飛翔する。

 

 もちろん、彼女の中では本堂静雅が幻想郷に帰還という話は大事な事でもある。霊夢の希望では、ある人物も一緒ではないかとも考えたため。

 

「(千里もいるの!? ……出来れば、いて!)」

 

 彼女達は全速力で紅魔館へと向かっていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢と魔理沙は多少の息切れを交えながら紅魔館へと着き。門番である紅美鈴が話し掛けようとしたのだが──

 

『あ、霊夢さんに魔理沙さん! 事情はわかりますが、お嬢様に確認を取ってから──』

 

『霊符【夢想封印】!』

 

『恋符【マスタースパーク】!』

 

『え、ちょ、二人がかりでそのスペルカードは──(ピチューン)』

 

 ──彼女達らしく、話を聞かないで紅魔館へと入っていった。話している時間が勿体ない。ただそれだけの理由である。

 

 二人はロビーの扉を乱暴に開けては、中の状況を確認する。確認出来る馴染みのある人物は紅魔館の当主であるレミリア・スカーレット。妹であるフランドール・スカーレット。レミリアの従者である十六夜咲夜。図書館の魔女であるパチュリー・ノーレッジ。彼女の使い魔である小悪魔。現在フランドールは嬉しそうにとある人物の腹部に顔をうずめているが。

 

 フランドールがうずめている人物こそが、号外で記事にされた人物。格好は丈の短いジーンズの上着を羽織り、髑髏柄の入った黒いTシャツ。すらりと伸びた黒いズボンを履いているが……『彼』のトレードマークでもある、目元の近くに留められている白い二本のヘアピン。彼は二人の来訪に気づくと、気軽な口調で声を発した。

 

 

 

 

 

 

 

「おっすお前さん達。このオレ──皆の本堂静雅の帰還に嬉しいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 彼女達の目の前にいる人物こそが、心お気楽荒人神でもある──本堂静雅。一か月前とは服装以外は変わらない姿を霊夢と魔理沙は確認出来た。

 

 確かめるように、戸惑いも含めながらも魔理沙は彼に話し掛ける。

 

「ほ、本当に……静雅、なんだよな!?」

 

「おう。正真正銘の本堂静雅だ。一ヶ月ぶりだな、魔理沙」

 

「いくら何でも、こんな早くに帰ってくるとは思わなかったぜ……」

 

「まぁ、とは言っても度々外界に帰るんだけどな。仕事との両立がきついが」

 

「……度々帰る?」

 

 彼女の疑問に答えるように、同じく魔法を使えるパチュリーが彼女に説明を。

 

「外界の【もでる】っていう仕事の休みには幻想郷に戻ってこれるみたいよ。色々と外界での静雅は忙しいみたいで」

 

「それでも、静雅さんは外界の仕事を減らして幻想郷に居る割合を多くしてくれるみたいですけどね」

 

 補足するように小悪魔は言った後、彼の帰還がよほど嬉しいのか、自身の気持ちをフランドールは姉であるレミリアに伝える。

 

「お兄様の言う通りだった! 何時か、離ればなれになっても駆けつけてくれるって!」

 

「……良かったわね、フラン」

 

 言葉では単調に返すレミリアだが、彼女もどこか満更でもなさそうである。

 

 静雅の帰還を喜んでいる人数が多数だが……霊夢は焦りを浮かべながら【彼】についての詳細を求めていた。

 

「ねぇ、静雅! 千里は!? 千里はどうなの!?」

 

「あぁ、千里(センリ)か。あいつは今では飛び級しては全国、世界中を回っているよ。なんでも、今まで元本家から迷惑を被っていた人物の支援を行っている。それに伴って世界中の問題を解決する日々に勤しんでいるさ」

 

「……そう。やっぱり外界の方は本当に忙しいのね……」

 

 彼女の求めた答えとは違うが、彼の報告を聞いてどこか安堵する霊夢。

 

 しかし……その中で、疑問に思う白黒魔法使いが一人。

 

「ちさと? せんり? お前ら一体誰のことを話しているんだぜ……?」

 

 何も知らない彼女にとっては当然な事かもしれない。彼女の疑問に答えるように、咲夜は簡潔に説明した。

 

「霊夢の言っている名前は【辰上侠】の本名なのよ。それで静雅の言っているのは本名を使った渾名。あなたが知っている辰上侠なんだけど……外界の事情で二つ名前があるのよ。生みの親が名付けた【縫ノ宮千里】。育て親が名付けた【辰上侠】の二つをね。ちなみに私は彼の事は【千里】って呼ぶつもりだけど」

 

「あいつ二つ名前があったのか。本名といってもなー……。私は普段から呼び慣れている【侠】で呼ぶぜ。どっちがどっちでも【侠】には変わりは無いだろ」

 

 ……ちなみに彼の名前云々の話で小悪魔が「わ、私は千里(ちさと)さんって呼ぼうと思っています……」という呟きはパチュリーにしか聞こえなかった。

 

 その中、思い出したかのように静雅は懐から何かを取り出し始めた。彼が持っている機械同様の、赤い二つ折りの機械──携帯電話である。

 

「おっと、八雲紫から渡すように頼まれていたんだった……。霊夢。これは一応八雲紫からのプレゼントだとよ」

 

「……? 確か千里も色違いのを持っていたわね……」

 

「この携帯はな、オレのも含めて八雲紫の能力が干渉されている携帯だ。一先ず……あいつに掛けてみるか」

 

 静雅は手慣れた動きで携帯のボタンを押し、その後霊夢に携帯を持たした。霊夢は戸惑うものの、静雅の指示通りに携帯電話を耳に当てる。

 

「……何か妙な音が聞こえてくるんだけど……?」

 

「そのまま待ってろ。その内お前さんは驚くだろうから」

 

「私が驚くって……急に音が変わって驚く類いじゃないでしょうね──」

 

 どこか疑うような霊夢の問いかけの中、彼女が耳にしていた特有の電子音が聞こえなくなり──聞こえてくる、一人の男の声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【──はい、こちら辰上侠です。どちら様ですか?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞こえた。遠くに居るはずの人物の声が。その人物が隣にいるような、錯覚を起こしてしまうほどに。その人物が霊夢の隣で喋っている事を。

 

「……………………千里?」

 

【……自分の本当の名前を知っている──って、あれ? この声……もしかして、霊夢?】

 

「そうよ、千里! 博麗神社の霊夢よっ!」

 

『えっ!?』

 

 静雅以外の人物は誰もが驚きの様子を見せた。外界にいるはずの縫ノ宮千里。その彼が、妙な機械から返事をしているという事実。科学力がそこまで発展していない幻想郷にとっては信じがたい光景だったのだが……。

 

 霊夢自身も、この機械を通して彼と話せるとは思っていなかったのだろう。彼女は彼と身近に話す事ができる喜びからか、涙を流していた。

 

「具体的に会えていないけど……千里と話せることが出来て、本当に嬉しい……!」

 

【あれ? ゑ? 確かこの番号は紫さんに登録しておけと書かれた番号だけど──ん? もしかして霊夢、泣いてる……?】

 

「な、泣いてないわよっ! これは単に目にゴミが入っただけなんだからっ!」

 

【……そうか(泣きじゃくっている事については突っ込まないでおこう……)】

 

「そうよ本当に! 本当に……そうなんだから……!」

 

 慌てて袖で涙を拭き取る彼女。次第に霊夢は今まで見たことのないような、笑顔を浮かべて千里と話していた。ここまで異様に機嫌が良さそうに見える彼女は魔理沙達にとって初めて見る光景の為か、一時困惑の表情を浮かべている人物もいる。

 

 霊夢と千里が通話している中、紅魔館の扉が開いては次々と現れていく人物達。

 

『静雅さんが幻想郷に帰ってきたと号外の新聞で読みましたが……侠さんはいますか!?』

 

『……! 本当に静雅が帰ってきてる……! ガセじゃなかったみたいね……!』

 

『人里で薬売りしていたら号外が降ってくるんだもの──静雅が、本当にいる……!』

 

『本堂さん! 侠君はいるんですか──って、霊夢さんが持っているのって携帯電話じゃないですか!? 誰とお話に!?』

 

 次々と現れる幻想郷の人物。順に魂魄妖夢、アリス・マーガトロイド、鈴仙・優曇華院・イナバ、東風谷早苗。いずれも縫ノ宮千里と本堂静雅について確認を取る人物が多数だ。

 

 最後の早苗の質問に答えたのは魔理沙。彼女も戸惑いながらも、現状についての説明をする。

 

「何かこの機械を通して侠と話しているみたいだぜ?」

 

「!? その小さなもので侠さんと話せるのですか!?」

 

「霊夢さん! 私にも! 私にもその携帯電話を貸してください!」

 

「ダメよ!? これはあくまで私の物なんだから──」

 

 未知の道具に驚いている妖夢をよそに、早苗は霊夢から携帯電話を借りる事を頼み込む。最初は断る様子を見せていたが、彼女達の様子に呆れたのか静雅は霊夢に行動を促す。

 

「霊夢、気持ちはわからんでもないが少し貸してやれ。霊夢が千里(センリ)を独占するわけにはいかないだろう。千里と話したい奴はたくさんいるんだからな。それに霊夢は所有者なんだから、その気になれば何時でも話せるしな。多めに見てやれ。一応千里に説明しておくからとりあえず貸してくれ」

 

「……………………仕方ないわね」

 

 苦渋の決断だったのか、どこか苦虫を噛み潰したかのようにしながら一先ず近くにいた、千里(ちさと)の親友である静雅に携帯電話を渡した。

 

「よう親友。仕事は順調か?」

 

【……そう言えば今日、静雅は幻想郷に行くんだったね。それで霊夢の携帯電話を渡したと。それと仕事は順調だよ】

 

「そうか。どっちも充実して何よりだ。霊夢がお前さんに電話をしたのに便乗して、話したい奴がお前さんの電話に出るからな。まずは──小悪魔からだ」

 

「こぁ!? わ、私ですか!?」

 

 静雅はそのまま小悪魔に携帯電話を渡す。彼女も携帯電話を通じて千里と話していく内に、次第に笑みが零れていく。他の人物達も未知の道具を使って外界にいる人物と話している事に興味を持ってか、今は小悪魔の周りに人が集まっていた。

 

 しかし……それでも不機嫌そうに霊夢は眺めているが。彼女を宥めるように、気遣うようにして話を振る静雅。

 

「まぁ、そんなかっかなんなよ。他の奴らはお前さんと比べると話せる回数が少ないんだから」

 

「……そうだけど……」

 

「まぁ──」

 

 それでも機嫌が直らない彼女に、静雅は霊夢の耳元にある事を囁く。

 

「──彼氏を独占したいってのはわかるけどな」

 

「なっ──!?」

 

 静雅の発言は予想外だったのか、霊夢は千里との関係について囁かれた瞬間、顔から一瞬にして首筋まで真っ赤しにしてしまう。

 

「気づかないとでも思ったか? 幻想郷の人物は特定の人物しか知らないだろうが、オレは知っている。何故なら──オレと千里(センリ)は親友だぞ? お前さんと結ばれた事を律儀に報告してきたのもあるが」

 

千里(ちさと)ぉ……!」

 

「……ここからはオレからの願いなんだが──」

 

 自身としてはまだ秘密にしておきたかったが、彼の心から信頼出来る人物にはもう話してしまった。彼の行動に恨めしそうに声を上げる霊夢。

 

 だが……静雅は真剣に、とある事を呟くようにして霊夢に頼み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──どうか、これからも千里(センリ)の傍に居続けてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 先ほどの彼とは打って変わって、真剣な口調で霊夢に頼み事を。その事に霊夢はクールダウンし、彼の言葉に答える。

 

「……えぇ、ずっと、居るわ。千里(ちさと)がどれくらい時間が掛かろうが、幻想郷に戻ってきても、その後にも」

 

「……千里(センリ)も良い彼女に恵まれたもんだなぁ……」

 

「……うっさい」

 

 どこか羨ましそうにする発言に、ぶっきらぼうに返事をしたり。

 

 霊夢と話す事は終わったのか、静雅は彼女の傍を離れては人が集まる方向に足を進める。彼も騒ぎに参加するのであろう。場を荒らす事が好きな彼だ。霊夢と千里の関係については暴露しないだろうが、何かの火種を放り投げるかもしれない。

 

 霊夢は、それを抑制しに足を進める。誰かが静雅の発言に反応して、暴走させない為。先ほど弄られた事を含めて仕返ししてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、本堂静雅が幻想郷に出没する中。彼を含めた異変と共に時間が過ぎていく。それは、幻想郷の日常の一つでもあり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、幻想郷に──夏が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次章、最終章。

 ではまた。
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