幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 過去にやった活動報告のアンケートで、秘封倶楽部との関わりのIFを書くと宣言していたものが、ようやく完成しました。今更すぎますが、文字数は25000は超えています。前編後編と分ければよかったかもしれませんね……。一話で完結です。それと長すぎるので改行は短編と同じような感じにしました。
 基本本編を読んでくだされば大体のこの作品の主人公達についてわかると思いますが、今回は【IF】で本編多少違う設定があります。その違いは後書きにて記載します。
 三人称視点。
 では特別番外編どうぞ。

 ※この話は本編と直接は関係ありませんが、本編の設定を受け継いでいる箇所があったりします。もしもの世界のIFstoryです。本編を読んでいただけると内容が理解しやすいと思いますので、初めての方は読んでみることを推奨します。



特別番外編『秘封の非【日常】』

 とある大学で勉学を学び、あるものを追求するサークルがある。サークルといっても二人程しかいないのだが。

 現在、その二人は大学の最寄りにあるカフェで飲み物を片手に話を交わしていた。証拠を見せるかのように、肩まで伸ばした髪に黒い帽子を被って同系色のネクタイをしている――宇佐見蓮子が興奮しながら話していた。

 

「――やっぱりこれはおかしいと思うのよ!【飛び降り自殺をしたはずの会社員、その体が消える!】遠目で目撃者が三人だけだったのが悪いのかもしれないけど……これは何かある!」

 

 彼女の熱弁とは逆に、瞳を閉じながらティーカップに淹れられている紅茶を飲む女性。その姿は蓮子より多少髪が長くては全体的に紫色の服を着ており、ナイトキャップのような白い帽子を被っている。持っていたティーカップを受け皿に置く――マエリベリー・ハーン。愛称でメリーと呼ばれている彼女は瞳を開けては自身の考えを述べる。

 

「……単に幻覚でも見てたんじゃない? 目撃者はクスリをしていたとかの影響で」

「……まぁ、メリーの言う可能性は否定出来ないのよね……。この記事もおもしろ半分で書かれているし。目撃者は本当にあったと主張しているけど。最近のマスコミは暇なのかな?」

「それほど世の中は平和という事でしょう。良いことだわ」

「いや、その平和な時に自殺云々の事を載せているあたりどうかと思うんだけど……?」

 

 メリーの冷静な分析で蓮子はクールダウン。雑誌を彼女の手元に戻しながら蓮子は不満そうに言う。

 

「メリーさぁ……アナタの境界を見るだかでわかるんじゃない? 実際にこの記事の場所にいけば」

「その場所、結構遠い場所じゃない。電車を何回も乗り換えしなくてはいけないし。それとも蓮子が車を出してくれるの?」

「いや、持ってるわけないじゃん。何時かは免許を取ろうかと思ってはいるけど……」

「……随分先の話になりそうね」

 

 ちょうど話に区切りがつき。その時喫茶店のベルが来客を知らせた。今の店の客は正直にいうと蓮子達しかいないのだが。

 

『お、空いてるじゃん。これならグラサンと帽子のとっても――』

『ダメ。もしこれ以上お客さんが入って、君の存在に気づいたらパニックになるから』

『くっ……この漆黒に染められたキャップ&フューチャーグラスズの封印が解ける――』

『イタいからやめようね。あ、店員さん。アイスコーヒーとダージリンをお願いします』

『解せぬ』

 

 仲がよさそうな、独特な男二人の会話が蓮子の耳に届いた。最初に発言した男は黒いサングラスに黒い帽子を深く被っており、蓮子はどこか正体を隠しているような感じがした。服装は骸骨がプリントされているパンク系ファッションだが。

 彼と話していたもう一人の男はスーツを着て社会人の服装をしているのだが……その男の後ろ髪は腰まで伸ばしている。

 

「(……何だろうあの変人達)」

 

 蓮子はその二人に視線を送っていたが……メリーがその事に気づいては、どこか意味深な言葉をかけた。

 

「あら? 好みの殿方がいたの?」

「……髪の毛がメリー以上に長い男の子が――って、別にそんなのじゃないし」

「ふーん……私はサングラスをしている人が気になるわね。途中何か言いかけた事が特に」

「(……そういえば時たまメリーも厨二病的な事を言うわね……)」

 

 類は友を呼ぶのだろうか、と付け足したかったが引っ込めた。

 蓮子は雑誌を捲っては口にコーヒーを含めていたが……男二人の会話が彼女達の耳に入ってくる。

 

『なぁ、千里(センリ)。お前さんはこの雑誌の記事をどう思う?』

『何々……飛び降りの奴?』

『そ。どうもオレは何かあると思うんだよな~。そこで千里の意見を聞きたい』

「(――!? その記事って私が取り上げた内容!?)」

 

 彼女の雑誌を捲る手が止まる。先ほどメリーに問いかけた内容と同じ内容だからだ。蓮子は反射的にその出来事について聞こうとしたが――彼女の行動に察していたメリーは手を出して制しながら言葉を。

 

「……まずは彼達の考えを聞いてみましょ」

 

 メリーの言葉で落ち着きを取り戻した蓮子は雑誌を捲る動作をしながら、男二人の会話に耳を傾ける。

 サングラスをしている男の問いに答える、長い髪の男。

 

「……自分は目撃者三人が見た事は、本当だと思う」

「ほぉ……ワケは?」

「その三人は変哲も無い、ただの一般人。ニュースによる調べた結果、その当時の情報だと精神疾患は三人とも無い。悪ふざけという可能性については……低いと思う。この記事から判断すると三人が本当に訴えかけている事が伝わってくるし……」

「千里はこの事件の肯定って事はわかった。だが……タネはわかるか?」

「情報が足りないから全然。どうやって飛び降りた人物の仕掛けがわからない。違う仮説でその三人に思い込ませたのかな……?」

 

 机に片腕の肘を置いては手で頭を支えて考える長髪の男。彼と違う考えなのか――サングラスをした男は言う。

 

「そこはアレじゃね? 妖怪による【神隠し】ってやつ」

「……非現実だよ、その言葉」

「そこは発想を逆転だ。現実的に考えるから詰まる。非現実的に考えれば、色々な可能性が展開出来てはそれはそれで面白いだろ? 例えばその場面を目撃されたがために神隠しの妖怪に記憶を改竄された。もしくはお前さんの言うとおりにオレ達には出来ない手段を使って心理状態が操られた。まさかの現実的にはありえない事の事象だ」

「自由な考え方をするねぇ……」

「こういうフィクションを考える事もオレ達の世界でも必要なのさ。お前さんが過去に作ったフィクション話のように」

 

 二人の会話は対称的だ。長髪の男は現実的に考え、片やサングラスの男は非現実的な考えを。二人の会話を聞いていく蓮子は振り返るように思う。

 

「(客観的に見ると……私達に似ているのかな……?)」

 

 蓮子は大学では物理学を専攻している。それは現実に起きた出来事を様々な知識と情報を元に、一つの現象を解明していく。

 それに対しメリーは心理学を専攻しており、心や精神についてを学んでいる。心や精神に影響する事柄で、その本人しか見ることが出来ない世界を見ることがある。それとは別件か不確かだが、メリーには【境界】というものが見えているらしいが。

 蓮子達は話を聞いている中で、違う意味で驚く長髪の男性の発言内容が耳に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「流石――若手芸能人の本堂静雅は柔軟な考えを持っているねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

「(…………うぇっ!? い、今、滅茶苦茶有名人の名前が聞こえたんだけど!?)」

 

 蓮子は若干飲んでいたコーヒーが器官に入り咳き込んだ。「汚いわねぇ……」とメリーはポケットティッシュを数枚差し出しては蓮子は受け取り、口元を拭いては落ち着かせた後、小声だが落ち着かない様子で確認を取るようにメリーに話し掛けた。

 

「き、聞いたメリー!? あのサングラスをした男って――」

「知っていたわ」

「知ってたの!?」

 

 平然と答えていたメリーに驚きを隠せない蓮子だが、メリーは冷静にその根拠を述べる。

 

「髪型は変わっていなくて……帽子を目深に被っているんだろうけど、白いヘアピンが見えたのよ。男でヘアピンするのは珍しいし、するとしたら本当に視界を良好にする為かファッションだろうし。でも、目深に被っていてはファッションの意味は無いわ。目深に被っていたら視界は狭くなるし」

 

 一呼吸をするように彼女は紅茶を喉に通した後、話を続ける。

 

「だったら何故目深に被っているか。それに加えて何故サングラスまで掛けているか。何より相席している男の人の発言で『お客さんが君に気づいたらパニックになる』。これらを基づいて考え、声色から判断すれば――彼という事がわかったわ」

「……メリー、実は本堂静雅のファンだったりするの?」

「まさか。今の彼は雑誌やテレビに引っ張りだこだけど、常識の範囲で覚えていただけよ。入店の時の不思議な言葉の類いも彼はよく言っていたしね」

「(……あの時から気づいていたんだ……)」

 

 メリーの冷静な解説を聞きながら、蓮子は遠目で見ながら彼の情報を整理する。

 

 本堂静雅。彼の十代前半頃にモデルとしてのデビューをする。最初はファッション誌に出ていたのだが……年齢の割には客観的判断と相手の理想とする言葉の返し方、キャラが世間に受ける。モデルの仕事の他にテレビに出演するようになる。

 数年後には彼を主役にしたドラマがヒット。さらにはそのドラマの原案が静雅というマルチな才能が世間に広がった。無論、ドラマのノベル化も決まっては数ヶ月で数百万部以上売り上げる。これ以降彼はテレビ番組のレギュラー獲得、さらには彼をメインパーソナリティとして扱うラジオ番組も設けられた。

 ちなみに現在、本堂静雅の肩書きは【モデル】ではなく【俳優】へと変わった。今では雑誌に電子媒体、さらには多種多様の話題でも彼が出てくるという、大御所顔負けの知名度を持つ芸能人になっている。

 現在の彼の情報が正しければ、蓮子達より少し年下だが現役大学生だという。一見大学に入らなくとも将来の貯えがありそうな彼だが、進学を発表した際のインタビュー曰わく、「まだ青春を謳歌したい」という事。

 

 閑話休題。

 

 男二人はそれぞれの考えを交わした後、長髪の男は腕時計を見ながら言葉を掛ける。

 

「おっと、自分はそろそろ【仕事】だ。お金は自分が払っておくね」

「もうそんな時間なのか……。今回の事に便乗して着いて来ただけだが」

「確か静雅の方は近辺の大学のゲストとして呼ばれていたんだっけ? それで偶々自分の仕事先と同じ地域でここまで来て」

 

 長髪の男の言葉を聞きながら、前髪をいじりながら静雅は答える。

 

「そうなんだよなぁ……。大学でウロウロした後は、近辺を探索。それでオレがここ近辺のレビューをしなければならん。事務所や関係者の同行が無いのは気楽だが。レビューの文章構成は千里に任せた」

「はいはい、いつも通りね。じゃ、自分はもう行くから。何か必要な時は連絡してね」

「了解した」

 

 長髪の男はお金を机に置き、店の店員と話しては出て行った。静雅は店内に残り、腕を組みながら呟くように言う。

 

「……これからどうすっかな……。まずは近辺を探索するべきか? それとも……」

 

 熟考するように瞼を閉じながら彼は考える。彼らの話を聞き終えた蓮子はメリーに話し掛けようとしたのだが――

 

「ねぇ、メリー。私達もこれからどうしよう――って、あれ? メリー……?」

 

 蓮子は言葉を掛けながら、改めて真正面にいるはずのメリーを見ようとしたのだが――彼女は真正面からいなくなっている。蓮子は疑問に思い、辺りを見回そうとすると――その疑問は氷解する事になる。

 

「――ねぇ? 相席してもらっても良いかしら?」

「お? まさかの逆ナンか? オーケーバッチ来い!」

「――ちょ、ま、メリー!?」

 

 メリーは何時の間にか静雅の正面の席移動しており、相席交渉を行っていた彼は気分を良さそうに返事を返しているものの、蓮子は驚きを隠せない。

 蓮子の存在に気づいた静雅だが、彼女を補足するようにメリーは説明。

 

「あ、彼女も相席しても良いかしら? 彼女――蓮子は私の友人なのよ」

「別に良いぞ。まさかオレにそんなイベントが発生するとは……春が近いのか?」

 

 機嫌が良さそうな彼はともかく、メリーに呼ばれた蓮子は彼女達の飲み物と荷物を持っては、控えめに相席。続くようにメリーも座る。平然とした態度のメリーに蓮子は焦燥を含んだ小声で話しかけていた。

 

「メリー……アナタは一体何を考えているの?」

「まぁまぁ。ちゃんと考えがあっての事。安心してちょうだい」

 

 小声で話し終えた後、メリーは静雅に向き直っては自己紹介を。

 

「私はマエリベリー・ハーン。普段愛称でメリーと呼ばれているわ。私の隣に座っているのは大学の友人でもある宇佐見蓮子よ」

「把握した。オレの自己紹介は必要か?」

「大丈夫よ。皆の本堂静雅さん?」

「やっぱ気付かれるんだなー……この変装で見抜かれた事はなかったんだが」

「いや、会話でアナタの友人の声でわかったけど……」

 

 静雅の言葉に控えめのツッコミをする蓮子。彼は「客が少ないから安心していたのが裏目に出たな」と軽く反省した後、静雅は本題を持ちかける。

 

「メリーの話し方で何となく、芸能人としてのオレに用が無いというのはわかるが……何か用か?」

「あら? わかるの?」

「今時の大学生はオレを見ると熱くなるからなー……。普段テレビなどに出ている人物が目の前にいると大抵『本堂静雅さんですか!? 写メ撮って良いですか!?』が大多数だから。特に女子の反応は。メリーの隣にいる……ウサ耳だったか?」

「宇佐見です」

「そうそう、蓮根みたいに少し態度が堅苦しいパターンもある」

「ちょっと!? さっきからわざと間違えてません!?」

 

 平然とした態度で蓮子の名前を間違える静雅に、言葉は丁寧ながらもツッコミを入れる彼女に彼は変わらない態度のまま蓮子に言葉を。

 

「いやぁ、お前さんの苗字と名前は渾名のレパートリーがあるなと思って。だから思わず」

「確かに小さい頃とか呼ばれた記憶はありますけど――って、いきなり初対面の人に渾名で呼ぶのはどうかと思うんですが!?」

「名前よりその渾名が頭によぎったから仕方ないじゃないか、蓮子」

「えっ!? 今度は直に名前!?」

「何だ不満か? 蓮子お姉様と呼べば良いのか?」

「人を貶したり持ち上げたり訳が分からないっ!!」

 

 彼の続く言葉に蓮子は頭を両手で支えては耐えきれず感情の入った言葉を言っていたが――静雅は笑顔を見せながらメリーに声を掛けた。

 

「何か面白いな、蓮根は。思った通りの反応をしてくれる」

「立場が立場だから仕方ないと思うけどね。それに蓮根……フフッ」

「メリーまでそれで呼ばないでっ! しかも笑っているし!?」

 

 軽く笑いながら談笑している二人にどこか蓮子は疎外感を覚えながらも、渾名云々の訂正を求めたが――静雅は蓮子に向き直り、あることを指摘する。

 

「それだ蓮根。お前さんはオレに堅苦しい」

「だから蓮根じゃなくて――え? 堅苦しい……?」

「お前さん、オレが芸能人という事で敬語で丁寧に対応していただろ? 別にオレはタメ口で全然良いからよ。ちなみに蓮根は年は幾つぐらいだ?」

「えっと……」

 

 蓮子は彼の質問に答えると、静雅は頷きながら「やっぱりな」と言いつつ言葉を繋げる。

 

「若干年上なんだろうなとは思っていた。でもさ、この場合だと年功序列的で蓮根をオレが敬うのか、世間の知名度的な意味でオレをお前さんが敬うという不思議なポジションにいるワケだ。お互いの立場がわからないならば――友人関係みたいな触れ合い方で良いんじゃないか?」

「……言いたい事はわかるような気がするけど……」

「ちなみにオレを敬語で触れ合い続けるなら、お前さんの事を時と場所を考えずに【蓮根】と呼び続ける」

「お願いそれは止めて」

 

 流石に場をわきまえないで呼ばれ続けるのは精神的にこたえるようだ。どこか懇願するように言う蓮子の言葉に満足そうに静雅は紅茶を含む。

 二人を話し合いを傍観していたメリーはどこか面白い物を見つけたように、笑いかけながら蓮子に話しかけた。

 

「フフッ。良かったわね。蓮根って呼ばれないですんで」

「結構理不尽だった気がする……」

 

 言葉ではそう漏らしていた蓮子だったが……こちらの反応を笑顔で楽しんでいる静雅を見て、ある考えがよぎった。

 

「(……あれ? もしかして本堂君は――私の緊張感を和らげてくれていたの?)」

 

 目の前にいる人物は仮にも世間では有名人だ。普段会える事の無い人物と会うとなれば丁寧に接しようと思うだろう。わざと蓮子を動揺させては怒らせ、彼女本来の素を引き出した事に。

 

「(……考え過ぎかな)」

 

 蓮子は静雅の事を深く考えるのを止めた頃、彼は思い出したかのようにメリーに確認をとる。

 

「そういえば話が思い切りそれてしまったな……メリー、話の本題って何だ?」

「えぇ。これからそれについて話すわ」

 

 メリーはティーカップに残っていた紅茶を飲み干し、彼女は話を始めた。

 

「貴方友人との会話を聞いていたのだけど……おそらく、貴方が行こうとしている大学は私達の大学だと思うわ」

 

 確認の意味合いでメリーは自分が通っている大学名を伝えると、静雅は「お、それだな」と肯定する。確認はとれたので彼女は本題を切り出した。

 

「私達が案内しても良いわ。なんなら大学近辺も含めて」

「お? マジか!?」

 

 ――彼が関わっている事について干渉し始めた。蓮子を巻き込む形で。

 当然、蓮子の承諾を聞かず交渉した事に戸惑うだろう。しかし……彼女が言葉を出そうとしたが、メリーの話はまだ続く。

 

「それで……案内の報酬という形で私のお願いを聞いてもらっても良いかしら?」

「……とりあえず言ってみてみ?」

「案内を終えた後日、この場所までの足が欲しいの」

 

 メリーはカバンから電子媒体機器を取り出しては起動し、マップを起動して場所を指し示す。蓮子と静雅は覗き込むようにして身を乗り出した後、場所を把握した静雅はメリーに疑問の声を。

 

「……何でこの場所なんだ?」

「その場所は電車で行くとしても微妙な場所なのよ。おまけに最寄り駅からもその場所は遠いし……。他の交通機関でも調べたのだけど、どうもその不便なの。バスの本数も少ないし、バス停からも随分離れている」

「まぁ……驚くほど目的地の近辺は田んぼや畑だな」

 

 彼女から得られる情報を加えて状況を把握していく静雅。

 

「だからと言ってタクシーを使うと、バイトをしていない大学生にとっては出費は激しいの。芸能人の貴方なら、何かしらのコネとかを使って此処まで容易に行けると思ったの」

「把握した。とは言ってもオレは免許を持っているのは二輪までだからなぁ……」

「え……それじゃあ行けないって事なんじゃ?」

 

 静雅のどこか弱気な返事に蓮子は心配する様子を見せたが、彼は首を横に振る。

 

「いんや、親友がちゃんとした免許を持っている。ちょっくら待ってくれ……連絡してみる」

 

 彼は懐から携帯電話を取り出そうとしている時、メリーは言葉を追加。

 

「会話は私達にも聞こえるようにしてもらっても良いかしら?」

「? ……別に構わんが」

 

 彼は携帯に操作を加え、二人に聞こえるようにテーブルの中心に置く。数回の電子音がなった後には、聞き覚えがある声が聞こえてきた。

 

【静雅? 今仕事を始めて結構いろんな意味で忙しいんだけど……どうかしたの?】

 

 聞こえてきたのは先程まで静雅といた男の声だった。蓮子は確か名前は【センリ】だったかと思い返す。

 ……電話越しにやけに鈍い音や、悲鳴が聞こえてくるのが気になったが。

 そのような音は聞こえていないのか聞こえているのか定かではないが、気にせず静雅は彼に話を。

 

「ちょっくらお前さんに頼み事を。ここ辺りの仕事は何時ぐらいで終わる予定だ?」

【とりあえずは君のここでの仕事が終わるまでいるつもりだよ】

「そりゃあちょうど良い。千里、ちょっくらお前さんに頼みたい事があってだな――」

 

 静雅はメリーの言っていた内容を伝えると、電話越しの相手は了承の返事を。

 

【ん。それなら大丈夫。じゃあそのまま車で迎えにいくから】

「了解した。ありがとな」

 

 そこで通話が終わり、静雅の携帯電話には特有の電子音が繰り返し鳴る。彼は携帯を懐にしまい、改めてメリー達に話をする。

 

「足は確保する事は出来た。お前さん達の望み通りになりそうだ」

「あら、それは本当に良かったわ」

「……ねぇ、本堂君? アナタの親友は電話越しで何をしていたの? やけに鈍い音や……悲鳴が聞こえていたような気がするんだけど……?」

 

 それは蓮子にとって一番気になっていた事である。彼女の疑問に当然のように答える静雅。

 

「悪い噂しか聞こえないヤのつく事務所の解体作業」

「…………え?」

「一応オレの親友は警察官でもあるからな。高い能力を買われて全国の似たような場所を撲滅して回っている。あいつ、オレと歳が変わらないのに警部補だからなぁ……。自慢できる親友さ」

「いやいやいやいや!? 色々とおかしいから!? 何で警部補!?」

「あいつ、高校の時に飛び級してよ。外国の有名な大学に進学しては数ヶ月で卒業。その過程でも誇れるような業績を残して警察にスカウトされて。そんなスペックの親友だ」

「…………あの人が!? とてもそうは見えないけど……?」

「あら、蓮子は知らなかったの?」

 

 驚きを隠せていない蓮子に、どこか知っているような素振りを見せるメリー。彼女の言葉にどこかデジャヴを覚えながらも、彼女に詳細を聞く事に。

 

「……また有名人だったりするの?」

「彼、今や世間で知らない人はいない【辰上】の社長じゃない」

「…………社長ぉっ!?」

「とは言っても、千里の父親が代行しているんだけどな。普段全国や世界を回っている所為で」

 

 補足を加えた静雅だが、それよりも新しい情報が寝耳に水だった。だが、彼女は少しずつ冷静に戻り情報を整理していく。

 

 一時の【辰上】は良い噂よりも悪い噂の割合が占めていた。しかし、何時だったか――【辰上】を統括する代表が変わった時だっただろうか? そこから【辰上】は変わり始める。

 普段あった黒い噂を払拭するように慈善活動や人の為になるような行動をしていったのだ。さらには利便性のある商品、娯楽向けの開発まで携わり。加えては商品が爆発的に売れた。

 その時の最も世間を驚愕させた情報が――この全ての行動は当時十代後半の青年がしたという事。その青年のおかげで【辰上】は変わり、世間から必要になる存在となった。

 改めて思い起こして驚愕している蓮子だが、メリーは静雅にある事について問いかける。

 

「静雅。私の知っている情報通りなら、彼の名前は【辰上侠】のはずだけど……明らかに【センリ】という別の名前で呼んでいたのは何かしら?」

「あー……名前の事な。あいつは出生が複雑な事情を抱えているんだ。戸籍上は【辰上侠】なんだが……実際の名前が【縫ノ宮千里(ちさと)】って名前。オレは本名を使った渾名で呼んでいるわけだ」

 

 少しバツが悪そうにしながらも、彼はカップに残っていた紅茶を飲み干して答える。彼の様子を窺いながら、蓮子は考えていた事を声に出した。

 

「……二つ名前がある時点で、やっぱりかなり特別な事情があるの?」

「そりゃな。この事についてはあまり詮索しないでほしい」

「……うん、わかった」

 

 静雅の言葉に相槌を打つ蓮子。流石にこの場にはいない、ましてや他人の分類でも人物の過去を知ろうとは思わなかった。

 話の話題が若干暗い方向になっていた所為か、静雅は空気を変えるようにしてメリーに話を戻させる。

 

「それでさメリー、集合時間について色々決めようぜ。大学案内と車の足が必要な日とかの」

「そうね……それじゃあ、大学の時間については――」

 

 二人はこれからの計画を立てていく。それは当然蓮子も会話に参加するのだが。

 彼女はそれよりも、本堂静雅が親友の名前についての話で一瞬見せた、どこか悲しそうな瞳で遠くを見ていた事が気になっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………予想外、だった」

「予想ついていたじゃない」

「予想ついていただろ」

 

 一人の少女はそう言い、二人は少女の言葉を否定した。一人の少女――宇佐美蓮子は冷や汗をかいては、動悸を多少起こしている。彼女とは正反対で平然としている、彼女の親友のマエベリー・ハーンと芸能人の本堂静雅だ。

 涼しそうな二人に蓮子は文句の一つは言いたくなったのだろう。感情的に彼女は先程まであった出来事を確認させるかのように言葉を並べる。

 

「あれは流石に予想外だったって!! 大学の正門前で待ち合わせをしたのはまだ許せる! でも静雅――アナタは芸能人なんだから姿を隠すのを続行していなちゃダメでしょ!? 正門で感ずいて話しかけてきた人に自ら正体を明かすなんてっ!」

「隠していてもいずれはバレるからな。だったら前もってワザとバラす必要があった」

「静雅が昼休みを使って何かしらの演説をするのは聞いたけど、正体を明かすなら講義終わり10分前あたりがいいんじゃないかな!?」

 

 大学の一コマ目で偶然にも蓮子とメリーは講義をとっていたので、二人はいつも通りに通学していた。二人は大学の正門前までにつくと、そこには大学の名称が書かれた住所をにもたれかかるようにして、腕を組みながら帽子を目深に被ってはサングラスをしている男――本堂静雅がそこにいた。

 彼は二人が来た事を確認したのか、彼女達に近づいて話しかけ、改めて本日の予定を確認していく。

 そこまではまだ良かった。話し終えるのを見計らっていたのか、ある女子大生が静雅の存在感づいた。恐る恐る彼女は変装していた静雅に話しかけたのだ。蓮子としては適当にぼかすだろうと考えていたのだが――

 

「よくわかったな。その通り、オレは皆の本堂静雅だ!」

 

 この男、自ら正体を明かしたのである。

 その発言はもちろん、周囲に混乱を招くものとなった。普段お目にかかれない人物が、自身が通う大学にいると知ったらどのような反応を取るかというと――当然火に油を注いだように大きく燃え広がった。

 そこからは何故か蓮子も巻き込まれる形で簡易鬼ごっこが始まる。きっかけは単純で、静雅が「蓮子、これからどうする?」と名指しで話しかけた所為である。

 集まってくる野次馬達が蓮子と静雅に集中。パニックになっていた蓮子だが、静雅は彼女の手を掴んでは「オレか蓮子を捕まえる事が出来たらサインをやろう!」と発言し、すぐに逃亡。数秒遅れて野次馬達は動き出した。

 ……ちなみにメリーは騒がしくなると察していたのか、すでに遠くに離れていたりする。静雅と蓮子を追う野次馬達を見送った後、携帯を取り出しながら蓮子宛てにメールで「じゃあ私、○○で待っているから」と人気の無い場所を指定し、ゆっくりと指定した場所まで歩いて向かっていたという。

 その後、無事に追っ手から振り切り、現在に至る。

 

「大体なんで私を巻き込んだの!? メリーでも良かったじゃん!」

「メリーはなぁ……。あまり体を動かすことに悪い事に感じて気が引けたんだ」

「あら、紳士的に考えてくれたのね」

「その気遣いを私にも頂戴よ!」

 

 何故メリーと自分では扱い方が違うんだろうと思う蓮子であった。

 

 閑話休題。

 

 過ぎ去った事を掘り返しても事態は変わらない。ようやく改めて本題を持ちかける静雅。

 

「それでさ、確認したいんだが蓮子達の講義は二時限目からはフリーになるんだろ?」

「そうだけど……」

「それがわかればOKだ。オレはその時に大学案内を頼みたい。オレは昼休みに地図にあるこの講義室で特別講義するから、この情報を広めて欲しい」

 

 でもオレはこの後すぐにお偉いさんと会わなくちゃならないんだけどな、という言葉を彼は繋げる。

 彼の態度で忘れがちだが、本堂静雅はあくまで仕事で蓮子達の大学に来ているのだ。例え不遇な扱い方を受けている蓮子でも、今波にきている芸能人を敵に回す事はしない。

 

「……ん。わかった。この場所でやる事を広めれば良いんだね。でも……大勢の前で言いづらいけど……」

「あら、それは心配無いんじゃない? さっきまで愛の逃亡劇をしていたのだから自然に聞かれるわよ」

「いやいや、そんなのじゃないし――」

 

 メリーの冗談めいた言葉に否定する蓮子だが――途中で腑に落ちない事に気づく。確かに彼女の言うとおり、有名人である本堂静雅だが――もしも仮に、先程の騒動を無しにして考えると、本堂静雅がこの大学にいると大学内の学生は信じてくれるだろうか?

 ……ある意味では難しいだろう。証拠写真があるなら信じてくれるかもしれないが、それは違う自慢話の一つとして捉えられるかもしれない。蓮子としては自慢のつもりでは無いが、世間から見るとそのような考え方が出来る。ましてや、見ず知らずの他人に「本堂静雅がここにいるから来てね♪」と情報を自身から発信するのは羞恥心が多少ある。

 ――しかし、もしも「本堂静雅がこの大学内にいる」という情報があれば、どうなるだろうか? ましてや、実際本堂静雅本人と一緒にいた蓮子を見かければ、わざわざ自分から情報を広げなくとも興味のある人物だったら自ら聞きに来るかもしれない。

 

「(……まさか、さっきふざけていたようにしていたのはワザと……?)」

 

 考えていない行動をそこまで考えての行動なのか。メリーに言われなかったら蓮子は多少の羞恥心を持ちながら自ら情報を広めていただろう。

 

 

 

 ――この男はふざけているように見えて、一体どこまで考えているのか?

 

 

 

 テレビや情報誌と違う印象を持つ【本堂静雅】について蓮子は思考をめぐらせていたが、静雅が体を翻しながらも蓮子とメリーに言葉を残す。

 

「んじゃ、ちょっくらお偉いさんの所に行ってくる。お前さん達も時間があるなら来ても良いからなー」

 

 背を向けながらも、片手を左右に振りながら彼は去っていく。彼が見えなくなるまで見送った後――蓮子はメリーに昼休みにどうするか尋ねる。

 

「……メリーはどうする?」

「特に予定は無いし、行ってみようと思うわ。蓮子は?」

「私は――」

 

 彼女、蓮子の心の中の答えはもう決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………凄い人数が集まってる…………」

「流石は皆の本堂静雅ね。彼の世間からの評価が良くわかるわ」

 

 昼休みがきた。後は先ほどのメリーの考え通り、講義の休憩時間に蓮子の元に多数の学生が集まっては本堂静雅の事を根掘り葉掘り聞かれた。同時にネット上でも情報がバラまかれる。ネット上に関してはSNSにおける静雅のアカウントの呟きだ。二つの情報源が拡散し、講義が終えた二人はゆっくりと足を進めて会場の講義室の扉を開けると――講義で使う椅子は満席状態、ましてや多数の学生や講師まで立ちながら本堂静雅を待っているのだ。

 ……辺りを凝らして見ると、大学の部外者が紛れ込んでいる。一応蓮子達が通う大学は関係者以外の人物も入る事ができるが。

 

「(……多分、これが普通の反応なんだよね……)」

 

 彼に執拗にいじられている所為か蓮子の反応は薄いが、もしもカフェで出会わなければ自分もこうして期待して待っていたかもしれない。

 

「蓮子、とりあえず私達も移動しましょう。遠くでも彼の姿が見える、話を聞ける場所まで」

「あ、そうだね」

 

 何時までも出入り口にいたら邪魔だ。二人は速やかに場所に移動。

 そして、数分経った頃には――ようやくあの男が扉を開いた。

 

「お、結構集まったな。これだったらオレも話しがいがあるもんだ」

『キャアーッ!』

 

 ようやくこの会場の主役が現れた。本堂静雅の登場に主に女子大生から黄色い歓声が。

 歓声を浴びながら静雅は愛想良く笑顔をしながら手を振る。彼の対応に会場の熱気がこもっていく。

 

「蓮子はしないの?」

「いやいや、しても変わらないし……」

 

 メリーから振られる話を流し、彼女は静雅に話を聞こうと集中。当本人の静雅は教卓に着いては備えてあったマイクの調子を確かめて咳払いをし――

 

「あー、あー……ゴホン――静粛に。忙しい中、もしくは貴重な時間をワタシの為に使っていただき、感謝する」

 

 先程見せていた笑顔とは違い、緩めていた顔が引き締まっては普段の口調とはの所為か、違う意味で会場がざわめいてくる。

今の空気を読んだのだろう。静雅はそのままの口調で理由を説明。

 

「静粛に。……大方、今のワタシの口調に疑問に思っているのだろう。これについては気にしなくて良い。一応ワタシはこれから話す時間は【講師】として演じる。仕事の一貫だ。では、そろそろ本題に入ろうか――」

 

 どうやら演技で普段の口調と違うようだ。彼は役者としても行動している為、何かのきっかけするかもしれない学校関連のドラマに向けた練習も含んでいるのだろう。

 そして彼、本堂静雅は口を開いて問いかける。

 

 

 

 

 

 

「――皆、リア充の定義はどのように考える?」

 

 

 

 

 

 

 一瞬、思考が止まった。そうなったのはおそらく蓮子だけではないだろう。大多数が言葉を失い、自我を取り戻した頃には困惑して隣人に確認を取り合っているのだ。

 

「メ、メリー……。静雅は一体どうしたいの……?」

「まぁ、彼の話を詳しく聞けばわかるんじゃない?」

 

 大多数の反応の一例をとっている一人に入る蓮子だが、メリーは例外的に落ち着いている。冷静な彼女に悟られ、蓮子は静雅の話に集中する。

 彼はこの状況は想定内だったのだろうか? 特に気にする事はなく話を進めた。

 

「……まぁ混乱するのはよくわかる。だが、話を続ける。この定義は人によって答えが違うだろう。そうだな……手前にいる、白いブラウスを着ていてはポニーテールにしているお前さん。リア充の定義は何だと考える?」

『ふぇっ!? わ、私は、恋人がいる人だと、思います……!』

 

 急に彼は話を聞いている人物に振った。振られた学生は困惑していたが、あがりながらも答える。

 静雅はどこが満足したように頷いた後、違う人物にも振る。

 

「ふむ。一つの答えをありがとう。では……そこにいる、席が満席状態のおかげで腕を組みながら壁にもたれかかっている、両耳を銀のピアスをしている男をお前さんはどう考える?」

『!? お、俺か……それは今喋っている本堂静雅じゃないか?』

「成る程。お前さんはワタシをリア充と考えているか。それも一つの答えだろう」

 

 ある意味では嫌みとして言葉を返した男だが、当本人の静雅は先程と同じような態度だった。流されたように感じたその男は悔しそうな表情を浮かべているが。

 

「この通り、一人一人リア充の定義は違う。恋人がいるのがリア充。ワタシのような人物がリア充。全員には流石に問いかける事は出来ないが、私もリア充の定義は考えている。誰か一人でも、ワタシが定義をするリア充も聞いて欲しい」

 

 一呼吸を入れて、彼の定義するモノとは。

 

 

 

 

 

「――心から信頼できる人物いる。これがワタシの定義するリア充だと考える」

 

 

 

 

 

 大多数が予想していた答えが違うのか、今度は違う意味でざわめきあう観衆。その中で蓮子は彼の言葉を心で復唱しながら意味を考えていた。

 

「(……【心から信頼できる人物】? それって親友とか家族の事?)」

 

 彼女なりの解釈をしながらだったが、静雅はざわめいている場を収める。

 

「静粛に。……大方、ワタシの言葉の類似として【親友】や【家族】と捉えている人物が大多数だろう。実際、それは含まれる。しかし、だからこそ聞きたい――皆は思い浮かべる人物が【心から信頼できる人物】と断言できるだろうか?」

 

 彼から続く深い問いに少しずつだが、静寂になっていく。それでも彼の話は続けた。

 

「もしも、この中で断言出来る人物がいるなら誇ってもいい。人間という生き物は一人では生きてはいけない。実際にある昔話の【アダムとイブ】が1つの例だ。これはたまたま異性ではあったが、その二人を起源にして人類は増えていった。ここで考えて欲しい事がある――アダムとイブは生存本能とは別に、二人は心から信じて愛していたという事をっ!」

 

 彼は語るうちに備えつけられていたマイクをスタンドから取り外し、片手に持っては感情に振り回されるようにして話す。

 

「言わば二人が先駆けたリア充と言っても過言ではない。しかし、問題はそれ以降だ。人類はアダムとイブの二人だけじゃなく、世界中には70億もの人間がいる。仮に異性でも同性でもいい。しかし! 皆はこの70億から数人以上のアダムとイブのように、生涯を共に生きたい、もしくは関わっていきたいと断言できる親友と普通の家族を超えた大事な人はいるかっ!!」

 

 遂には静雅が喋る事に大半の人物聞き入っている。蓮子は呆然としている中、メリーは見定めるように彼を見ている。

 彼以外の人物は完全に静かになるが、静雅は熱くなっていたと自覚したのか落ち着いた口調を取り戻す。

 

「……無論、ワタシにはこれからの人生でも関わっていきたい親友がいる。幼い頃から深く関わった男の親友だ。加え、親友の家族とワタシの家族は仲が良くてな。多少の優先順位はあれど、大事な人物には変わりはない……しかし」

 

 大雑把な人間関係を語った静雅だが、先程まで自信に満ちていた表情から、悲しげに目を伏せながら言葉を繋ぐ。

 

「親友は、誰でも仲良くなれるコミュニケーション能力があったのだが……ある人物の行動で心に深いキズを負った。その日をきっかけにして、親友の心は一時閉ざされてしまったのだ。本人は誰とも仲良く、交友関係を広めると共に【その人物の家系】に認めてもらいたかった。だが、その人物は親友の事を憎んでいた。これについては親友は悪くは無いのだが……。この影響で親友は人間不信になったしまったのだ」

 

 彼としても思い出したくない過去なのか、言葉が段々と弱くなっていたが、伏せていた目を公衆の視界に入るようにして顔を上げては話を再開させる。

 

「しかし、今ではほとんど元通りにはなった。まぁ、ほぼ元通りになったのは三年ほど前だが。親友は再確認してくれた。例え周りの人間関係が滅茶苦茶になったとしても、盲目的になったとしても――見えないだけで、傍に大事に想ってくれている人物がいると」

 

 手に持っていたマイクを備えつけられていたスタンドに戻す。そして彼は、今回の話を要約を。

 

「つまりだ。家族や恋人や友人などの存在で、本当に心から信頼出来る人物を見つけて欲しい。中には【そんな人物はいない】と言う人物もいるかもしれないが――少しずつで良い。積極的に話しかけては繋がりを作って欲しい。この言葉はどこかで聞いた、類似した言葉を聞いたかもしれない。だが、皆より先に社会に出ているワタシが言っておく――本当の信頼関係を築ける人物は利害関係など気にしない人物だという事を覚えて欲しい。……以上だ」

 

 締めの言葉で一時的に静寂が走る。その後に誰かが――とは言ってもメリーなのだが。彼女は静雅に拍手を送った。釣られるようにしてだが蓮子もメリーを見ながら拍手を。メリーを発信源として拍手の波が広がっていく。最終的には会場にいる誰もが彼に拍手を送っていた。

 

「……御静聴、ありがとうございました――お? 時間が少し余ったな。じゃあ残りの時間は質問タイムにするか。さっきの話と全く関係のない質問でOKだ。くだらない事で構わない。この皆の本堂静雅が答えよう! 質問タイムの間だったら写メする事も許可する!」

 

 先程までしていた芝居かかっていた口調が終わり、芸能人としての雰囲気に戻る静雅。彼の言葉で我を取り戻した観客は、絶える事の無い質問をしたり、電子媒体機器などのカメラのシャッター音があちこちに響き渡る。

 その中蓮子は、先程まで浮かべていた静雅の表情を思い出していた。芝居がかかっていたのは確かだが――親友の回想で本当に悲しそうに見えたのは彼女の気のせいだったのだろうかと、ずっと考えていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いやー、宣伝、案内御苦労だった! ここの飯はオレの奢りだ! 好きなモノをジャンジャン頼んでしまえ!」

「い、良いの? じゃあ何にしようかな……」

「ここ、普通のファミレスと比べて少し高いわよ? お金は大丈夫?」

「金は稼いだ」

「……それは……」

 

 本堂静雅による特別講義が終わった後の事。彼は講義を終えると一時的にその場から消え、後から蓮子の携帯に連絡が入っては軽く変装した静雅に大学内を案内しまわった。変装はサングラスに帽子ぐらいだったのだが、意外にも他者にはバレなかったという。

 時間が進み、夕闇も深くなった頃。静雅は蓮子とメリーに御礼という事で外食に招待。そして全て彼の奢りだという。少し控えめに蓮子はメニューを眺めているのだが、メリーの気遣いの声が。彼女の不安を払うように静雅は真顔でブラックカードを見せていたが。

 金銭的な余裕はあるのだろうと思っていたメリーは、少し予想外の回答に戸惑いつつ、蓮子は噴き出して驚いている。

 

「ブフッ!? ブ、ブラックカード!? は、初めて見た……!」

「会計を一気にしたい時は便利なんだよなー、これ。特にこういう場とか。流石に普段からこれは使わんよ」

「今まで稼いでいたのがそのカードに詰まっているのね……」

「そゆこと。無駄遣いしないで貯めたのがたっぷり詰まっているわけだ。じゃあオレも何か頼も――お?」

 

 二人の言葉に答えた彼もメニューを取ろうとした矢先――彼の周りでようやく聞こえる振動音が響いた。どうやら音源は彼の携帯らしい。

 静雅は「ちょっくら待て」と言ってメニューを取る動作を中断し、スリープモードを解除しては情報を確認。

 数秒後静雅は確認し終えると、その情報を元に蓮子とメリーに伝える。

 

「ちょいと参加する人数が増えるけど良いか? 尤も人数は一人で、それは親友なんだけどよ」

「親友――それって最初の喫茶店で君と一緒にいた男の子の事?」

 

 蓮子の問いに静雅は「御明察」と言っては肯定する。

 ……ちなみにこの親友は、静雅が講義で出てきた【親友】とイコールで考えているのが現状だ。だが、仮に会ったとしても問いかけないようにはするが。

 静雅の肯定にメリーは軽く笑いながら自身の思った事を。

 

「【辰上】の社長がここに、ねぇ……。ふふふ、ここ最近有名人ばかり会うわね」

「メリーの言うとおりね……本当にここ最近どうかしてるよ」

「はっはっは。まぁ良いんじゃないのか? こんな有名人に会うばかり会うって言うのも」

「君の所為で私の疲労は加速しているけどね……」

「それはツッコミ属性がゆえの宿命だ。逃れられない運命なのだよ、蓮子」

「静雅が真面目に対応すれば大丈夫な話じゃん……」

 

 妬ましい視線を静雅に蓮子は送るが、彼はものともせず。彼女の中では「彼のストッパーが出来る人が現れないかな」と願っていたという……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本堂静雅の親友は参加するものの、ファミレスまでは多少距離があるという事で蓮子達は先食事を始めていた。蓮子はどうせ静雅は食事中にふざけてくると考えたのだが、意外にもそんな事はしなかったという。多少の雑談はあるものの、蓮子の思うような弄りがない事に疑問を覚えていたり。

 ちょうど三人が前菜を食べ終えた頃だろうか? 店内に一人の来訪者が入ると同時に、流れるように店員へと声を掛けた。

 

「すみません、既に待っている人がいるんですけど――」

 

 一瞬にして一部を除いて、その場にいる人物はその人物に注視した。ほとんどの人物が、来訪者へと目を向けたのだ。

 その来訪者は男モノのスーツを着ていたのだが――それでも性別判断に大多数の人物は苦しんだ。彼なのだが――来訪した瞬間に靡いた、彼の赤みが掛かった腰までの黒髪に目を奪われていた。ゴムなどでとめられていない、絹のような、滑らかで光が反射していては、赤い宝石を見ているような髪質。作りモノのような髪を見て、大多数の人物が思った事。

 

 

 

 

 

 ――なんて美しいのだろう――

 

 

 

 

 

「…………」

 

 見とれているのは蓮子も同じだ。彼女の手の動きは中断しており、彼に受け答えをしようとしていた女性店員は固まっており。だがその髪の持ち主は店員に行動を促す。

 

「あの、店員さん。店内に自分と同じぐらいの年齢ぐらいの人がいるはず何ですけど……黒いサングラスと帽子を被っている男の人と、女の人が二人いる席に」

『――は、はい! こちらです!』

 

 ギクシャクとしながらその店員の誘導に長髪の男は従い。長髪の男は蓮子達の席まで来ると店員に軽く別れの挨拶として会釈をし、初対面のメリー達に自己紹介を。

 

「静雅から聞いているとは思うけど、自分は辰上侠だよ。とりあえずよろしく」

「えぇ、よろしく。私はマエリベリー・ハーンよ。愛称であるメリーでも呼び方は何でも良いわ」

「初対面の人を愛称呼びするのはハードルが高いって……」

「あら、貴方の親友は私の友人を躊躇いなく渾名を作って呼んだわよ?」

「いやいや、自分はそんなフレンドリーじゃないから……」

「あ、あの――」

 

 蓮子はどうして平常心を持って目の前の人物と話せるかと友人に疑問を覚えつつ、ある意味では場違いかもしれない質問を投げかける。

 

「――どうして男の人なのに髪の毛が長いんですかっ?」

「あー……気になるよね。この髪の毛の長さは生みの親の父さんのを真似ているんだ」

 

 彼は自身を髪の毛を触りながら言う答え方に、一瞬【生みの親】の言葉に地雷を踏んでしまったかと蓮子は責任を感じてしまったのだが――そんな彼女をフォローするかのように静雅は情報を開示。

 

「オレの親友は少々家庭環境が複雑でな。諸事情で生みの親と育て親がいるんだよ。ちなみに親同士を関係はかなり良好だ。ここテストにでるぞ……それと千里、普段から髪を縛っているゴムはどうした?」

「あー……ちょっと【制圧】する前には切れても良いゴムにしていたんだけどね……少々抵抗された時にちょっとね。仕事用の髪ゴムは寿命で切れちゃって」

「そっちが切れたのか。縁がくれたモノが切れなくて良かったな」

「縁が誕生日にくれた髪ゴムは大切に使っているしね」

 

 そう静雅の質問に答えながら、辰上侠は胸ポケットから陰陽玉が付いた髪ゴムを取り出しては、後ろ髪を纏めてポニーテールにしている。彼の髪型は以前喫茶店で見た通りにの髪型だ。単純な興味としてなのか、現在髪ゴムの詳細について聞く蓮子。

 

「さっき言っていた【えにし】って人から誕生日に贈られたモノって言っていたけど……まさか彼女だったりするの?」

「まさか。実妹だよ、実妹。十歳ほど離れている妹。二歳ほど離れた義妹もいるんだけど……まぁ見てもらった方が早いか」

 

 辰上侠は自身の携帯端末を取り出しては待ち受け画面を蓮子とメリーに見せる。

 そこに写されていたものは――片膝のついている彼を中心にして、左に高校生にも見える女子生徒が満面の笑みで彼の腕に抱きついており。片や反対の方では控えめに彼の肩の服を掴んでそっぽを向いて恥ずかしそうにいる小学生の真ん中あたりの学年の少女。それぞれの女の子の後ろに立っているのは二組の夫婦だ。この写真に立っているのは先程の説明によりどちらかが生みの親か育て親というのは理解したのだが――それよりも二人が共通にして疑問に思った事が一つ。

 

「「(……どうして猫の頭に【五徳】……?)」」

 

 そう。彼の前にはおそらくは飼っているのだろう、少々太っては丸い形をしている猫がいるのだが――その猫の頭上には、キッチンで使われている事がコンロにある【五徳】だ。二人から見てもこの猫は奇妙過ぎる。

 写真に写っている猫について考察していた蓮子とメリーだが、写真を見て言葉を掛けた静雅。

 

「お? それは【家族】の集合写真じゃん。オレがカメラマンとして撮ったやつの」

「大事に使わせてもらっているよ、この写真。……ちょうど一年前かな、縁がちょっと反抗期になってきたのは……」

「あ、あぁ……」

 

 写真を見て少し遠い目をしながら現状を語る侠に、静雅はどこか気まずそうにしているのを気付かずに話を続ける。

 

「初めて会った時は【にぃに】って呼んでくれておんぶしてあげると喜んでくれたのに、今ではちょっと縁は冷たいんだよね……。一年程前かな? 急に【兄さん】って呼ぶようになって。今までの態度の違いにまだ戸惑っている自分がいる……」

「(千里。縁は早過ぎる思春期をむかえているんだ……。オレも縁に【あの事】を相談された時焦ったぞ……)」

 

 寂しそうに言う侠とは違い、静雅はどこか困惑している。ある意味では対照的に見えては重い話題性に感じたのか、蓮子は侠に【ある事】についての確認をとる事に。

 

「ねぇ、えっと……辰上君? さん?」

「別に好きな通りに呼んで良いよ」

「じゃあ辰上君。君が車を出してくれるそうだけど……本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。明日はその気になれば簡単に休みは取れるし。ちゃんと免許も持っているから安心してね? ……それとハーンさん、場所の確認をしたいんだけど……ここで合っているんだよね?」

 

 確認を取る為に携帯端末のマップ機能を呼び出し、メリーに目的地を示す。

 

「えぇ、ここよ。この場所は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。ファミレスの食事を終えた後は各自帰還。静雅と侠はビジネスホテルに泊まり。集合場所には4人が集まった。辰上侠の車に乗り込み、メリーの示した目的地へと車を走らせている。

 車の運転はもちろん侠であり、助手席は静雅――ではなく蓮子だったりする。これにはきちんとした理由があり、彼が助手席にいると対面ですれ違った対向車に気づかれる恐れがある為。なので運転する侠の後ろには静雅がおり、助手席の蓮子の後ろにはメリーがいる。

 始めは案内というよりは発起人であるメリーに助手席に座るように蓮子は促したのだが――

 

「気にしなくて良いよ宇佐見さん。昨日の確認でルートは覚えたから」

 

 この侠の発言に蓮子は「え?」という疑問符と共に困惑した。蓮子は車についているであろうカーナビに頼りにするのかと自己完結したのだが――その肝心の車にカーナビはついていない。

 今ではもう出発しているだが、彼女としても不安があるのだろう。蓮子は侠に再度確認を取る。

 

「ね、ねぇ辰上君? スマホをカーナビとして使わないの?」

「前情報が無いならともかく、今回はどこに行くのかのルートは昨日のマップで確認したし。極力携帯の電池は電話とメール以外使いたくない」

「それで迷ったら本末転倒だと思うだけど……」

 

 蓮子の疑問は尤もなのだが、彼女の疑問に答えたのは静雅だ。

 

「心配ねぇよ蓮子。千里はその気になれば世界中の交通を含めた道順すら覚える事が出来る」

「…………流石にそれは盛り過ぎじゃない?」

「それぐらい記憶力が良いと思ってくれ」

 

 仮に本堂静雅を知らない人物なら一蹴していたところなのだが、不思議と蓮子は静雅の発言はどこか真実味がある。何故か納得してしまった。

 一応だが話に区切りがついたと判断した侠は、運転しながら蓮子に雑談を振る。

 

「宇佐見さん、静雅の相手は大変だったでしょ? 静雅は弄ってもいいって判断した相手をトコトンいじくり倒すから」

「……確かにね。でもどうして私ばっかりなの? メリーだっているのに」

「大方宇佐見さんがツッコミ属性が多いって判断した事だと思う」

 

 侠の言葉に思い当たる事があったのか、蓮子は後ろを振り返って静雅に視線を向けるも彼はご丁寧に窓から見える景色を見ながら口笛をしている。親友の様子を悟ったのか侠は溜め息をしながら彼女に労りの言葉を。

 

「やっぱりね……宇佐見さん。何か静雅で困った事があったら自分に頼って良いからね。抑止力になってあげるから」

「それは確かにありがたいけど……私、辰上君の連絡先知らないし……」

「それもそっか。じゃあ、はい。名刺」

 

 片手で運転しながら名刺入れを取り出し、片手で器用に一枚の名刺を彼女に渡した。流れるように受け取った蓮子だが――心の内は騒がしい。

 

「(あれ!? 何か凄いモノの普通に貰った!? 今ではかなり影響力のある【辰上】の社長さんの連絡先って……!?)」

「良かったらハーンさんも。他にも相談したいのがあっても構わないから」

「あら? それって私達にとって【辰上】にコネが出来たようなものだけど……良いの? ここに書いてある連絡先って直接貴方に連絡がとれるモノよね?」

 

 続いて受け取ったメリーも彼の行動に疑問を覚えている。対して侠は平然として語る。

 

「少なくとも静雅から歩みよっている人物だからね。静雅経由だけど、君達は信じる事が出来そうだ。【芸能人】としての静雅じゃなくて、【一人の人間】として触れ合っているなら尚更」

 

 結構そういうのはわかるんだよね、と言いつつ侠は前をしっかりと見ながら運転。確かに蓮子としては思い当たる節がある。確か静雅本人もメリーが彼に話し掛けた時、同じような事を言っていた。【芸能人】として彼に触れ合うのではなく、【個人】として触れ合った。それも侠の推察通りだ。

 

 静雅もそうだが、隣にいる辰上侠。蓮子にとっても、普通の人間じゃないのだろうかと考える。

 

「(歳は一つだけしか変わらないはずなのに、凄い年上に見える。静雅は主に精神的にだけだけど、辰上君は全体的に……どうして?)」

 

 深く辰上侠について考察していた蓮子だが、途中で後ろからの会話が耳に入ってきた。

 

「メリー、凄い蓮子が千里の事を見つめているが……これは脈ありか? フラグか?」

「かもしれないわ。以前喫茶店で貴方達二人入って来たじゃない? その時に静雅と辰上の社長さんどちらが気になるか聞いたのだけど……蓮子は後者を選んだわ」

「成る程……じゃあオレ達はバックアップしないとな」

「えぇ。親友の気持ちを後押ししないとね」

「――ちょっと!? 何で人の恋愛事情を勝手に決めないでよっ! 会ったばかりの辰上君をそういう対象に見てないし!」

 

 聞こえていない振りをするのも限度が来たのか、蓮子は後ろを振り返って頬を染めながら否定の言葉を。この言葉に最初反応したのはメリーや静雅ではなく、意外にも侠だった。

 

「うーん……わかっているとはいえ、そこまで否定されると少し悲しいかな……」

 

 苦笑いを浮かべながら蓮子の言葉に反応すると、彼女は慌てふためきながら弁解を。

 

「ち、違うよ辰上君!? 今のはあくまでメリーと静雅の言葉を否定しただけで、辰上君が嫌いという事じゃないからっ」

「いやいや宇佐見さん、流石にそこまでは言わなくても大丈夫だから……」

「でも、辰上君を少し傷つけるような言い方をしたのは私だから……」

「いやいや……」

 

 お互いに謝り続いている二人の様子を見て、メリーは一言。

 

「……案外、お似合いなのかしら……」

 

 その呟きが聞こえた人物は、誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的地付近には着く事が出来た。しかし、あくまで【付近】である。ここからの行動は長い階段を登らなくてはならず、車での移動は不可能なのだ。なので今からの移動手段は徒歩になる。

 車を適当な所に止めては、四人は階段を登っていく。先の長い階段なので侠と静雅は蓮子とメリーの体力について心配していたが、その心配は杞憂だったようだ。二人はサークル活動でフィールドワークも行っているため、普通の人物と比べると体力は多めだ。なので四人は雑談しながら階段を登っていく。

 そして――寂れた社が見え始める。存在を確認できた蓮子は勢いに任せて駈けていく。全力疾走をした所為か階段を登りきった後は膝に手を置いて肩で息をしていたが……呼吸を整えた後に、改めて現在地を言う。

 

「着いた……! ここが【博麗神社】……!」

 

 目的地に着いてどこか感動している蓮子の次に、駈けて博麗神社に着いたのは静雅だ。彼としてもいきなりの疾走に疲れたのか呼吸が荒いが、次第に落ち着きを取り戻す。

 

「はあ、はあ……いきなり蓮子が走りだしたから【オレいっちばーん!】計画が台無しになったじゃないか……。それとここが博麗神社、ね……随分廃れてら」

 

 彼自身の率直な感想に答えたのはメリーだ。彼女は蓮子と静雅みたいに走らず、白い日傘を差しながら着く。

 

「【博麗神社】が一番【境界】があやふやな場所と踏んでいたの。噂話で、ここも神隠しが結構多いみたいなのよ。それで実際――ここ博麗神社の【境界】は一番怪しいわ」

「メリーはなんやかんやミステリースポット的な事がわかるんだっけか? オレもそういうのが欲しい」

「別に良いことばかりじゃないけどね。ここがおそらく【現実と幻想の狭間】……」

「良いねぇ、その言葉――お、千里も来たみたいだな――」

 

 最後の人物の到着に先にいた人物達は振り返るが――少しの間、彼に困惑する事になる。

 

 

 

 

 

 何故なら――辰上侠は博麗神社についた瞬間、両方の瞳から涙を流していたのだから。

 

 

 

 

 

「……辰上、君? 泣いているけど……どうかしたの?」

 

 先に彼に話し掛けたのは蓮子だ。近づいて心配する彼女に言われて気づいたかのように、侠は涙を拭いながら返事を。

 

「え――あ、本当だ……? どうしてだろう……? 何故か自分はここに初めて来たはずなのに――【知っている】気がするんだ。この【博麗神社】……」

 

 涙は止まったが、三人の疑問は尽きない。侠の親友である静雅は先程までのおちゃらけた態度と違い、真剣な瞳で疑問を解こうとする。

 

「……【知っている】? オレの知る限りだと千里は【博麗神社】は初めて知った、もしくは初めて来た地名のはずだろ? それとも、オレが知らないウチに来た事が?」

「いや、一瞬だけどビジョンが流れたんだよね。【綺麗になった博麗神社】。博麗神社の他に【赤い洋館】、【桜が続いた先にある屋敷】。【竹林の中にある屋敷】に、【山の山頂にある神社】、【空の世界】、【地下世界】。後は複数の【お寺】。最後には――【赤い龍】が見えた……」

「(赤い龍、だと? 確かに【辰上】は龍の子孫という言い伝えはあるが――まさか!? 元本家には奪われたが、それは実験前に奪取する事は成功し。【下剋上】時に見た千里がリミッター解除した際の高すぎる運動能力。そして謎のフラッシュバック――まさか!? 辰上侠――縫ノ宮千里は正真正銘の……!?)」

 何かが繋がっただが、その話をする前に遮るようにしてメリーが侠を【見て】言葉を。

 

「貴方の【境界】が、凄い揺らいでいるわ!? ……おそらく知らないウチに、貴方はこの【博麗神社】に何かしらの関連を持っているのは間違いないわね……」

「……少し、頭痛がして来た……」

 

 体調不良を訴えた後、侠は片手で頭を支えながら片膝をついた。そしてどこか呼吸も荒々しい。事の事態を重く受け取った蓮子は彼の肩を組むようにして立ち上がりながら指示を出す。

 

「これってまずいんじゃない!? 辰上君がこの博麗神社に来てから体調不良になってるし……! 一先ず辰上君を博麗神社から離そう!」

「それに同感だ! 千里を神社から離すぞ!」

 

 蓮子と同じように静雅は侠の逆を肩を組むようにし、三人は神社を早足で去っていく。メリーも三人を追いかけていたが、途中で神社を振り返っては考察。

 

「……彼があのままでここにいたら【道】が出来ていたかもしれないわね……」

 

 独り言のように呟いた後、メリーは三人を追いかける事を再開した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 博麗神社の長い階段を慎重かつ迅速に降りている四人。その中で体調が急変していた侠は彼を背負っている静雅と蓮子に声を掛ける。

 

「ありがとう、二人とも……もう頭痛はしないから大丈夫だから……」

「お、そうか? なら離しても――」

「ダメだよ、辰上君。体調が急変したんだからまだ自力で歩いちゃ。せめて車までは私に頼って!」

「…………」

 

 本来は自分がしようとした行動に釘をさされたら不快に思うだろうが、逆に侠は蓮子の言葉に目を丸くしている。

 彼の視線が気になったからこそ質問したのは蓮子だったが、その疑問に答えたのは少し愉快そうに笑う静雅だった。

 

「……? どうしたの辰上君?」

「蓮子、千里はちょっと戸惑っているだけだ。普段千里は頼られてばかりで、頼られるという事はほぼ無いんだ。まぁ、過去については聞かないでやってくれ」

 

 以前の静雅の講演といい、隣で体調が回復しつつある侠がいったいどのような人生を送ってきた事が気になってくる蓮子である。

 静雅からの解答を聞いた後、遅れて三人の元に来たのはメリーだ。彼女は真剣な眼差しのまま、侠の瞳を見ながら話し掛ける。

 

「……貴方、博麗神社に訪れて謎の頭痛に襲われたようだけど……心当たりはないのね?」

「自分の記憶では無いだけど、何故か知っている。答えになっていないけど……」

「……詳しくは静雅にも話していないのだけど、私は【境界】というモノが見えるの。ちなみにここにいるメンバーの中で一番異質な【境界】を持っているのは貴方よ」

「そんな非現実的――とは言っても、非現実的な出来事は起きているのは確かなんだよね……」

 

 彼自身としても悩ましい事と自覚しているのか、片手で頭を支えるようにして情報を整理している。

 その中で、メリーはこの場にいる人物に聞こえる声量で――これからの方針を告げた。

 

「――辰上侠の言った【場所】について調べたいと思うわ。おそらくその複数の場所が何かしらの鍵になっているのよ」

 

 確かにメリーの言うとおり侠が見たフラッシュバックは何かしらの手がかりだろう。それに伴い、静雅もこれからの方針を告げる。

 

「オレ的にはもう関係の無い事だと考えていたが……まだ、千里について調べる可能性がある」

「……自分の事について?」

「そうだ。千里、お前さんには【辰上】の血が流れている。その【辰上】の言い伝えとして残っているモノは?」

 

 話の部外者である蓮子とメリーは疑問符を浮かべているものの、本人の話題でもある侠は驚愕の表情を浮かべながら否定するが、静雅は説明を続ける。

 

「【アレ】って元本家の盲信でしょ? そんな事は――」

「お前さんの最後に見たフラッシュバックが鍵だ。元本家に聞くのももちろんだが……柊史さん達もそうだが、月白さん達にも聞く必要がある」

「父さん達が? 何か思い当たる事でもあるのかな……?」

 

 静雅の話に腑に落ちない様子の侠だが、ここで悩んでもしょうがないので割り切った。

 三人が色々な考察をしている中で、置いてけぼりなのは蓮子である。彼女は困惑しているが、親友であるメリーに現状についての把握を申し出る。

 

「えっと……メリー。つまりこれから私達はどうするの?」

「まとめてしまえば私達は辰上侠の言った地名を調べる。静雅達は改めて【辰上】について調べる。この二点ね」

「……あれ? もしかして、これからも静雅達と交友は続くの!? てっきりこれ以降は無いと思っていたのに!?」

 

 辰上侠の一件がなければこれで終わりのはずなのだが、まだ彼らと連絡しあうような言い分に蓮子は驚いているところに、メリーはお茶目にウィンクをしながら本音を語る。

 

「だってこの不思議な現象を追求するのは面白そうでしょ? まだ知らない世界や知識があるみたいで♪」

「まぁ……確かに……」

 

 蓮子はメリーの言い分に納得。先程起きた事は他人事といえど、辰上侠の身に起きた事は気になる。このまま何も知らすに別れてしまうのは後ろ髪が引かれる。

 

 

 

 

 

 そして何より――この先にあるであろう【真実】にたどり着きたい。この思いが胸中に渦巻いているのだから。

 

 

 

 

 

 張本人である辰上侠は会って間もない二人が自身の【謎】に献身的になっている様子を見ては間の抜けた反応を。

 

「ゑ? 何で二人はこんなに協力的なの? これは自分の問題なのに――」

「良いことじゃねえか。オレ達が本来やろうとしている事を手伝ってくれるんだぜ? 人の出会いは一期一会だ。この出会いを大事にしようぜ。【昔】のお前さんならともかく、【今】のお前さんなら二人を信用できそうだろう? 親友よ!」

「……まぁね。この二人なら任せられるような気がする」

「だろう!」

 

 勢いをつけて静雅は侠の背中を押すように叩いた。侠はどこらか呆れた表情を浮かべていたが、その意味をこの場にいる人物達は理解している。それを確認し、大雑把な計画を立てたのはメリー。

 

「静雅と侠の連絡先は知っているから問題ないわね。じゃあ何時の日に予定が空いているか教えて貰える? 直接会いたい日もあった方が良いから」

「お、そうだな。じゃあ今のところの予定は――」

 

 すぐに四人は各自の予定を教えあう。一つの出会いが新しい興味を生んだ事に、蓮子はどこか心が踊っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――これからどういう事が起こるんだろう――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――? 今……」

「どうかしたんだぜ、霊夢?」

「……いいえ、何でも無いわ」

「ふーん……まあ良いけどよ。せっかくの宴会なんだからよ、さっさと飲まないと皆に酒を飲まれるぜ?」

「……そうね(……さっき、博麗大結界が大きく揺さぶられたような感覚があった。何かが結界に干渉している? 考えたくないけど――何か異変が起きようとしているのかしら……)」

 

 

 

 

 

 

 




 過去の投稿した人気投票した話で静雅の言っていためたぁ発言を元にまとめるのと、今回のこの話はこのような設定です。

・幻想郷に関わらず千里が何とか実験に巻き込まれずに下剋上を達成した、数年後の話
・実験されていないのでティアーが千里に憑りついていない
・先祖返りであるが、まだ確証的な情報は無い(ただし静雅は推察は出来た)
・五徳の正体が未だにバレていない
・数年の時間が経って陽花は千里に対していつも通りに接しているが、縁の性格が変わった(静雅は理由を知っている模様)

 話が続くとしたらいずれ四人とも幻想入りしそうだなぁ(遠目) 本編と色々違ってくるような気がする。どのような構成になるんだろうか……。

 ……どうして私はこの特別番外編を元にさらに特別番外編を作ろうとしているのか、わけがわからない(すでにこの特別番外編の時間軸を元にした陽花の特別番外編がそろそろ完成する。この時間軸の縁の特別番外編も構想中)

 では、また。
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