三人称視点。
ではどうぞ。
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間欠泉の異変が終わった頃の話。博麗霊夢率いる異変解決者が異変を無事に解決させ、何故か原因の人物に会いに守谷神社に行く最中。道中で巫女に会ったが弾幕で蹴散らした後に、霊夢の目の前に一人の少女が現れる。本人曰く参拝に来たという古明地こいしと弾幕ごっこをした数日後。霊夢は特に理由はないが、境内の掃き掃除をしていた。
今回に限っては珍しく幻想郷の管理人でもある八雲紫がいるのだが──彼女は霊夢にある事について尋ねた。
「霊夢、あなた──気になる人とかいないの?」
紫の問いかけに彼女はもちろん疑問を浮かべる。一先ず掃き掃除を止めては彼女と会話する事に。
「? 気になる人ってどういう事よ?」
「それはやっぱり……人里でも何でもいいけど、同じ人間で気になっている人とかいないの? あの人を見てるともっと知りたいとか、頭から離れないとか」
「無いわよそんなの」
「即答ね……」
呼吸するかのように答えた霊夢に、どこか紫は困り気味の反応を浮かべている。ここで多少のお互いのすれ違い──というよりは【ある考え】が頭になかったのだろう。霊夢として今まであった人物の中で該当している人物を脳内検索したが、ヒットせず。
そもそも博麗霊夢は、他人に深く干渉はしない。それよりも、興味を持つ事柄が少ないのだ。他人にもあまり興味を持たないおかげで、異変時の相手の気持ちを無視して解決できる要因にもなっているのだが。
だが、紫の考えは霊夢とは違う。彼女の一種の感情についてが多少不安だったりする。
「(興味は無し、ねぇ……。やっぱり霊夢は──恋愛感情とか持たないのかしら? まぁそれよりも、幻想郷の実力者は全員女性。男性の実力者なんてこの幻想郷にいないからかしら……?)」
紫が現段階で抱えている不安な事。それは──【博麗】の跡継ぎについての事だった。
博麗の巫女というのは、幻想郷を担う存在である。古くから博麗大結界を管理し、異変が起きた際には解決しに行く。先代の博麗の巫女は引退してから霊夢の代へ。そして今の博麗の巫女は最強クラスと言われている。修行は特にしないが、それでも補う事が出来る天性がある。いっそ、血の跡継ぎを関係なくするならば、適当に素質のある少女を博麗の巫女にする事も出来るが──紫の本音としては【今の博麗の巫女の血を引いた跡継ぎ】が理想だと考えている。
おそらく、適当に募集を呼びかければ博麗の婿になりたい人物が立候補するだろう。人里の住民は博麗神社への道中が危険なためほぼ参拝する事がないが、それなりに霊夢は男性からの人気がある。尤も、最近では妖怪の山に移りこんだ巫女とよく比べられ、どっちの巫女が良いか議論されている事もある。
だが、正直紫は霊夢の相性も考えたい。もしかすると彼女にこの話を持ちかけたとして、余程外れた人物でなければ特に考えずに夫にする可能性がある。言わば、愛のない夫婦になる可能性があるのだ。紫としてはそのような義務感ではなく、青春と愛を感じながら跡継ぎを作ってもらいたいという気持ちが強い。
「(……霊夢が男に興味を持てば良いのだけど、人里の男達じゃ興味を持ってもらえないわよね。何も特別な事もない、凡人に興味を持ってもらうなんて──)」
否定的に考えていた彼女だが、ここである事を思いつく。
「(……異世界の人間を連れてきて、異変を起こしてもらえばいいかしら? それでライバル意識を持ってもらって、そこからの感情の発展。それか霊夢のピンチ時に颯爽と助けて吊り橋効果を期待する……まだこれが良いかもね)」
思い立った彼女は軽く霊夢に別れの挨拶をした後、すぐさま行動を移した……。
紫による【霊夢の婿探し(本人非公認)】をして数日が経過した。多数の異世界を【スキマ】で覗き込んで探すが、紫の理想とする男を見つけられていなかった。
「……何か惜しいのよね……」
二つのジャンルとして、【特別な世界】と【平和な世界】で紫は品定めをしていた。
熱血な男、クールな男、仲間思いの男、フレンドリーな男、勉学が出来る男、その世界で一つだけの例外な力を持つ男、やけに説教をしては鈍感な男、下心を持っている外面が整っている男、いい意味でバカな男……。
それでも、紫の合格範囲には入らない。
「霊夢がそれで興味を持つとは思えないのよね……。使いようによっては霊夢よりある意味強い男もいるけど、鈍感は論外」
そもそも霊夢が恋愛について疎いイメージしかしないのに対し、どうして鈍感な男を霊夢に惚れさせる必要があるのだ。時間が膨大に掛かる選択肢は切り捨てる。
「……この世界を見て今日は終わりにしようかしら」
紫は適当に異世界を覗き込む。数分観察してわかった事を簡略にまとめていた。
「この世界は、時間がループしている──いえ、止まっているわね。二人の少年少女の精神を強くする為の世界ねぇ……。違う行動をとっているのはその【世界】の関係者だけみたいね。他の人物はゲームによくあるNPCの行動をとっている。そうなると選択肢を取るとしたらこの四人になるわけだけど……何か一つ足りないのよね。主犯の男がまだ良いかしら──あら?」
適当にその世界の舞台である学校を隅々まで観察していた紫だが──途中である人物に目がいく。その人物は主犯組と全くではないが、関係の無い人物だが……彼だけは【何か】を感じ取った。
「これは……妖力? そうなると彼は妖怪? ……いいえ、体はちゃんとした人間ね。それと妖力を違う何かも感じる」
紫の焦点はその少年に合う。そして彼女は彼の根本的なものを見るために【スキマ】を利用して彼の中を覗き込もうとしたのだが──
彼女の作ったスキマが、何かの力の反発を受けて消えていった。
「!? 私の能力が……干渉できない!?」
紫は試しにもう一度能力を使っては干渉するが、彼に照準が合わさる度にスキマが消える。見えない何かのよって妨害をされているみたいに。
「彼は一体何者? 何か特別な力があるというの……?」
少しの間、指を顎に当てて考えた紫はというと。
「……彼の事を観察する必要があるようね……」
今後の紫の行動方針が決まった瞬間でもあった。
ここ数日の時間をかけて、八雲紫は自身の能力で干渉できなかった彼の事を調べた。直接調べることは出来なかったが、彼の周りの情報から一から集めて、次の通りの事がわかった。
・名前は辰上侠
・彼は拾われ子。義理の両親と義妹の家族がいる
・彼を受けいれた家は【分家】らしく、【本家】には毛嫌いされている
・現在学校の寮で暮らしており、相部屋の人物は本堂静雅という名前で親友
・クラスが違う所為で親友と一緒にいない(orモデルの仕事で親友がいない)時は一人で行動
・友人と呼べる人物はいない。他人と話す時は素っ気ない
・勉学や運動、文科系でも成績優秀
・この異世界の【秘密】を知っているみたく、手がかりを常に探している
・何故か親友である本堂静雅も何かしらの違和感を感じる。スキマで調べられるのだが、ある情報が出てきた
彼の周りの人間関係を調べるとともにどういう人物かどうかは把握していった。彼女が思った印象はというと。
「……男版霊夢ね、彼……」
辰上侠を調べてわかった事。彼も霊夢と同様の天性の才能はあるのに対して──他人に素っ気ない。むしろ霊夢よりも扱いが悪いような気がする。霊夢の場合は多少の雑談を交えたりしてコミュニケーションはとったりするのだが、この辰上侠はそういう事がしない。用件がある際には他人と話す事があるが、それ以降については話さない。まるでこれは──他人に心を閉ざしているようだ。
しかし例外として、本堂静雅という親友だ。彼については辰上侠は一番信頼している。本堂静雅の頼みごとを聞いてあげたりや、軽く世話したりなど。
……その本堂静雅も、一般人とは若干違うみたいだが。
「辰上侠の親友である本堂静雅は後で考えるとして……彼を幻想郷に連れてくるとしたら、一つの方法があるわ」
彼の性質を考えての、一つの方法。それは──彼の親友を巻き込んで幻想郷に連れてくるという、至って単純な事。
辰上侠は、現状の自分の世界の異常に気付いている。この時間のループに救済する形で八雲紫が出現。そこで彼を幻想郷に誘う。
もちろん、そのまま誘ったとしても断られるのが目に浮かぶ。おそらく辰上侠は家族と本堂静雅以外には心を閉ざしている。まだ社交的である本堂静雅ならば誘いに乗るようなイメージがあるが、侠にとって幻想郷の人物などはただの他人。必要最低限の事はともかく、積極的にはコミュニケーションをとらないだろう。
そこで、彼が信頼する人物も連れてくるという事を告げる。そうなれば話は別だ。何時になれば元に戻るかわからない世界にいるよりも、違った世界の方で過ごすのがまだ効率的なはずだ。加えては何かしらのストッパーとしても、本堂静雅は何かに役立つだろうと紫は考える。
「……とりあえず彼と接触する時は、時間が巻き戻った時にでもしましょうか」
八雲紫は待った。世界が巻き戻るのを。
そして──博麗霊夢にとってふさわしい婿が彼になるのを信じて。
八雲紫の計画は順調に進んでいった。辰上侠を幻想郷に招き入れ、その後には一時的の悪役として彼の親友である本堂静雅を招いては異変を起こしてもらい。幻想郷の異変解決者が解決できなかった異変を、当時では見事未知の力を使ってだが、辰上侠が異変解決をし。彼女の思惑通り──博麗霊夢が辰上侠を【異性】として意識するようになった。
本来なら目的達成だが、まだ彼女の行動は終わらない。辰上侠と博麗霊夢の様子を見て、彼女は率直に思った事。
「……霊夢の言葉を全く信用していないわね……」
名前呼び云々に移る前に霊夢は『幻想郷においては私のことを信用しなさい』と念を押していたが、肝心の侠はその言葉を流している。これもある意味では予想通りだが、確信した事がある。辰上侠は『わかっていて流す』。つまりは、一種の演技をしているのだ。鈍感な振りをしてまで。異変の道中で小悪魔がいつの間にか辰上侠に惚れていたワケだが、異変時でもあそこまで頭の回転が早いのにも関わらず、状況が状況だったかもしれないが彼が鈍感なはずはない。むしろ他人に心を閉ざしているのは、違う見方で言えば【言葉の意味を深く推理して用心深い】という事なのだから。
そこで、八雲紫が考えた新しい事。
「幽々子の希望通り、妖夢と侠を一緒にしてみましょう」
そういえばあの白玉楼の庭師も恋愛について疎いはず、と紫は考える。せっかくだから彼女にも恋愛感情を芽生えさせては、霊夢の恋のライバルとしよう。そうすれば妖夢も精神的には成長し、霊夢はもっと感情的になる事が出来る。ちょうど異変の報告を彼女の親友である西行寺幽々子に伝え、一応幻想郷に連れてきた二人の内どちらが良いかと聞いたら【辰上侠】と答えていたのでちょうどいい。
「さぁ、もっと幻想郷に良い風を運んできなさい、辰上侠。そして──あなたの正体をね……」
八雲紫は怪しい笑みを浮かべながら、覗き込んでいたスキマを閉じていった……。
計算外の事が起きた。実は辰上侠が初代龍神であるティアー・ドラゴニル・アウセレーゼの先祖返りという事や、東風谷早苗が辰上侠に恋愛感情を持った事などあるが、それはどうでも良い。彼女の計算外として捉えた事柄は──彼女が毛嫌いする比那名居天子と予想以上に親しくなってしまった事だ。
八雲紫と比那名居天子は犬猿の中である。尤も、原因としては比那名居天子なのだが。今回起きた騒動で起きた事。それは辰上侠が比那名居天子に同情したのか、彼は比那名居天子を【友人】として認識した。
寺子屋にいる生徒達は彼との関係を【友達】として認識しているが、実際の侠の認識としては【生徒】である。彼は寺子屋にいる人物を【友人】としては認識していない。他人に心を閉ざしてる彼なのだが──その彼が、自発的に比那名居天子の事を名前で呼んだのだ。彼は一部の人物に対しては名前呼びしているが、それはあくまで何となく逆らってはいけない雰囲気、一部の条件付きで名前呼びしている人物ならばいる。しかし、基本的には名前呼びで強制であり、彼も不服の表情を浮かべて仕方なく呼んでいる。実際天人のカップルが現れるまでは心を閉ざしているいつも通りの苗字呼びだった。
おそらくこれは、幻想郷の人物の中だったら彼は比那名居天子の事を最も親しい【友人】として認識している。それに対して霊夢達の場合はどうだろうか? 少なくとも、侠自身は霊夢達を【友人】として認識していない。ただ【身近にいる人物】とぐらいしか認識していない。つまり──感情的に言えば、辰上侠にとっては比那名居天子に対する好感度が最も高い。下手したら侠が恋愛感情を持つのは比那名居天子になってしまうのではないだろうか?
──このままでは計画に支障が出る──
どこか不機嫌そうな、焦りを浮かべている主人が気になったのだろう。式神である九尾の妖獣、八雲藍が控えめに尋ねる。
「紫様……もしもあの天人と侠が結ばれてしまったらどうするのですか?」
「どうもこうもないわ……! ようやく霊夢が人並の感情を持ったというのに、ここにきてあの天人による妨害だなんて予想出来なかったわ……! 彼は元々霊夢の伴侶として幻想郷に連れてきたというのに……!」
「ですが、そうなると妖夢と守矢の巫女はどうなるのでしょうか? それだけではありません。紅魔館の司書や、夜雀などは……」
「仮に霊夢以外にくっ付いたとしても問題無いわ。最低でも霊夢に人相応の感情を持つことが出来た。霊夢の伴侶としてできなかったとしても、その後霊夢は【恋】というモノを学ぶ。それで今度からはどうすれば良いかわかっているはず。……まぁ、最終手段もあるんだけど……」
藍は最終手段について一瞬尋ねようとしたが、その質問を喉の奥にしまう。彼女の主が言う【最終手段】というのは何となく察してしまったから。
恋愛云々の話を置き、侠と天子の話の中であった話題について質問する藍。
「……彼は、元の外界の異変が収まるまでの滞在とありますが……それについては?」
「それ? そんなの方便よ。彼は心に初代龍神がいても、外界には干渉できない。外界の情報源は私しかないのだから、嘘の申告をしてもバレる事はないでしょう。まぁ、外界にようやく返す時というのは──天人を除く、霊夢や他の人物と結ばれた時かしらねぇ……。だから目的が達成するまで、辰上侠は外界に帰さない。天人はともかく、それが幻想郷にとっても彼と触れ合う人物の為になるからね」
「(……何だろうか、この胸騒ぎ……?)」
急に抱えた不安を胸に抱きながらだが、藍は紫から下がる。そのまま自分がするべき業務を全うしていたのだが──
まさか、この会話が辰上侠本人に聞かれていたとは二人も知らずに。
千里の知った八雲紫の目的が今回の話です。
では、また。