三人称視点です。
では本編どうぞ。
誰から見ても辰上侠はもう不利な状況だった。彼は連戦でチルノ、紅美鈴、パチュリー・ノーレッジ、十六夜咲夜、レミリア・スカーレット、異変の張本人である本堂静雅と戦っている。そして、力のトップクラスであるフランドール・スカーレット。慣れない地での戦いは彼には不利すぎた。
彼が片膝をついてフランドールが武器のスペルを使い始めた頃、レミリアはもう見定めた。
「……勝負ありね。この弾幕ごっこ。自称人間でも私達相手では勝てなかったと言うことでしょう」
「ん〜……侠でも連戦はきつかったか……」
明らかな優勢と劣勢に何やら物足りなさそうな静雅。
そして……侠が勝てないということに、ある疑問を持ってしまった。
「ん……何だ? そうなるとまだこの異変は続くのか?」
「その通りでしょう。そしてあなた達がまた来る場合はまた同じように相手をします。当然、静雅には能力を親友に使ってお相手をさせていただきます」
「ちょっ!? それじゃあこの異変は解決できねぇじゃねぇか!?」
魔理沙の疑問の咲夜が答える。今回の静雅と侠の戦いは個人の理由で能力は使わないルールで戦った。だが、次からは静雅は侠に対しても能力を使う。霧雨魔理沙が勝てなかった相手、博麗霊夢が苦戦した相手。侠がいたから静雅を倒せたものの、次回からは勝てない可能性が大きくなる。静雅の能力を知らない異変解決者組は未知数の力なのだから。
「……さて、図書館に戻るとしましょうか……」
パチュリーは興味が無くなったのか、きびすを返して魔法で体を浮かし移動していく。
そして、フランドール達が四方に散りばり、斬りつけようとした頃。
「侠ぉおおー!」
霊夢はやられそうな侠に叫んでいた。それは反射的に。
──だが、それは杞憂に終わる。
『──適合【ブリザードオーバードライブ】』
とっさに侠は一枚のスペルを取り出し、宣言した。
宣言すると──いきなり侠の体を中心として、体積の大きい氷の柱に侠が包まれた後、前後左右にも氷の柱が出現した。
「──!? 何それ!?」
とっさに一人のフランドール──実は言うと本体なのだが──第六感で急接近を止めて天井へ向けて上昇した。他の分身については──氷に包まれた侠を中心として、侠の前後左右に氷の柱が出来ており四本中三本は──分身が凍りついてて動けない。炎に弱いと言われている氷だが、炎の剣は鎮火している。
「──っ!? 何なの今のは!?」
急な温度変化、違和感を感じたパチュリーは再び霊夢達の所へ戻った。
その状況を見て霊夢は困惑する。
「ちょっと!? 侠は大丈夫なの!?」
「わかんないぜ……十字に急に現れた氷の柱で侠の姿が確認できない……ってか、チルノはこの場にいないよな!?」
「もしくは雪女……いや、ここまで来る理由はないわね……何なのこれは……」
魔理沙と咲夜は可能性のあることから考えてみるが、冷静に考えるとそれはないことに気づいた。
「自称人間……どこまで力を隠している……」
「……やっぱ侠は面白いなぁ。こんな隠し球を持っていたとは」
それぞれの思惑が交差する中で、侠を囲っていた左右前後の氷は砕け散った。そして同時にフランドールのスペルブレイク。砕けた後の中心の氷の柱の中に侠がいるのだが……冷気が周りに蔓延しているのと氷の中に空気が入っているのか、確認しづらい。
「せっかく勝てると思ってたのに……何なの!?」
床に降りてきたフランドールは怒りを露わにしている。本人にとっても不意打ちみたいな攻撃に感じたので不満があったのだろう。
だが──侠が入っている氷に亀裂が入り、砕け散る。そこにはいたのはもちろん──
「…………」
──外界の人間、辰上侠だ。彼は普通に立っているが──数分前とは格好が違くなっている。
一番の違いは髪の色と目の色だ。彼の髪は赤みが掛かった黒髪。眼は黒だ。しかし今の彼は──髪と眼は両方水色になっている。心なしか髪の毛の長さも長くなっていて、青いコートを羽織っている。さっきまでの服装ならば、赤ネクタイに白いワイシャツ、黒いズボンだけだった。さらに付け加えるならば──彼の周りに目に見えるほどの冷気が漂っているのだ。それが原因なのか、紅魔館の温度はどんどん下がっていっている。
それを見て霊夢達は唖然とする。
「え……っ? あれが……侠なの……?」
「雰囲気は間違いなく侠だぜ──てか寒っ!?」
「(しゅぱ)お嬢様、パチュリー様、上着です」
「ありがとう、咲夜──へくちっ」
「ん。まぁ私は炎の魔法でこれ以上体温を下げないようにするわ」
「咲夜……オレにはないのか?」
「あなたは能力で問題ないでしょう?」
「まぁ……そうだが……ここでオレに上着を渡していたら好感度あがっていたぞ? 五ポイントぐらい」
「……?」
咲夜は静雅の言葉に疑問を思ったが、気にしないことにした。防寒の類をしていない霊夢と魔理沙は炎の魔法を出しているパチュリーの傍に寄って、今の状態の侠を分析する。
「……ねぇ、魔理沙。あの髪といい、見たことがあるような気がするんだけど」
「奇遇だな霊夢。私もだ。アレは多分──チルノっぽいぜ」
「……静雅の親友はあの氷精と何か関係が?」
二人の言葉に咲夜は尋ねる。
「一応侠は寺子屋で慧音の助手みたいなことをしているのよ。それで多分チルノと何らかの関わりを持っているはずだし」
「寺子屋とかずいぶん古い表現だな……ま、これでまだ戦えそうだな……侠」
観客達は再び二人の戦いを見守り始めた……。
「…………」
急激な変化を起こした辰上侠は手のひらをグーパーさせて動きを確かめている。そして、フランドールに向き直ると向こうから話しかけてくる。
「……あなたって何かの妖怪なの? 姿が凄い変わっているけど……」
「…………いや、人間のつもりだ。俺はとっさにイメージが流れ込んできたこのスペルを使ったが……気分が良い。負ける気がしない」
「むっ! さっきまで手も足も出なかった癖に!」
「今度はお前がなるかも──なっ!」
侠は左手を突き出して構えると──今までは球状の弾幕の無属性攻撃だったが、氷柱という氷属性の弾幕を生成し、フランドールに向けて放った。
「! 攻撃方法が変わったからって!」
フランドールは氷柱の弾幕に弾幕を当てて相殺する。さらには追撃の弾幕を放って侠を攻撃しようとするが──侠は左手を突き出したまま──
「──凍てつけ」
そう呟くと急にフランドールの弾幕が凍てつき始め、徐々にスピードを失って地面に弾幕が落ちた。凍てついた弾幕は数回転がった後、自然消滅。
「えーっ!? そんなのあり!?」
「出来たからにはありだ。さて、次のスペルを宣言させてもらう!」
フランドールが驚いている間に白紙のスペルを取り出し、光を放出させながら宣言。
「
そう宣言した後侠は床に手を付ける。すると──侠の床を中心として氷の床が広がっていく。そして室内のせいか壁、天井にも広がり──部屋一面凍りついた。
『ちょ、おま!? 寒い、寒いぜ侠!? 私達のことも考えろ!』
外野達はよりいっそう炎の魔法を使っているパチュリーの近くに集まる。
『ムキュウ……』
『……大変だな、パチュリー……』
押しくらまんじゅう状態のパチュリーだが、静雅は能力のおかげで平気そうだ。
そして、二人に戻る。
「うぅ……寒い……」
「だろうな。まぁ俺は何ともないがな。この寒さは徐々にお前の体力を奪っていくぞ」
フランドールには炎の剣、レーヴァーテインがあるが、スペルブレイクされているためこの弾幕ごっこではもう使えない。
「さて、攻めるかな!」
侠は凍りついた床を利用して、ほぼ摩擦のない滑りで移動し拳を放ってくる。
「そんなの簡単に避けられ──(つるっ)あっ!?」
フランドールは凍りついた床の上を滑った。急に動かそうとした結果に起こってしまったミス。その結果、フランドールに拳がヒット。
ほぼ摩擦のない床を滑っていき、氷の壁に当たり止まった。
「成る程……即席で作ったがなかなかの万能さだ。勝負を有利に持っていける」
「……だったら飛べば滑らない──あれっ? 羽がうまく動かせない……?」
フランドールは立ち上がり、飛翔を試みるが、羽根の羽ばたきが異様に遅いせいでうまく飛べることができない。
「生身で飛ぶなら無理だな。見た感じその羽根は細い。この寒さで羽根が悴んでいるからうまく動かせない。室内のため急激に温度が下がるのが早かったからな。お前は飛ぶことは出来ない。まぁ──」
言葉を続けながら侠は──背中に氷で出来た翼を広げた。
「──俺は飛ぶことは出来るからな」
そう言って侠は氷で出来た氷翼で飛翔する。
今まではフランドールが優勢だった。だが形勢逆転。侠が優勢になった。
「さぁ、どうする? 寒さでまともに体は動かせなくなっていくぞ? 降参をすすめる」
「……まだ戦えるもん! 禁忌【スターボウブレイク】!」
フランドールがスペルカードを宣言する、正面から色とりどりの弾幕が多数、時間差を付けて侠を襲ってくる。
「悪いが……多数の弾幕など俺には意味をなさない!」
侠は氷翼をフル活用して弾幕を躱す、グレイズする。時には左手を突き出して、当たりそうな弾幕を凍りつかせて無力化する。
そうしてどれくらい時間が過ぎたのだろうか……攻撃が止んだ。スペルブレイク。
「……だんだんと決着が着きそうだな。このまま勝たせてもらおう」
「まだ! 私が絶対勝つんだもん! これであなたを倒す! QED【495年の波紋】!」
宣言と同時に至るところから弾幕が発生し、波紋のように広がっていく。侠はそれを冷静に見て躱す。
「……焦りが出てきたことがお前の命取りだな──」
侠はまた白紙のスペルを取り出し、輝かせて宣言。
「──
侠の両手からさっきから放っていた氷柱の弾幕をよりはるかに大きい多数の氷柱の弾幕が生成。そして──ガトリングように速いスピードで弾幕が込まれていき、そして──
「──きゃあぁああっ!?(ピチューン)」
──寒さにより機動力を奪われていたフランドールは当たってしまい、被弾。そして同時にスペルブレイクをして倒れ込んだ。
その結果──勝者は辰上侠となり、異変は解決される方向へと向かい始めた。
「うぅ……負けちゃったよ……お姉様、静雅……」
「相手が悪かったのもあるわ。あなたはよく紅魔館のために戦ってくれたわよ」
「侠だしなぁ。仕方ねぇよ」
「何? 自分が悪いみたいな空気になっているけど?」
近くにいた人々は侠とフランドールの近くに集まる。
ちなみに凍った部屋については静雅が能力で元通りにした。能力を知らない三人組にとっては不思議なことだったが。
そして、霊夢は静雅に話しかける。
「約束よ。侠が勝ったんだからこの異変は収めてちょうだい」
「……了解した。しばし席を外す」
霊夢から頼まれると静雅はその場からどこかに消えてしまった。
「……咲夜みたいに消えるのね、あいつ」
「根本的な能力は違うけどね。静雅は『時』に関与していませんし」
「静雅って能力をいくつか持っているのか? そんなの初耳だぜ」
魔理沙の問いにパチュリーが答える。
「能力としては一括り、一つだけよ……ただ、有効範囲が大きすぎるだけ。詳しくは本人に聞きなさい」
「……あんなひねくれた奴が素直に教えてくれるとは思えないぜ」
「ひねくれているんじゃなくて、場をかき回そうとしていただけだよ静雅は」
未だに姿がそのままの侠が会話に入り込んでくる。冷気を保ったまま……。
それを見かねたのか、レミリアが話しかけてくる。
「いい加減その湖の氷精もどきの力を収めなさい。寒くなるじゃない……」
「……そういえばそうだね」
侠は意識的にスペルブレイクさせる。させたのだが、コートが無くなり、髪の色や目の色など侠の体が元に戻った瞬間──
「──(どさっ)」
急に倒れ込んで動けなくなった。すぐに起き上がるような気配がない。
「侠っ!? 急にどうしたのよ!?」
傍に霊夢が近寄り、安否を確かめる。侠は途切れ途切れに答える。
「悪……いけど、急に……疲労……感が……力が入らなくて、疲れた……。それに、今朝、博麗に……叩き……起こされた分、睡眠時間が……足りなくて……眠い」
「ちょっとっ!? 後半は私の所為にしていない!? 侠の睡眠時間なんて知らないわよ!?」
「──Zzz……」
「ここで寝るなーっ!?」
『おいおい、騒がしいが何かあったのか──何だ。侠が寝てるだけか』
「お前は人ごと過ぎるぜ!?」
帰ってきた静雅の冷静な分析に魔理沙は突っ込みを入れる。
「侠が疲れるのは無理はないだろ。余り慣れない戦い方で連戦して異変を解決させたんだ。疲れが一気に出たんだろ」
静雅は侠を担ぎ上げる。
「じゃあ侠を送ってくる。霊夢だったけか? 侠と知り合いらしいが……侠はどこで暮らしているんだ?」
「……私の神社に居候させているわよ」
「何……だと……? それは──同棲かっ!?」
急な静雅の爆弾発言。今までその事を意識していなかった霊夢は顔がだんだん赤く染まる。
「ちちち違うわよ何よ同棲って!? 別に侠とはまだそんな関係じゃないし単なる居候よ居候! 変な勘違いは止めてくれる!?」
「お、おう……(まだ、か……)。じゃあフラン嬢。ちょっくら親友を届けてくる。その間良い子で過ごすんだぞ? それと……侠とは仲良くしてやってな。何だかんだで遊んでもらえる相手の一人だからな」
「……うん!」
静雅の言葉にフランドールは頷いた。
「さてとと……じゃあ博麗神社だったか? そこまで案内してくれ」
「はぁ……また変なことを言ったら陰陽玉を喰らわすわよ?」
「おぉ、怖い怖い」
霊夢を先頭に侠を担いだ静雅は着いていった。
……こうして、後にいろんな所で語られる『幻想日食異変』は辰上侠によって解決された……。
Extra Stage終了。同時に異変もちゃんと解決。本当に長かった……。
この『東方陽陰記』の自機としての表主人公の回でもあります。本家で例えてみるならキャラクター選択画面で自機選択として霊夢、魔理沙、侠の内誰かを選んでプレイするみたいな感じですね。ただし、先に侠で物語をノーコンでクリアしないと霊夢や魔理沙でクリアできない。でも、侠の物語のノーマルは霊夢と魔理沙と比べて易しめに設定されている。
……原作基準での小説を執筆はしないと思いますけど、紅魔郷のPhantom Stageが静雅かなぁと思ってみたり。中ボスがフランで、ボスが静雅。他の異変の原作基準で考えると永夜抄のコンビで侠と静雅になりそう。外界の親友とかそういう名前で。
異変は終わりですが、次話はとある会話の回。
ではまた。