最初は三人称視点。
では本編どうぞ。
「……言葉では動揺していたような気がするけど、すぐ冷静に対処しているわね……」
妖夢の怒りのボルテージを上げた張本人……幽々子は二人の組み手を見ている。感情にまかせるなら最初の時点では妖夢の方が有利だったが、それに対して侠は冷静に物事を観察し現在では防御と回避を中心に相手をしている。
「……紫はどう思うかしら?」
幽々子の言葉に反応したように──隣の空間はゆがみ、スキマから上半身を出した紫が現れ、答える。
「妖夢は負けるでしょうね。確実に」
「その根拠は?」
「妖夢、頭に血が上りすぎ」
……実にはっきりした根拠である。
やっぱりね、と言いながら幽々子は改めて紫に問いかけた。
「紫の言う通り妖夢を怒らせて戦わせてみたけど……それでも負けちゃうのかしら? 剣技なら妖夢の方が上だとおもうんだけど?」
「侠は攻撃するよりも回避を中心として、得物を持っているなら防御を作戦に加える持久型よ。隙を見つけたらタイミング良く当てる。これが彼のスタイル」
紫は空間をねじ曲げて、肘を置いて手で頭を支えながら話を続ける。
「おまけに妖夢を怒らせているから攻撃が少し雑になっているわ。それで侠は回避と防御をしている間……妖夢の攻撃パターンや癖を記憶していっている。それを元とした作戦も立てられるでしょうね」
「あら? 彼は戦うよりも考える方が得意なの?」
幽々子の疑問に紫は首を横に振る。
「両方よ。彼は考えた事を実行できる運動能力を持っているからね」
「……一種の霊夢よね? それって?」
「勘ではなく、ちゃんとした考えで行動する霊夢よ。私はそう思っているわ」
霊夢と侠。紫、萃香、咲夜にレミリアは霊夢と似ていると思っている。
霊夢は能力で縛り事を受けない(静雅の平等スペルを除く)ため、重力を無視して攻撃を回避。能力の一種ではないかといわれている勘を使って相手を驚愕させて相手と戦う。
侠は相手の攻撃を冷静に分析して、根拠のある考えで持ち前の運動能力で回避。情報収集が終わり、作戦をいくつか立てて最良の作戦を選び、余裕があれば根拠に基づく相手の欠点、隙、死角からの考えを狙い実行に移して驚愕させようとしている。
さらに二人には共通した考えがある。
『当たらなければ問題ない』
二人ともこの考えを頭に入れて戦っているのだ。
紫の説明を聞いてもまだ疑問が湧くのか、幽々子は言葉を続ける。
「霊夢が能力を使っているのはともかく……侠は今の組み手に能力を使っていないわよ? 妖夢に至っては常時発動みたいなものだし」
妖夢の能力は【剣術を扱う程度の能力】。文字通り剣術を扱うのにたけている。剣道で使われる竹刀でも【剣術】の領域なので発動はしている。
それでも侠は能力無しで妖夢についていっているのだ。
「侠はあまり能力を使わないのよ。使うとしたら移動手段が多いみたい。でも──異変を解決させる使命感などを持っているなら相手に合わせて使うわ。それに侠はデフォルトで人間にしては運動能力が高すぎるよ……何でそんなに高いのかは今調べているけど」
「ふ〜ん……聞いた話だと相手によって『素』が変わるらしいけど、それすらしていないということは──」
「──手加減しているわね。能力を使わない、『素』を出さない。それにすら妖夢は気づいていないわ──そして、決着が着いたわね」
紫が言ったのと同時に、竹刀の叩いた音が響き渡った……。
〜side 侠〜
回避と防御を中心として相手をしている中、手癖やパターンを把握して隙を見つけたので──
「──そこっ!」
相手の竹刀を躱し、カウンターで竹刀をしならせて魂魄に小手に狙いを定める。魂魄は対応しきれなかったみたいで、そのまま──
「──しまったっ!?(パァンっ!)」
──小手に当たり、竹刀の叩いた音が庭中に響き渡った。
自分は竹刀を地面にむき直して魂魄に話しかける。
「じゃあ自分の勝ち。久しぶりにやって感覚が取り戻せたよ。ありがと」
「……っ!? 久しぶり……!?」
「最近振ったことはあるんだけど、自分のペースでやれていなかったからね。おかげで大体の感触を思い出せたかな」
静雅としかしていなかった所為か、同じ武器通しの間合いの把握に時間が掛かった。いつもは武器のリーチで自分は距離を離して戦っていたからしょうがないかもしれない。もっとも、この幻想郷に来て静雅とちゃんとした組み手は一度もしていないし。異変はノーカウント。
それに対して魂魄は自身で出した結果が気に入らないのか、また竹刀を構え始める。
「……なら、感覚を取り戻したというならもう一度お願いしま──」
「えっ? それは遠慮願いたい」
「──えっ? 今……何と?」
自分の拒否に魂魄は信じられないような顔をしている。何故だろう?
「もう戦う気分じゃないんだよね。別にこれは何回までやるとか決めていないでしょ? だからもうお終い」
「な……っ!? 気分で組み手を止めるんですか!? そこは自身の限界まで体力を使って精進するものでしょうっ!」
「そこまで限界まで体力を使って修行とかするつもりはないし……自分のしたいときにして止めたいときに止めるのが自分のスタイルだし」
手っ取り早い理由としてはあまり女の子と組み手をするのは気が引けるからだ。陽花なら全然構わないんだけど。
自分の言葉に苛立ちを含めた声で話しかけてくる魂魄。
「何でそこで適当にするんですかっ!? 自分のことを追い詰めてそこで何かを得るために修行などをするんですよっ! そんなの自分に甘いだけじゃないですか!」
「……その甘い奴に負けたのは誰かな? 自分を限界まで追い詰めて修行している君は一体何なのかな?」
「──っ!?」
「……それに──」
的を射た質問で魂魄がうろたえた後、言葉を自分は繋げる。
「──自分は追い詰めるどころか、壊れたこともある」
「…………え?」
「要するに人それぞれあったやり方というものがあるんだよ。君は真面目に取り組んで成長する。自分は気分で取り組んで成長する。そういうことなんだよ」
「それは……一体どういうこと──」
『そこまでにしておきなさい、妖夢』
魂魄は尋ねようとしたが……やり始めたころから観戦していた紫さんに声をかけられる……歩いてこちらに近づいているのに対し、ゆゆさんは団子をほおばっている。
「紫様っ!? いつの間にいらしたんですか!?」
「……はぁ。気づくの遅いわよ。侠の方は何回かこちらを見て確認したというのに」
「!? 組み手の最中に!?」
「防御したり躱したりしているとき、視界の中に紫さんがいたことは確認できたよ」
「仮にも人間より気づくのが遅いっていうのはどうなのよ?」
「う……すいません……」
自分は気づいていたが、魂魄の方はまだ気づいていなかったようだ。多分魂魄は集中すると周りが見えなくなるタイプなんだろう。
……それと仮はいらないと思う。
紫さんは呆れながらも、話し続ける。
「組み手もそこらへんにしておきなさい。侠は私の依頼を苦労してまで達成してきたのよ? 敗者は勝者の言うことを聞きなさい」
「……依頼、ですか……? それは何を……?」
「依頼は依頼よ。あなたが気にすることではないわ」
何故か依頼の内容を教えないで魂魄は不満そうにしている。
依頼といえば……異変解決のことだろうか? それで紫さんは能力か何かで結果を知ったんだよね? ゆゆさんに教えた当たり。
紫さんは体の向きをこちらに変えて話しかけてくる。
「侠……言うのは遅くなったけど達成してきてくれたわね。一先ずお疲れ様」
「ありがとうございます……というより、その相手のことなんですが……自分の親友だって事を何で教えてくれなかったんですか?」
「その方が面白いじゃない♪」
……こういう性格は静雅に似ている気がする。
紫さんは何かご機嫌そうに話を続ける。
「それと……霊夢のこと。良くやってくれたわね♪」
「博麗? 博麗がどうかしたんですか?」
「あら? 何か思い当たる節があるでしょう?」
……思い当たる節。
…………。
「……特にありませんね」
「そう? なら、一週間後に期待ね」
一週間後……? 一週間後に何があるの?
話し終えたのか、紫さんはスキマを作り出してその空間へと入っていく。
「それじゃあ幽々子。また来るわ」
「えぇ。また来てちょうだい」
紫さんはゆゆさんに挨拶した後、スキマに完全に入り込み空間が消えた。
それを確認し終えたゆゆさんは自分たちに話しかけてくる。
「組み手も終わったことだし、夕食まで各自に行動してちょうだい。とは言っても、侠には外界のことを話してもらうけど」
「……まぁ、話せる範囲なら」
「じゃあ妖夢。後のことを頼むわね」
「は、はい……わかりました……」
「侠はこっちに着いてくるのよ〜」
ゆゆさんの指示通りに自分たちは各々行動した……。
「……ただの外来人ではないのでしょうか……? 紫様が外来人に何かを依頼されるだなんて……?」
あれから以降、外界のことを話していた。自分が大きく関わっていることは伏せて。外界での文化や食べ物(一番食いつきが良かった)を話していたら、ゆゆさんは『紫に頼もうかしら』と呟いていた。外界にある食べ物はここにはないから魅力的なんだろう。
夕食時になってもゆゆさんは結構な量を食べていた。自分も適度に食べ終わった後、後片付けをしている魂魄に何か手伝えることはないかと聞いたところ──
『……幽々子様と紫様の客人にそんなことをやらせるわけにはいきません』
──という遠回しな言い方で断られてしまった。そんなに嫌いか、自分のことを。
自室に戻った後、氷のコントロールをしてミニ五徳人形を作っていたところに誰かが入ってくる。
「ちょっと失礼するわよ〜」
声の主はゆゆさんだった。襖を開けてこちらの隣に座ってきて話しかけてくる。
「……氷? あなたって能力は龍化のはずでしょ? どうして使えるのかしら?」
「自分にもよく分かりませんが、異変の最中に使えるようになっていました。それでコントロールの練習しています」
「……それってもうコントロールできているんじゃない? 精密に作られている人形だけど?」
「親友と比べたらまだまだです。芸術方面は親友の方が優秀ですし。それより──距離が近すぎませんかね?」
ゆゆさんの質問に淡々と答えている自分だけど……ゆゆさんは隣に座りながら肩に頭を乗せてもたれている。警戒心がなさ過ぎるような気がしてならない。
「男の子は異性に密着されると嬉しいものなのでしょ?」
「まぁ、世間的には嬉しいものでしょうね。ゆゆさんみたいな方に密着されると」
「……そのわりには落ち着いているわよね?」
「ゆゆさんほどではないですが、しょっちゅう背中に張り付いていた奴がいるんで」
「……面白くないわ〜。そこは動揺した顔を見せてくれるんじゃないの〜?」
「よほどなことじゃない限り動揺なんてしませんよ」
恐るべき陽花耐性。君のおかげで耐性が出来ている……というより君の所為で性欲が枯れている原因でもあるけど。
自分の反応について不満を持っていたゆゆさんだったが……何かを思い出したように話しかける。
「そうそう……お風呂沸いているわよ。先に入ってきたらどう?」
「あ、そうなんですか? でも家主より先に入るのは……」
「大丈夫よ。私は気にしないし、ちゃんと入るから」
「……そうですか? あ、でも着替え──」
着替えに関してどうしようかと思ったとき、急に目の前に紫さんのスキマが現れ──そこから出てきたのは博麗神社で着ていた作務衣と予備の下着、タオルなどが落ちてきた。
「…………」
「紫ってば良いタイミングでやってくれるわね♪ 衣服の心配はこれでないでしょう? 入っていきなさいな」
「……じゃあ、そうします」
衣服の類を持って間取り図を思い出しながら風呂場へと向かった……。
「……♪ じゃあ後は妖夢に──」
「……ふぅ。広い風呂場だ……」
湯船に浸かって頭にタオルを乗せる。白玉楼の風呂は旅館並みに広かった。
……紫さん達がたまに泊まりに来るからだろうか? こんなに広いのは?
湯船に浸かりながらいろんな事を考える。いきなり白玉楼に落とされて。霊夢に心配かけているかな? 静雅が遊びに来たりしていないかな? ……静雅に関しては大丈夫か。
「……これからどうするかは後で考えよう」
体が良い具合に温まってきたので湯船からあがる。脱衣所のへの扉を開こうと手をかけて──
『(ガラッ)幽々子様より早く入れとは……何をお考えで──』
──扉が先に開き、開けた張本人は……魂魄妖夢。その姿、一糸を纏わぬ裸。
……何が起こっているの!?
「…………」
「…………」
お互いに目を合わせ、硬直状態。自分はまだしも、魂魄はパニック状態になっているのであろう。
「…………〜〜〜〜〜っ!?」
魂魄は今の状態を把握したのか……顔を赤く染め上げ、扉を凄い勢いで閉めたと思ったら──バスタオルを体に巻いて、楼観剣を装備して扉を開けてきた──ちょっとどころか大幅に待って欲しい!?
「大幅に待った!? 今のは偶然の事故だよ!? だから剣を取り出すのは止めて!?」
「ぐぐぐ偶然って何ですかっ!? わた私は幽々子様より早くおお風呂にに入ってくれと言われたのですよ!? それそれそれなのに何であなたがさ先にいるのですかっ!?」
あ、やばい。凄い動揺していて話を聞かなさそう。自分はとっさに腰にタオルを巻いて弁解を試みてみる。
「よし、一先ずは落ち着いて話し合おう。冷静になること、これが大事」
「この──不埒者ーっ!」
話し合いに失敗したーっ!? ていうか聞いてくれない!?
裸を見られて顔を赤く染め上げて涙目の魂魄は、移動して楼観剣で斬りつけようとするが──
「(つるっ)──あっ!?」
「! 危ないっ」
魂魄は床にあった水しぶきの痕で足下が滑り転びそうになる。ここの床は平ぺったい石の床だ! 正面から倒れそうになっている!
とっさに楼観剣を手から無理矢理外して、脱衣所の近くまで投げる。そのまま魂魄が床に直接倒れないようして──
「──ぐふっ!?」
──自分が間に挟まって床に倒れた。せ、背中が痛い……っ!? そして魂魄の体重が一気に体に負担をかける……!?
自分は背中に石の床、正面に魂魄。幸いにも顔面衝突はしていないが、左隣に顔があり……何より体が間接的に密着している。バスタオルをしているのは本当に幸いだった。
「……あ、あっ……あ……」
「……大丈夫?」
明らかに大丈夫じゃなさそうだけどとりあえず聞いてみる。左側を見るとさらに顔を赤くして──
「──みょ〜ん……」
──変な声を上げて……気絶した。きっと……男に耐性がなかったんだろう。ゼロ距離で体を密着させているんだから。
気絶した魂魄を抱き上げて(世間的に言うお姫様だっこ)、脱衣所に一先ず寝かせ、楼観剣に付いた水分を拭き取って鞘に収め……自分は一通り着替え終える。
「……いっそ、自分で魂魄を着替えさせるということをしても良いけど……やっている最中に起きられるとかなり面倒なことになる。確実に」
そうしたら確実に『変態』と呼ばれるに違いない。
「そうなるとゆゆさんに頼むか──」
『じゃあ私に任せておいて〜』
自分の声に反応したように──扉からタイミング良くゆゆさんが出てきた。……これは……。
「……ゆゆさん。あなたは一体何を考えているんですか?」
「妖夢にお風呂に入るよう勧めただけよ? それで偶々まだあなたが入っていただけ。それに……眼福だったでしょ?」
「そんな余裕はありませんでした。むしろ殺されそうになりましたよ」
「それでも外界では『ラッキースケベ』というのでしょう?」
「自分はある意味被害者ですし、むしろ『アンラッキースケベ』でしたよ……」
自分はため息をつきながらゆゆさんと会話をする。
「まぁ……今その話を掘り返しても仕方ないですね。とりあえず魂魄の自室まで運んで着替えさせてくれますか?」
「え〜? か弱い女の子より力の強い男の子が運んでくれるんじゃないの〜?」
「……魂魄はバスタオル姿ですし、運んでいる途中に起きたら一発アウトですよそれ?」
「起きるまでドキドキタイム♡」
「…………」
この人には何か敵わないような気がする。
服は魂魄の半霊が持っており、ゆゆさんに誘導されて魂魄の自室へと運んだ……。
定番イベント。ただそれだけ。
少し過去の一部を呟いた侠。でも彼はそれ以上喋らない。
ではまた。