妖夢視点です。
では本編どうぞ。
「さぁ、着いたわよ。妖夢も着替えたわね?」
「うぅ……」
なすがまま連れて行かれて浴場に着いてしまい、バスタオル一枚の姿の私がいる……恥ずかしいですっ。
そして幽々子様は扉をノックする。すると中から侠さんの声が聞こえてきました。
『ゆゆさんなら帰ってくださーい』
中から幽々子を追い出そうとしている侠さんの声が聞こえてくる。
……侠さんに何をしたらこんな否定的な返事が返ってくるんですか……?
そして幽々子様は……少し笑いながら言葉を返した。
「じゃあ──妖夢なら良いのね?」
『……ゑ?』
「はい、妖夢ドーンっ!」
そう言った瞬間──すぐにドアを開けて私を押し出した後、すぐ扉を閉められて──って何なんですかこれっ!?
「ゆ、幽々子様っ!? これはどういうことなんですか!?」
「魂魄っ!? 君は一体どうしたんだ!?」
『だって侠言ったじゃない。私「なら」って。だったら妖夢はいいのでしょう?』
「何ですかその変な理論は!?」
『三十分は出さないつもりだから仲良く入浴するのよ〜』
侠さんの叫びは虚しく、幽々子様は扉を硬く閉ざしてしまった。
……浴場で二人きりですかっ!? お、お互いに服装がほぼない状態で!?
どうすればいいか考えていたとき、侠さんが後ろから話しかけてくる。
「魂魄……ゆゆさんの罠に引っかかったのかい?」
「え、いや、あの……」
「……こうなっちゃ仕方ないから体を洗った後湯船に浸かったら? そのままの状態だと風邪引くだろうし」
……何で侠さんは異性が浴場にいるのにも関わらず冷静なのか疑問に思う。
「あの、侠さん……侠さんは私がこの場にいて何も思わないのですか……?」
「何も思わないはずがないよ。異性とこんな場所だし。思わないようにしているんだよ」
「そ、そうなのですか……」
……よかった。私を異性として見ていただいてた。
決心して湯船がある方向に体を向ける。見渡してみると侠さんはまだ湯船に浸かってなく、椅子に座って右手で背中をハンドタオルで洗おうとしていた。
「……届かないんですか?」
「左腕をなるべく使わないようにしているんだけど、難しくてね……悪戦苦闘していた。もう少しで届きそうなんだけど……」
……私は幽々子様の言葉を思い出す。
『──背中を流していきなさい♪』
……そうですよね。この責任は私が取らないと!
意を決して私は侠さんに話し掛けた。
「あ、あの! 侠さん! お背中流します! タオルを貸していただきませんかっ!?」
「え……う、うん。わかった」
戸惑いながらも侠さんは了承してくれたので近くにより、石鹸の着いたタオルを受け取って背中をこする。
……男の人の背中って大きいですね……。
「侠さん、これぐらいの強さで良いですか?」
「あ、いいよそのぐらいで。背中を流して貰うのは陽花以来だなぁ……」
侠さんはそう答えましたが……誰かの名前を言っている。
……少し胸が苦しくなったような気がします。おそらく女性の名前でしょうか……?
「あ、あの、侠さん……『陽花』さんとは誰なんでしょうか? ……まさか大事な人、何ですか……?」
おそるおそる聞いてみると、侠さんは当然のように答えた。
「そりゃそうだよ──」
肯定した言葉に私はさっきより胸が苦しくなった。
やっぱり……侠さんにはそういう人はいますよね……。
「……そう、ですよね。きっと恋び──」
「──妹だし」
「──とですよね……えっ? 妹さんなんですか?」
「ただし血は繋がってないけどね」
「なんですかぁ……そうでしたか、ってえぇっ!? そ、それって──」
「どうか忘れたけど頑張れば結婚できるかな?」
人ごとのように爆弾発言をした侠さん。さ、さっき……!?
「先ほど背中を流して貰ったと言っていましたが、お、お二人は禁断の関係では──」
「勘違いしない。向こうは兄として、異性として接しているが問題はない」
「異性として接しているのが問題じゃないですか!? 義理の兄妹ですよ!?」
「……残念だけど、陽花は血が繋がってないことを知らないんだよ」
「……えっ? それはどうしてですか?」
私の問いかけに侠さんは遠い目をしながらも、話してくださいました。
「物心のついたときに義父さんに『いいかい。侠君は僕たちと血が繋がっていないんだ。でも、血の繋がりがないけど【家族】として繋がりがあると覚えていて欲しい』って言われたことがあって。言われたときは意味が分からなかったけど、歳を重ねているときにようやく意味が分かったよ。先に言ってくれたおかげで先のことは対処できたけど」
「…………侠さんは、本当の両親を知らないのですか?」
「そうだけどそれに執着しても何も変わらないからね。どういう理由で傍にいれなかったのは気になるけど、悪い理由じゃないような気がするんだよね。そうだったら義父さんはそんなことは言わないだろうし──あ、もういいよ。ありがとう」
衝撃的な発言を聞いたものの、侠さんは気にしない様子で桶で湯をすくい、体を流した後左肩を外に出しながら湯船に入った。
……人間で有りながら、壮絶な過去をお持ちなんですね。
侠さんは湯船に浸かりながら一度こちらに振り返ってくる。
「……今更だけど裸じゃないんだね」
「っ!? 急になんて事を聞くんですかっ!?」
「あぁ、ごめんごめん。陽花が背中を流しているときは、義妹は裸だったからさ」
「本当にその関係はどうかしてますよっ!?」
「そのおかげでこういう状況に耐性があるわけだけど。まぁ、魂魄みたいにちゃんと慎みを持ってしてることは好感は持てるよ」
「え……あ、はい……ありがとうございます……」
急に褒められ私は恥ずかしく感じた。
「とりあえず魂魄も体を流して入ったら? 魂魄が望みなら自分が背中を流してあげるけど?」
「いえいえ!? そんなご迷惑をかけるわけにはいきません!」
「そっか。じゃあしばらく魂魄を見ないようにしておくからさっさと体を洗って湯船に入るといいよ」
侠さんはそう言うと私が視界に入らないような位置に移動し、改めて体を温めている。
……侠さんのその余裕が羨ましいです……。
私はバスタオルを外し、体、髪を洗い始める。その中、少し侠さんに視線を向けるも……こちらに振り返ることはなかった。
……それはそれで女として複雑です……。
一通り体を洗い終えた後、私も侠さんと離れた位置で入浴をする。
……静かな時間が流れる。距離が離れているおかげで顔を向けただけではお互いの裸は見えない……はずです。
「あ、あの……侠さん。侠さんから見て私の体は見えますか?」
「……確認を取るけど見えても事故って事で。いいかい?」
「は……はい」
私に確認を取った後少しだけ体の向きを変えて、顔だけこちらに向ける侠さん──? あれ……胸元に傷があるような──
「大丈夫。見えないよ」
少し胸元の傷について疑問を覚えましたが、私の問いかけに返事をしてくださったので、私も言葉を返す。
「そ、そうですか……そ、それで、侠さんの聞きたいことがあるんです」
口ごもりながら、私はある質問をする。
「きょ、侠さんは……女性に胸があった方が嬉しいのですか……?」
「…………もしかして気にしてた?」
「…………」
……凄く……恥ずかしいです……。
侠さんは困ったようにですが、私の質問に答えてくれます。
「……ゆゆさんがどんな風にしてそういうことを知ったのか気になるけど……第一印象で見るなら外見的に年上に見える人で、その……まぁ、あるとないで比べたらある方が良いかな?」
「……そう、ですか……」
やっぱり、私のような外見は殿方には好みに見えないんですね……。
けど──侠さんは──
「まぁ、それはあくまで外見の話なんだよね」
「……あくまで、ですか?」
「──自分を理解して受け入れてくれる人。そういう人が良い」
「侠さん自身を理解して受け入れる人ですか?」
「そうだよ。もし理解してくれる人が本当にいて、自分がその人を好きななったら外見や性格、事柄関係なく好きになると思う」
……抽象的ですが、要するには自分を知って貰いたいということでしょうか。
ですが──胸にあるつっかりがなくなるような感じがしました。
「……いるといいですね」
「……そうだね」
私達は雑談程度ですが、いろいろ話し合いました。
……今日はもう終わり。侠さんがいるのはあと三日間。
残りの日数が惜しく感じるような時間でした……。
……そして、『真実は斬って知る』が分かったような気がします……。
陽花万能説。
侠が最初から否定的な返事をしたのは幽々子さんがしつこく「一緒に入ろう」と言い、条件付けをさせたからです。反射的にノックしてきた人物は幽々子さんと勘違いし、思惑通りに。
次章は裏・第七章ですが、その前にフラグ回。裏・第七章では重要な事かもしれません……。
ではまた。