機械の彼女と鬼の私   作:ランブルダンプ

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鬼と竜

「……重いんですけど」

 

目が覚めた私は真っ先に現在感じている違和感を呟いた。

いや、むしろその違和感のせいで目が覚めたといってもいい。

 

「あお、重いよ」

 

自分の上にのし掛かって寝ている少女に声を掛ける。

……反応が無い。

 

「おーきーてー……」

「……あと10分」

 

起きてるじゃん。

 

「ならタイマーで正確に計ってよ」

「我は機械でも高性能なのでふぁじぃに睡眠時間を伸ばし……zzz」

 

タイマー掛けずに二度寝しやがったそコイツ。

 

しょうがないので目の端で部屋の時計を追い続け、10分を過ぎた所で強引にあおを引き剥がした。

 

「起きろーーー!!!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「なんじゃ貴様は、この我が惰眠を貪りそなたとくっつき合う至高の時間を過ごしていたというのに」

 

目を覚まして寝ぼけたままのあおをなんとか通常起動(朝起き)モードにできた。

 

「重いんだって、私が潰れてもいいの?」

「貴様鬼じゃし頑丈じゃろ?」

 

キョトンとした顔で聞き返された。

 

「あのねぇ……言わなかったっけ?私はそっちの血が凄い薄いの、ホラ角とか生えてないでしょ?」

「だが貴様の抱き心地は最高だぞ?」

「それはありがとねぇ!!」

 

そう、私は鬼だ。

純粋な人類種から生まれた亜流、鬼種の血を継いでいる。

鬼といってもありきたりに角が生えている訳ではなく、眼の瞳孔が獣みたいに縦に切れている以外は普通の人間であり、妖力もしくは魔力と呼称される力を用い超常の力を振るえる存在を総じて【鬼】と呼んでいるのだ。

中には角だったりケモミミ生えてる人もいるらしいが、まだお目にかかった事はない。

 

私は両親のどちらかが鬼種らしく、片目だけ鬼の眼になっている。

通常鬼種の血はほぼ100%発現するので私みたいに片方だけなのはかなり珍しいんだとか。

……まぁ珍しいだけで特に役には立たない。妖力を生み出すのも出来ず、唯一鬼種特有の再生能力だけ使えるのが現状だ。

つまり耐久値だけ異常に高い人間なのが私という訳で……と、そんな事をまとめてあおに説明する。

 

「ふむ、まぁ詳しい話はどうでもよい。我は思い切り力を振るえるこの機会をずっとずーっと待っていたのだからな!」

 

そうふんぞり返る目の前の少女は【Bloo-D(ブラッド)】とかいう型番を持つ機械人形だ。

ある事件を切っ掛けに倉庫で眠っていたこの少女と出会い、契約した事で私はこの娘と一緒に居る。

その契約内容とは……

 

「では貴様の血を頂くとするか」

 

舌嘗めずりしてこちらへとにじり寄ってくる。

 

「はいはい」

 

毎日の日課なので抵抗せずにシャツのボタンを外して右首筋をあおへと向ける。

妖力を自分で与えられないのであおに血を通して与えるしかないのだ。

 

「貴様……いや我が契約者トウコよ。お前は美しい」

 

あおがそっと口を首筋につけて囁いてくる。

 

「その美しさは永遠に我のモノだ」

 

そう続けて言い終えると同時にあおの犬歯が私の首の頸動脈に突き刺さった。

 

「あ゛っ……ぐっ」

 

痛い、凄く、結構、かなり。

目尻から涙がこぼれる位には。

 

「っ……あぁっ……!」

 

更に強く噛まれて身体がビクリと跳ねる。

無意識に逃げようとするもあおにガッシリと万力じみた強さで押さえられて動けない。

そのまま5分が過ぎ……

 

「ぷはっ!あー美味しかった」

「……ソレハヨカッタネ」

 

此方は激痛に耐えてたのにいい顔しやがって。

 

「やはりそなたの血は旨いな!!」

 

口の端に付いた血を拭いながらまともな人なら卒倒しそうな事を笑顔で言ってくる。

 

「じゃあお腹も膨れた所でお仕事だよ」

「む、まだ距離はあるが……まぁよい、腹ごなしには丁度よいからな!」

 

私が差し出した手をあおが握り……

 

次の瞬間には一人と一機の姿は一つの影へと収束した。

全身を蒼い装甲で覆った人型の竜といった様相のモノがそこに佇む。

 

『【Bloo-D】通常モード、起動完了じゃ!』

『おっけー。じゃあ機竜ブルードラゴンしゅつげきー』

 

 

直後、外部から撃ち込まれた何千発もの砲弾が部屋の壁を突き破り、爆発した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「攻撃の手を緩めるな!!」

「竜牙兵の準備急げ!!」

 

怒号が飛び交う。

通常の機竜では気付かれる筈の無い距離から攻撃準備をしていたのにも関わらず、突如機竜の起動を関知した為すぐさま攻撃を開始したのである。

 

「くそ!何故気付かれた!?」

「奴は二機のオリジナルの内の一体だ。何か隠していても不思議じゃない!!」

 

急に下された出撃命令に愚痴を言い合う機竜乗り達。

 

 その遥か遠方、目標のオリジナルとその保有者が潜伏していた建物が何千ものミサイルによる爆発で付近一体が焦土と化す。

 

「うわぁ……ひっでぇ。オリジナルの回収が目的とはいえ壊しちゃってもいいのかね」

「保有者の命は無視して構わない、要は機体が回収出来ればいいのさ」

「俺らの機体だったらとっくに死んでるよなアレ……」

 

加えられた攻撃の過剰さに若干引きつつも的確に機体の起動を進める。

 

「竜牙兵チーム!準備が出来次第残骸の回収に入れ!!」

「へいへいっと」

 

無線からの指示に従い次々と機竜の飛行ユニットを広げて飛び立っていく竜牙兵。

 

「急にスクランブルが掛かった時は何事かと思ったが、相手が何もできない内に叩く、ってのはやっぱ鬼種戦では重要だよな」

「そうだな……ん、オイ。あれ」

 

直後、そう話しかけた同僚の機体が爆散した。

 

「なっ……!」

 

驚きの声を上げる間も無く自身の機体の装甲を貫通した機械の腕がこちらの肺と心臓を引き抜いていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「この程度で死ぬ訳ないじゃん」

 

たった今引き抜いた心臓その他諸々を手を払って投げ捨てる。

爆発する寸前の機体を足場にして、蹴って次の機体へと取り付く。

 

「あお、腕」

『アームカッター起動!』

 

途中に固まった二機体が居たのですれ違いざまに二つに切り裂いた。

 

爆風で加速してまた一機、一機と殺していく。

 

「ひっ……し、死神……」

 

羽を切り落として地面に叩き落とした最後の機体に近付いていくとそんな事を言われた。

 

『死神じゃよ♪とびきり美人のな!』

 

あおが笑いながら茶化してくる。

 

「あなたにとってはそうかもね」

 

そう言って相手を掴み、背後へと放り投げる。

私を狙っていたミサイルを全てその身に受け、そのパイロットは絶命した。

 

『戦闘になると本当容赦ないよな、お主。まぁそこがいいんじゃが!!』

 

そう言ってくるあおは機械なのに私より人間らしい。

逆に人を淡々と殺せる私は人間なのに機械らしい。

 

……お似合いって事だろうか。

 

煙が晴れる前に移動し私達を撃ってきた本隊が居る場所へと飛ぶ。

 

到着後、ひたすら両手の爪とアームカッターで人を切り裂いていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「【結合解除】」

「了解じゃ」

 

一面血で満たされた大地に私達二人は立っていた。

眼に見える範囲で生体反応は無い。

 

「あおは強いね」

「そうであろう!!もっと誉めるがよい!!」

 

満面の笑みで抱き付いてくる周りの紅色と対照的に際立つ蒼い髪の彼女。

 

「我のナノマシンの侵食率はまだ20%ってところかの、それが済めば貴様は文字通り不老となり永遠に我の所有物になるのだがな~」

「いつかなるから大丈夫だよ」

「うむ!その時が楽しみだぞトウコ!!」

 

私の再生能力はあおのナノマシンによる肉体改造にも適応されるので1日に一%以下しか侵食が進まない。

本来なら一瞬で身体を作り替えられ急激な変化に脳がついていけず、よしんばついていけたとしてもあおの機動に身体がついていけないのだ。

そのどちらも適応した私だけがこの太古の遺産の一つ、機竜のオリジナルを乗りこなせる。

 

「楽しみだな……」

 

不老不死の化物と永遠に存在し続ける太古の遺産。

一人と一機の閉じた世界。

 

いずれ来るその日を私は待ち続ける。

私と同じ背丈の癖に、世界を滅ぼす力を宿した機械人形の少女を私は強く抱き締め返した。

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