王国が反転した。さぁ、控えろ人類(仮) 作:銀髪!銀髪!
横にいるエイドリンがモニターを見ながらスルメなどのツマミをさぞかし美味しそうに貪っている。ワインに全く合わないだろうに、よくそこまで食べられる。
最初は何も感じなかった。普段からエレンを含むアデプタス達の戦闘を見ている私からすれば、戦闘素人でも二人の試合はつまらなく感じてしまう。
片や国家代表候補生。片や素人から抜け出した程度。実力が拮抗しているのは信じたくないな。甲龍の特殊兵装にはDEMも武装協力はしたんだけど。パイロットが悪いか、それとも機体本体が悪いか。もしくは単に織斑一夏の腕が良いのか。私としては後者であって欲しい。前にも言ったが、織斑一夏には期待を寄せているんだ。
甲龍。いや、バンダースナッチ程度には圧勝してもらわなければ困る。
短期決戦で勝負が付かなかった故に、両者共にエネルギーは大量に消費した。仕掛けるとすればココか。私達が攻める前に、終わってしまうのは困り物だ。
「そろそろ———」
「レーダーに超高速で移動する機体が反応!!機体はIS学園に向かって進行中!!」
「ほう。中々肝のでかいヤツがいるじゃないか。まさか天下のIS学園に突っ込んじまうなんてな!で、どうするよ?これで横殴りする機会は無くなっちまったが?」
「ステルス状態で出撃させようか。キリのいいところで仕掛ければいい。運が良ければ正体不明の期待の情報も入手出来る」
そう言って、アイザックは画面の向こうにいる三機を見る。指示を受けた者達は即座にバンダースナッチの管制室に指令を送る。
「さて、鬼が出るのか蛇が出るのか。もしくは可愛らしい兎なのか。どちらにせよ、中身をバラ撒けばいづれは分かる事さ」
待つことには慣れているのだから。
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「はぁ・・・はぁ・・・」
大きく肩で息をする。だがそうしている間に大口径の銃口がこちらへ向けられる。咄嗟に転がるように回避。ISには合わない泥臭い戦闘。
「時間は、稼げたみたいね・・・」
同じく肩で息をしている鈴が、ハイパーセンサーでアリーナの出口を映す。ようやく最後の一人が出ていった。長い時間だった。エネルギー消費を抑えながら、アリーナへ銃口を向けさせないように注意しなければならない。
たった一つのミスで大量の生徒達が死ぬ。そんな重荷を背負わされて戦う。未だその精神は常人の域を出ない二人にはキツイことだ。
「なぁ、鈴」
「何よ」
「アイツ、なんで今撃ってこないんだ?」
一夏の疑問と共に、敵ISへ視線を向ける。敵はこちらに銃口を向けたまま停止している。その怪しいモノアイは純然と光ってこちらを見ているが、微動だにしていない。
「もしかして・・・あれって機械なんじゃないのか」
「ISは機械じゃないって、もしかして無人機ってこと!?」
思い当たる節は多々ある。人の慣性を無視した軌道による攻撃。話している間は不動になる。妙に教科書通りと言うべき無機質な動き。ここに来て、一気に敵が無人機という突拍子もない考えが思いついた。
「まぁIS学園をハッキングして、アリーナをロックしたりするような奴が相手だから、有り得るわよね。一夏、だったらもう遠慮なんていらないわ。思いっきり零落白夜をぶっぱなしなさい!」
「分かった。行くぞ、鈴!」
スラスターを思いっきり蒸かし、同時に撃たれた衝撃砲の援護を受けながら突き進む。迫り来るビームを雪片の零落白夜を展開して切り落とす。
大エネルギーに関しては無類の強さを誇る零落白夜はをタイミングを合わせて振れば、抵抗なくビームは消滅する。そして零落白夜にはシールドエネルギーを大幅に削る力もある。
あとは接近の為の速度。これは白式の速度があれば問題ない。後は動き回り距離を話そうとしてくる敵だが、それは甲龍を操る鈴が中遠距離に徹して、敵の行動範囲を狭めている。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
打ち漏らしたビームが掠ろうが、当たろうが突っ込む。一夏の視線に移る残量エネルギーのメーターは恐ろしいほどの速度で減少していくが、ここがチャンスだと、恐れずに進む。
雄叫びを上げ、逃げようとして衝撃砲に行く先を抑えられる敵。いかに速度があろうと、白式の速度はISの中でも随一。その速度を最大限に使用すれば、今の状況ならば懐に入り込むなど簡単である。
白式の青白い一閃が放たれる。逃げきれないと状況をようやく認識したのか、敵は自らの腕を大きく振るう。
(盾替わりか!?でもこれなら・・・!!)
「一夏ア!!その程度の相手に———」
突然アリーナに響いたとても聞き覚えのある声。ISのセンサーが認識し、一瞬で映像として一夏の視界に映し出す。ISがアリーナへ発進するためのピット、そこには見慣れたファースト幼馴染がいる。
彼女の叫び声を最後まで聞けるほどの余裕はなく、何故そんな場所に、などと疑問を思う暇はない。今一夏が認識していることは、敵ISは一夏と鈴を倒すのではなく、ISを纏っていない生身で身を晒した箒を確実に殺すこと。
一瞬の焦燥、そして葛藤。
一夏は白式を、そのまま進ませる。懐に入った状態でさらに前へ進ませる。目標は敵の胴体、ではなく敵ISの腕部。箒へ向かって撃たれる前に、零落白夜でシールドエネルギーを切り裂きながら絶対防御ごと腕を落とす。
「零落白夜ああああああ!!!!」
絶対の矛はシールドエネルギーを抵抗なく、紙のように切り裂いた。機械であろう腕部スレスレで張られている絶対防御に触れ、一瞬斬撃速度が落ちるが、ISのパワーアシストを全開で絶対防御を削り斬る。残る腕。ビームの充填が完了し、今にも発射できそうな砲口を落とす。
零落白夜の刃が腕の表面を溶かす。超高温のブレードを押し付けたかのように、ゆっくりとゆっくりと。この一瞬、たった一瞬が一夏の今までの人生よりも長く感じる。
腕の表面を斬った刃はそのまま腕を切り落とそうと進み、消えた。
「そん、な・・・」
零落白夜の刃は消えた。白式の残シールドエネルギーに表示されているのは30という数字。白式のエネルギーがなくなり一夏が無防備になる前に、IS側がオートで零落白夜を落としたのだ。
一夏の視線にあるのは白式の白く大きな手に握られている刀身が展開し、刀と呼べる状態ではない雪片弐型。飛ぶことすら出来なくなった白式が落ちる。まるで太陽へ焦がれ、蝋の翼を率いて灼熱の星を目指したイカロスのように、
もし箒があそこにいなければ、一夏は腕に向かって進まずにそのまま零落白夜を落とせば敵を倒すことが出来た。だが、箒という存在の出現が、勝利という道を跳ね除け、敗北という結果を与えた。
「箒ぃぃぃいいいいいいいいい!!!!」
叫んでも届かない。箒のいるピットへ向かって放たれたビームは一瞬で箒ごとピットを溶解し、破壊するだろう。今の一夏はそれを落ちながら見ていることしか出来ない。
ビームがピットに届く。箒を焼き殺す。そんな光景を幻視した瞬間、
「彼女は殺らせません。ギャラハッド、展開」
聞き惚れるほど美しい、凛とした声が聞こえた。
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時は遡る。1時間もいらない。30分も取らせない。ほんの少し前に。
アリーナ管制室では、誰もが冷静でいられなかった。生来のあがり症である山田真耶は敵の出現に戸惑い、IS学園がハッキングされアリーナへの道も、学園内にあるISが起動停止したことにかつてないほど焦り、千冬は大切な弟が、唯一の家族が今も危険に晒されている事に砂糖と塩を間違えるほど焦り、セシリアは想い人が危険にさらされていることに焦り、箒は何も出来ない自分に不甲斐なく感じ、何か一夏にしてあげなければと焦り、カレンはDEMの襲撃がないことに戸惑っていた。
「山田先生、どうですか?」
「ダメですね。どこのゲートもハッキングされてロックできません。今二年生と三年生の生徒達がハッキングを解除しようとしてくれていますが、一向に進んでいなくて」
「そうですか・・・」
真耶の言葉に、一見は冷静に見えるが内心焦りを感じ続けている千冬。もし自分が今もISを持っていれば、とたらればの話を考えてしまう。
「山田先生、織斑先生、私とオルコットさんに学園破壊の許可をください」
「突然何を言っているメイザース」
「今、凰さんと織斑君のエネルギー消費は著しいです。特に織斑君はどこまで持つか分からないほどに。今の二人が確実に勝つには何かしらの援護が必要です。ですがピットまでの道が塞がれているので、扉を私とオルコットさんの専用機でぶち破ります。その許可を」
カレンのクレイジーな言葉に、この場にいる全員がド肝を抜かれるが、現状においてまともな解決策がない以上、多少無茶をしてでも援護をするべきだろう。
「分かった。ピットまでの通路の破壊を許可する。だが最低限にやれ。あまりやり過ぎれば、私でも庇いきれなくなる」
「ありがとうございます。ではオルコットさ———」
行きましょう、とカレンがセシリアに声をかけようとした時、管制室の扉が開いで誰かが風のように出ていった。セシリアではなく、カレンでもない。ならば後は一人。箒だ。
「篠ノ之さん!?」
「大変です織斑先生!!たった今管制室からピットまでのロックが解除されました!!いえ、開いた順から閉じています」
「なんだと!?くっ、あのバカ娘め!メイザース、オルコット、急げ!!ピットまで行ったらそのまま戦闘を許可する!!」
「「分かりました」」
飛び出すように二人でアリーナから飛び出る。通路はそこまで広くない。少なくともISを展開すれば巨体すぎてそのまま進めなくなる。
「私が後ろから狙撃でゲートを破壊します。カレンさんは気にせず一直線に進んでください」
「分かりました。IS、展開」
音声認識の必要は無いが、ついつい言ってしまった。そして展開されたのは私のIS。手足は従来のISのように巨大な機械を取り付けたかのようなものではなく、必要最低限の部分で最大の効果を発揮するためだけのコンパクトなタイプになっている。
「行きます!!」
「遮る壁は私が破りましてよ!」
セシリアが展開するのはブルーティアーズの両腕。そして主武装である狙撃銃『スターライトMk-III』。カレンの機体と違って従来の巨大なISであるセシリアでは、この通路を進むことは出来ない。だが狙撃による壁の破壊ならばできる。適材適所というものだ。
セシリアが破壊していく壁の穴を連続で通り抜ける。
「素晴らしい狙撃技術ですね、オルコットさん」
いくら狙撃銃がビーム兵器とはいえ、口径自体は壁を丸々破壊するほど大きくはない。せいぜいがカレンのISを少しだけ大きくしたほどしかない。セシリアは連続で、上下に動きながら狙撃銃を撃つことで、カレンの上や下からビームを通し、次に隔てる壁を破壊している。
それをカレンに全く当たらせずにやるのだ。世界にも通用する絶技だろう。
「見つけました」
ようやくカレンの視界が
「エネルギー反応?させません!!」
アリーナから高エネルギー反応。おそらくは敵IS。突如現れた箒に気を取られて咄嗟に砲口でも向けたのだろう。
親しいわけではないし、そこまで好んでいる訳でもないが、死なれてしまったら目覚めが悪い。スラスターを全開にして加速する。アリーナでは一夏が敵ISの腕を斬りかけているので、少しだけ時間は稼げている。そしてISの戦闘において、少しの時間だけで出来ることはなんでもあるのだ。
「彼女は殺らせません。完全防御、発動」
音声認識により、何も無い空間から幾多の緑色の多角形の球体が現れる。球体は箒の前に出現し、まるで盾のように、鎧になるかのように箒をその中へ包み込む。
瞬間、高エネルギーのビーム攻撃がピットに直撃する。炸裂する轟音。ピットは崩壊するのではと思うほど揺れている。
黒煙が晴れれば、破壊されて崩落していくピット。箒は球体に包まれているため無傷。一夏達にはそれが奇跡に思えた。ゆっくりと、球体がピットの奥へ消えていく。同時にすれ違うようにカレンが出てくる。
敵ISは動かない。カレンをモノアイで見つめている。危険度でも予測しているのだろう。
『カレンさん!』
白式との通信が繋がり、ウインドウに一夏と鈴が表示される。
「織斑君はすぐに下がってください。凰さんはまだやれますか?戦えるのなら力を貸してください。あの敵を落とします」
『了解よ。ほら、一夏はそこにいても邪魔になるから戻りなさい』
『カレンさんに鈴も、待ってくれ!俺はまだ———』
「戦えません。既にシールドエネルギーが尽きかけているでしょ?今の織斑君では敵の的にしかなりません。それに、何も戦わないで欲しいという訳ではなく、エネルギーをチャージしてきてほしいんです。凰さんもいつまで持つか分かりません」
『・・・分かった』
「結構。オルコットさん!援護射撃、お願いします!オルコットさん?」
セシリアからの通信が返ってこないことに疑問を抱く。何故、と思い後ろを見る。そこには泣きそうな顔でへたり込んでいる箒しかいない。
『メイザース、聞こえるか?』
「織斑先生?通信が回復したのですか?」
『一時的にだがな。それよりもだ。IS学園内にIS反応を示さない敵ISらしき無人機体が三機発見された。オルコットはそっちに対処してもらっている』
「無人機が三機・・・?まさか・・・!?」
カレンの考えついたことに、君の想像通りだとも、と言う幻聴が聞こえる。不意に唇の端を噛み締め、ガンブレードを握る手に力が籠る。
間違いなく、三機の機体はバンダースナッチだろう。
「いえ、それより今は・・・」
野放しにするべきてはない敵は、目の前の無人機も同様。アリーナのシールドを一撃で破るビームなど、笑い物にもならない。もし、バンダースナッチと無人機が戦闘を行えば、どれだけの生徒達が犠牲になるか。
もしバンダースナッチの方へ向かえばどうなるか。アイザックへの言い訳は思いつかない。そもそもあの男の前で言い訳などできるか。恐怖で動けなくなるかもしれない。自分の立場を危うくし、最悪エレンに始末されるかもしれない。
それでも———
「私に出来た、初めて楽しいと思えたこの居場所は、奪わせません」
デート・ア・ライブIII?何も言うことはないな。