王国が反転した。さぁ、控えろ人類(仮) 作:銀髪!銀髪!
それは必然であるが故に、突然舞い込んできた。
「アイク!大変で———キャアッ!」
慌ただしくドタバタと社長室の開くエレン。だが自分で開いたドアが跳ね返ってゴン!と額に当たる。
「エレン、いつも言っているだろう?焦っている時こそ、君は落ち着きを持って行動しなければと。君が焦っているのも分かるが、毎回見ていて痛々しいよ」
「申し訳ありません・・・」
額を抑えて倒れていエレンへ手を伸ばす。エレンは手を取り、それを支えに立ち上がる。ああ・・・赤くなっている。恐らくはここに来るまで何回も似たような目にあったのだろう。エレンは常に
元々の身体能力が低いのに筋力を使っていないことも相まって一般人よりも弱いだろう。
「それでどうしたんだい、エレン?」
「に、日本で男性IS操縦者が発見されました。操縦者の名前は織斑一夏」
「『織斑』?ああ、あのブリュンヒルデの弟か」
ブリュンヒルデ、本名織斑千冬。ISの国際大会であるモンド・グロッソで歴代最高得点を取った者にのみ与えられる名実ともに最強の称号。第一回大会では圧倒的な強さで勝利し、第二回大会では愚かな理由で勝利を捨てた愚者。
因みに、ブリュンヒルデの戦闘データをエレンに見せ、勝率を聞いてみれば逆立ちされても負けないと言ってくれた。本当に頼もしいよ。
「今年は荒れますよ?・・・いえ、貴方は荒らす側でしたね」
「ああ。まぁ、荒らすのは私だけではないと思うけど」
執務机のパソコンの画面に映し出される一人の女性。彼女の名前は篠ノ之束。不思議の国のアリスとウサギのような格好をしている奇妙な人物だが、これでもISを開発した研究者なのだ。世も末だな。
篠ノ之束は極度にコミュニケーションが苦手だが、織斑千冬は親友のような関係らしく、彼女を通じて幾らかの関係ができていたとしても可笑しくはない。
「どう思いますか?アイク」
「篠ノ之束は完璧主義者だ。467機のISコアは意味の無いバラバラの数に見えて丁度いい数が分配されている。研究用、実践用。どこの国へどれくらい分配するか。そして終いには操縦者を女性に限定しているにも関わらず、彼女と関係があった『織斑一夏』だけが起動することが出来た。本当に計算深いよ。彼女は。まるで何か大きいことを計画しているようにね」
主柱は確実に織斑一夏だろう。そして篠ノ之束は恐らくIS操縦者を育成するIS学園を舞台とするだろう。何が狙いか、そんなことはどうでもいい。これはいわばゲームだ。彼女と私、どちらが世界を思うように動かせるか。
「そうだね。エレン、カレンをIS学園へと送り込もう。専用機持ちとして、特例でね」
カレンとはエレンの妹であり、あの日エレンと共に引き取った少女だ。開発者としても優秀であり、エレンにはない『知』の力が備わっている。勿論戦闘力もエレンには全く及ばないが、それでもそこらの操縦者に遅れはとらない。
「なぜカレンを?年齢的には合致していますが『M』でもいいのでは?」
「『M』はあまり感情の操作が得意じゃないからね。それに『M』には『M』にしかできない仕事がある。安易に『部隊』を動かすことも出来ない。なら、研究施設も整っているIS学園で我が社に貢献してもらいながら、織斑一夏の『観察』をしてもらおうじゃないか」
理由はそれだけではない。カレンは所々、私へ色々な疑いをかけている。信用は半分ほどまで下がっているだろうね。正直いつ裏切られても可笑しくはない。
『デート・ア・ライブ』でもカレンはアイザックから離反し、ウッドマン卿への愛情からDEMと対峙している『ラタトスク』へと付いていた。恐らくこちらの世界でも似たようなことが起こるだろう。
それならそれで構わないさ。確かにカレンの齎してくれる技術力は素晴らしいが、私の前では等しく無力だ。
「分かりました。ではそのように手配しておきます」
「ああ。よろしく頼むよ」
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IS学園生徒会室。
そこは学園の頂点、最強の座に座る者が長を務めることになっている学園統治を任された部屋。生徒会長の権限の範囲は恐ろしいほど広く、教師でさえも無闇に逆らえない、学園長を除けば絶対の地位を約束された場所。
その生徒会長、更識楯無が頭を抱えていた。
「特例でDEM社から生徒を入学させろなんて・・・しかもこれがIS委員会からの直属の辞令ですって?ホントに今年はどうなってるのよ」
IS学園は原則、どの組織も国家も介入不可能の真実中立地帯。それゆえに企業、国家、更にはIS委員会からの辞令も跳ね除けることが出来た。だが今回は違った。IS委員会は何が何でもDEM社の生徒を送り込みたいのか、多少強情な手を使っても辞さないとまで言ってきた。
明らかに異常だと楯無は思う。だが探りを入れても簡単にその意図が見抜けるはずもない。IS委員会はいわば闇の底。容易に覗いていいものではない。
楯無は疲れきっていた。新学期手前で生徒を組み込むのも、発見された男性操縦者にも。普段から仕事を抜け出す癖がある楯無でも、流石にこればかりは無視出来ない。
「ホントに何を企んでいるのかしらね・・・」
手元にある資料を目に入れる。その資料にはDEM社の代表取締役であるウェストコットMDについての情報が記載されている。記載されている、と言っても分かるのはこれまでの経歴くらいで、それ以外にはほとんど記載されていない。
楯無はアイザックと一度だけ会ったことがある。IS学園に入学する前のことだ。イギリスで行われたパーティーに『更識』として出席した時に、軽い挨拶程度に一言二言言葉を交わしたくらいだが。
一目見て恐怖した。目の前にいる存在は人間であって人間ではないと、直感でそれを感じ取った。滾る恐怖を押し殺して仮面を被り、挨拶をしに行く。近づけば近づくほど増大していく恐怖。
『お初にお目にかかります。ロシアの代表、更識楯無です』
『ああ、君が例の。知っているかもしれないが私はアイザック。アイザック・ウェストコット。長いならアイクで構わないよ』
友好的な人物だと思った。とても自分が恐怖する相手ではないと感じた。ならばあの直感は何だったのだろうか?勘違い?否、更識『楯無』にあそこまで恐怖を教え込んだ直感が嘘であるはずがない。
次の瞬間、楯無の印象をアイザックが瓦解させた。
『ああ、そう言えば妹さんは元気かな?えっと名前は確か・・・』
『・・・ッ!?』
その話を持ち出されて背筋に冷たい何かが差し込まれた感覚に襲われる。間違いではなかった。アイザックは危険だと、体が、脳がそう教え込んでくる。
『更識・・・・・簪』
「っ・・・!?」
そこまで思い出してばっと顔を上げる。いつの間にか額には汗がついており、アイザックについて記載されている書類を握り潰していた。だがそんなことにも気付かず、楯無は肩で息をする。思い出しただけでこれなのだ。実際に生で言われた時はそれは大変だった。それこそ、手に持っていたグラスを落としてしまうくらい。
アイザックの黒い瞳が楯無を捉える。暗い、暗すぎて黒すぎる正に闇の瞳。深淵、という言葉ですら物足りなくなる程の虚無。光を宿さぬ瞳に楯無は震えを隠しきれなくなる。
「ホントに嫌なこと思い出したわね・・・」
脂汗の浮かんだ額をハンカチで拭う。開けられた窓から入り込んでくる桜の花びらが強烈な風と共に生徒会室に入り込み、まだ見ていなかった資料が桜と共に宙へ舞った。
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「私がIS学園に、ですか?」
その知らせがカレン・N・メイザースへと届けられたのは急なことだった。アイザックに命令されて開発している
「はい。ウェストコットMDから直属のご命令です。日本への出向手配もIS学園への入学も全て完了しております。これが今回の辞令書です」
部下の手からカレンの手へ届けられた薄茶色の紙封筒。紙媒体とは旧時代的だが、アイザックの趣味なのだから仕方がない。カレンは丁重に紙封筒を開けて極秘と記載された資料を手に取る。資料にはとある人物についての詳細な経歴やデータが記載されている。
「世界で唯一、ISに乗れる男性操縦者、織斑一夏の観察・・・並びに現在と同様、装備の開発ですか・・・」
観察が増えるだけで研究にさほど支障がない、なんてことはなく、学生として入学するのだから研究時間は授業で消えてしまう。
何故自分なのか、と考えれば無数の理由が浮かんでくる。第一に年齢だろう。IS学園は高等学校と同じく一年次は15歳。それに対してカレンは現在16。だがDEMならば小娘の年齢1つ上書きできるのだろう。
そしてIS学園にはDEMと同等程度の研究設備があるからだろう。
まぁどんな理由があるにせよ、カレンに命令を、アイザックからの命令を断ることはできない。そんなことをすればアイザックを妄執している姉のエレンが責めてくるだろう。
確かにカレン自身も
カレンは研究者としては優秀だが、戦士としては2流がいい所だ。
「織斑一夏ですか・・・」
カレンは手に持つ資料を見る。そこに記載されている写真には女性を魅了する甘いマスクが貼られている。爽やかなスポーツ少年を思わざるその顔は、男性運のないカレンの胸を鷲掴みにする。
「どんな男性なのか・・・気になりますね」
IS学園に部下を送り込むことは出来ないが、自分一人でも出来ることはあるはずだ。カレンは命令のことを忘れ、私情で任務に打ち込むのをアイザックはまだ知らなかった。
そしてそれを知った時、涙を流しながら笑うのであった。