ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか 作:巴里と鬼神
あなたの目に巨人の姿が映っている。
人のカタチはしているが、灰褐色をしたその身体は何もかもが人よりも大きく、太く、逞しい。
7Mにも届こうというその巨人は、首元まで無造作に伸ばした黒髪の隙間から、人の頭ほどある真っ赤な眼で正面を睨みつけている。
あなたはその巨人に良く似た存在を知っている。
地霊ティターン。ガイアとウラノスの間に生まれた原初の巨人族であり、ゼウスら
かつての東京受胎では神々の戦いに再び参戦し、アサクサで暴れていた所をあなたが
眼前の巨人に青銅の鎧を着せればほぼティターンだろう。
あなたが入り口から覗き込んでいるのは、整った直方体の形をした部屋。
その部屋の突き当たり、200Mほど進んだ奥に巨人は立ちはだかっていた。
巨人の背後には高さが20M、幅も100Mもあるような壁が広がっており、その足元に人が通れるような洞窟が見える。
あなたは巨人がこの階層の
ティターンでなければ良いが。そんな事を考えながらあなたは万里の望遠鏡を覗き込む。
本当にティターンであれば今のあなたではとても勝ち目がない。
あなたの元仲魔のティターンでもないようだからTALKにもロクに応じはしないだろう。
そんなあなたの心配とは裏腹に巨人はティターンではなかった。
地霊ゴライアス。物理耐性・
その【
また、ミノタウロスと同じように【
【
搦め手に弱い面があるのが幸いといえるが、残念ながら今のあなたにその手段はない。……いや、ひとつだけあった。
あなたは
生憎とあなたとゴライアスとの間には200M近い距離が隔てられており、ゴライアスに近づくまでに身を隠せるような場所は一切ない。
ミノタウロスの時のように不意打ちでは臨めなかった。
ゴライアスは今のあなたには恐らく強大な敵だ。だが鎧もなく、武器もない。ティターンと比べれば大分マシな相手でもある。
あなたが今取れる手段を使いこなす事が出来れば、決して勝てない敵ではない……はずだ。
いつも以上に濃厚な死の気配を打ち払うように不敵に笑いながら、あなたはゴライアスに近づく為に巨人の広間へと足を踏み入れた。
『オオオオオオオオオオオオッッ!!』
あなたの姿を認めたゴライアスもまた、地響きを立てながらあなたへと歩みを進める。
まずは先手。近づいてくるゴライアスに対し、あなたの励起しているマガタマが魔力を解き放った。
解き放たれた魔力はゴライアスに纏わりつき、その動きを鈍らせる。
いかに攻撃力が高かろうと、
更に【
だが距離に焦れたゴライアスはその巨椀を大きく振り上げる。
あなたは全力で距離をあけて攻撃に備えた。
『オオオオオオオオオオオオッッ!!』
ゴライアスの振り下ろした腕は地面を叩き、爆裂させる。
直撃を受けていたらひとたまりもなかっただろう。外れていても地を爆裂させたその衝撃があなたに襲い掛かっていく。
足の踏ん張りが利かずにあなたは背後に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
だが、これでいい。
あえて飛ばされる事で距離を取るのもあなたの戦術のうちだった。
最初衝撃に備える姿勢を見せたのも壁に叩きつけられる勢いを殺す程度の意図でしかない。
あなたは【
みるみるうちにゴライアスの攻撃の精度や間隔を鈍らせ、彼我の戦力差を縮めていく。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
ゴライアスが叫び、腕を振り下ろす。再びの【烈風破】。
相対位置を調整してあなたは衝撃に吹き飛ばされつつも、上手く距離を取り地面に転がる。
しかしこの威力の攻撃を何度も喰らっていればあなたの身ももたないし、なにより攻撃を読み間違えればそこで終わりだ。
あなたの作戦は次の段階へと移った。
【烈風破】に引き起こされた土煙が舞い飛ぶ中、あなたは新たな魔法をゴライアスに行使した。
マガタマの魔力がゴライアスを被い、呪いの如くその
あなたは最初からゴライアスとの長期戦を見込んで、
その合間に──あなたは土煙が晴れ、姿の見えたゴライアスに毒矢を投擲する。
ヘラクレスの伝説にあるようなヒュドラの毒矢程の効果はないが、それでも上手く
間髪いれずに【
ゴライアスが奪われた力は、【烈風破】の威力を引き下げ、結果としてあなたが衝撃に吹き飛ばされるまでとはいかなくなった。
余分な
あなたの
まず相手の
【
あなたは
体力と精神力を完全に回復させる力を持った
心身を回復させたあなたは、ゴライアスに【
【
しかしゴライアスという
戦闘中にマガタマを切り替える隙を作ることが出来れば、魔法攻撃のスキルを引き出して攻撃も出来ようが今は無理だ。
ならば限界まで【
あなたの口元が自身も知らぬうちに笑みを形作る。
あなたは高揚していた。闘争を楽しんでいた。強くなった事でより大きく引き出されるようになったマガタマの力が、あなたの心の悪魔の力を強めているのだ。
このまま進めば、また
悪魔というのは心の隙を狙うものなのだから。
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「一体何してきちゃってんの!?」
ギルドの中にエイナの大声が響き渡り、それを聞いたほかの職員や冒険者が何事かと振り返る。
一身に注目を浴びている事に気付いたエイナは一瞬で茹蛸のように真っ赤になり、慌てたように手を振る。
「な、何でもないですっ! 何でもっ! ちょっとシン君こっちに!」
エイナに手を引かれ、先日にも冒険者についての説明を受けた別室へと連れ込まれる。
最近のエルフは随分と積極的だ。いや、ハーフエルフか。
「なっ、何馬鹿な事言ってるの! じゃなくて! 私今日は何処まで進んだのって聞いたよね? なんで17階層まで行っちゃってるの!? 冒険するなって言ったでしょう!? 自分の基準では無茶してないって、キミの基準なんて知りません!」
エイナはあなたの軽口に顔を真っ赤にして怒ると、くどくどと説教を始める。
子供のようなあなたの言い訳はやはり通用しなかった。
「あなたが地元でどれだけ持ち上げられていたのか知らないけど、神の恩恵を受けた時点で冒険者も神の子のようなものなんだから、レベルが同じならあなたも他の冒険者と大きく違わないはずよ。だから本当に無理は禁止! 次ダンジョンに潜る前に、また私の講義を受けて貰うからね! 前はちょっと手緩かったようね。今度は手加減しないわ」
フンスと胸を張るエイナ。小声での呟きもあなたの耳にはしっかり届いていた。少し怖い。
「それにしてもよく17階層まで行けたわね。途中で誰かと一緒になったの? 流石に
どうやら他の
そう証言するとエイナは目を白黒させながらあなたが取り出した魔石を見つめた。
「うわっ、この大きさといい質といい、本当に
恐る恐るあなたの方を伺うエイナにあなたが頷いて返すと、エイナはジト目であなたを睨んだ。
「シン君レベル詐欺じゃないでしょうね? どちらにせよ、本当に
エイナのありがたい忠告には素直に頷いておいた。もっともあなた自身はランクアップしていることをとうに自覚しているのだが。
「……ハァ。ごめんね、時間を取らせて。もういいわ。近いうちにキミのところの主神のヘスティアやキミを保証したっていうロキ達にギルドの使いが行くかもしれないけど、その時はよろしくと伝えておいて」
最後にそう話すとなぜか頭痛を抑えるように頭を抱えたエイナを置いて、あなたは別室を辞した。
それを見送ったエイナは、これからの事を考えて盛大に溜息を吐くのだった。
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魔石の換金はあなたの想像以上の金額だった。
魔貨換算で考えても円換算で考えても計り知れない金貨の山と交換できた以上、ゴライアスの魔石は希少だったのだろう。
「あっ、シン君お帰りー」
「シンおっかえりぃぃっ! 待っとったでぇ!」
悪くない手応えを抱えて
どうやらロキはあなたが居ないにも関わらず
ヘスティアはせわしなくあなたの身体を確認しながら様子を伺う。──その際あなたに抱きついていたロキを邪魔者のように引き剥がしつつ。
「怪我もないようでなによりだよ。結構長い時間潜ってたみたいだけどダンジョンの手応えはどうだった? ってロキ! 邪魔だよ!」
「なんやもう! ちょっとハグする位ええやん!」
引き剥がされたロキは口を尖らせて文句を言いながらもそれ以上の強行に出ることはなかった。
これでも年季の入った
「で、実際どうなん? シンのことやから盛大にやらかしたんちゃう?」
「おいおいおい、シン君には無茶するなって言ってるんだぞ。いきなりそんなことするはず……ないよね?」
ロキは悪戯っぽく、ヘスティアは不安そうにそれぞれあなたを伺う。
エイナの反応を考えると少々話し辛いが、ヘスティアはまだしもロキはあなたの事をよく知る戦友だ。問題があるはずもない。
あなたはこの日ダンジョンに潜り始めてからの経緯をかいつまんで語り始めた。
特にミノタウロスとゴライアスはあなたも危うい好勝負だった。
話す内容にも自然と力が入る。
それが故に、あなたは2神の顔が見えていなかった。
「こんの……」
そう呟いたのはどちらが先だったか。
ロキとヘスティアは顔を俯かせてフルフルと震えている。
あなたが予想外の収入を得て帰ってきたから感動に打ち震えているのだろうか。
あなたはそう考えていたが、そんな事があるはずもない。
中層を過ぎたあたりでヘスティアの表情が固まり、ミノタウロスのくだりでロキの表情が固まり、ゴライアスとの遭遇に到っては2神とも血の気が引いていたが、あなたはそれを見ていない。
ヘスティアとロキは安堵と共に沸き起こった怒りの感情に打ち震えているのである。
「お馬鹿ーーーーーっ!!」
「ドアホーーーーーッ!!」
2神の絶叫が教会の隠し部屋の中に響き渡った。
シンの存在でなんだかんだヘスティアとロキが仲良く喧嘩する感じになっています。
それでは悪魔に肉体を乗っ取られぬようお気をつけて……。
次回は3/24(土) 23時更新目標