ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

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遅くなりました。


第11話 未確認でも進行形

 ヘスティアの本拠地で、あなたは正座していた。

 怒気を放ち、あなたを見下ろすのは2人の女神。下から見上げると、ある部分の格差がよりわかりやすい。

 勿論あなたは感想を表に出すような愚行を犯しはしないが、普段なら頭に浮かべただけでも察知されて罵声のひとつも飛んでくる筈だ。

 しかし山脈(ヘスティア)はおろか、平野(ロキ)すら何も言わず、ただ見下ろしてくるだけだった。

 それだけ怒りが深いということなのだろう。

 大人しく沙汰を待つことにしたあなたの耳に、スゥと深く息を吸うヘスティアの息遣いが聞こえる。

 次の瞬間には罵声とともに吐き出されるはずの息だったが、ロキが右手を上げて制することでただの深呼吸に終わった。

 ヘスティアを制したロキは、無言のままあなたの前へと進み出て膝をつく。

 ロキとあなたの目線が同じ高さとなるが、彼女の表情から感情は伺えなかった。

 ロキはそのままあなたを抱き締めると、耳元で小さく呟きを漏らす。

 

 「……もう、ウチが置いて逝かれるのは嫌や」

 

 その言葉はあなたに突き刺さった。

 どれだけの説教を重ねられるよりも、面罵されるよりも、ずっとあなたの心に響く。

 勝負をかけなければならないときはある。しかし、それは今ではなかったかもしれない。

 ゴライアスを倒して無事生還出来たのは結果論でしかないのだ。

 あなた自信が歩みを止めることは出来ない。

 しかしナカマ達を顧みる余裕は持ってもいいのではないか。

 反省とともに、あなたは強くロキを抱きしめ返した。 

 そんなあなた達の様子を呆れた様子で睨めつけながら、ヘスティアがボヤく。

 

「なんで主神の僕が蚊帳の外になるのか全く理解できないんだけど……」

「おっと、スマンなぁ。オボコにはちょっと刺激が強すぎやな〜」

 

 先程のしおらしい態度とは打って変わって、底意地の悪い笑みを浮かべながらロキが挑発した。

 ヘスティアは見事に挑発に乗せられて、怒りで顔を真っ赤にしながらあなたからロキを引き剥がしにかかる。

 

「ムキー! シン君はうちの子だぞ!」

「なんやー! ちょっと胸が膨らんでるからってシンのおかん気取りか!」

  

 取っ組み合いの喧嘩に入る二人を横目に、あなたはそっとため息をついた。

 息があっているのかいないのか、本当によくわからない。

 重い腰を上げて仲裁に入るあなたの口元は、わずかに緩んでいた。

 

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 あなたの背に、ヘスティアが跨っている。

 神聖文字(ヒエログラフ)を刻むのに、この姿勢が一番楽なそうだ。

 

「えっと……こうだったかな……?」

 

 血の滲んだ指をあなたの背に触れさせ、ぎこちない手付きで血の軌跡を描いていく。

 ロキは逆向きに座った椅子の背もたれに顎をのせながらその様子を見守って……否、野次を飛ばしていた。

 

「おいおい、解錠手順を忘れとんやないかー? ウチが代わりにやったろかー?」

「うるさいなぁ、ちゃんと覚えてるよ! 邪魔するんなら出てけ!」

「ウチが教えな(ロック)すら知らんかったくせによう言うわ! 自分が穴にハマるんはともかくシンに不都合かけるんやないで」

「ぐぬぬ……」

 

 ヘスティアも言われるばかりではなかったが、今回は少々分が悪いようだ。

 オラリオにおいてあなたを始めとする眷属(子供たち)のステイタスは秘匿すべしという常識がある。

 その眷属がどのような能力を持っているのか、どれだけのことが出来るのかが明示されているからだ。

 そして、あなたの【ステイタス】は特に秘匿すべきものという認識はロキとヘスティアの間で共有出来ていた。

 しかしあなたの背に神聖文字を刻んだ夜、マガタマによる変化の検証を一通り終えた際にヘスティアはそのままあなたの背を降りようとしていた。

 そこをロキが慌てて押し留め、滾々と説教をしたのだった。

 

 眷属の背に刻まれる神聖文字は、読めるものならば目にしただけで内容(ステイタス)を読み解けてしまう。

 そのために、背に刻まれた神聖文字を一時的に封印する(ロック)という技術が生まれていた。

 錠をかけられた神聖文字は主神が解除(アンロック)を行うか、何らかの手段を用いて解錠(ピッキング)でも行わない限り見られることはない。

 眷属に関するリスク軽減において基本中の基本と言えるが、それも下界に降りて経験を積んだ神だからこそ言えることで、新米であるヘスティアにまでそれを求めるのは酷かもしれない。

 だからといってあなたの情報が拡散される危険性を見過ごすことも、ロキには出来なかったのだ。

 このときばかりはロキもいつもの様子を潜めて真剣に話をしたし、ヘスティアも反発することなく聞き入れていた。

 ――そのような経緯があるためヘスティアも強くは言い返せないが、決して軽んじているわけではない事柄に野次を飛ばされるのも愉快ではない。

 

 あなたは少し考えた後、ロキの有罪(ギルティ)と裁決した。

 最初に絡んだ方が悪い。実際に忘れたのならまだしもヘスティアは危ういながらも解除は出来たのだ。横から茶々を入れる場面ではなかっただろう。

 あなたの讒言にロキは渋々ながらも両手を挙げて降参の姿勢を表す。

 

「わーった、わーった。シンにまでそんな事言われたら敵わんでホンマ。今度ばかりはウチが余計な口挟んだわ」

「ふ、ふん! わかればいいんだよ」

 

 あなたの助勢を受けてヘスティアは威を張ろうとするが、内心の嬉しさが滲み出ているのかあまり威厳は感じられない。

 そもそもがヘスティアの手付きが覚束ないことがなければロキの野次もなかったのだが、あなたはその指摘をしないことにした。

 ロキの事などで都合を通して貰っている恩もあるし、なにより今はあなたの主神なのだ。気分良く過ごしてもらうに越したことはない。

 ロキもあなたの思惑に気づいたのか、苦笑を漏らしながらもあえてその部分に口出しはしないようだった。

 が、その代わりとばかりにこれから進めていく作業について口を出した。

 

「既にランクアップしているのがわかっとるから、ウチらが出来るのは変わった内容の確認くらいやなぁ。シンは手がかからんで張り合いがないんちゃう?」

 

 ロキはそんな風にヘスティアに問いかけるが、もちろん皮肉であろう。主神の立場を代われるものなら今でも代わりたいと思っているのは間違いない。

 

「そうだねぇ、勝手にランクアップまでしてくれちゃうから主神の存在意義まで危ういもんね。本当に手がかからない――訳ないだろバカー!! 地上に来てそんなに経ってない僕にだってわかるよ! こんなの前代未聞だって!」

「せやろか」

 

 上機嫌が嘘のように吹き飛び叫ぶヘスティアに対してとぼけるロキだったが、事実として前代未聞である。

 

「大体なんでもう3レベルになってるのさ、おかしくない!?」

「ソロでゴライアス倒したんやからそれ位の偉業になるんちゃう?」

「そりゃそうかもだけどさ! 今日入るときは1レベルで、出てきたら3レベルになってましたとか、ギルドにどう説明すればいいのさ!?」

「ステイタス更新したら3レベルになってました。でええやん」

「そういう問題じゃないだろー!」

 

 ぐおおと頭を掻き毟りながら喚くヘスティアと、飄々とした態度を崩さないロキの対比がわかりやすい。

 あなたが暴れるなら背中からどいて欲しいなどと追い打ちをかけなかったのはせめてもの情けか。

 

「ま、おふざけはここまでとしてシンがどれだけ成長したかウチも見せてもらうかね」

 

 椅子から立ち上がって近づいてきたロキはあなたの背中を覗き込む。

 そこに刻まれていたのは――

 

───────────────────

間薙シン 種族:魔人

Lv.3

 

力 :G 290

耐久:E 442

器用:H 135

敏捷:H 120

魔力:G 279

 

狩人 :H 耐異常:G

 

《魔法》

【タルンダ】

【スクンダ】

【ラクンダ】

 

《スキル》

 

【召喚】(サマナー)

・契約した仲魔を召喚、送還できる。

・無生物を異空間保管できる。

 

【人修羅】(ヘーミテオス)

禍つ霊(マガツヒ)を直接取り込み成長する。

・魔石の消費で肉体の修復が出来る。

 

【魔人】(ディアボロス)

・所持している禍魂(マガタマ)を励起出来る。

・マガタマの励起は能動的行動。

・励起しているマガタマのスキル、アビリティが適用される。

・マガタマ、スキル、アビリティにはレベル制限が存在する。

・成長により励起していないマガタマのスキル、アビリティが追加で選択可能となる。

・追加スキル(0/1) 3種以上魔法が設定されている場合魔法は追加できない。

 

【精神無効】(アフィティビトス)

・魔法や呪詛等の要因を問わず魅了、睡眠、混乱を無効化する。

 

───────────────────

 

「お? なんや、この空きスロットって」

 

 そう言ってロキは首をかしげる。

 あなたには心当たりがあった。

 おそらく《一分の魔脈》を引き出していたスロットだろう。

 追加でスキルを引き出すことは出来たのだが、一度セットすると後から他のスキルに変更することは叶わなかった。

 しかし、ゴライアスを倒して再度ランクアップしたときには、リセットされて他のスキルを引き出すことが出来るようになったのだ。

 その時も再び《一分の魔脈》を引き出したのだが、同様に変更が出来なくなっていた。

 どうやらステイタス更新の時にもリセットされるようだ。

 マガタマ毎に別のスキルを引き出すことは可能だが、ランクアップ以外にもスキルの調整を出来るのはありがたい。

 

「よかったな、ヘスティア。存在意義あったで!」

 

 ロキはあなたの説明を聞くと上機嫌となりヘスティアの肩をバシバシと叩いた。

 

「痛っ、力強すぎだよ~、もう~」

 

 叩かれるヘスティアも文句はいうものの、自分が役立てる事がわかり満更でもなさそうに相好を崩す。

 それはあなたの背の上で行われていたため、あなたには声と雰囲気で察するしかなかったのだが。

 

「それにしても、やっぱ魔法は3種までかー。魔法4種あるマガタマだとどうなるやろなー」

「そのへんも聞き捨てならないけど、そもそもシンくんってマガタマ切り替えを含めれば既に3種類以上の魔法使えるんでしょ? その時点でおかしくない?」

 

 呑気な声を漏らすロキに、ヘスティアが引き攣った顔で疑問の声をあげる。

 ロキはやれやれとばかりに肩を竦めて答えた。

 

「ヘスティアは新米のくせに頭が固いなぁ」

「誰のせいだと思ってるんだ!」

 

 本当に飽きない二人だ。うつ伏せに寝そべっている状態のあなたの背で繰り広げられるやりとりに、そんな感想を抱く。

 

「ところで、シンに一つ聞きたいんやけど」

 

 あなたの背をロキが指でなぞる。

 

「LVが一気に3になっとるのはま、ええな。さっきの話でも聞いたし単独(ソロ)でミノタウロスやゴライアスを倒したんならそういうこともあるやろ。シンは直接マガツヒも得られるしな」

「どういうことだよ、ロキ」

 

 ロキの指はさらにあなたの背を移動し、ある点で止まる。

 ヘスティアもロキの行動を訝しげな目でみつつも、制止まではしない。

 

「基本アビリティも()()になってわかりやすくなったな? それ自体はええんや」

「うん? ……あっ」

 

 あなたに見えるはずもないが、ロキの指が止まったのは【ステイタス】の基本アビリティ部分だった。

 ヘスティアもロキの指す場所を見て、何かに気づいたように声を上げる。

 

「基本アビリティには特徴があってな。ひとつ、ランクアップしたらリセットされて0になる。それまで成長しとる分は隠しステイタスとして残るけどな。そしてふたつ、基本アビリティの熟練度は分野に応じた行動をせんと伸びん。それも同格以上を相手にせんと大きくは伸びん。さて、ここで問題や」

「なんでゴライアスを倒してランクアップしたはずのシン君の基本アビリティが、こんなに成長してるのかな? それも耐久が飛び抜けて」

 

 ロキの言葉を引き継ぐように、ヘスティアが質問を重ねた。

 あなたは沈黙を選んだ。

 

----------------------------------------

 

「そんでな、シンをソロで潜らせるのはアカンと思うんや」

 

 【ステイタス更新】の儀式――後半はほぼ説教――が終わり、あなた達が一息ついたところでロキが口を開いた。

 

「そりゃあ僕もそう思うけどさ。シン君がいきなりミノタウロスと戦ったなんて聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ。でもどうしろっていうんだい? うちに新人が入るまでしばらくダンジョンに潜るの禁止にする?」

「アホか自分。一体いつまで待たせる気や! それよりええ案があるで」

「んなっ、そこまでじゃないだろう!? ……で、なんか嫌な予感がするけどいい案ってなんだい?」

 

 ヘスティアはロキに続きを促す。

 

「ズバリ、ウチの子らの遠征に混ぜる!」

「正気かよ!?」

 

 親指を立てて言い放ったロキに対し、ヘスティアは即座に突っ込みを入れる。

 ロキ・ファミリアの遠征。ロキの抱える一級冒険者達がダンジョンの深層へと挑む遠征にあなたを同行させようというのだ。

 冒険者となって3日と経っていない者を連れて行くというのは、普通に考えればヘスティアの言葉通り正気の沙汰ではない。

 

「まず団長らその話を通す必要があるけどな、参加条件はゴライアスを倒してきたシンの実績なら大丈夫やろ」

「そこじゃないよ! っていうか独断かよ!?」

 

 しれっとロキがのたまうが、ロキ自身が一度は怒り、あなたを怒鳴り諭した事柄すら話を押し通すための武器となっているあたり、流石のロキといったしたたかさである。

 勿論小規模ファミリアの寄り合い所帯ならまだしも、ロキ・ファミリアのような大規模なファミリアが他ファミリアの冒険者を連れて行くということも普通ではない。

 本日何度目かもわからない突っ込みを入れるヘスティアに、ロキは三本の指を立てて説明していく。

 

「もちろん深層では前に出て戦わせたりせんよ、サポーターとしての参加や。シンにとっては深層のモンスターの感じをまあまあ安全につかめるし、ウチらはシンが第一級冒険者と組んで安心、ウチの子らは優秀なサポーターがついて三者一両得って寸法や!」

 

 無い胸を張って言い切るロキに、ヘスティアはジト目で問いかけた。

 

「本音は?」

「ウチの子らとシンが仲良くなってくれるとええなぁ。あ、そうは言うても手出しは厳禁やで!」

「だろうと思ったよ……」

 

 これまた悪びれもせずに言い切ったロキに、あなたの主神は疲れたかのように肩を落とす。

 

「ま、遠征はともかくママ――リヴェリアからそろそろお呼びがかかるのも確かやしな。そのついでに話を通すつもりや」

「ロキのところは一線級だし、シン君をソロで行かせるよりはましか……」

 

 悩ましげに唸りながらもロキの提案を受け入れつつあるヘスティア。

 彼女はすっかりつられているが、あなたにはロキが恣意的に話を誘導しているのに気づいていた。遠征に参加せずとも、例えばタケミカヅチの所に声をかけるという手段も存在するのだが、ロキがうまいことヘスティアがそのアイデアを思いつかないように話の流れを作っていたのだ。

 そしてあなたはこの時も黙っていた。

 ロキが大事にしている子供達にも興味はあったが、それよりも遠征でよりダンジョンの奥深くまでいち早く行けるというのは魅力的であったからだ。

 

「……仕方ないか。ロキ、本当に危ないことはさせないでくれよな」

 

 案の定ヘスティアが折れる形となった。

 あなたがゴライアスとタイマンを張ったと聞いた時は血の気が引いたが、だからといって一緒に潜るような眷属をまだ勧誘できていない。

 ヘスティアとしても現在たった一人である家族に用意できるものがないことを心苦しく思っていたのだ。

 あなたとロキはその感情を上手く利用した形となる。

 かくしてあなたは遠征への一歩を踏み出した。

 だが、あなたたちはまだ知らない。この遠征で何が待ち受けているのかを。

 

 




次回は4月中にはなんとかしたい。
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