ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか 作:巴里と鬼神
【ロキ・ファミリア】の遠征隊は、あなたの最終到達点であった17階層をとうに越えて、深層へと迫っていた。
中層までの間はロキ・ファミリアの抱える第二級冒険者達が中心となって障害の排除を行うことで主力メンバーの消耗を抑えるシフトで取り組んできた。その中であなたもこの遠征に混ざるだけのもの――少なくともロキの身びいきだけはないことは示し、受け入れられる空気を作ることに成功していた。
深層に近づいてからは第一級冒険者である主力メンバーを中心として闘い、第二級冒険者達その援護をする形にシフトしていく。
あなたはサポーター役として荷物を抱えながら、先を行く一級冒険者達に目を向けた。
全体の指揮をとっているのは小柄な金髪の少年――に見える42歳の
あなたがこうして遠征隊に混ざることが出来ているのも、【ロキ・ファミリア】の団長である彼が良しと判断したからである。
ロキの推薦だからと盲目的に受け入れている訳ではなく、判断の裏付けとしてあなたがゴライアスを倒したという情報をギルド職員から入手しているあたり如才ない。
ロキと再開した日も顔を合わせた彼や、副団長のリヴェリアは否定的な意見を出すことはなかった。
話だけ出ていたドワーフのガレス・ランドロックに至っては
「実力不相応なら後悔するのは自身じゃからの」
と、笑うだけだった。あなたがイメージした通りのドワーフである。
遠征参加に関して、ファミリア幹部であるこの三人は特に問題はなかった。
問題があったのはフィンの隣を歩く黒髪褐色の少女。アマゾネス姉妹の
最初に顔を合わせた時――リヴェリアに呼び出され、
直接会話を交わせたことはないが、あなたがカーリーを呼び込む要因として嫌われているようだ。
遠征の参加にも強く反対をしてきたが、フィンに説き伏せられた。
カーリーの所では相当に鬱屈する何かあったらしいが、それはまだあなたには知らされていない。
反対にアマゾネス姉妹の妹、姉と同じく黒髪褐色だが
あなたがゴライアスを
その際にあなたも姉の事情を尋ねてみたが、それは曖昧に濁された。
当初睨まれていた事については、ロキとの再会時の騒動から女の敵だと思われていたらしい。全くもって冤罪である。
遠征参加への打診が行われた際、特に強く反対をしてきたのはティオネの他にもう一人。
あなたが視線を滑らせた先にいたのは、狼の耳と尻尾を持った
事前に話を聞いていた通り
ある意味で非常にわかりやすいとも言える。あなたが強くなって実力を認めさせれば良い。単純明快だ。
それにロキの話では口が悪いだけで身内想いではあるし、悪すぎる子ではないのだという。
だが、あなたが見る限りベートは強さの在り方に
むしろあなたが見ていて危うく感じた、そしてロキが心配していたのはそのベートが熱心に話しかけている長い金髪の少女――アイズ・ヴァレンシュタインだ。
彼女もまた貪欲に強さを求めている。ただ、その在り方はどことなく
力をつける為には手段を選ばぬ危うさからロキにはあなたの目線からもアイズを見ていてくれと頼まれている。
もっともこういった遠征の機会でもなければ、レベルもファミリアも違う彼女と行動を共にするようなことはそうそうないはずだ。
あなたは第一級冒険者たちから視線を戻し、ダンジョンの先の事に集中することにした。
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あなたが【ロキ・ファミリア】と遠征へ出向いた後、
「絶対に! 絶対にもうひとりは眷属を増やしてやるんだっ!」
ヘスティアは、あなたに不満があるわけではない。いや、ふたつばかりあった。
ひとつはロキとも共有している懸念。あなたが無茶をして心配させる点。そして、もうひとつはそのロキを含めたあなたの友神関係だ。彼女にとってあなたは初めての
それがいきなり余所の神に取られたような感覚なのはよろしくない。それもよりによって相手がロキである。
あなたを通じてヘスティアとロキの関係は多少改善されてはいるが、それでもよろしくないものはよろしくないのだ。
「次の眷属は絶対に他の神と関係がないまっさらな、ボクだけの眷属を見つけてやるんだ」
また、処女神である彼女は姪のアテナ程とは言わずとも非常に嫉妬深い。
「今度は絶対他の奴には渡さないんだからな……」
呟く女神の視線の先には、小さくて寂しそうな背中が映っていた。
小柄な白髪の少年の行動を先程から見続けているが、【ファミリア】
彼ならば少なくともオラリオの神の紐付きではないだろう。
そう当たりをつけたヘスティアは、何度めかの門前払いの後、とうとう道の隅で力なく座り込んでしまった少年に話しかけることにした。
「ねぇ、キミ。【ファミリア】に入りたいのかい?」
「えっ? そうだけど……君はっ……!?」
顔を上げた少年は胡乱げにヘスティアを見上げようとして、その目の色と同じように少し顔を赤く染めた。
座りこんでいた少年に話しかける為に、少し前傾姿勢となった女神は、図らずも己の魅力を十全に発揮する形となっていたからだ。
そのことに気づかないヘスティアは少年の態度に首をかしげながらも話を進める。
「? ……ま、いいや。今の一部始終を見ていたんだけどね、ボクも【ファミリア】の勧誘をしている所なんだ」
「入りますっ! 入らせて下さいっ!」
「ええっ!? いいのかい? まだ細かい話をしていないっていうのに……っと」
あまりの少年の食いつきの良さに、逆に本当にいいのかと聞き返してしまうヘスティアだったが、ひとつだけ絶対に聞いて置かなければならないことを思い出した。
「あっ、でも一つだけ聞いておくことがある」
「な、なんでしょう……?」
真剣な顔で尋ねるヘスティアに少年はゴクリ、と生唾を飲みこむ。
「キミ、神様の知り合いは居るかい?」
「いっ、いませんよそんなっ! いたらそこの【ファミリア】に入れてもらってますって。あ、でも居ないと不合格ですか!? そうですよね、僕なんかじゃ……」
女神の質問に少年は慌てて否定をするも、もしやと思い至った事柄に表情を暗くする。
しかし、ヘスティアは望む回答を得られて満足していた。満点だ。
がっくりと肩を落として落胆した少年の前に手を差し伸べる。
「おっと、勘違いするんじゃあないぜ。不合格だなんてとんでもない、合格だよ合格! ボクの所で良かったら来ておくれよ。 まあ、ボクの所はまだ団員1名の零細【ファミリア】なんだけどね……」
「問題ないです! 是非お願いします!」
後半は自虐になってしまった中途半端な合格通知に、少年は女神の手を取って応えた。
こうして、【ヘスティア・ファミリア】に新たな仲間が増えた。
「フフフ、これでボクの……ボクだけの眷属が出来る。絶対に離さないからね……」
「神様何かいいましたか?」
「なんでもないよっ。 じゃあ早速【ファミリア】入団の儀式をしに行こうか!」
「はいっ!」
あなたの知らないうちに。
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遠征隊は37階層の中心部へと到達していた。
その中心部に存在する次層への階段も間近だ。
この階層は中心部にたどり着くまで、5層の巨大な円壁を越える抜け道を探して幾度も階段を登り降りしながら迷宮を進んでいく必要がある。しかし既に正規ルートが確立されているためはぐれて迷ったり、どこかの誰かが端々までマッピングするなどと言い出さなければ問題にはなることは少ない。
幸いにして今回は団体行動であり
もっとも、例えマッピングが出来たとしても37階層だけでもオラリオに匹敵する広さの入り組んだ迷宮となっているため、果てしなく時間がかかる上に、正規ルートがある以上無意味という結果が大半で終わるだろうが。
遠征隊がたどり着いたのは、37階層中心部にある『ルーム』。
ほかのそれよりも一際大規模な『ルーム』である『玉座の間』には、それに見合うだけの大量の
白兵戦の
この『ルーム』の怪物を殲滅すれば、この階層は抜けたも同然だ。そしてさほど時間もかからず殲滅は成し遂げられた。
サポーター達が倒した怪物の魔石やドロップアイテムを回収していく。今回の遠征ではあなたもその中の一人となっている……今のところは。
作業を横目に『ルーム』の出口、次の階層への階段に向かって先を行くフィンが、唐突にその歩みを止めた。
「っ!!」
周囲の団員が何事かと尋ねる前に、フィンは構えを取り声を上げる。
「
危機が迫っている時に親指がうずく――スキルとも魔法とも言えないただの勘としか言えないようなものだが、幾度も自身を救ったその予兆を彼は信じていた。
そして、この37層で親指がうずくほどの危機を示す対象はひとつしか考えられない。
姿を見せる上半身だけでも十Mに届こうという巨体。その下半身の骨は『ルーム』全域に張り巡らされ、地面のどこからでも骨で作られた
上半身は上半身で直接攻撃を行ってくるため、下半身での
ウダイオスを攻略する場合、大人数の攻略隊を用いて
「それって
フィンの指示に従いつつも、ティオナが疑問の声を上げる。
ウダイオスに限らず
【ロキ・ファミリア】もそれは承知しており、今回の遠征の障害とならないよう前もって全戦力で駆除しておいたはずのだが――
「団長が来るって言ったら来るんだよっ! 黙って備えなさいっ!」
フィンに
慌ただしく陣形を作っていく遠征隊。
あなたも強力な
だが、状況は考える間もなく進行していく。
ピキリ、と岩が割れる音を立てながら、地面にクモの巣状のヒビが広がっていく。
ヒビを押し広げるように地から生まれ出た怪物は――白骨だった。それも大きさはせいぜい3Mといったところだ。
「なんだよ、スパルトイじゃねぇか!」
拍子抜けしたようにベートが吐き捨てる。
しかし、リヴェリアが首を振りながらその言葉を否定した。
「いや、違う。スパルトイならば
リヴェリアの言う通り怪物が手に持ったサーベルは骨で出来ているようには見えない。
また、通常のスパルトイは全身の骨格を鎧のように隆起させているが、その様子は見られない。
――より正しく言うならば、全身は衣装に包まれていたため、顔と手足しか骨と確認できなかった。
あなたにはその姿に見覚えがあった。
綺羅びやかな刺繍が施された衣装を身にまとい、左手にサーベル、右手に深紅のカポーテを構えたその姿を。
その名は――魔人マタドール。
神様の知り合いは居ないけど、知り合いが神様だったりすることはある。
次回は5月中になんとか。