ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

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ギリギリ4月。


第12話 眷属はうさぎですか?

 【ロキ・ファミリア】の遠征隊は、あなたの最終到達点であった17階層をとうに越えて、深層へと迫っていた。

 中層までの間はロキ・ファミリアの抱える第二級冒険者達が中心となって障害の排除を行うことで主力メンバーの消耗を抑えるシフトで取り組んできた。その中であなたもこの遠征に混ざるだけのもの――少なくともロキの身びいきだけはないことは示し、受け入れられる空気を作ることに成功していた。

 深層に近づいてからは第一級冒険者である主力メンバーを中心として闘い、第二級冒険者達その援護をする形にシフトしていく。

 

 あなたはサポーター役として荷物を抱えながら、先を行く一級冒険者達に目を向けた。 

 全体の指揮をとっているのは小柄な金髪の少年――に見える42歳の小人族(パルゥム)、フィン・ディムナ。

 あなたがこうして遠征隊に混ざることが出来ているのも、【ロキ・ファミリア】の団長である彼が良しと判断したからである。

 ロキの推薦だからと盲目的に受け入れている訳ではなく、判断の裏付けとしてあなたがゴライアスを倒したという情報をギルド職員から入手しているあたり如才ない。

 ロキと再開した日も顔を合わせた彼や、副団長のリヴェリアは否定的な意見を出すことはなかった。

 話だけ出ていたドワーフのガレス・ランドロックに至っては

 

「実力不相応なら後悔するのは自身じゃからの」

 

 と、笑うだけだった。あなたがイメージした通りのドワーフである。

 遠征参加に関して、ファミリア幹部であるこの三人は特に問題はなかった。

 

 問題があったのはフィンの隣を歩く黒髪褐色の少女。アマゾネス姉妹の()()方の姉、ティオネ・ヒリュテだ。

 最初に顔を合わせた時――リヴェリアに呼び出され、『黄昏の館』(ロキ・ファミリアのホーム)であなたの紹介が行われた時――から、あなたを見る時の目には負の感情が混ざっている。

 直接会話を交わせたことはないが、あなたがカーリーを呼び込む要因として嫌われているようだ。

 遠征の参加にも強く反対をしてきたが、フィンに説き伏せられた。

 カーリーの所では相当に鬱屈する何かあったらしいが、それはまだあなたには知らされていない。

 

 反対にアマゾネス姉妹の妹、姉と同じく黒髪褐色だが()()方のティオナ・ヒリュテは当初は険のある目であなたを見てきたものの、姉のような感情までは抱いていないらしい。

 あなたがゴライアスを単独(ソロ)で倒したという話について目を輝かせて聞いてきた位だ。

 その際にあなたも姉の事情を尋ねてみたが、それは曖昧に濁された。

 当初睨まれていた事については、ロキとの再会時の騒動から女の敵だと思われていたらしい。全くもって冤罪である。

 

 遠征参加への打診が行われた際、特に強く反対をしてきたのはティオネの他にもう一人。

 あなたが視線を滑らせた先にいたのは、狼の耳と尻尾を持った狼人(ウェアウルフ)の青年、ベート・ローガ。

 事前に話を聞いていた通り『弱肉強食』(ヨスガ)の志向が強く出ており、ロキが贔屓しているようにしか見えない、いわば縁故枠のあなたなど認められないということだろう。

 ある意味で非常にわかりやすいとも言える。あなたが強くなって実力を認めさせれば良い。単純明快だ。

 それにロキの話では口が悪いだけで身内想いではあるし、悪すぎる子ではないのだという。

 『弱肉強食』(ヨスガ)の志向は冒険者には全般的に見られる傾向であり、ベートはそれが特に強い。

 だが、あなたが見る限りベートは強さの在り方に矜持(プライド)を持っており、()()()()()に強くなるタイプの人間だろう。

 むしろあなたが見ていて危うく感じた、そしてロキが心配していたのはそのベートが熱心に話しかけている長い金髪の少女――アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 

 彼女もまた貪欲に強さを求めている。ただ、その在り方はどことなく橘千晶(旧友)を彷彿とさせるものがある。性格は全く別物なのだが。

 力をつける為には手段を選ばぬ危うさからロキにはあなたの目線からもアイズを見ていてくれと頼まれている。

 もっともこういった遠征の機会でもなければ、レベルもファミリアも違う彼女と行動を共にするようなことはそうそうないはずだ。

 

 あなたは第一級冒険者たちから視線を戻し、ダンジョンの先の事に集中することにした。

 

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 あなたが【ロキ・ファミリア】と遠征へ出向いた後、あなたの主神(ヘスティア)はある決意をしていた。

 

「絶対に! 絶対にもうひとりは眷属を増やしてやるんだっ!」

 

 ヘスティアは、あなたに不満があるわけではない。いや、ふたつばかりあった。

 ひとつはロキとも共有している懸念。あなたが無茶をして心配させる点。そして、もうひとつはそのロキを含めたあなたの友神関係だ。彼女にとってあなたは初めての眷属(我が子)である。

 それがいきなり余所の神に取られたような感覚なのはよろしくない。それもよりによって相手がロキである。

 あなたを通じてヘスティアとロキの関係は多少改善されてはいるが、それでもよろしくないものはよろしくないのだ。

 

「次の眷属は絶対に他の神と関係がないまっさらな、ボクだけの眷属を見つけてやるんだ」

 

 また、処女神である彼女は姪のアテナ程とは言わずとも非常に嫉妬深い。

 

「今度は絶対他の奴には渡さないんだからな……」

 

 呟く女神の視線の先には、小さくて寂しそうな背中が映っていた。

 小柄な白髪の少年の行動を先程から見続けているが、【ファミリア】本拠地(ホーム)の門を叩いては門前払いにされている。

 彼ならば少なくともオラリオの神の紐付きではないだろう。

 そう当たりをつけたヘスティアは、何度めかの門前払いの後、とうとう道の隅で力なく座り込んでしまった少年に話しかけることにした。

 

「ねぇ、キミ。【ファミリア】に入りたいのかい?」

「えっ? そうだけど……君はっ……!?」

 

 顔を上げた少年は胡乱げにヘスティアを見上げようとして、その目の色と同じように少し顔を赤く染めた。

 座りこんでいた少年に話しかける為に、少し前傾姿勢となった女神は、図らずも己の魅力を十全に発揮する形となっていたからだ。

 そのことに気づかないヘスティアは少年の態度に首をかしげながらも話を進める。

 

「? ……ま、いいや。今の一部始終を見ていたんだけどね、ボクも【ファミリア】の勧誘をしている所なんだ」

「入りますっ! 入らせて下さいっ!」

「ええっ!? いいのかい? まだ細かい話をしていないっていうのに……っと」

 

 あまりの少年の食いつきの良さに、逆に本当にいいのかと聞き返してしまうヘスティアだったが、ひとつだけ絶対に聞いて置かなければならないことを思い出した。

 

「あっ、でも一つだけ聞いておくことがある」

「な、なんでしょう……?」

 

 真剣な顔で尋ねるヘスティアに少年はゴクリ、と生唾を飲みこむ。

 

「キミ、神様の知り合いは居るかい?」

「いっ、いませんよそんなっ! いたらそこの【ファミリア】に入れてもらってますって。あ、でも居ないと不合格ですか!? そうですよね、僕なんかじゃ……」

 

 女神の質問に少年は慌てて否定をするも、もしやと思い至った事柄に表情を暗くする。

 しかし、ヘスティアは望む回答を得られて満足していた。満点だ。

 がっくりと肩を落として落胆した少年の前に手を差し伸べる。

 

「おっと、勘違いするんじゃあないぜ。不合格だなんてとんでもない、合格だよ合格! ボクの所で良かったら来ておくれよ。 まあ、ボクの所はまだ団員1名の零細【ファミリア】なんだけどね……」

「問題ないです! 是非お願いします!」

 

 後半は自虐になってしまった中途半端な合格通知に、少年は女神の手を取って応えた。

 こうして、【ヘスティア・ファミリア】に新たな仲間が増えた。

 

「フフフ、これでボクの……ボクだけの眷属が出来る。絶対に離さないからね……」

「神様何かいいましたか?」

「なんでもないよっ。 じゃあ早速【ファミリア】入団の儀式をしに行こうか!」

「はいっ!」

 

 あなたの知らないうちに。

 

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 遠征隊は37階層の中心部へと到達していた。

 『白宮殿』(ホワイトパレス)の異名を持つ白濁色をした壁と巨大な迷宮構造。

 その中心部に存在する次層への階段も間近だ。

 この階層は中心部にたどり着くまで、5層の巨大な円壁を越える抜け道を探して幾度も階段を登り降りしながら迷宮を進んでいく必要がある。しかし既に正規ルートが確立されているためはぐれて迷ったり、どこかの誰かが端々までマッピングするなどと言い出さなければ問題にはなることは少ない。

 幸いにして今回は団体行動であり引率者(まとめ役)も優秀であったっため、はぐれる者もマッピングなどと言い出して時間がないと言い負かされる者も現れなかった。

 もっとも、例えマッピングが出来たとしても37階層だけでもオラリオに匹敵する広さの入り組んだ迷宮となっているため、果てしなく時間がかかる上に、正規ルートがある以上無意味という結果が大半で終わるだろうが。

 

 遠征隊がたどり着いたのは、37階層中心部にある『ルーム』。

 ほかのそれよりも一際大規模な『ルーム』である『玉座の間』には、それに見合うだけの大量の怪物(モンスター)が詰め込まれている。

 蜥蜴人(リザードマン)の上位種である『リザードマン・エリート』、黒曜石の体を持ち生来の魔法抵抗を持つ『オブシディアン・ソルジャー』、そして『バーバリアン』など人の体と同じ構造を持つ戦士系(ウォーリア)と言われる怪物が中心だ。

 白兵戦の特化型(スペシャリスト)が揃い、魔道士の鬼門と言われるこの階層だが、十分な準備を行ってきた【ロキ・ファミリア】の遠征隊の前衛はそれらの怪物を後衛に通すことなく殲滅していく。

 この『ルーム』の怪物を殲滅すれば、この階層は抜けたも同然だ。そしてさほど時間もかからず殲滅は成し遂げられた。

 

 サポーター達が倒した怪物の魔石やドロップアイテムを回収していく。今回の遠征ではあなたもその中の一人となっている……今のところは。

 作業を横目に『ルーム』の出口、次の階層への階段に向かって先を行くフィンが、唐突にその歩みを止めた。

 

「っ!!」

 

 周囲の団員が何事かと尋ねる前に、フィンは構えを取り声を上げる。

 

()()()()()()――来るぞっ! 皆散れっ、攻撃を分散させるぞっ」

 

 危機が迫っている時に親指がうずく――スキルとも魔法とも言えないただの勘としか言えないようなものだが、幾度も自身を救ったその予兆を彼は信じていた。

 そして、この37層で親指がうずくほどの危機を示す対象はひとつしか考えられない。

 『迷宮の孤王』(モンスターレックス)。ウダイオス。この階層に出現する白骨の怪物(スパルトイ)をそのまま巨大化させて上半身のみ地面から生やしたような漆黒の骸骨。

 姿を見せる上半身だけでも十Mに届こうという巨体。その下半身の骨は『ルーム』全域に張り巡らされ、地面のどこからでも骨で作られた逆杭(パイル)が射出されるという攻撃範囲の広さを見せる。

 上半身は上半身で直接攻撃を行ってくるため、下半身での逆杭(パイル)が連動されると非常に厄介な相手だ。

 ウダイオスを攻略する場合、大人数の攻略隊を用いて逆杭(パイル)攻撃の対象を分散させつつ本体を倒すのが攻略法(セオリー)となっている。もっとも攻略隊を編成できるファミリアは一握りしか存在しないのだが。

 

「それって階層主(ウダイオス)!? まだ3ヶ月経ってないでしょ!?」

 

 フィンの指示に従いつつも、ティオナが疑問の声を上げる。

 ウダイオスに限らず『迷宮の孤王』(モンスターレックス)は一定周期の次産間隔(インターバル)が存在する。

 【ロキ・ファミリア】もそれは承知しており、今回の遠征の障害とならないよう前もって全戦力で駆除しておいたはずのだが――

 

「団長が来るって言ったら来るんだよっ! 黙って備えなさいっ!」

 

 フィンに大恋慕中(ぞっこん)のティオネは団長の言葉が全てと妹を嗜めた。

 

 慌ただしく陣形を作っていく遠征隊。

 あなたも強力な魔力(マガツヒ)が地面に集まっていくのを感じる。その魔力にあなたは少し引っかかるものを覚えた。

 だが、状況は考える間もなく進行していく。

 

 ピキリ、と岩が割れる音を立てながら、地面にクモの巣状のヒビが広がっていく。

 ヒビを押し広げるように地から生まれ出た怪物は――白骨だった。それも大きさはせいぜい3Mといったところだ。

 

「なんだよ、スパルトイじゃねぇか!」

 

 拍子抜けしたようにベートが吐き捨てる。

 しかし、リヴェリアが首を振りながらその言葉を否定した。

 

「いや、違う。スパルトイならば生体(骨の)武器を持って出てくるはずだ。奴の武器は骨には見えない。その上――」

 

 リヴェリアの言う通り怪物が手に持ったサーベルは骨で出来ているようには見えない。

 また、通常のスパルトイは全身の骨格を鎧のように隆起させているが、その様子は見られない。

 ――より正しく言うならば、全身は衣装に包まれていたため、顔と手足しか骨と確認できなかった。

 

 あなたにはその姿に見覚えがあった。

 

 綺羅びやかな刺繍が施された衣装を身にまとい、左手にサーベル、右手に深紅のカポーテを構えたその姿を。

 

 その名は――魔人マタドール。

 




神様の知り合いは居ないけど、知り合いが神様だったりすることはある。
次回は5月中になんとか。
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