ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

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なんとかなりませんでした。


第13話 マタドールズフロントライン

 あなたが人として生まれ育った世界の闘牛において、闘牛士(マタドール)が片手に持つ赤い布としてイメージされるものはムレータ*1と呼ばれている。

 カポーテとは闘牛士(マタドール)が闘牛開始時に扱う、表地がピンク、裏地が黄色の襟付きマントを指す。闘牛士(マタドール)が両手でカポーテを振るい牛と()()ことで牛の性格や癖などを見抜き、後のムレータと刺突剣(エストック)を用いた一般的に連想される闘牛へと繋げるのである。

 そう、本来カポーテは()()()()()()()()。ではなぜ目の前の魔人マタドールが持つソレがカポーテと呼ばれているのか。*2

 3M近い体躯を持つ魔人は、人間が両手で扱うカポーテを軽々と片手で振るいムレータの如く扱う。元々ピンクと黄色で彩られたカポーテは返り血で赤く染まり、その血は乾くことなく鮮やかな色を見せている。マタドールの赤のカポーテは鮮血の赤なのだ。

 そしてまた、カポーテは本来の役目も果たす――マタドールの闘いの始まりの合図として。

 マタドールが片手で扱っているソレは、まさにカポーテでありムレータなのである。

 

 魔人が現れた時、その周囲を囲んだのは【ロキ・ファミリア】の一級冒険者達だ。あなたはその中に含まれていない。

 フィン達が階層主(ウダイオス)の出現を想定していたため、逆杭(パイル)攻撃の分散を担う二級冒険者の一隊に組み込まれていたのだ。

 ただ、その魔力(マガツヒ)に既視感を覚えたあなたは、なるべく近付くつもりでいた。それでもマタドールの初動に対処するには遠い距離だった。

 故にあなたは警告を発する。マタドールの機先を制するために。それからもうひとつ、致命的な事態を防ぐために。

 

 マタドールに赤いカポーテを振るわせてはいけない。

 奴に衝撃()属性は通用しない。

 

 結果から言えばあなたの目論見は半ば成功し、半ば失敗に終わる。

 

【目覚めよ】(テンペスト)

 

 あなたの言葉は一級冒険者にも確かに届き、警戒を促すことは出来た。

 

 ただ、あなたの二つ目の警告と――

 

「【エアリエル】」

 

 アイズの全力(【エアリエル】)が同時だっただけである。

 【エアリエル】の魔法により風を纏ったアイズが、疾風となってマタドールに斬り掛かる。

 それは、通常の相手だったならば機先を制するのに最善の手段だっただろう。

 しかし、マタドールの間合いに入った途端に彼女を支えていた風は唐突に力を失った。

 マタドールは剣撃をそのままサーベルで受け止める。

 

『やれ、口上を披露する暇も与えぬとは無粋な連中よ』

 

 アイズの顔に驚愕の色が浮かぶ。それは【エアリエル】が無力化されたからではない。あなたの二つ目の警告がギリギリ届いたことで可能性の一つとして予想されていたからだ。

 

「言葉をっ!?」

 

 しかし、怪物(モンスター)人間(ヒト)の言葉を解すなど、その知恵があるなどとは想定の範囲外だった。

 驚きにほんの微かにアイズの圧が緩む。それでも致命的な隙まで至らないのは流石一級冒険者と言えよう。

 ただ、目の前の髑髏の闘士(マタドール)には、それで十分だった。

 

『貴公も中々の腕だが、最強の剣士には届かない』

 

 気を入れ直すアイズを嘲笑うかのように鍔迫り合いとなった剣を引き、軸を外すことでアイズの力の行き先を逸らす。

 体勢を崩したアイズを待つのは、血と喝采の中で数多の命を絶ってきたその剣――

 

「ざっけんじゃねぇぞ! オラァッ!」

 

 剣を突き入れんとしたマタドールに対し、ベートが罵声を浴びせながら蹴りを繰り出した。

 マタドールは猛牛をあしらうようにヒラリとカポーテを翻してベートをいなす。その間にアイズは体勢を整えている。

 

『全く……(せわ)しいことだ』

 

 僅かな間の攻防を制したマタドールは、自身を囲む【ロキ・ファミリア】を挑発するようにカポーテを振るう。

 

 【赤のカポーテ】

 

 カポーテを振るう度に、マタドールの動きは速く、鋭くなっていく。【赤のカポーテ】は闘牛の始まりを告げる合図であるとともに、マタドールが戦闘開始時に*3行う自己強化の儀式なのである。

 攻撃の応酬が始まった時から――正しくは一級冒険者達に2つの警告を発した直後から、あなたはマガタマを切り替える事に精神を集中していた。

 精神を集中している間は、僅かな間だが無防備な状態となる。その為戦闘中、それもマタドールのような相手を前にしての切り替え(ソレ)は無謀ともいえる。だがマタドールの初動に届かなかった距離が今度はあなたの利となった。

 更にマタドールを囲むようにして闘う一級冒険者、あなたと共に居る二級冒険者、あなたは彼ら【ロキ・ファミリア(ロキの子供達)】の実力を信じて自身の隙を生み出す時間を受け入れた。

 傍目には一級冒険者の方を向いて微動だにしないあなたは高速で行われる戦闘に見入っているようにも見えただろう。だが、それを注意をするものなどいない。他の誰もが戦闘の動向に注目し、あなたの事に注意を払ってはいなかったのだから。

 

 呼び起こすマガタマは火風水(ヒフミ)。火と水を結ぶ風の力の象徴。マタドールに衝撃()属性は通用しない。それは事実であるが、逆もまた然りなのだ。

 目論見通りマガタマの切り替えを終えたあなたはベルトポーチ――を通じた異空間(ストック)――へと手を伸ばす。

 取り出したのはマタドールに対する切り札のひとつ、投げつけることで対象の補助効果(加護)の一切を剥ぎ取るデカジャの石。アイテムであるがゆえに数に限りがあり、補充の目処も立たない為貴重な品ではある。

 当然ながらロキの子供達の命がかかっているのだ、使い惜しみをする気はない。だが、補助効果(加護)を剥ぎ取った所でマタドールが【赤のカポーテ】を使い直せば元の木阿弥なのだ、タイミングは慎重に選ばなくてはいけない。

 あなたはタイミングと距離を測りながら、じりじりと戦闘の中心へと距離を詰めていく。

 一方、その戦闘の中心では――

 

『貴公らもヒトとしてはそれなりなのだろう。だが私と出会ったのが不幸、いや最高の戦士に出会えた僥倖と思うが良い』

「きゃっ」

「なっ、この骸骨魔法までっ!?」

 

 言葉と共にマタドールがカポーテを振るうと、烈風(マハザン)が周囲の一級冒険者達を襲い、その動きを留める。

 その影響を無視して動いたのは、二人。

 

「効かないっ!」

「舐めんなぁっ!」

 

 衝撃無効(風の加護)を受けたアイズはマタドールの風もまた障害足り得ぬと確信して突進した。

 ベートは自身に向かう風の刃を蹴り抜ぬくことで、その足に輝くミスリルブーツ【フロスヴィルト】の効果(魔法吸収)を発動させる。

 だが、その前にマタドールは滑るようにティオネとティオナの間を抜けていた。

 

「くっ、速っ」

「抜けられるっ」

 

 相手に近付くということは、同時に相手の手が届く距離も近付くということはあなたも十分に承知している。

 ――していたつもりだった。決してあなたは油断していたわけではない。マタドールとは東京受胎の折に死闘の末に辛勝した強敵なのだ、油断できるはずもない。

 ただ相手があなたが識るよりも速く、相手もあなたの事を識っていた。それだけだ。

 マタドールが目指していたのは、あなただった。マタドールはあなたの出来ることを、識っていた。

 

『無粋な真似をいつまでも見逃しはせんぞ、人修羅』   

 

 一瞬の後にはマタドールはあなたの目の前に居た。

 即時の判断であなたは地面を蹴り、後方に倒れるように跳びながらデカジャの石をマタドールに投げつけようとする。

 ポトリ、と音を立ててデカジャの石は地面に転がり落ちた、握っていたあなたの左腕ごと。

 もし、その場で対処をしようとしていたならば首を落とされていただろう。あなたがいかに悪魔といえど首を落とされれば死ぬ。腕を落とされたのは欲を出しすぎた代償か。

 その上あなたの咄嗟の回避は一時凌ぎにしか過ぎない、更に追撃を受ければトドメを刺されるのは間違いない。

 だが、追撃は来ない。あなたはそう予測していた。

 

「――妖精の射手。穿(うが)て、必中の矢】」

 

 跳ぶ直前のあなたの視界の端に、後衛の陣で詠唱を完成させる魔導師の姿が映っていたからだ。

 

「【アルクス・レイ】!!」

『ちっ、だがこの程度っ』

 

 魔導師――レフィーヤ・ウィリディスという名のエルフの少女――の放った光線がマタドールを襲う。 

 流石のマタドールも追撃の手を緩めて回避せざるを得ない。

 マタドールは速度増強効果(赤のカポーテ)に裏打ちされた素早さで光線を躱す。

 だが、LV3にして【ロキ・ファミリア】の主力として期待されている少女の魔法は、それだけでは終わらない。

 マタドールがやり過ごした光線は軌道を変えて、再びマタドールを襲った。

 何度躱しても光線は軌道を変えてマタドールを襲い、マタドールもまたそれを躱す。

 

「こんな時に言うのもなんだけど綺麗……」

 

 骸骨という事を除けば綺羅びやかな衣装を身にまとったマタドールが目まぐるしく光線と踊る様は幻想的とも言えた。

 しかし、舞踏の時間はひとまずの終幕を迎える。何度も光線を躱すマタドールの素早さも反則だが、絶対命中の光線はそれ以上だった。

 

『なにっ、くっ……躱しきれっ……ぐぅっ!』

 

 光線がマタドールに突き刺さり、マタドールの体が揺らぐ。それと同時にマタドールの側で光が弾けた。

 マタドールが踊っている間に、剣を一旦手放して手を空けたあなたが、二つ目のデカジャの石を取り出して投擲していたのだ。

 

『おのれっ、人修羅ぁぁぁっ』

 

 【赤のカポーテ】による補助効果の一切を剥がれたマタドールが呻く。

 しかし無粋な真似とは一体なんのことだろうか。事前情報(ネタバレ)など戦略の一つだし、バフ対策(デカジャ)もそうだ。

 マタドールがその対策を潰しにくるのも当然の戦略であり、腕を落とされたのはマタドールの速さを見誤っていたあなたがうかつなだけだ。そこに粋も無粋もない。

 欲を言えばこちらも速度向上(スクカジャ)で対抗しておきたかった所だが、あなた自身はまだバフ効果(カジャ系)魔法を使えないし、マタドールの出現も予見出来ていなかったため【ロキ・ファミリア】との摺り合せも出来ておらず、出来る立場でもなかった。

 大体闘牛士(マタドール)ならばおあつらえ向きにこの階層(37F)に存在する『闘技場(コロシアム)』にでも出ていればよいのだ、最初から近づかないから。

 ――過ぎたことを嘆いても仕方がない。今できる最善の行動を取るのみである。

 そして、マタドールが光線と踊っている間に動いていたのはあなただけではない。僅かな時間ではあったがその間に風の加護を受けた、風の力を吸収したブーツを履いた、二人の冒険者が追いついていた。

 

「今度こそっ!」

『無駄なあがきとなぜ理解できぬかっ』

「いい加減沈んどけやっ! クソ骸骨がぁっ!」

 

 アイズの風の加護は、マタドールの前では力を発揮できない(相殺される)。だがそれはマタドールも同じであり、純粋な剣技と身体能力での競り合いとなる。力も技もマタドールが上回っていたが、アイズには先程のような驚きによる隙はない。

 ベートの【フロスヴィルト】も吸収している衝撃()属性の特性は失われているが、それでも無視できない破壊力の蹴りを生み出す。

 二人がかりならば、そして更に時間をかければ当然――

 

「よくも団長を傷つけてくれたなオラァッ!」

「あーもうっ、この骸骨嫌いっ!」

「動きが鈍った今のうちに仕留めるぞっ」

 

 残りの一級冒険者たちも追いついてくる。

 形勢は遠征隊に傾いていた。

 

『なかなかやるな。だが今度は貴公らに私と踊ってもらおう』

 

 ――僅かな隙をついて、マタドールが再び【赤のカポーテ】を振るうまでは。

 

『【血のアンダルシア】』

 

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 【ヘスティア・ファミリア】の記念すべき二人目*4である白髪赤目の少年――ベル・クラネルは本拠地である廃教会の前を箒で掃いていた。

 ダンジョン探索は、本日は休養日だ。それでも何もしないのは落ち着かずファミリアの為になにかしようと考えた結果、ひとまず掃除をすることにした。

 そこにふらっと赤毛の女性が現れて、声をかけてくる。

 

「おーっす、ベル坊。精が出とるなー」

「こんにちは、ロキ様。神様ならまだバイトから帰ってきてませんけど」

 

 ベルは声をかけてきた女性――女神ロキとは見知った仲である。主神であるヘスティアと契約した日も偶然出会って、軽くだが紹介された。

 

「神様とロキ様は仲が良いんですねー」

 

 ニコニコと笑うベルに、ロキは渋い顔を返す。

 

「うーん……どうやろなぁ。ウチは愛しい(ヒト)が仲良うしろっちゅうから仕方なく仲良うしてもええんやけどな」

「ええっ、愛しい(ヒト)がってどういうことですか!?」

 

 初対面の時は本当に軽く紹介されただけなので、ベルはヘスティアとロキの関係について詳しくは知らない。なのでロキの発言について、聞き返してしまった。

 

「うん? ヘスティアから聞いとらんの?」

「はい……」

「そっかー、ならしゃあないなー。じゃあシンの事から色々と教えなアカンなー」

 

 ウキウキで話しかけてくるロキに、ベルの第六感が危険を告げる。

 

「外じゃあなんだし、ちょっと地下室(した)で話そか」

「あっ、すみません。神様から他所の神様と狭い所で二人きりになるなって言われていまして」

 

 ベルは予感にしたがって神様(ヘスティア)から強く注意されていた事を盾に危険から身を離そうとした。

 

「おー、そこんとこちゃんと注意しとるんやな。感心感心。ウチはともかく他所の神には気に入ったら他神(ヒト)眷属()でも平気で奪う危ない奴もおるさかいなー」

「そ、そうなんですかー、じゃあそういう訳なので……」

「でもウチは平気平気。可愛い女の子ならともかく今更他所から男の子なんて盗らんわ。さ、行こか」

 

 しかしロキに強引に背を押され、教会の隠し部屋に連れ込まれてしまう。

 そして日が暮れてご機嫌で帰還したヘスティアが柳眉を逆立てるまで、延々とロキに惚気話を聞かされる羽目となる。

 ベルはまだ顔も知らないあなたについて、無駄に詳しくなった。

*1
Muleta。赤い色で興奮するのは牛ではなく観客である。

*2
近作では「赤のカポーテ」は使用されず、真・女神転生IMAGINEでは特徴「ムレータ」に変更された。

*3
戦闘中も

*4
あなたはまだ知らない




マタドールは原作よりも強い。

レベルの概念はTRPG畑の人なら
神の恩恵なし:愚者
下級冒険者 :異能者
第二級冒険者:覚醒者
第一級冒険者:超人
オッタル  :超越者
と書いたらイメージしやすいかも?
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