ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

2 / 13
第2話 人修羅の主神と仲魔が修羅場すぎる

 翌日、あなたとヘスティアは西の通りで飲食店を物色していた。

 あなたの持つ魔石が上手い具合に換金出来たので、せめてもの礼に食事をご馳走することにしたのだ。

 ヘスティア自身はそんなつもりで勧誘したのではないと再度固辞したが、結局はあなたの礼を受け入れた。

 受け入れてしまえばヘスティアも上機嫌で、何が食べられるのかなーと弾む足取りをしている。

 逆にあなたは少し困っていた。ヘスティアに何が食べたいのか、と聞いたところ

 

「奢られる側の僕が注文つけられないよ。ゲテモノじゃなければなんでも有難く頂くよ!」

 

 との返事が返ってきたのである。

 そもそもがこの街以前に世界に不案内なあなたである、なにがゲテモノ判定になるのかも判らない。

 昨夜頂いたジャガ丸くん(コロッケ)を考える限り基本的なセンスは離れていないと考えてもいいのだろうか──。

 あなたがそんな事を考えながら辺りを見回していると、ふと周囲よりも一際大きい建物が目に付いた。

 呼び込みや入る客を見るに普通の食事も提供する大衆酒場のような所なのだろう、人気もあるようだ。

 アレならば問題あるまいとあなたは一人頷き、ヘスティアを連れてその建物へと向かった。

 

 あなたが考えた通り、酒場は繁盛しているようだった。

 混雑の中でも目まぐるしく店員達が動いて客を捌いている。

 店員が全て女性なのも人気の一因だろうか。

 そんな事を分析しているとさほど間をおかずにあなた達にも店員が対応にやってきた。

 エプロンドレス(可愛らしい制服)に身を包み、猫の耳を生やしたネコマタらしき店員に席を案内されて腰を落ち着ける。

 メニューを渡されたがあなたはそれを一瞥するに留めて、店員に人気のメニューやオススメを聞き出してそれを注文した。

 慣れない人間があれこれ考えるよりも定番を出してもらうのが一番だ。──決してメニューの文字が読めなかったからではない。そんな事は魔石の換金時にわかっていたことだ。

 あなたは半人半魔である身の為か、異国出身の悪魔とすらも言葉を交わせる。だがそれで文字が読めるようになったわけではないのだ。

 深く考えた事はないが、恐らくは会話にマガツヒが混ざる事で思念を交わす(テレパシーの)ような状態となっているのだろう。

 そのため文字や機械に記録された音声や動画などは日本語でなければ判別できないと思われる。

 読み書きについては後々ヘスティアに教わっていく必要があるかもしれない、そう考えてあなたはそっとため息をついた。

 悪魔でも勉強は必要なのである。

 そんなあなたの気はしらず、ヘスティアは運ばれてきた料理に嬉しそうに手を付け始めた。

 

「こんな豪勢な夕飯は久しぶりだっ、さぁシン君。冷めないうちに食べよう……ってどうしたんだい?」

 

 怪訝そうにあなたを伺う女神になんでもないと手を振りながら、フォークを手に取る。

 幸いな事に食器はかつてと大きく変わらないようだ。

 おそらくパスタであろう料理をフォークで巻き取り、口に運ぼうとしたその時、店員が案内する声が微かに聞こえた。

 

「ご予約のロキ・ファミリアご一行様ご案内ー」

 

 聞こえた『ロキ』という名に手を止めて声の方に目を向ける。

 あなたにとってロキは懐かしいどころか先日──ルシファーとの決戦まで仲魔だった存在だ。

 銀座のバーで酔いつぶれている所に出会い、その後紆余曲折あって仲魔となった魔王ロキ。

 案内をされているロキ・ファミリアの神が彼女と同じ存在かはわからないし、たとえ元が同一であったとしてもあなたを『覚えている』とは限らない。

 それでもあなたは、お調子者(トリックスター)な赤毛の姿を探していた。

 

「うん? 手を止めてどうしたんだい? ……げっ、ロキっ!」

 

 ヘスティアはそんなあなたの様子に気付き、あなたが見ているほうへ視線を送って天敵の姿を発見して呻き声をあげる。

 当の天敵──あなたの良く知る姿のロキはその呻き声に反応してヘスティアの方へ振り返る。

 

「なんや? ……ドチビやないかい! ここがウチの贔屓と知って来──」

 

 即座にヘスティアの顔を見つけ悪態をつくが、ヘスティアの同行者に気付いて視線を横に滑らせた際にあなたと目が合い、そのまま凍結(FREEZE)した。

 仲魔達に見放されていたと思っていたあなたもバツの悪い思いをしながら軽く片手をあげて挨拶をするが、反応はない。

 ロキの連れ達も様子のおかしい主神を訝しげに見つめた。

 酒場という喧騒のなかで発生した束の間の静寂。

 ヘスティアが首を傾げてあなたに質問を投げかける。

 

「一体どうしたっていうんだよ、シン君。ロキを知ってるのかい?」

 

 シン君。ヘスティアがそうあなたの名前を紡いだ途端、糸のように細いロキの両目から涙がポロポロと零れ出す。

 口論で言い負けて涙目で退散する姿は良く見るものの、ここまでのガチ泣きはヘスティアも、ロキの眷属達も、そしてあなたも見たことがなかった。

 呆気に取られて見つめるばかりの眷属達を横目に、涙を拭こうともせずロキは駆け出してあなたの腹にタックルをかます。──人によってはあなたの胸に飛び込んだと形容されるかもしれない。

 そのままロキはあなたの胴に腕を回して縋り付くと人目も憚らず泣き始めた。

 

「うわぁん! シン! シン! 生きてたんかっ! うわぁぁぁん!」

 

 泣き続けるロキの、あなたの腹に押し付けられている頭を優しく撫でてやる。

 しばらくするとロキは鼻をグスグスと言わせながらもなんとか泣き止み頭を上げた。

 

「ほんまに……ほんまにシンなんやなぁ……もう、もうずっと会えないんやないかと思うとったわ」

 

 なにを大げさな、と呆れるあなたを涙目のロキが睨め付ける。

 

「大げさなことあるかい! あれからどんだけ経ったと思っとんねん! 生きてたんならもっと早う顔ださんかい!」

 

 あなたに縋りついたまま喚くロキにとそれを宥めるあなた。それ以外の者はヘスティアも、ロキの眷属も、店員や他の客もただ呆気にとられてあなた達に注目を集めるばかりだ。

 その中でいち早く我に返ったのはヘスティアだった。

 

「コ、コラーッ! ロキ! シン君に馴れ馴れしくしがみ付くんじゃない! シン君はうちの子なんだぞ!」

 

 あなた達の様子を見ればどう考えても知り合いだが、そんな事は知ったことではないとばかりにロキに言葉を叩きつける。

 言われたロキは目を見開いてあなたを見上げた。

 

「マ、マジで?」

 

 ヘスティア・ファミリアに所属する事になったのは事実である。

 その時はまさかロキがこの街にいて、ヘスティアとロキが犬猿の仲だとは思いもしなかったのだ。

 いや、この時点でもまだヘスティアとロキの確執については量りきれて居ない。

 だからあなたは見上げるロキにそのまま肯定を返してしまった。

 見る見るロキの眼から涙が溢れ出す。

 

「うわぁん! シンのアホー! 浮気者ー! 他の連中ならともかくなんでよりによってこのドチビの所に入るんや! ウチはシンが居なくなった後に人肌が恋しくなっても、他の男は作らんと女の子に奔ったっちゅうのに!」

 

 最後の言葉を言い換えれば、同性ならノーカン。

 ロキの言葉に最も衝撃を受けたのはロキの眷属達である。女好きを公言して眷属に美女や美少女を集め、セクハラ三昧。

 その割には男も眷属に迎え入れる為、男嫌いという訳ではない。だが、何処となく一線を引いていた。

 そういった諸々の態度の理由が判明したのだ。

 大部分の女子は呆れると同時に、その一途なロキの想いに胸を打たれた。

 同時にあなたに対して冷視線が集まる。そこまで想われているロキを放って何をやっていたのかと。

 

 あなたが今この場に居るのは偶然でしかなく、ロキがこの街に居るのも知らなかった。

 だが、ロキがこの街に居るのを知っていたならば。

 ロキがかつて仲魔であった頃と同じ気持ちを留めてくれたのを知っていたとすれば──それでもロキのファミリアに入るという選択は取らない可能性が高かった。

 

 簡単な話だ。ロキがいるというのならば他の仲魔が居る可能性も可能性が高い。

 そして男女の関係にあった仲魔はロキだけではないのだ。

 だとすればロキだけを選ぶ事は逆に諍いの種となりかねない。

 ──本当に最低な言い訳だ。

 あなたが他の仲魔についてロキに尋ねると、ロキはあなたにしがみ付いたままボソリと答えた。

 

「……おるよ。せやけどオラリオにおる女神はウチだけや。男連中には後で話を通しておくからそれでええやろ?」

 

 微妙に含みを持った言葉だ。オラリオ以外の外の国には居るのかと重ねて追求したほうがよいだろう。

 ロキは諦めたように溜息をついて答えた。

 

「はぁ……しばらくシンを独占出来る思うたんやけどな。外の国にもおるけど……ちょっと今この場では言われへん」

 

 ふむ、とあなたは腕組みをして周囲を見渡す。

 先ほどからの修羅場により相当な衆目を集めてしまっている。

 たしかに込み入った話をするには場を改めた方が良いだろう。

 あなたが手を出した──というよりも出された──女神にはラクシュミやパールヴァディ、リリス、ニュクスといった人妻属性も多い。当時の仲魔達は男女の関係(そういった方面)には非常に奔放だったのだ。

 今現在の彼女らの考えもわからない以上、不用意に名を挙げるのは良くない。

 ロキにわかったと頷き、あなたは手が止まっていた食事を再開しようとするが、ロキがあなたの胴に腕を回したまま離れない為非常に邪魔だった。

 そしてあなたの隣に座っていたヘスティアは、顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。

 あなたはヘスティアに向かい、周囲の野次馬にも伝わるよるように少々声を張り上げて詳しい説明は後で場所を変えて行うと宣言する。

 言外にここで論争はしないし野次馬は散れという意味を込めたのだが、ヘスティアは不満顔ではあるが思ったより素直に頷いてくれた。

 ただ、ひとつだけ条件を加えた。

 

「……むぅ、わかったよ。シン君がそこまでいうなら後でちゃんと聞かせてもらうから、今は黙っておくよ。……ただし! ロキは今すぐシン君から離れろ!」

「ハッ、嫌に決まっとるやろうが! ……あたっ。もうっ! 久々の再会やのにいけず! しゃあないから今は退いたるけど飯が終わったら連行やからな!」

 

 ロキはヘスティアの提案を即座に却下するが、あなたに額を小突かれて不承不承あなたから離れて引き下がった。捨て台詞を残して。

 ヘスティアもやっと面倒な奴が居なくなったと嘆息すると、あなたを睨みあげる。

 

「さっきも言ったとおり今は追及しないけど……ちゃんと話は聞かせてもらうんだからね!」

 

 ヘスティアはそれだけを言い放つとフンと鼻を鳴らして食事を再開した。

 




神々の設定はダンまちをベースに真・女神転生Ⅲと神話を混ぜ合わせた感じ。
2018/2/1時点でダンまちに名前のみ登場、未登場の神はほぼオリキャラ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。