ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

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第3話 神の名は。

「さて、積もる話を諸々する前に、色々ケリをつけておこか」

 

 普段のおちゃらけた様子が鳴りを潜めた、真面目な表情でロキが切り出した。

 ロキ・ファミリアの拠点のロキの私室。そこにロキとその眷属らしき1組の男女。そしてヘスティアとあなたが集まり各々座り込んでいた。

 

「まず全員に話す前にこの2人にはある程度聞いて貰っとこ思てな。こっちがロキ・ファミリアの団長、フィンや。小人族(パルゥム)やからヒトの常識で判断しちゃあかんで」

 

 ロキに示されて眷族の男の方、小柄な少年が悠然と立ち上がって一礼する。ロキの紹介通り、少年のような見た目にはそぐわぬ落ち着いた物腰を感じる。あなたが昔見たファンタジー映画に出てきた、ホビットに近い種族なのだろう。

 

「それから副団長のリヴェリア。こっちはエルフや。この2人と今ここには居ないドワーフのガレスがウチの古参や」

 

 眷属の女の方が一礼する。長く尖った耳からみて、やはりあなたの知っているエルフに近い種族なのだろう。ならばフィン同様に若い見た目とそぐわぬ実年齢か。決して直接年齢を尋ねる様な真似はしないが。

 

「今更ドチビの紹介はいらんな。じゃあ最後にシンやな。ウチのイイヒトや。以上!」

「それでは何も紹介していないに等しいではないか。もっと詳細な情報を求む」

「……流石に誤魔化されてくれんか。すまんけどシンの事を何もかも話すわけにはいかん。だから話せる事だけ話すわ。──まずウチとシンとはロキ・ファミリア結成前からの知り合いや。そしてウチの他にも色々な神との交流がある」

 

 すかさず突っ込みを入れたリヴェリアに対して悪びれもせずに答えるロキ。ココの事情に明るくないあなたとしても、紹介する内容はロキに任せた方が良いだろう。余計な事を言わない前提での話だが。

 

「オラリオに居る神でいえばウチの他にはディオニュソス、ガネーシャ、タケミカヅチってとこか。他にも外にいくらか居るな……先に話しておきたかったのはこっちや」

 

 オラリオに居る神の名前はあなたに説明する為でもあったのだろう。過去の仲魔のうち、名を挙げられた3体は近くにいるということだ。

 

「そもそもシンと離れたんも意図したことやのうてな、まだ執着しとる奴もいくらかおる。執着の仕方も様々やけど、ちょっとアカンのがおるんや。……カーリーとかな」

 

 カーリー。ロキがその名を挙げた途端、フィンとリヴェリアの表情が固まった。

 地母神カーリー、あなたの記憶では燃えるような紅髪と褐色で痩せぎすの幼い身体、白い仮面で素顔を覆い隠した照れ屋の女神である。一見すれば幼女に見えるが、シヴァを夫に持つ立派な人妻だ。だから関係を持っていても問題ない。ノーギルティ。

 戦闘面では強烈な多重攻撃(デスバウンド)を主体とした物理前衛型の殺戮の女神ではあるが、性格にそこまで問題ある仲魔ではなかったはずなのだが──

 

「……なるほど。我らが前もって呼ばれているわけだ」

 

 リヴェリアは得心したとばかりに頷く。

 カーリーに何か問題があるのだろうか。あなたが尋ねるとロキが浮かない顔で答える。

 

「あの病み方だとシンの話を耳に入れたらすっ飛んで来るのは間違いないと思うわ。その理由が愛しに来るか殺しに来るか……っちゅうのも問題なんやけど、ウチにも今のカーリーがどっちに転んだのかはわからん。それだけでなくウチの子に元々カーリーんとこにいた子がおってな……」

「──移籍自体にトラブルはなかったと聞いている。ただティオナはともかくティオネの方がな……」

 

 リヴェリアがロキの話を補足した。ティオナとティオネはロキ・ファミリアに所属するアマゾネスの姉妹だそうだ。

 ──アマゾネスとはカーリー同様に褐色の肌と高い戦闘能力を持った、女性しか存在しない種族。他の種族とも交配が出来るがその子供はアマゾネスしか生まれず、カーリーはそのアマゾネスのみを眷属としてファミリアを構成しているのだと後々ロキに説明された。

 

「カーリー達はテルスキュラで好きにやっとるから、シンがオラリオで目立ったところでそうそう噂が届くとは思わんのやけど……もしウチが関わっていながら隠していたのがバレたら絶対怨まれる奴でなぁ」

 

 ロキが頭を抱えながら呻く。あなたの所在を伝えればカーリーはすぐにやって来るだろう。逆にあなたの事を伝えぬままならカーリーの襲来は遠のく、その代わりに発覚した時が怖い。そして出来ればアマゾネスの姉妹の為にはカーリーには来て欲しくない。というジレンマをロキは抱えていた。

 

「どちらかは選択しなければならないでしょうが、それならば当の2人に意見を求めた方が良いのでは? 結局カーリー神が近くに来るのならば心の準備も必要でしょう」

「私の意見を出しておくなら、伝えておいた方がまだ()()だな。伝えずに隠していた事が露見した場合、ほぼ確実に敵に回すと考えて良いのだろう? ロキの言う通りカーリーが彼に執着しているというのならば、遅かれ早かれオラリオにやってくるのは間違いない。いつやって来るのかわからず不意をつかれるよりは、時期が早まろうと対処のタイミングが図れる方がよかろう。それに伝えた場合は敵対するとは限らぬわけだしな」

 

 団員を思いやったフィンの意見と、忌憚のないリヴェリアの意見。どちらももっともな内容だ。

 そう考えたのはロキも同じだったようで、ロキもうんうんと頷いた。

 

「ま、確かにそうやな。じゃあ伝える方向で考えはするけど、ティオネとティオナにはフィン達で意見を聞いといてや」

「わかりました」

「全く、仕方のない神だ」

 

 そのまま2人に丸投げしたロキに対し、フィンは苦笑しながらも頷き、リヴェリアは呆れ顔を隠そうともしなかった。

 ロキの話はそれだけでは終わらない。

 

「シンの話はまだあってな。そういった付き合いがある事から大体察しもつくと思うけど、ウチのイイヒトちゅうのは抜きでも特別でなぁ……シンはダンジョンに潜るつもりなんやろ?」

 

 何かを諦めたようなロキの問いかけにあなたは当然そのつもりだと答えた。

 すると突然ヘスティア横から口を挟む。

 

「あ、そうだ! シン君ってば神の恩恵を受けずにダンジョンに潜るなんて言い出してるんだよ! ロキからも何か言ってやってくれよ」

 

 ヘスティアの叫んだ内容に、フィンとリヴェリアは目を丸くして驚き、ロキは再び頭を抱える。

 

「……こんのドアホォ、言うタイミングを考えろや。その話はウチの子らが居る場では話せん。理由はわかっとるやろ?」

 

 睨み付けるロキの指摘にヘスティアがあっと蒼褪めた。

 神々の間で色々と事情があるのだろうが、あなたにはその事情がまだ理解できないでいた。

 驚きから立ち直ったリヴェリアが、神々やあなたの様子をみて嘆息する。

 

「やれやれ……今の話は聞かなかった事にすれば良いのだろう? 彼が色々と()()なのはわかったがな」

「堪忍なぁ、フィンもそういうことで頼むで」

 

 リヴェリアの言葉にロキは拝むようにして答え、フィンにも頼み込む。

 

「わかりましたよ。見返りは欲しい所ですがね」

 

 フィンは肩を竦めて肯定を返した、少しだけ要望を出すのを忘れずに。

 特別に何かを頼むなら当然の要求だろう。ただより高いものなどないのだ。

 もちろん対価を要求しておきながら、契約を守らない者には──あなたの経験上そんな悪魔も多かった──報いが与えられるが。

 

「わかっとるよ、リヴェリアもなんかあるか?」

「そうだな……私は後で要求させてもらおう。なに、そんなに法外な要求はせんよ」

 

 ロキは呻きながらフィンに返しリヴェリアにも尋ねると、リヴェリアは薄く笑いながら答えを保留した。

 予定外の損害にこれは貸しだからな、と涙目で睨むロキに失言したヘスティアはただただ頷くしかなかった。

 

「ったく、ドチビのせいで脱線したわ……話を戻すと多分やけどシンは否応なしに目立つ事になると思う。余計な神々(連中)に目を付けられるのも問題なんやけど、身内にも注意をしてくれるか。ベートあたりが間違っても喧嘩売らんように」

「了解はしたがベートも流石にそこまで考えなしではないと思うぞ?」

「注意をするなら何か結果を残す前でしょうね。ベートも実力を見せれば認めるはずですよ」

 

 ヘスティアの盛大な自爆もあって、フィンとリヴェリアの2人はあなたに何かがある事を疑問視はしていなかった。

 ただあなたは3人が揃って名前を挙げたベートという人物の事が気になる。

 彼等の物言いに、なんとなく弱肉強食の理(ヨスガ)の連中の匂いを感じた。

 だが先程のヘスティアの事も考えて、聞くのは後にした方が良いだろう。

 

「さて、この面子で話せるのはこんなとこかな。じゃあティオネ達のことよろしくな」

「ではこれで失礼します」

「私もこれで──おっと、そうだった」

 

 ロキがフィンとリヴェリアの退出を暗に促す。

 それに応じたフィンが一礼をして部屋を退出し、リヴェリアもそれに続こうとしたが途中で足を止めて振り返る。

 

「シン殿だったか。ロキに免じて数日は勘弁してやるが、後で()()も色々と話は聞かせて貰うから、覚悟をしておくように」

 

 そう言ってあなたを睨み付けた眼光は、かつて国会議事堂で遭遇したモトをも上回っていたように感じた。

 好意的に解釈するならば、事情を斟酌して口裏を合わせる時間をくれたとも取れるが……。

 

「……それで僕には建前抜きで説明してくれるんだろうね?」

 

 ロキの眷属2人が退出した後、真っ先にヘスティアが口を開いた。

 腰に手を当てて、前に乗り出すような姿勢であなたとロキを睨みつける。

 

「うぐっ……あ、アカン……このままでは……せや、シン! ちょい助けーや」

 

 自然とその豊かな胸を強調するように突き出す格好となり、その光景にロキは動揺するが、あなたの腕に縋り付くことで精神の安定を図る。

 ロキは自身の胸にコンプレックスを抱いているため、その格差がまざまざと見せ付けられる状況に弱いのだ。

 あなたはロキが昔もスタイルの良い仲魔(パールバディ達)に絡んでは撃退されていたことを思い返して目を細めた。

 

「……なんか余計な事考えてないか? シン」

「コラーッ! 僕はまだ全然説明受けてないんだぞ! ちゃんと説明してからにしろよ!」

 

 あなたが考えていた事を察して恨めしそうにあなたを見上げるロキと、いちゃついているようにしか見えないあなた達に怒声を上げるヘスティア。

 あなたは頭を掻きながら2人を宥めにかかった。どこまでもこの2人の相性は良くないらしい。

 

「ったくなんでよりによってコイツの所に……、まあええわ。ドチビ! ヘラクレスは知っとるやろ? シンはアレと似たようなもんや」

「チビ言うなっ! ヘラクレス君ってゼウス君と人の間に出来た子だよね?シン君も神と人の間に出来た子ってことかい?」

 

 ヘラクレス。ゼウスと英雄ペルセウスの孫娘であるアルクメネの間に生まれた半神半人の英雄である。神話にはそれ程詳しくなかったあなたでも、人から外れる前から名前は知っていた程の有名人だ。

 もっともあなたはその後にも仲魔となったクロト達(モイライ)の恩人として逸話を聞かされたことがあった。

 ゼウスがアルクメネを口説いたが全く靡かないからと、夫であるアムピトリュオンの姿に化けてヘラクレスを孕ませたという。

 それが結果でゼウスの妻であるヘラには死後に神となるまで生涯疎まれ、後のヘラクレスの難業へと繋がったのだ。

 本当にゼウスもルシファーも碌な事をしない。あなたもこの話を聞いた時には名前しか知らぬ英雄に若干の親近感を抱いたものだ。

 

「正確にはちょい違うけど、そんな認識でええわ。肝心なのはまだ神になる前のヘラクレスみたいな状態ってことや。神の力(アルカナム)は持たんけどそこらの人間よりはずっと頑丈で強いで。それで昔他の連中と一緒に戦ってたことがあってな」

「それで知り合ったってことか。……そういう関係になったのもその時から?」

 

 男女の関係について聞くのが恥ずかしいのか、少し顔を赤らめながらヘスティアが尋ねる。

 

「せやで。ヘスティアも知っとるやろ、神の力(アルカナム)を制限する元となった戦争のことは」

 

 ロキは東京受胎──神が神として参戦した終末戦争(ラグナロク)についてかいつまんで話した。

 あなたも初めて知ったが、この時に世界が滅んだ事がきっかけで下界に降り立つ際には神の力(アルカナム)を制限するという制約が生まれたらしい。

 

「……その時の事は僕は参加してなかったから詳しくないけど、凄くとんでもない事を話されている気がするぞ。それが本当ならシン君がこのままオラリオ(ここ)に居るのって大丈夫なのかい?」

「別に神となったわけやないしなぁ。だからルシファー(あん畜生)と戦った後、天界に居らんかったから皆死んだものだと思ってたんやし……。あーっ、思い返したらまた腹たってきたわ! シンもシンや! 今まで何やってたんや!?」

 

 そんな事を問いかけられても、あなたには最後にルシファーと戦って敗れた記憶しかない。

 意識が目覚めたと思ったらこのオラリオに居てヘスティアに声をかけられたのだ。

 素直にその事を伝えるとロキは地団駄を踏んで悔しがる。

 

「くぅーっ、もうちょいタイミングが違えばっ! ……ま、ええわ、こうなっちまったもんはしゃあない。シンがこういう時無駄に義理堅いのも、頑固なのも承知しとる。どうせほいほい改宗なんてせんやろ? じゃあそういうこっちゃ」

「どういうことだよ!?」

「シンはウチのオトコやけど、依然ヘスティア・ファミリアのままっちゅうこっちゃ。ついでに外にも女神(オンナ)は居るから多分そいつらもな」

 

「釈然としないけど、僕の所に居てくれるんならまあ……あ、そういえば神の恩恵の件は?」

 

 ロキの説明に途中で突っ込みを入れつつも険しい表情で聞いていたヘスティアだったが、思い出したかのように重要な事をロキに訴えかけた。

 

「あー、それがあったなぁ……。シンならそんなもん要らん気もするけど、あった方がウチとしても安心やしなぁ……。なぁ、シン……神の恩恵は受けてもウチらに対する裏切りにはならんと思うで、だからちょちょっと受けて──まてよ」

 

 ロキはその話を聞いて半ば呆れ顔で考え込みシンを説得しようとしたが、なにか思いついたかのように悪い顔を浮かべて言葉を止めた。

 

「ヘスティアが神の恩恵を授けたり【ステイタス】更新したりするときにウチが居ればシンも問題ないやろ? 変な事は出来ひんわけやし」

「ちょ、ちょっと待てよ! 眷属の【ステイタス】内容を他の神に明かすなんて──」

「さっき言ったようにシンはちょいと特殊な存在や。シンの事を昔から知ってるウチと情報共有しておいた方が役に立つと思うで?」

「ぐぬぬ」

 

 唐突なロキの提案にヘスティアは抗議の声を上げるが、結局ロキに丸め込まれて反論出来ずに押し黙しかなくなってしまった。

 こういう時にロキは弁が立つのだ。たとえ胸囲の格差に打ちのめされようとも、精神安定剤(あなた)が側にいるのならば尚更に。

 

「安心せい。アンタはともかくシンに悪いようにはせんわ」

「その言葉のどこを安心しろって言うんだい!?」

 

 だがこのままでは話が進まない。ロキが問題ないというのならば神の恩恵を受けた方が良いのだろう。

 そう判断したあなたは2人に神の恩恵を受ける旨を伝えた。──あなたは気遣いの出来る人修羅なのだ。

 




次回は2/6(火) 23時更新予定
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