ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

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第5話 ロキちゃんは語りたい

「ウチな……シンが居なくなってから、ずっと寂しかったんやで」

 

 あなたの腕の中で、ロキが睦言(ピロートーク)を囁いている。

 

「シンがどこかに居るんやないかと、天界をずっとずっと探してたんや」

 

 東京受胎が起こったとき、世界は滅びた。そして、新たな(コトワリ)を持った世界へと創世する為の戦いがあのボルテクス界での戦いだったのだが……あなたは創世の神(カグツチ)を倒した。そのため、かつての世界はそのまま消え去り、神々は天界へと還った。しかし、そこにあなたの姿はなかった。

 

「……でも、どこにもおらんくてな、暫く荒れてる時期もあったわ」

 

 ヘスティアとの因縁もその頃に生まれたらしい。主に胸が原因なのだろうが。

 

「むむむ胸ちゃうわ! シンかてウチのサイズでも愛おしいって言うてくれたやん。あれは嘘やったん……絶望や、よよよ……」

 

 あなたの失言にロキがわざとらしく泣き真似をする。もっとイチャつけ(機嫌を取りに来い)というサインだ。

 しかしただ言われた通りにするのも癪なので、あなたはロキが音を上げるまでスキンシップを取り続けた。

 

「たっタンマ! それ以上はアカンて! マジアカン!」

 

 あなたは息も絶え絶えになったロキが懇願してきたところでようやく手を止める。

 しばらくして息を整えたロキが口を尖らせて抗議をしてきた。

 

「ったく、ちょっとは手加減してくれてもええやん。……でまあ(ソレ)も理由の一つではなくもなかったかもしれんけどな。シンもゼウスの奴は知っとるやろ?」

 

 先程ヘラクレスの話題が出た時に思い出したばかりで忘れるはずもない、宿敵(ルシファー)と同じ『ろくなことをしない』カテゴリの(アクマ)だ。

 

「アレと一緒にするのは流石にどうやろ……ま、ええか。シンはヘスティアがゼウスの姉やって知っとったか?」

 

 初耳である。あなたはゼウスの兄弟と聞かれればハデスとポセイドンと答える程度の知識しか持ち合わせていない。

 

「……一応言っとくけどヘラもゼウスの姉やで、ヘスティアが長女や」

 

 ヘラはゼウスの嫉妬深い妻ではなかっただろうか。あなたが確認をするとロキはあなたの指をガブリと齧る。

 

「色々手ぇ出しとるシンが言えた話やないやろ! ま、昔は結構自由やったんや。シンの生まれた時からみても神話時代やしな」

 

 確かに何人もの妻神(ヒトヅマ)と関係を持っているあなたが言えた話ではない。ないが、近親婚は少し違わないだろうか。それにどちらかといえば手を出された立場だ。

 

「うっさい! ウチにとっては大して変わらんわ!」

 

 ロキがそんな状態で、他の仲魔は……といえば反応は様々だったようだ。ルシファーを倒さんと息をまく物、引き篭もる物、割り切って他の英雄(オトコ)を漁る物──ロキは名前を出さなかったが、あなたにはそれぞれ誰の事を指しているのかは大体想像がついた。

 

「とにかくや、それから暫くしてまた世界が創られたんや。それがここ、オラリオのある今の世界な。前ん時の事があるから、ホンマはウチラは直接手ぇださんって話にはなってたんやけど……」

 

 かつての戦争では結果として新たなコトワリを拓いて創世への足がかりを掴んだのは人類だけだった。その経験から、神々は人類の力を信じて極力世界に干渉をしないようにした。

 しかし、新たな世界にも魔は潜んでいたのだ。

 

「……『迷宮』(ダンジョン)はな、神々(ウチら)が唯一目の届かん深遠や。モンスターもあそこから生まれてきて昔は人々を蹂躙しとった。だから見かねた神々が降りて、人間に力を与える事にしたんや。あ、表向きには暇しとったから来たことになっとるからヨロシクな」

 

 千年前、モンスターに蹂躙される人々の前に神々が降臨し、人々に力を与えた。それが冒険者の始まりである。

 神々は神威を封印し、冒険者に神の恩恵を与えることと道を示す程度の助力に留められるルールもこの時点で作られた。

 もっとも『道を示す』の拡大解釈で国の行く末まで左右している神も居るようだが。

 建前上暇だったから遊びに来た事になっているが……本当に下界()遊びに来た連中も恐らくいるだろう。

 

「せやな。それにゼウスも半分は本当に人々の為やろうけど、もう半分は美人を漁りにきたんやし。ヘラまでくっついてきたんは見張りの為やろうしな。……そんでそれから暫くしてウチもいつまでも荒れてるなら邪魔だから下界にでも行って来いと叩き出されてなぁ」

 

 ロキが遠い目をして呟く。つい最近似たような話を聞いた気がしないでもない。ひょっとしたら胸や家族の事がなければあの2人は気が合うのではないだろうか。

 そう思ったあなただったが口には出さずにおいた。拗ねるロキも可愛いがいちいち脱線させては話が進まない。

 

「ファミリアを創って、眷属を持って思ったんや。家族ってええなぁ……って。ウチ、今の家族がめっちゃ大事やねん。あ、当然シンもやで! 比べることなんて出来んくらいや。せやからウチの家族とは争ってほしくないねん。本当はウチのファミリアに改宗して欲しいけど──」

 

 ロキが寂しそうな顔で呟く。たまらずあなたは腕の中の彼女を強く抱きしめた。

 ロキの家族なら自分の家族も同じだ。ファミリアが違っても家族を傷つけたりなんてしない。

 そう耳元で囁くと、ロキも頬を赤らめて頷いた。

 

「うん、信じとるで……あ、それと家族に手ぇ出すのもアカンからな。シンは近親婚と一緒にするな言うたやろ? だったら家族に手ぇ出さんよな?」

 

 あなたは男らしくキッパリと答えた。向こうから来た場合は保証は出来ないと。

 そしてまたロキに指を齧られた。

 

「シンのアホッ、ボケナスッ! まあアイズたんから来るような事はないだろうし……いや、アイズたんだからこそシンって事も……? まあシン相手なら納得も……いや、アカン。シンはウチのモンや! 例えアイズたんだとしても……アタッ」

 

 ロキはあなたを罵倒した後、勝手に1人で煩悶しだしたが、あなたの独占を主張した段階でデコピンを喰らう。

 妄想が迷走しすぎだ。

 

「なんで男っちゅう奴はこう……。まあウチがこうしてられるのもそのお陰って言えばそうなんやけど……」

 

 男女の(このような)関係になったのはロキが最初ではない。むしろ仲魔に加わったのは遅いほうだ。

 今のような形となったのはロキにとっては僥倖といえば僥倖だったのだ。

 もしあなたが1人だけを選んでいたら、誰を選んでいたのだろうか。

 誰もそれを確認しようとはしなかった。

 それに男ばかり槍玉にあげるがクイーンメイブなどはどうなのだ。

 

「フンだ、ウチは男はシン一筋だからそんなん知らん! そもそもこんな時に他のオンナの話なんかせんといて……あっ、そうや」

 

 あなたの指摘にロキは鼻を鳴らして顔を背けるが、何かを思い出したかのようにあなたに向き直った。

 

「今のオラリオにもメイブの上位互換みたいな奴おるんやった。フレイヤっちゅう女神なんやけど、シンも気ぃつけてや。アイツ英雄とかそういうのを魅了して侍らせるのが趣味やから目をつけられんようにな」

 

 クイーンメイブの上位互換とは相当厄介な相手だ。クイーンメイブの時点であなたですら彼女の貪欲さには勝てず、たまに幻魔の英雄(クー・フーリン)を身代わりにしていた位だ。

 彼等は今どうしているだろうか。

 

「メイブは言わずもがなや。シンがおらんならおらんで他の英雄(オトコ)を漁るだけや。んでクーやんはメイブに捕まっとったで」

 

 もしかしたらあなたの所為かもしれない。だがこれはこれで運命だったと諦めてもらうしかないだろう。

 あなたは心の中で合掌する。

 しかし身代わりも居ない今、そのフレイヤに目を付けられるとどうしようもないかもしれない。

 

「ま、アイツかて下界で神の力を使っちゃいけない制約は受けとるんや。無理難題ふっかけてくるようならウチが守ったるから安心しぃ。ただ魅了にだけは気をつけてな」

 

 ロキはそう請け負うものの、あなたはその言葉に甘えてはいられない。

 あなたにだって仲魔達の先頭にたって戦ってきた矜持というものがあるのだ。

 身代わり(クー・フーリン)にはどの口でと言われそうだが、あるものはあるのだ。

 

「ほんっと男っちゅうやつはこれだから……」

 

 ロキが呆れ顔で溜息を吐きながらもあなたの胸に顔を摺り寄せてくる。

 

「こっちはこっちで勝手にやらせてもらうけどな。それよりウチの子らへの言い訳考えようか。リヴェリアにも釘をさされたろ?」

 

 確かにロキの言う通り。あの眼光を持つ女傑を軽視すると後が恐ろしい事になりそうだ。

 だがあなたにはそうそう都合の良い言い訳など思いつかない。

 ロキが外で作った男にせよ、ファミリアを結成する前に作った男にせよ、《あなたが何者なのか》を何処まで説明するかによって変わってくるだろう。

 この際魔人であることは打ち明けても良いのではないだろうか。

 あなたがそう提案すると、ロキはうぅんと唸って首を横に振った。

 

「ある程度の力の根拠は欲しいけど、魔人っちゅうのはイメージ的に良くないからなぁ。神と人の子位でええんちゃう? そんなら若いまま長生きしましたーでも通るやろ」

 

 ヘラクレスと同様にということだ。なぜか会った事もない彼と同じような状況になりつつある。

 ハッタリを仕掛けるなら大胆に、『道化師』(トリックスター)と呼ばれるロキの本領発揮といったところか。

 神々は人の子の嘘を見破る事が出来るが、関わっているのは同じ神々と魔人であるあなただ。問題はないだろう。

 しかしその場合誰の子とするべきか。親……母……地母神といえばスカディあたりだろうか。

 

「スカディはアカン! 一番アカン! それ絶対フレイヤに目を付けられる奴やん!」

 

 スカディは当のフレイヤの母であるという。……もうフレイヤの目を逃れるという観点では既に手遅れなのではないだろうか。

 あなたの額に冷や汗が流れる。

 

「フレイヤがスカディから話を聞いてるとは限らんやろ。こっちからわざわざネタを提供してやる必要ないわ。そもそも女神じゃなくてええやん。女神達(連中)後からでも話を聞いたら絶対それ口実に母子プレイするで」

 

 パールヴァティあたりはノリノリでやりそうだ。カーリーだと少々背徳感を感じる……などと想像していた所で、あなたは三度ロキに指を齧られた。

 そろそろ真面目に考えなければならない。やはり近くにいるディオニュソス、ガネーシャ、タケミカヅチあたりと連携した方がよいだろうか。

 

「それはそれでなんでソイツのファミリアに入ってないんやってなるんよなぁ。オラリオにおらん奴で子供が多くても目立たない……、シンの生まれを考えると……オオクニヌシやな!」

 

 タケミナカタの異母弟ということになるのだろうか。しかし当神の許可は取らなくてもいいのか。

 あなたが疑問の声を上げると、ロキは畳み掛けるように言った。

 

「そんなん事後承認でええやん。設定や設定! ウチの子らに説明するだけで大っぴらに触れて回るわけでもなし、ちゃんと連絡は入れとくさかい」

 

 オオクニヌシは極東にいるらしい。ついでに言えばアマテラスもまた極東で引き篭もっているそうだ。

 彼等にもそのうち顔を見せに行かねばならないだろう。その前に近くにいる神々か。

 

「ま、そっちは明日にでも挨拶回りしとけばええんやない? 設定についても一応話しとき」

 

 そうロキが楽観的に言う。あなたも彼等の現在の状況は知っておきたい。ダンジョンにはそのあと赴こう。

 だがまだ夜は長いのだ。あなたがロキの肩を抱く手に力を入れると、ロキも甘えるようにすりよってきた。

 

 




シンとロキがイチャイチャして悪巧みをするだけの回

神話ではロキと関係を持ったともされるスカディ(スカジ)ですが、この作品ではフレイ&フレイヤの母説を採用。

オオクニヌシが極東に居るという独自設定。
アマテラスが引き篭もっているというのも独自かもしれない設定。

作中翌日の予定
朝帰り → 挨拶回り → ギルド登録 → ダンジョン

次回は2/17(土) 23時更新目標
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