ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか 作:巴里と鬼神
翌日あなたがヘスティア・ファミリアの
「……僕の言いたい事はわかるかな?」
勿論あなたにはわかっている。戻るのが遅いという話だろう。
ダンジョンへ赴く為にも色々と準備するものがあり時間がかかってしまったのだ。
その証拠にあなたは冒険者と呼ばれても遜色のないような武器と防具を揃えていた。
あなたは過去にヒートウェイブや死亡遊戯といった魔力の剣を生み出して戦うスキルを扱っていた為、剣の扱いは体がなんとなく覚えている。
そして元々防具など不要であったが、体裁も必要ということで動きやすさ重視で防具を選んだ。
「うんうん、僕は翌朝っていったもんね。ちゃんと覚えてくれているんだね。装備を整えたから遅くなった。それもまあわからなくもないぜ。じゃあソイツはなんだよ!」
そう怒鳴ってヘスティアは、あなたの腕に絡み付いているロキを指差す。
当のロキはしれっとした顔でヘスティアに話しかけた。
「シンの装備をウチが見繕ってあげたんよ。大事な大事なシンのデビュー戦や。ギルドの支給品なんて持たせられんやん?」
「だからと言ってロキに施される筋合いなんてないぞ!」
今にも噛み付きそうなヘスティアの反応だったが、ロキはチッチッチッと言いながら指を立てて左右に振る。
「生憎ウチが出すっちゅうても聞かんかったシンの自腹や。だからこの件はウチに貸しはなしやで。そうそう、貸しと言えばシンを借りた分は昨日のアンタの
「うぐっ……痛いところを」
ちゃっかりしたロキの提案に渋々頷くヘスティア。──実の所を言えばあなたをオオクニヌシの子という設定とした以上、ヘスティアのやらかしは意味がなくなったも同然だったのだが。
とはいえ結果的にそうなっただけでやらかした時点では問題となるかもしれなかったので、あなたも今回に関しては
「ま、それはそれと確認することもいくつかあったんでな。ちょっと邪魔するで」
ロキはそう断るとあなたとヘスティアの背を押すように廃教会の中へ押しやり、ヘスティアに耳打ちをした。
「ヘスティア、シンのスキルはまさかそのまま書いて出しはせんよな?」
「まさか。レアスキルの塊なんてもんじゃないあんなのをそのまま出したら、他の
ロキの言葉にヘスティアは考えるのも嫌だと首を振る。
その様子にロキは頷くと昨日あなたと話した内容を持ちかけた。
「万一そうなってもシンの為にウチが手ぇ貸さんこともないけど、無駄に種は蒔かんほうがええな。ただ目立つのは避けられんだろうから、設定を決めといたで。シンはオオクニヌシと人の子っちゅうことで」
「まあ……あのスキルなら普通にやっても目立っちゃうかもなぁ。オオクニヌシと人の子ってそれこそヘラクレス君みたいにか」
「せや、幸いオオクニヌシにはヘラみたいな奴もおらんし、妻と子もようさんおるからな。オオクニヌシには連絡は入れとくから、心配せんでもええで」
ロキの提案にふぅむと唸って納得しかけたヘスティアだが、あることに気付いてはたと動きが止まった。
「ってもしかしてオオクニヌシも?」
「元仲魔やで。それからここにおる元仲魔のタケミカヅチ、ディオニュソス、ガネーシャには挨拶にいっとき。まだシンが来た事しらんやろうしな」
げんなりとした顔のヘスティアの問いに、ロキは誇らしげに頷くとやはり昨日あなたと話した今後の予定を切り出す。
それを聞いてヘスティアはますます顔を曇らせた。
「まあそれは必要だよね……タケミカヅチとガネーシャはまだしもディオニュソス君かぁ……」
「なんや、気が乗らんのか? ディオニュソスなんて身内やろ?」
破壊神ディオニュソス。その肩書きとは裏腹に気品あふれた酒と芸術を愛する神だ。だが戦闘においては肩書通り
ゼウスが愛人であるテーバイの王女セメレーの子に生ませた子であり、その母はヘラの策略によりゼウスの神威を目の当たりとして彼を身篭ったまま焼死した。それが彼が業火を扱う理由のひとつなのだろう。
いつものゼウスのやらかしの被害者である為に、その身内であるヘスティアとも険悪なのかといえばそうではない。
胎児であった彼を取り上げて成長するまで保護したのもゼウスであれば、ヘラとも和解したと彼自身に聞いた覚えがあなたにはあるのだが……。
「うん、昔ちょっと
「アホやなぁ……ま、自業自得の精算もついでにしとき」
ロキの言葉にバッサリと斬られたヘスティアはがくりとうなだれた。
「じゃ、ウチもやる事があるし今日は帰るわ。シン、また会いに来るからなー」
「もう来なくていいよ!」
にこやかにあなたに向かって手を振り廃教会を出て行くロキに対して、ベーと舌をだす子供のようなヘスティア。
その様子を見てあなたは、犬猿の仲の2人ではあるがやはり似たもの同士なのではないかと考えていた。
そんな考えを見透かしたかのようにヘスティアが横目であなたを睨んで鼻を鳴らす。
「フンッ、シン君もなんでロキなんかと! まあいいや、他の神のところに行くんなら早く行こう。3神もまわるんなら今日なんてすぐに終わっちゃうぜ」
ヘスティアはそう言って廃教会を出て行った。
あなたもそれを追って歩みを進める。
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西地区にあるアパートのような古びた建物、それがタケミカヅチ・ファミリアの
あなたとヘスティアが入り口に近づいていくと、道を箒で掃いていた黒髪の少女が声をかけてきた。
「おや、ヘスティア様ではありませんか。タケミカヅチ様にご用事ですか?」
「ああ、
少女の言葉にヘスティアは頷くと、タケミカヅチの所在を問いかけた。
「はい、呼んでまいりますね。ところでそちらの方は?」
「おっと、こっちは間薙シン君。僕の初めての眷属さ。シン君、そっちはタケミカヅチの所のヤマト・命君だよ」
「おお、それはそれは。おめでとうございます、ヘスティア様。 シン殿、自分はヤマト・命と申します。よろしくお願いします」
ヘスティアの紹介を聞いてにこやかに挨拶をしてくる命。あなたも同様に挨拶を返す。
友好的に話を進められそうでなによりだ。
そんなあなたの期待は、直後に裏切られることになる。
鬼神タケミカヅチ──
その武神があなたの前で跪き、両手をついて頭を地につけている。俗にいう土下座という奴だ。
命に連れられて現れたタケミカヅチは、あなたを見るなり
命のあなたを見る目が氷点下に下がった気がする。
「すまないっ! 俺達の力が足りないばかりにっ! だから化けて出ないでくれっ!」
「ちょ、ちょっとシン君。神になんてことをやらせるんだいっ!?」
どうやらあなたが死後化けて出たものと勘違いされているらしい。なんとか誤解を解かねば命の目が今にもあなたを呪殺しかねない険しさとなっている。
ヘスティアも突然の出来事に混乱してあなたを責めるが、あなたが命じたわけでは決してない。それよりも化けて出るという単語に疑問を抱かなかったのだろうか。
あんたは死んでいないし、そもそもあなたが
理不尽に打ちのめされながらも、なんとかタケミカヅチを説得して立ち上がらせる。
「そうか、生きていたのか。早とちりしてしまったな、すまないすまない」
頭を掻きながら軽く詫びるタケミカヅチ。
そう思うなら
それよりもタケミカヅチの
出来れば中で話がしたい。あなたがそう告げるとタケミカヅチは腕を組んで頷いた。
「どうやら込み入った事情もありそうだな。それにヘスティアの1人目の眷属という話も詳しく聞かせて貰おう。さ、中へ入ってくれ」
タケミカヅチに案内されて、建物の中へ足を踏み入れる。
建物の中はかつての日本を彷彿とさせる和風の装いとなっていた。
「そのあたりに座ってくれ。命、しばらく他の者が近づかないように頼む」
「はい」
タケミカヅチの勧められてあなた達は思い思いに畳に座り込む。その間にタケミカヅチは命に人払いを命じ、命本人も遠ざけていた。
「これでよかったか?」
あなたはタケミカヅチの問いかけに肯定を返す。ロキ達とも話した通り、これは重要な話だ。結果として眷属に話すかは後の判断として、今耳に入れるべきではない。
タケミカヅチにはこれまでの事──主観ではルシファーに敗れた直後にオラリオで目覚めた事。ヘスティアに呼びかけられて名義だけの入団をしたこと。ロキとの再会とロキの提案により『恩恵』を受けたこと。今後は冒険者としてダンジョンに潜るつもりだが、目立ってしまった場合の為にオオクニヌシと人の子という『建前』を用意することなど──を話した。
最初は胡坐をかいてうんうんと頷いていたタケミカヅチだったが、オオクニヌシのくだりが出て顔が引き攣り始める。
「な、なかなか大胆なことを考えるな……。ロキの提案か? 確かに奴なら言い出しかねないが……しかしオオクニヌシの子か。それならば多少派手な活躍をしようが説明はつくが……うぅむ……」
何か問題でもあるのだろうか。あなたは悩むタケミカヅチに問いかけた。
「神と人の間に子は出来辛いんだ。俺達が神威を使えばそれこそ一夜孕みすら容易いが、な。とはいえオオクニヌシは拠点が
確かに簡単に神と人の間に子が出来るならば、このオラリオなどは
だがそれがないということはかなり珍しい存在なのだろう。
「ロキの奴がどう考えているかはわからないが、オオクニヌシには俺からも連絡を入れておこう。それと俺の眷属らにはなんと話すべきかな。俺も3年前に
そこはこう、武神の威厳でなんとかならないだろうか。
「ちょっと、シン君! それは幾らなんでも無茶振りじゃないか?」
そんなあなたの言葉をヘスティアが咎める。
しかし、タケミカヅチはヘスティアを押し留めるのだった。
「良いのだ、ヘスティア。相変わらず無理を言う男だ。眷属達にはなんとか差し障りのない説明をしておこう」
「タケミカヅチもそれで納得するのかい!? ロキといい君といい一体シン君とどういう関係だったんだか」
タケミカヅチの返答にヘスティアがぼやく。
あなたとタケミカヅチは共に顔を見合わせて肩を竦めた。
過去に
「まあいいや、とりあえず今日は挨拶だから。じゃあタケミカヅチ、これからもよろしく頼むよ」
「ああ、零細ファミリア同士協力して行こうではないか」
ひとまず話はまとまった。ヘスティアとタケミカヅチが改めて握手を交わす。
あなたもタケミカヅチと握手を交わすと、廊下に出た。
命と目が合った。どうやらずっとここに居たらしい。
「……命」
「もっ、申し訳ありませんっタケミカヅチ様っ」
タケミカヅチが声をかけると命はすぐさま土下座の姿勢に入った。
彼女にとってあなたは
警戒するのも仕方のないことだろう。
あなたは溜息をひとつ吐くと、あとはよろしく。それだけを言い残して
相手が悪魔なら
あなたとヘスティアが退出し、命への説教と聴取と説明を終えたタケミカヅチはオオクニヌシへの親書をしたため始めた。
「……ついでだ、あちらにも知らせておくか」
そう考えたのは気紛れだった。
しかしその
他の設定を鑑みると、貧乏ファミリアは大体西地区になるのかなって。
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