ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

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第6話 DYNAMIC DOGEZA

 翌日あなたがヘスティア・ファミリアの本拠地(ホーム)である廃教会に戻ると、ヘスティアが仁王立ちで待ち構えていた。

 

「……僕の言いたい事はわかるかな?」

 

 勿論あなたにはわかっている。戻るのが遅いという話だろう。

 ダンジョンへ赴く為にも色々と準備するものがあり時間がかかってしまったのだ。

 その証拠にあなたは冒険者と呼ばれても遜色のないような武器と防具を揃えていた。

 あなたは過去にヒートウェイブや死亡遊戯といった魔力の剣を生み出して戦うスキルを扱っていた為、剣の扱いは体がなんとなく覚えている。

 そして元々防具など不要であったが、体裁も必要ということで動きやすさ重視で防具を選んだ。

 長剣(ロングソード)を腰に下げ、急所を護る部分鎧を着けたあなたは立派な軽戦士に見える。

 

「うんうん、僕は翌朝っていったもんね。ちゃんと覚えてくれているんだね。装備を整えたから遅くなった。それもまあわからなくもないぜ。じゃあソイツはなんだよ!」

 

 そう怒鳴ってヘスティアは、あなたの腕に絡み付いているロキを指差す。

 当のロキはしれっとした顔でヘスティアに話しかけた。

 

「シンの装備をウチが見繕ってあげたんよ。大事な大事なシンのデビュー戦や。ギルドの支給品なんて持たせられんやん?」

「だからと言ってロキに施される筋合いなんてないぞ!」

 

 今にも噛み付きそうなヘスティアの反応だったが、ロキはチッチッチッと言いながら指を立てて左右に振る。

 

「生憎ウチが出すっちゅうても聞かんかったシンの自腹や。だからこの件はウチに貸しはなしやで。そうそう、貸しと言えばシンを借りた分は昨日のアンタの()()()()で相殺やからな」

「うぐっ……痛いところを」

 

 ちゃっかりしたロキの提案に渋々頷くヘスティア。──実の所を言えばあなたをオオクニヌシの子という設定とした以上、ヘスティアのやらかしは意味がなくなったも同然だったのだが。

 とはいえ結果的にそうなっただけでやらかした時点では問題となるかもしれなかったので、あなたも今回に関しては中立の立場を取った(黙っている事にした)

 

「ま、それはそれと確認することもいくつかあったんでな。ちょっと邪魔するで」

 

 ロキはそう断るとあなたとヘスティアの背を押すように廃教会の中へ押しやり、ヘスティアに耳打ちをした。

 

「ヘスティア、シンのスキルはまさかそのまま書いて出しはせんよな?」

「まさか。レアスキルの塊なんてもんじゃないあんなのをそのまま出したら、他の神々(連中)がどんなちょっかいかけてくるかわかったもんじゃない」

 

 ロキの言葉にヘスティアは考えるのも嫌だと首を振る。

 その様子にロキは頷くと昨日あなたと話した内容を持ちかけた。

 

「万一そうなってもシンの為にウチが手ぇ貸さんこともないけど、無駄に種は蒔かんほうがええな。ただ目立つのは避けられんだろうから、設定を決めといたで。シンはオオクニヌシと人の子っちゅうことで」

「まあ……あのスキルなら普通にやっても目立っちゃうかもなぁ。オオクニヌシと人の子ってそれこそヘラクレス君みたいにか」

「せや、幸いオオクニヌシにはヘラみたいな奴もおらんし、妻と子もようさんおるからな。オオクニヌシには連絡は入れとくから、心配せんでもええで」

 

 ロキの提案にふぅむと唸って納得しかけたヘスティアだが、あることに気付いてはたと動きが止まった。

 

「ってもしかしてオオクニヌシも?」

「元仲魔やで。それからここにおる元仲魔のタケミカヅチ、ディオニュソス、ガネーシャには挨拶にいっとき。まだシンが来た事しらんやろうしな」

 

 げんなりとした顔のヘスティアの問いに、ロキは誇らしげに頷くとやはり昨日あなたと話した今後の予定を切り出す。

 それを聞いてヘスティアはますます顔を曇らせた。

 

「まあそれは必要だよね……タケミカヅチとガネーシャはまだしもディオニュソス君かぁ……」

「なんや、気が乗らんのか? ディオニュソスなんて身内やろ?」

 

 破壊神ディオニュソス。その肩書きとは裏腹に気品あふれた酒と芸術を愛する神だ。だが戦闘においては肩書通り(アルコール)など生ぬるい苛烈なる地獄の業火(マハラギダイン)で全てを焼き尽くす……。

 ゼウスが愛人であるテーバイの王女セメレーの子に生ませた子であり、その母はヘラの策略によりゼウスの神威を目の当たりとして彼を身篭ったまま焼死した。それが彼が業火を扱う理由のひとつなのだろう。

 いつものゼウスのやらかしの被害者である為に、その身内であるヘスティアとも険悪なのかといえばそうではない。

 胎児であった彼を取り上げて成長するまで保護したのもゼウスであれば、ヘラとも和解したと彼自身に聞いた覚えがあなたにはあるのだが……。

 

「うん、昔ちょっとオリュンポス十二神(面倒な仕事)を押し付けた事があってね。僕がこっちに来た時に『おやおやヘスティア伯母様、竈の番があったのでは?』とか言われちゃってね……どうにも顔を合わせ辛いんだよね」

「アホやなぁ……ま、自業自得の精算もついでにしとき」

 

 ロキの言葉にバッサリと斬られたヘスティアはがくりとうなだれた。

 

「じゃ、ウチもやる事があるし今日は帰るわ。シン、また会いに来るからなー」

「もう来なくていいよ!」

 

 にこやかにあなたに向かって手を振り廃教会を出て行くロキに対して、ベーと舌をだす子供のようなヘスティア。

 その様子を見てあなたは、犬猿の仲の2人ではあるがやはり似たもの同士なのではないかと考えていた。

 そんな考えを見透かしたかのようにヘスティアが横目であなたを睨んで鼻を鳴らす。

 

「フンッ、シン君もなんでロキなんかと! まあいいや、他の神のところに行くんなら早く行こう。3神もまわるんなら今日なんてすぐに終わっちゃうぜ」

 

 ヘスティアはそう言って廃教会を出て行った。

 あなたもそれを追って歩みを進める。

 

 

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 西地区にあるアパートのような古びた建物、それがタケミカヅチ・ファミリアの本拠地(ホーム)である仮住居の長屋(タウンハウス)だ。

 あなたとヘスティアが入り口に近づいていくと、道を箒で掃いていた黒髪の少女が声をかけてきた。

 

「おや、ヘスティア様ではありませんか。タケミカヅチ様にご用事ですか?」

「ああ、(みこと)君。まあそうなんだけどね、タケミカヅチはいるかい?」

 

 少女の言葉にヘスティアは頷くと、タケミカヅチの所在を問いかけた。

 

「はい、呼んでまいりますね。ところでそちらの方は?」

「おっと、こっちは間薙シン君。僕の初めての眷属さ。シン君、そっちはタケミカヅチの所のヤマト・命君だよ」

「おお、それはそれは。おめでとうございます、ヘスティア様。 シン殿、自分はヤマト・命と申します。よろしくお願いします」

 

 ヘスティアの紹介を聞いてにこやかに挨拶をしてくる命。あなたも同様に挨拶を返す。

 友好的に話を進められそうでなによりだ。

 そんなあなたの期待は、直後に裏切られることになる。

 

 鬼神タケミカヅチ──角髪(みずら)を結った偉丈夫で建御雷と表記されるように雷を扱う武の神である。

 その武神があなたの前で跪き、両手をついて頭を地につけている。俗にいう土下座という奴だ。

 

 命に連れられて現れたタケミカヅチは、あなたを見るなり土下座(この姿勢)に移行した。

 命のあなたを見る目が氷点下に下がった気がする。

 

「すまないっ! 俺達の力が足りないばかりにっ! だから化けて出ないでくれっ!」

「ちょ、ちょっとシン君。神になんてことをやらせるんだいっ!?」

 

 どうやらあなたが死後化けて出たものと勘違いされているらしい。なんとか誤解を解かねば命の目が今にもあなたを呪殺しかねない険しさとなっている。

 ヘスティアも突然の出来事に混乱してあなたを責めるが、あなたが命じたわけでは決してない。それよりも化けて出るという単語に疑問を抱かなかったのだろうか。

 あんたは死んでいないし、そもそもあなたが宿敵(ルシファー)に敗北したのは、あなたの力が足りなかったからだ。それを仲魔に転嫁する気など欠片もない。

 理不尽に打ちのめされながらも、なんとかタケミカヅチを説得して立ち上がらせる。

 

「そうか、生きていたのか。早とちりしてしまったな、すまないすまない」

 

 頭を掻きながら軽く詫びるタケミカヅチ。

 そう思うなら(眷属)の冷たい視線を何とかして欲しい、とは流石のあなたも言い出し辛い。

 それよりもタケミカヅチの土下座(振る舞い)もあってあなた達は相当目立ってしまった。

 出来れば中で話がしたい。あなたがそう告げるとタケミカヅチは腕を組んで頷いた。

 

「どうやら込み入った事情もありそうだな。それにヘスティアの1人目の眷属という話も詳しく聞かせて貰おう。さ、中へ入ってくれ」

 

 タケミカヅチに案内されて、建物の中へ足を踏み入れる。

 建物の中はかつての日本を彷彿とさせる和風の装いとなっていた。

 

「そのあたりに座ってくれ。命、しばらく他の者が近づかないように頼む」

「はい」

 

 タケミカヅチの勧められてあなた達は思い思いに畳に座り込む。その間にタケミカヅチは命に人払いを命じ、命本人も遠ざけていた。

 

「これでよかったか?」

 

 あなたはタケミカヅチの問いかけに肯定を返す。ロキ達とも話した通り、これは重要な話だ。結果として眷属に話すかは後の判断として、今耳に入れるべきではない。

 タケミカヅチにはこれまでの事──主観ではルシファーに敗れた直後にオラリオで目覚めた事。ヘスティアに呼びかけられて名義だけの入団をしたこと。ロキとの再会とロキの提案により『恩恵』を受けたこと。今後は冒険者としてダンジョンに潜るつもりだが、目立ってしまった場合の為にオオクニヌシと人の子という『建前』を用意することなど──を話した。

 最初は胡坐をかいてうんうんと頷いていたタケミカヅチだったが、オオクニヌシのくだりが出て顔が引き攣り始める。

 

「な、なかなか大胆なことを考えるな……。ロキの提案か? 確かに奴なら言い出しかねないが……しかしオオクニヌシの子か。それならば多少派手な活躍をしようが説明はつくが……うぅむ……」

 

 何か問題でもあるのだろうか。あなたは悩むタケミカヅチに問いかけた。

 

「神と人の間に子は出来辛いんだ。俺達が神威を使えばそれこそ一夜孕みすら容易いが、な。とはいえオオクニヌシは拠点が極東(むこう)だ、父の眷属とならずにダンジョン攻略にやって来たという建前は通せると思う」

 

 確かに簡単に神と人の間に子が出来るならば、このオラリオなどは半神半人(ハーフ)で溢れていそうだ。

 だがそれがないということはかなり珍しい存在なのだろう。

 

「ロキの奴がどう考えているかはわからないが、オオクニヌシには俺からも連絡を入れておこう。それと俺の眷属らにはなんと話すべきかな。俺も3年前に下の世界(こちら)に来たばかりだから古い知り合いを通すには苦しいぞ」

 

 そこはこう、武神の威厳でなんとかならないだろうか。

 

「ちょっと、シン君! それは幾らなんでも無茶振りじゃないか?」

 

 そんなあなたの言葉をヘスティアが咎める。

 しかし、タケミカヅチはヘスティアを押し留めるのだった。

 

「良いのだ、ヘスティア。相変わらず無理を言う男だ。眷属達にはなんとか差し障りのない説明をしておこう」

「タケミカヅチもそれで納得するのかい!? ロキといい君といい一体シン君とどういう関係だったんだか」

 

 タケミカヅチの返答にヘスティアがぼやく。

 あなたとタケミカヅチは共に顔を見合わせて肩を竦めた。

 過去に神々の最終戦争(東京受胎)で共に戦った。関係はそれ以上でも以下でもないのだが、確かにあなたと仲魔の間にはそれだけでは言い表せない繋がりがあったのかもしれない。──一部の女悪魔達は別として。

 

「まあいいや、とりあえず今日は挨拶だから。じゃあタケミカヅチ、これからもよろしく頼むよ」

「ああ、零細ファミリア同士協力して行こうではないか」

 

 ひとまず話はまとまった。ヘスティアとタケミカヅチが改めて握手を交わす。

 あなたもタケミカヅチと握手を交わすと、廊下に出た。

 命と目が合った。どうやらずっとここに居たらしい。

 

「……命」

「もっ、申し訳ありませんっタケミカヅチ様っ」

 

 タケミカヅチが声をかけると命はすぐさま土下座の姿勢に入った。

 彼女にとってあなたはタケミカヅチ(主神)に土下座をさせた不審人物である。

 警戒するのも仕方のないことだろう。

 あなたは溜息をひとつ吐くと、あとはよろしく。それだけを言い残して仮住居の長屋(タウンハウス)を後にした。

 相手が悪魔なら力尽くで通せた(話は簡単だった)が、人間相手はなかなか難しいものだ。

 

 

 

 

 あなたとヘスティアが退出し、命への説教と聴取と説明を終えたタケミカヅチはオオクニヌシへの親書をしたため始めた。

 

「……ついでだ、あちらにも知らせておくか」

 

 そう考えたのは気紛れだった。

 しかしその()()()の手紙を読んだある女神が、『こうしちゃいられねぇ』とばかりに天岩戸(新)を蹴り破る未来をタケミカヅチは予想していなかった。勿論、あなたも。

 

 




仮住居の長屋(タウンハウス)が西地区にあるというのは独自かもしれない設定。
他の設定を鑑みると、貧乏ファミリアは大体西地区になるのかなって。

次回は2/24(土) 23時更新目標
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