ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

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第7話 まもって歓喜天

 タケミカヅチの仮住居の長屋(タウンハウス)から南に進むことしばらく。

 迷宮都市オラリオの中央にそびえる摩天楼(バベル)から八方に伸びる大通り(メインストリート)のうち、南西のメインストリートに行き当たる。

 メインストリートに出て、視界が開けたところで()()があなたの目に入った。

 ()()自体はメインストリートから少し離れて建てられているのだろう。それでも他の建造物を超えて嫌でも目に付く。

 

「ま、まあ……わかりやすく目印にはなるよね」

 

 ヘスティアが引き攣った笑いをしながら感想を漏らした。

 たしかに目印にはなる。あなた達の目的地をズバリ示しているのだから。

 

 ()()はとても大きな像だった。

 あなたの記憶の中にある奈良の仏像よりも数段大きい。

 ビルとすれば10階建てを超えるだろうか。

 それだけの高さを持った、逞しい男の坐像だった。

 しかし頭部は象のものとなっている。象牙が片方折れていることから一目でガネーシャを表したものだとわかった。

 あなたの正直な感想を言えば、奴ならやりかねないである。

 あなたの知る軍神ガネーシャは破壊神シヴァと地母神パールヴァティとの間に生まれた。生まれた時は人の姿であったが、頭部を象の頭にすげ変えられたという伝承を持っている。

 元通り人の姿を取ることもできるが、その時も象の仮面を常に被っていたから結構気に入っているのだろう。

 戦闘では食いしばりや衝撃(風属性)吸収、ランダマイザ(強力なデバフ)をもって敵に立ちはだかる強力な壁役(タンク)だ。電撃に弱いのが玉に瑕ではあったが。

 その役割もあったのしれないがとにかく目立つ事を好み、その存在感で敵を引き付けた。

 ガネーシャ自身が語るには商売の神であるとの事だったが、軍神は商売の神を兼任することが多いのだろうか。どこぞの武名高き三国武将も商売の神として奉られていると聞いた覚えがある。

 

 商売はさておき目立ちたがりなその気性が変わっていないのならば、ガネーシャの巨大な坐像(目の前のソレ)も納得できるというものだ。

 だが、あなたも想定しなかったことをやらかす奴もいる。

 巨大な坐像を目印にガネーシャの本拠地(ホーム)、アイアム・ガネーシャへと辿り着いたあなたはそれを思い知らされた。

 

「いやぁ、僕も初めて来たんだけどさ。これは……」

 

 目的地が近づき実態が明らかになるにつれ、ヘスティアも言葉を失う。

 あなたが目印としてきたガネーシャの像は、あくまで目印(ランドマーク)だと考えていた。

 本拠地である建物は坐像の近くに建てられているのだと。

 

 しかし、あなたの想像に反して坐像そのものが本拠地だったのだ。

 しかも胡坐をかいたガネーシャ像の股間部分が入り口になっているなどと、誰が想像できようか。

 ご丁寧に周囲を白い塀で囲い広々とした空間を確保しているため、その中央に存在するガネーシャの像──もとい巨大な建物は異様に目立っていた。

 塀の周囲ではちらほらと立ち止まって建物を見上げる人々も居る。観光地にもなっているようだ。

 

「あ、ちょっと君。ガネーシャに会いたいんだけど、居るかな? ……この中に」

「ガネーシャ様ならいらっしゃいますよ。……ええ、この中に。取次ぎいたしますね。ヘスティア様とそのお連れ様でよろしいですか」

 

 ヘスティアがなんとか塀側の門にいたガネーシャの眷属に声をかけると、眷属も苦笑しながら応対をした。

 ガネーシャの眷属自身もアレはどうかと思っているらしい。

 しばらく待たされた後、ガネーシャの眷属によって本拠地の中へと案内された。

 

 応接室であろう部屋に通されると、あなた達を待ち受けていた男が大声を張り上る。

 

「ようこそ、俺がガネーシャである! 」

「知ってるよ……」

 

 宣言を受けてヘスティアが漏らす。声を上げた男はあなたも良く知るガネーシャそのものだった。全く変わっていない。

 

「珍しい顔が来たものだな、ヘスティアよ。ガネーシャ嬉しいぞ。だが! その隣の人修羅は珍しいどころではないな! しかもヘスティアと一緒だとはガネーシャ驚いた! ロキには会ったのか?」

 

 どうやらガネーシャも元仲魔であったロキの事を心配はしていたようだ。

 あなたはタケミカヅチにしたのと同様に、ルシファーに敗れてからいままでの経緯をかいつまんで説明した。

 

「おおそうか! ロキとは再会したのだな! しかしヘスティアの眷属となったとは……いや、それでロキの矛が納まるならその方がよいのかもしれん。ロキの眷属となっていたよりはまだマシだろうしな……」

 

 ガネーシャの心配事は頷ける。ロキが抜け駆けした形と取られてしまいかねない。

 ロキに薦められるまでヘスティアの正式な眷属とならなかったのもそれを危惧していたからだ。

 ならばなぜヘスティアならば許されるのか、と言えばひとえにこれまで男に入れ込んだことのないヘスティアの神徳であるといえる。

 ロキの言を借りれば『ヘスティアはお子ちゃまやからそこの心配はしとらん、それに()()()()()()()』だ。

 信頼というより釘刺しなのかもしれないが、今の関係を続ける限りは問題になることはないだろう。──恐らくは。

 

 それよりもガネーシャには頼みたいことがあったのだ。ロキとカーリーとの間に問題が発生するかもしれない。

 なんとか間に入って貰えたりはしないだろうか。

 

「ふむ、カーリーが相手か……ハッキリと答えておくぞ。俺にはムリだ!」

 

 あなた頼み事の内容を聞いたガネーシャは、即座に首を横に振った。

 しかしあなたは落胆しなかった。駄目元の願いであったから。

 壁役(タンク)のガネーシャとはいえ義理の母ともいえるカーリーを相手取るのは精神的にも物理的にも苦しかろう。

 母は強しとはよく言ったものだ。母と言えばパールヴァティはどうしているのか、あなたはガネーシャに尋ねた。

 

「母上は天界におられる。下界(コチラ)には降りていない」

 

 ガネーシャが遠い目をして答える。話を聞くに天界に居る神々の数が減った為、(シヴァ)と共に絶賛デスマーチ中らしい。

 最近降りてきたというヘスティアが気まずそうに俯いた。

 

「今回は力になれずに済まんな、また気軽に声をかけるがよい。だが人修羅よ、丁度良い時期に現れてくれたな。近々怪物祭(モンスターフィリア)も始まる。【群集の主】(ガネーシャ)の主催であるがゆえに存分に楽しんでくれ。──それとヘスティアよ、神々に怪物祭(モンスターフィリア)への協力を願う為に神の宴を開催する。そちらにも奮って参加してくれると嬉しい」

 

 怪物祭(モンスターフィリア)──ガネーシャ・ファミリアの主催で行うオラリオの中でも盛大な祭りである。

 ガネーシャ達が占有した闘技場の中で怪物調教(モンスターテイム)を実演するという。

 調教(テイム)の素質を持った冒険者は、モンスターに実力差を教え込むことで従順にさせてしまうことが出来るのだ。

 調教(テイム)とは少し違うがあなたにも覚えはあった。

 対話(TALK)を無視して襲い掛かってきた悪魔の群れを返り討ちにしていくと、瀕死で生き延びた最後の悪魔が命乞いをしてくることがある。

 あなたはそのままトドメを刺すこともあれば、仲魔とすることもあった。調教(テイム)もそれに近いものだろう。

 上手くすればあなたもモンスターを調教(テイム)して、【召喚】のストックに入れることが出来るかもしれない。

 

「うむ、人修羅ならやれて不思議はない。このガネーシャが保証しよう!」

「だからってなんでもかんでも拾ってきちゃ駄目だからね」

 

 と、ガネーシャもあなたにお墨付きを出した。

 ダンジョンに挑む前に思わぬ情報が手に入った事にあなたは顔を綻ばせるが、ヘスティアは渋い顔をする。

 まるで捨て猫を拾った子供に言い聞かせる母親である。流石のあなたもその位の分別はあるつもりだ。

 あなたとヘスティアは軽く言い争いを続けながらも、ガネーシャに礼を告げて場を後にした。

 

 

 応接室に残されたガネーシャが独り呟く。

 

「すまんな……人修羅。俺が【群集の主】(ガネーシャ)であっても、母には勝てぬのだ」

 

 これはカーリーの事を指した言葉ではない。

 パールヴァティがまだ天界に残っている。これは事実である。

 しかしガネーシャは下界に降りる際、パールヴァティにひとつ言い含まれていた。

 

 シン(あなた)を下界で見つけた際は即座に知らせるようにと。

 

 一度下界におりてから天界に戻ってしまうと、再び下界に降りられないのが神々の規約(ルール)である。

 その為パールヴァティはあなたが天界で出現しても、下界で出現してもいいように保険をかけていたのだった。

 慈母のように心優しくおっとりとしたといわれるパールヴァティだが、天然腹黒(案外したたか)なのだ。

 

 

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 アイアム・ガネーシャから南東へ進み、摩天楼(バベル)からみれば南にある地区の一角に、ディオニュソスの本拠地(ホーム)はあった。

 南の地区には繁華街の他、貴族達が通うような高級酒場や賭博場(カジノ)大劇場(シアター)などが並んでおり、美酒と芸術を愛する貴公子然としたディオニュソスによく似合う区域だ。

 当のディオニュソスの本拠地(ホーム)も彼のファミリアが経営する高級酒場に併設されていた。

 

「じゃあ、僕は待ってるからさ。君だけで行ってきなよ」

 

 ディオニュソス・ファミリアの門衛に面会を頼んだ所で、ヘスティアがそんな事を言い出してきた。

 ここまで来ておきながら結局腰がひけたらしい。

 あなたはヘスティアに呆れつつ、無理強いすることもあるまいと1人でディオニュソスへの挨拶に向かうことにした。

 

「ようこそ、ヘスティア伯母様の使いよ。歓迎する……と、シン殿ではないですか」

 

 ディオニュソスの眷属に案内をされた部屋に入ったあなたを、ディオニュソスが優雅に両手を広げて出迎えた。

 入ってきた人物をあなたと認識した時に訝しげな顔をしたが、最初から友好的な歓待だ。ヘスティアが話していた内容と違う。本神ではないからだろうか。

 あなたが内心首をかしげていると、ディオニュソスの方から質問を投げかけてきた。

 

「はて、私はヘスティア伯母様の使いが来たと聞いていましたが、それがシン殿だったとは。なかなか嬉しいサプライズですが何が起きているのでしょうか?」

 

 悩んだあなたはヘスティアが語った内容はひとまず置いておき、これまでの経緯を話すことにした。タケミカヅチやガネーシャに話した事と同様、オラリオで目覚め、ヘスティアに拾われてからのロキとの再会、そしてここに来るに到るまでの話だ。

 あなたの語った内容に、ディオニュソスは感動に打ち震えていた。そんな要素があったのだろうか。

 

「やはり、ヘスティア伯母様は素晴らしき神格者だ! オリュンポス十二神(栄誉ある地位)に列せられなかった私を哀れみ、竈の番という(とるに足らぬ)理由で私にその地位を譲ってくださった時のままだ!」

 

 あなたが聞いた話ではサボる為にオリュンポス十二神(面倒な仕事)を押し付けて怨まれているという話だった気がするが、どうも違うようだ。

 するとヘスティアが最近下界に降りてきた際に聞いたという嫌味もまた意味が違うのだろうか。

 

「え? ええ、確かに言いました。皆下界に半ば遊びに来ているのにヘスティア伯母様は千年近く降りてこられなかったものだから。軽いジョークとして言ったつもりだったのですが……はっ、まさかご自身の守護される竈を軽く言ってしまったのがまずかったのでしょうか? 降臨以降、ヘスティア伯母様が近づかれないのは身内贔屓を避ける為と思っていたのですが……」

 

 どうにもヘスティアとディオニュソスはお互いの事を勘違いしていたようだ。ヘスティアの被害妄想ともいう。

 どっと疲れを感じたあなたは、ディオニュソスに少し待っているように伝え、ヘスティアを連れに戻るのだった。

 

 

 

「なんだよ、それじゃあビビッてた僕が間抜けみたいじゃあないか」

 

 あなたの説明を聞いたヘスティアは憤懣やる方ないと口を尖らせた。

 そもそもサボる為に仕事を押し付けるの方が悪いのではないだろうか。

 結果として良く受け取られただけで、ヘスティア側の真意はサボりなのだから。

 

「うぐ、それはそうだけどさぁ」

 

 あなたの指摘にヘスティアは項垂れた。

 とにかくヘスティア側の誤解を解いたのだから、このままディオニュソスと仲良くして貰わないと困る。

 

「本当にシン君の言う通り、ディオニュソス君は怒ってないんだろうね? 信じるからな?」

 

 ヘスティアは半信半疑ながらもあなたに従い、ディオニュソスの元へと連れられて来た。

 あなたが連れて来たのがヘスティアだとわかると同時に、ディオニュソスは頭を下げる。

 

「ヘスティア伯母様、申し訳ない。私が短慮だったようだ」

「へ!? い、いや! ディオニュソス君が頭を下げる理由なんてないよ、本当に!」

 

 ディオニュソスの突然の謝罪に、ヘスティアは慌てながら大げさに腕を横に振って否定する。

 全くその通りだ。あなたがうんうんと頷いているとヘスティアに横目で睨まれた。

 

「シン君め、今に見てろ。とりあえず、ディオニュソス君。今日はシン君をつれて挨拶に来ただけだから、また改めて来るよ」

「ヘスティア伯母様やシン殿ならばいつでも歓迎します。私の眷属達にもそう伝えておきます」

 

 苦手意識を持っていた事が誤解だったのが判明した為か、あなたに向けた言葉とは裏腹に足取り軽くディオニュソスに別れを告げるヘスティア。

 ディオニュソスも柔和な笑みを浮かべて、再会を願った。

 あなたもヘスティアに続いて暇を告げると、ディオニュソスは微笑みながらあなたに告げる。

 

「余計なお世話だろうが、以前の悪魔じみた混沌王(あなた)よりも今の感情豊かな人の子らしい人修羅(あなた)の方が私には好ましい。できる事ならば今の心を忘れずにいて欲しい」

 

 ディオニュソスの言葉があなたに突き刺さる。

 言われてみると力を着けるたび、新たにマガタマをマスターするたびにあなたの心は人を捨て去っていった。

 もしルシファーを倒していたならば、あなたは身も心も完全な悪魔と成り果てていただろう。

 結果としてルシファーに破れ、マガツヒを大量に失ったことで人間性も取り戻したことになるが、このまま力をつけていくのは再び完全な悪魔への道を歩むことになるのではないか。

 あなたの中に新たな悩みが生まれた。

 

 しかしダンジョンの奥にいるであろう()には、力をつけないと勝つことは出来ないだろう。

 ()を無理に倒す必要はないのかもしれない。

 それでも運命ではなく()に翻弄されたあなたは、()を倒すことを望む。

 今はまだ、進むしかない。

 後戻りをするほど進んでおらず、選ぶだけの道も見えていないのだから。

 

 

 




まもれなかったよ……


ディオニュソス関連は独自設定という名の捏造多目。
本拠地の場所の根拠は本文中で説明している通り。

次回は3/3(土) 23時更新目標
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