ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

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第8話 魔石の国

 ダンジョンの存在する摩天楼(バベル)のすぐ北西にギルドはあった。

 あなた達が今まで居たディオニュソスの本拠地(ホーム)からだと、南の大通り(メインストリート)を北上し、バベルの麓を回って北西の通りに進む形だ。

 石造りの白い柱が遠い昔にTVで見たギリシャの神殿を思い起こさせる。

 そんなギルドの建物の前に、あなたとヘスティアは辿り着いた。

 

「さて、この奥がギルドだよ。本当は僕もついていってあげたい所なんだけど、主神が眷属につきっきりで手続きするというのもナメ……外聞が悪いし、バイトもあるからね。必要な情報はココに書いてあるから、それと一緒に共通語の読み書きが出来ない事と、地元の言葉なら読み書き出来ることをギルドの受付に伝えるんだよ」

 

 ヘスティアが心配そうにあなたを伺う、まるで母親である。

 バイトをする女神の外聞は問題ないのだろうか。そんな疑問があなたの頭をよぎるが、すぐに振り払った。

 これからはあなたが稼いでくれば良いだけの話なのだから。

 あなたは心配要らないとヘスティアに手を振って、ギルドの方へ歩き始めた。

 その後姿をヘスティアは心配そうに見守っていたが、暫くして『僕も頑張らなきゃ』と呟くとその場を後にする。

 

 ギルドに入ったあなたの応対をしたのは、眼鏡をかけた美しい女性だった。

 その尖った耳を見るにエルフだろうか。リヴェリアほどではないからハーフエルフなのかもしれない。──この世界に居れば、だが。

 

「冒険者登録の方ですね、私はエイナ・チュール。ハーフエルフです。登録に当たって記入して頂きたい書類がコチラになりまして──」

 

 どうやらあなたの予想通りハーフエルフだったようだ。

 冒険者の申請用の書類と見られるものを指し示したエイナに対して、あなたはヘスティアに言われたとおりにあなたの情報が書かれた紙を渡し、共通語の読み書きが出来ない旨を告げた。

 

「なるほど、共通語の読み書きが出来ない方も稀にいらっしゃいますよ。こちらにかかれた内容で代筆しますね。──間薙・シンさんですね? ヘスティア・ファミリアに所属で当然レベルは1……と。歳は17、出身は極東……えっ? オオクニヌシ様の……えっ!?」

 

 タケミカヅチが懸念したとおり、神と人の間に子が出来るのは珍しいのだろう。

 エイナは紙に書かれた情報をあなたにもわかるように確認しながら書き写していくが、オオクニヌシの子という情報が書かれたと思われるあたりで手が止まった。紙を二度見してからあなたをマジマジと見つめる。

 あなたは少々照れながら頭の後ろを掻いた。

 

「こ、これに書かれている事は本当なんでしょうか?」

 

 エイナが疑わしげに尋ねてくるが、あなたは当然ながら肯定を返す。主神であるヘスティアは勿論のこと、タケミカヅチやロキも保証すると付け加えて。

 複数の神を保証神として出されたら納得をせざるを得なかったのだろう。エイナは冷や汗を流しながら頷くと、書類を書き進めた。

 

「わ、わかりました。あとでその方々にお伺いするかもしれないとお伝え下さい。ギルドの登録ではこうして代筆もしますが、共通語の読み書きが出来ないというのは後々支障が出ますので覚えるようになさってください。それからあなたの故郷の字で良いのでこちらにお名前の署名をいただけますか?」

 

 書類の最後にあった署名欄と思われる箇所にあなたの名前を署名する。これで手続きは終わりだろうか。

 

「書類の記入はこれで終わりですね。あとは失礼ながら冒険者として初心者だとお察ししますので、冒険者としての規約(ルール)を説明いたしますね。少々長くなりますので別室にどうぞ」

 

 神の子であるとハッタリをかました為か、エイナにはずいぶんと硬い態度を取られてしまっている。

 実際ギルドは冒険者にとっての役所のようなものなのだろうが、あなたにとってはお役所仕事的なのは少々居辛い。

 あなたが駄目元でエイナにもう少しフランクに接して貰えないかと頼んでみると、意外なことに快諾を得られた。

 

「あなたからそう言われるのでしたら──うん、私もこっちの方が気は楽かな。よろしくね、シン君。そんなに歳は離れてないけど、一応年上だしね」

 

 エイナの歳は19らしい。あなたからみて1~2学年上と考えると確かに大差はないかもしれない。

 エイナの案内で別室に通されると、さっそく冒険者についての説明が始まった。

 

「まずギルドとファミリア、冒険者の関係について説明するね。ギルドはオラリオの運営、それに伴ってダンジョンとそれに関わる全ての管理を任されているの。当然ファミリアや冒険者もその中に含まれて、冒険者に対しては冒険者登録を行う事でオラリオの住民としての一定の地位と権利を約束する──ここまではいい?」

 

 あなたが最初に感じた印象どおり、ギルドは役所のようなものなのだろう。下界に降りた各々の神々の手駒である冒険者が野放図に動いてもあまり良い事はない。中立の管理機関が出来るというのも必然か。

 しかし、地位と権利が与えられるなら義務も当然発生するはずだ。

 

「いい質問ね。シン君の質問通りに冒険者それと冒険者が所属するファミリアには一定の義務が発生するわ。冒険者にはダンジョン内の情報の提供してもらったり、『魔石』の回収──これは実際はギルドが『魔石』を買い取りすることになるんだけど色々な魔石製品の資源となるから奨励されているの」

 

 魔石製品と言われてあなたは部屋の天井を見上げる。

 閉め切られた室内を照らしているのは天井で仄かに輝く『魔石灯』。あなたはこれが魔石技術によって開発された魔石製品だと聞いている。

 最初にそれを聞いたときには驚くと同時に感心したものだ。

 このオラリオのある世界は、以前の東京と比べると技術という点では比較にならない程低い。

 だが高度に発達した技術は悪魔や魔法を世界の裏側(アンダーグラウンド)へと押しやり、結果として氷川のような奴の暴走と東京受胎(世界の滅亡)を招いた。

 一度世界が滅びて作り直されたのだ、技術の後退は当然の事だろう。

 しかし新たな世界の人々は、魔法やモンスターなどと隣り合って生き延びてきた人々は、悪魔(あなた)達が肉体の修復にしか用いていなかったマガツヒの結晶(魔石)をなんとエネルギー源として有効利用しだしたのだ。

 

 マガツヒは水のようにいくつかの状態が存在する。悪魔やあなたが直接取り込める状態のマガツヒ。これはマガツヒで出来た悪魔の体を直接傷つけたり、あるいは生身を持った人間の極度な精神の動きから搾り出せるものだ。

 だからかつての悪魔達はマネカタや勇を捕らえて、マガツヒを搾り出す家畜のような扱いをしていたのだが……。

 そうして得たマガツヒが魔石として悪魔の中で育ち、魔石を核として悪魔達は自らの肉体(チカラ)を強化していった。

 悪魔は肉体がマガツヒで出来ている為、傷つけばその分マガツヒは漏れ出し、倒されればその体の大部分が吸収可能なマガツヒへと戻る。

 あなたや仲魔達、そして()()()をするような悪魔の自己強化手段はこちらだ。

 あくまで人間や悪魔が傷つき滅びるなどの状態を介さないと、マガツヒという精神エネルギーは吸収できる状態にならないのだ。

 

 悪魔はマガツヒを吸収し、核となる魔石──あなたの場合はマガタマだが──に蓄え、魔石が肉体を作り出す。この循環(サイクル)は不変のものであり、マガツヒの結晶といえる魔石からは直接吸収するようなマガツヒを作り出すことは出来ない──はずだった。

 しかしこの世界の人類は、どのような手法かはわからないが、魔石のエネルギーを直接活用ということをやってのけた。驚嘆に値する成果である。

 人類は本当にしぶとい。あなたがルシファーに敗れたのは、あなたが完全に人を捨てた悪魔になろうとしていたからかもしれない。そんな風に思ってしまう程度には。

 

「ちょっと、シン君聞いてる?」

 

 少し気が逸れていたのをエイナに注意されてしまった。しかしあなたは魔石と人類に想いをめぐらせながらもちゃんと話は聞いていた。

 魔石関連はギルドの独占事業であり、他の商業系ファミリアに流すのはご法度。ただし魔石以外のドロップアイテムに関しては自由なのでどれだけ価値を付けられるかは交渉力次第。

 そんな話をしていたはずだ。

 

「ちゃんと聞いてるんならいいけど、絶対にダンジョン内では気を逸らさないでね。私がどの冒険者にも口を酸っぱくして言っている事なんだけど『冒険者は冒険しちゃいけない』。この意味はわかる?」

 

 『冒険者は冒険しちゃいけない』。冒険するのが冒険者ではないのかと矛盾を感じる言葉ではあるが、あなたには理解出来ないこともない。

 油断大敵。あなたも突然の不意打ち(バックアタック)で壊滅寸前に追いやられ、死が間近に迫るような事は何度も経験している。経験を積めば積むほどそういった事態は減っていったが、単純に気を抜いたら壊滅()()では済まないからだ。

 だが理解できる事とそれに従うことは話が別である。かつての東京受胎では突き進んだ者のみが結果を得られたのだ。

 危険だからといちいち立ち止まっていたら、きっとあなたが勝ち残る事はなかった。

 何度も痛い目にはあったが、それでも生き残ったから今ここに居るのだ。

 決して油断をするつもりはない。しかし、危険は冒す(冒険はする)だろう。あなたは冒険者である前に人修羅なのだから。

 とはいえ素直にそんな事を話せば目の前のエイナ(彼女)がどう反応するかはあなたにも予想が容易い。

 だからひとまず話を合わせておくことにした。

 

「うんうん、わかってくれているようでなにより。それで冒険者の主な収入源は魔石やドロップアイテムの換金なわけだけど、その冒険者が所属するファミリアには税金を納める義務があるの」

 

 それもわからないではない話だ。エイナのような人の子が働いている以上、無償で組織を運営することなどとても出来ない。

 ならば何処から徴収するのかといえば、便宜を図っている冒険者やその冒険者が所属するファミリアだろう。

 

「ファミリアの納税額はランクによって変わって、ランクはファミリアの規模や功績で決められるんだけど、シン君の所属するヘスティア・ファミリアは発足したてで構成員もシン君1人だから当然最低ランクのIね」

 

 規模が小さい分義務(ノルマ)が低いということではある。

 ダンジョンには遊びに行くわけではない。それなりの手土産がないと赤字となってしまうが、ランクが低い間はあまり心配がいらないのだろう。

 それでも冒険者(シン)が稼がないとヘスティアのバイトが終わらない。

 

 その後もエイナにダンジョン1階層の概要や、出現するモンスターとその対処法、ダンジョン内での一般的なマナーなど、冒険者としての基礎知識を懇切丁寧に説明され、ようやくあなたは解放された。

 

「何度も言うようだけれど、冒険なんかしちゃ駄目よ。本当なら初心者を単独(ソロ)で送り込みたくないし、ファミリアの他の眷属(メンバー)が揃うのを待って欲しい位なんだから!」

 

 エイナは説明中に何度となく言われた言葉をまた繰り返した。すっかり口癖になっているのだろう。

 しかしエイナの目は純粋にあなたを心配しているようだ。

 あなたはエイナを心配させるような事はしない。そう請け負った。……今日の所は。

 どのみち3神への挨拶周りや、エイナの説明で時間を喰ってしまっているのだ。

 どのみち今回はあなたの体がどこまで動くかと、最上層のモンスターの強さの確認といった程度で本格的に潜るつもりはない。

 

「無理はしないでね。命はひとつしかないんだから」

 

 そんなに頼りなく見えるのだろうか。エイナの再三の注意にあなたは若干肩を落としながらも、手を振ってギルドを後にした。

 

 

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 緑色の肌をして角を生やした小柄な人型の怪物。それがゴブリンだった。

 あなたは最初に会話(TALK)を試みたが、カグツチが煌天であった時のように会話の余地がなく襲い掛かってきた。

 仕方なくアナライズできたゴブリンの魔石を貫くように剣を突き出す。

 ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく灰となって消滅し、後には二つに割れた小さな魔石だけが残された。

 

 魔石を拾って色々眺めてみるが、あなたの知っている魔石と変わらないようだ。

 今の戦闘はあっけなく終わったためあまり参考にはならなかったが、会話(TALK)の結果を考える限り少なくともこの階層では仲魔を増やす事は無理かもしれない。

 もっともこの程度の強さでは仲魔とする意味もないか。

 

 あっさりと考えを切り替えると、あなたは次の獲物を求めてダンジョンを進み始めた。

 次の獲物は2体のゴブリンだった。

 今度は会話をしようとせず、一気に距離を詰めて(【突撃】して)斬りかかる。

 不意打ちを受けた片方のゴブリンの首を飛ばし、戸惑う残ったゴブリンに対してあなたは左腕を突き入れた。

 そしてあなたが腕を引き抜くと、その手にはゴブリンの魔石が握られている。

 魔石を奪われたゴブリンはそのまま形が崩れ灰となって消滅するが、首を刎ねられたゴブリンの死体はまだ残っていた。

 

 そのままゴブリンの死体から魔石を抉り出すと、ゴブリンの死体は徐々に形を失って消滅していく。

 レベル1とはいえあなたは人修羅である。この階層のモンスターではあなたの敵ではない。

 あなたは改めてそう認識をすると、手にある魔石を背負い袋(バックパック)の中に入れた。

 このバックパックはロキの入れ知恵のひとつである。

 あなたは【召喚】でアイテムを異空間に保管していつでも取り出せるが、このオラリオでそんな真似が出来る者はいない。

 そこである程度の物はバックパックで持ち歩きつつ、バックパックから出し入れする振りをして【召喚】でアイテムを扱うのだ。

 そうすればあきらかにおかしな物量を取り扱わなければ悪目立ちすることもないだろう。そのはずだ。

 

 それとあっさりと終わったように見えて今の戦闘でいくらかの発見があった。

 【ステイタス】では表示されていなかったが、マガタマからは物理攻撃スキルもしっかりと引き出せているようだ。

 【突撃】を行った際、先程普通に攻撃したときよりも切れ味は良かった気がする。そして若干の体力の消耗もあった。

 恐らくは物理攻撃スキルが機能したのだと思う。

 あとは敵が弱いうちに他のマガタマも色々と試しておかなければならない。

 あなたは精神を集中して、マガタマを海神(ワダツミ)へと切り替えていく。

 マガタマの切り替えは精神の集中が必要だ。戦闘中の咄嗟に切り替える事は難しいだろう。

 1階層に出る敵ならば問題はないが、下の階層に進むにはやはり弱点のあるマガタマのままでは厳しいかもしれない。

 あるいはマガタマの扱いにもっと習熟すれば、もっと早くマガタマの切り替えを行えるようになるのか。

 

 あなたの課題はまだまだ山積みである。

 あなたはひとまず目下の課題である【アイスブレス】(氷結魔法)の使い勝手を確かめるため、新たな獲物を探し始めた。

 




 魔石関連は捏造設定山盛り。

 真・女神転生Ⅲの魔石とダンまちの魔石が同じものであるという前提のもとに、なぜ魔石でHPを回復できるのかという理屈を付けてみました。
 ダンまちの冒険者は人の子なので魔石でHP回復はできません。
 え? 他の女神転生では悪魔ではない人間も魔石でHP回復する?
 真・女神転生Ⅲは人の子いないから……。

 次回は3/10(土) 23時更新予定
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