ダンジョンに人修羅がいるのは間違っているだろうか   作:巴里と鬼神

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第9話 うしととら

 あなたがヘスティア・ファミリアに加入してから4日目。ギルドに冒険者登録をした翌日に、あなたは朝からダンジョンへと挑んでいる。

 現状のマガタマの性能は冒険者登録初日(前日)の1階層探索で確認できていた。おまけに初冒険かつ単身(ソロ)の冒険者としては決して少なくない量の魔石を集め、エイナを呆れさせたという些細な出来事もあった。

 ヘスティアは予想外の収入に喜びを隠せない様子だったが、あまり無茶はしてくれるなよとあなたに忠告するのも忘れなかった。

 

 今回の目的は下の階層に進むとどの程度モンスターが強くなっていくのか……あなたがどこまで進めるのかを確認する為だ。

 エイナには冒険しちゃ駄目(いつもの口癖)と共に少しでも苦戦をするようなら先に行ってはいけないとの言葉を貰ったが、あなたは既に15階層へと足を踏み入れていた。

 上層のモンスターはあなたの敵ではなかった。

 唯一厄介というより面倒だったのは集団で現れて【毒ガスブレス(毒の鱗粉)】を撒き散らすパープル・モスだったが、解毒薬(ディスポイズン)には余裕がある為猛毒状態(POISON)も問題にはならない。

 13階層を越え中層に入ると敵は少し手強くなったが、敵の解析(アナライズ)が出来ればヘルハウンドもさほど脅威ではなかった。

 マガタマを火炎無効の不知火(シラヌイ)に切り替えていれば、ヘルハウンドの【ファイアブレス】を無視できるのだから。

 

 普通の冒険者から見れば1レベルのソロで中層に降りるあなたは異常に見える。事実を知ったエイナからは説教されるかもしれない。

 しかしあなたの()()()()()()()()()()から先に進んだだけなのだ。それに神の子という設定(予防線)を張ったとおりにあなたは普通ではない。

 あなたは自身の現在の実力を測る為に獲物を探していたが、今の所あなたが満足するような敵は現れていなかった。

 仲魔探しも芳しい結果とは言えない。モンスター自体も知恵は持っているようだが、意思疎通を上手く行えていなかった。

 魔王(サタン)のマガタマのスキル【ジャイヴトーク】を引き出せていればあるいはといった所ではあるが、ないものねだりはできない。

 

 中層に入り心持ち広くなった洞窟の中をあなたは進んでいく。

 現在励起中のマガタマは、ヘルハウンドの奇襲にも耐えられるように不知火(シラヌイ)

 火炎属性の攻撃を遮断できる代わりに衝撃()属性が弱点となるが、この階層には風属性で攻撃してくるものは居ないはずだ。

 あなたは少なくともヘルハウンドの奇襲よりも確率は低いだろうと判断した。

 ダンジョンは先に進めば進むほどモンスターとの遭遇率(エンカウント)が高まっている。

 だから不意を衝いたかのように虎のモンスターが飛び掛ってきたのもある程度は予想できていた。

 

『ガァッ!』

 

 あなたはモンスターの攻撃を屈むようにかわして距離を取る。

 初めて出会うモンスターを相手にやる事はいつも変わらない。

 あなたは異空間(ストック)から万里の望遠鏡を取り出して覗き込んだ。

 万里の望遠鏡による【アナライズ(解析)】の効果でモンスターの情報が判別出来るのだ。

 妖獣ライガーファング。火炎弱点、氷結・呪殺無効。

 都合の良い事に現在使用可能な【ファイアブレス(火炎属性攻撃)】で攻めていけるようだ。

 注意すべきは【雄叫び】によるあなたの攻撃力低下(デバフ)か。

 能力低下(デバフ)は戦闘が長引くとより厄介になってくる。手早く弱点を攻めて片付けた方が良いだろう。

 あなたは【ファイアブレス】を放つ為、大きく息を吸い込んだ。

 

『ガァァッ!! ギャン!?』

 

 飛び掛ってくるライガーファングを迎え撃つように放たれた【ファイアブレス(火炎の吐息)】。

 大虎は火達磨となって地面に転がった。あなたはその隙を逃さぬよう距離を詰めて長剣を振り下ろす。

 

『ガッ!?』

 

 致命傷を受けたライガーファングは最後の足掻きとばかりに爪を振り回すが、苦し紛れの攻撃を喰らってやるほどあなたは人間が出来てはいない。いや、人間ですらなかった。

 

『グッ! ゴボァ……』

 

 反対にあなたの長剣がライガーファングの喉元に突き刺さる。それがトドメとなってライガーファングは息絶えた。 

 あなたがライガーファングから魔石を抉り出すと、ライガーファングの体が崩れて灰となりマガツヒへと昇華されていく。

 マガツヒを吸収しながら残された灰を確認すると毛皮だけは残されたままだった。

 ライガーファングのドロップアイテムである『ライガーファングの毛皮』だ。

 しかしその状態はお世辞にも良いとは言えなかった。毛皮が焼け焦げているのは明らかにあなたの【ファイアブレス】の所為である。

 弱点を衝けば有利に戦えるとはいえ、こうした結果まで考えると手段は考えた方が良いのかもしれない。

 考えた所でソロで潜っているうちは命あっての物種だから、手段などを選んではいられないのだが。

 周囲を警戒しながら毛皮をバックパックにしまっているあなたの手が止まる。

 微かに何者かの足音が聞こえた気がしたからだ。

 毛皮はそのまま異空間(ストック)に入れてしまうと、静かに物陰へと移動し奥の様子を伺う

 

『ヴヴォォ』

 

 通路の奥からは獰猛なモンスターの息遣いが聞こえる。あなたは慎重に息遣いの主を確認した。

 大戦斧(バトルアックス)のような大型の天然武器(ネイチャーウェポン)を手にした牛頭人身の魔獣──ミノタウロスだ。幸いまだ気付かれてはいない。

 あなたは物陰に身を潜めながら、魔獣に気付かれないように万里の望遠鏡を取り出してアナライズをかけた(覗き込んだ)

 氷結弱点、電撃・呪殺無効。

 注意すべきは【気合い(チャージ)】からの強烈な一撃と耐久力に任せた【猛反撃】、そして強制停止(リストレイト)とも呼ばれる緊縛状態(BIND)を引き起こす【バインドボイス(咆哮)】。

 至近距離で金縛りにあってチャージからの一撃を喰らってはいかに人修羅のあなたといえどもひとたまりもないだろう。

 攻撃を受けても構わず反撃してくる可能性も考えれば迂闊な接近戦は避けるに限る。であれば方針は決まったも同然だ。

 ──適度に距離を取りながら、弱点の【アイスブレス(氷結属性)】中心に攻める。ただ精神力(マインド)の問題から多少の直接攻撃も織り込む必要はある。

 あなたは精神を集中して海の神霊を想起し、マガタマを海神(ワダツミ)に切り替えた。

 

『ヴォッ!?』

 

 この階層の主とばかりにダンジョンを我が物顔で闊歩するミノタウロス(魔獣)に突然強烈な吹雪が襲い掛かる。

 奇襲をかけたあなたの【アイスブレス】だ。

 屈強なミノタウロスの身体はみるみる霜に覆われて、動きが緩慢な状態となった。

 あなたはすかさず距離を詰めてミノタウロスを袈裟懸けに斬り付ける。

 凍結状態(FREEZE)時に与えた渾身の一撃でもミノタウロスに致命傷を負わせるには到らなかったが、あなたはミノタウロスの大きく息を吸う動作を見て追撃を欲張らずに距離を取り防御体制に移る。

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 同時にミノタウロスが聞くものを怯え竦めさせる【バインドボイス(咆哮)】を放った。あなたがそのまま至近距離に留まっていたならばたとえ注意していても身を竦めてしまっていただろう。

 しかし防御体勢を取ったあなたに咆哮は有用な効果を与えず、逆にあなたの攻撃の隙を作り出した。

 再びミノタウロスを凍える吐息が襲う。

 先程と同様に距離を詰めて追撃を行うあなただったが、先程とは違う点が1つあった。

 弱点である氷結属性での攻撃で更に隙を作り出すことに成功はしたが、今度はミノタウロスの動作を止める(FREEZE)には到らなかったのだ。

 

『ヴォヴォッ!!』

 

 自らの体に食い込む長剣をものともせず、ミノタウロスは大石斧を振り回す。

 斬りかかった姿勢のあなたは防御もままならずに【猛反撃】を喰らって吹き飛ばされた。

 

 あなたは数Mの距離を飛ばされ、壁に叩きつけられる。しかし、剣は辛うじて手放さずにすんだ。

 致命傷ではない。だが全身を打ち付けられてかなりの負傷(ダメージ)を負ってしまった。

 あなたも当然油断をしていたつもりはないが、1レベル()のあなたではミノタウロスは一手読み間違えるだけで状況を覆されかねない相手だ。

 流石に今まで通りの相手とはいかないと気を引き締めなおして、異空間(ストック)から魔石を取り出した。

 魔石を体にあて、力を込めると魔石はあなたの肉体と同化していき、受けていた傷を修復する。

 あなたは改めてミノタウロスに向かい合うと、【アイスブレス】を仕掛ける為の予備動作に移った。

 

 あなたとミノタウロスとの戦いは長時間に渡った。

 氷結属性での弱点を突きながら隙を見ては追撃を加え、凍結状態(FREEZE)にならなかった場合は距離を保ち続ける。

 時折ミノタウロスの突進を受けて浅くはない負傷(ダメージ)を負うが、魔石により回復していく。

 この際勿体無いなどとは言っていられない。

 とにかく距離を取り続け、【バインドボイス(咆哮)】の直撃だけは受けないように立ち回った。

 

 距離を取る為に移動しながらの戦い、しかしダンジョン(この場所)はあなたとミノタウロスの一対一(タイマン)の決闘場などではない。

 

『キュァッ!』

 

 走るあなたに横合いから石斧(トマホーク)が投げつけられる。

 なんとか石斧(トマホーク)を避けたあなたが石斧(トマホーク)が飛んできた方向を見ると、額に角の生えた小人族(パルゥム)程の大きさを持った兎──アルミラージがそこにいた。

 アルミラージは二足で直立し片手には今しがた飛んできたものと同様の石斧(トマホーク)を構えている。

 あなたにとってアルミラージ単体ではさほど脅威ではないが、ミノタウロスとやり合っている今は同時に相手をしていられない。

 アルミラージだけではない。動き回っていれば他のモンスターとも出くわすだろう。最悪ミノタウロスが増える可能性もある。

 時間をかければかけるほど、状況は悪くなっていく一方だ。そう判断したあなたはまずアルミラージに向かって駆け出した。

 

『キュイッ!』

 

 迎え撃つように振るわれたアルミラージの石斧(トマホーク)をかわし、一旦アルミラージの脇を抜けると反転。

 

『ギュッ!?』

 

 全力でアルミラージを蹴り飛ばした。丁度あなたを追って突進してきたミノタウロスに向かって。

 目の前に飛んできたアルミラージ(邪魔者)を腕で叩き落したミノタウロスに、再三吹き付けられてきた【アイスブレス】がまたもや襲う。

 

『ッッッ!!』

 

 モンスターも全く知恵を持たない者ばかりではない。事実ミノタウロスも【アイスブレス】による凍結状態(FREEZE)からの追撃の繰り返し(パターン)には慣れてきていた。

 あなたがミノタウロスの凍結状態(FREEZE)を見計らって追撃の有無を判断していることも。ミノタウロスが対策を思いつくのも時間の問題であった。

 そしてミノタウロスの目論見通り、凍結状態(FREEZE)を装った時に飛び込んでくる影が見えた。ミノタウロスは全力でその影に向かって大石斧を振り抜く。

 

『ヴォオオッ!!』

『ギュァァッ!』

 

 ミノタウロスの【猛反撃】を受け、小柄な一角兎(アルミラージ)はトドメを刺されて吹き飛んだ。

 ミノタウロスの下手な演技を見破ったあなたが、瀕死で倒れていたアルミラージを拾って投げつけたのだ。

 ミノタウロスが全力で振りぬいた腕の脇、至近距離から【アイスブレス】が放たれる。

 

『ヴォオオオオォォォォ…………』

 

 至近距離からの【アイスブレス(弱点攻撃)】は遠距離攻撃では拡散していたはずの冷気をすべてミノタウロスへ叩き込み、体力を消耗していたミノタウロスを芯まで凍てつかせるのには十分だった。 

 あなたはさらにそれを打ち砕く事でミノタウロスにトドメを刺し、長い戦闘に終止符を打った。

 

 流石に苦戦どころではない。エイナの言う通りこれで引き上げる他ないか、あなたはそう思いながらミノタウロスだった死体(モノ)から魔石を抉り出し始めた。

 見る見るうちにミノタウロスの死体は形を崩し、形を持たぬマガツヒへと変わっていく。

 あなたがそのマガツヒを集めだした矢先に()()は起こった。

 

 今までのモンスターとは比べ物にならない程純度が高く濃厚なマガツヒ。それはあなたの位階(レベル)を押し上げるのに十分なモノだった。

 その結果、あなたの奥底で休眠していた、今まであなたの呼び掛けに応えなかったマガタマの反応を感じるようになったのだ。

 火風水(ヒフミ)、そして神度(カムド)が新たにあなたの呼び掛けに応えるようになった。更に今励起している海神(ワダツミ)からも新たな(スキル)を引き出せるのを感じる。

 【一分の魔脈】、そして【氷結高揚】。あなたの【アイスブレス】はこれまで以上の威力を発揮するようになり、より多くの回数を放てるようになった。

 それだけではない。混沌(マロガレ)生命(アンク)祭祀(イヨマンテ)不知火(シラヌイ)といったマガタマの力も増し、海神(ワダツミ)の励起中でも他のマガタマから1つだけスキルの恩恵に預かれそうだ。

 これが冒険者のレベル上昇(ランクアップ)なのだろう、とあなたは判断する。これまでとは格段に出来る事の幅が広がった。

 あなたはロキが寝物語で話していたランクアップについての言葉を思い出す。

 

『ランクアップは単純に力を増すっちゅうのとはちょっと違うんや。人の子が、より(ウチら)に近い存在へと変化する。シンにわかりやすい感覚で言えばピクシーがハイピクシーへと成長する。それに近いんちゃうんかな』

 

 なるほど、と実際にランクアップを体験したあなたはロキの言葉が今更ながらに腑に落ちた。

 過去の東京受胎の戦いにおいて、倒した悪魔のマガツヒを吸収し続ける一定の区切りにおいて能力が成長したり、マガタマから引き出すスキルが増える事はあった。

 これはオラリオの冒険者における【ステイタス】更新時の基本アビリティ成長に近いものだったのだろう。

 しかし冒険者のランクアップは冒険者を種として成長させるのだ。かつてのピクシーが力を付けることでハイピクシーへと成長したように。かつてのあなたが完全に支配(マスター)するマガタマを増やしていく事で、あなたの魔人という種族が最終的に混沌王へと変化していったように。

 

 それならば今日はまだ時間は残されている。

 ランクアップした今ならば先程まで手間取っていたミノタウロスも苦戦するほどとは限らないだろう。

 新たな力も確認してみなければならない。ならば急いで戻ることもない。

 そんな言い訳を考えるほどにあなたの心は新しい玩具を与えられた子供のように高揚している。

 とはいえ死と隣り合わせの東京受胎を切り抜けてきたあなたは決して油断することなく、ダンジョンの奥へと足を進めていった。

 

 




ミノタウロスは真Ⅳのミノタウロスをベースに色々改変。
・元々は火無効だったのを電撃無効に変更。
 火無効だと【ファイアボルト】が通じなくなるのとアステリオス君が電撃使うからね。
・【バインドボイス】を追加。
 咆哮(ハウル)の効果(強制停止(リストレイト))を考えるとそのまま【バインドボイス】で良さそうだった為。
・R-18なゲームのタイトルだったり、別のR-18なゲームのBGM名だったりする【鬼神楽】は残留。
 ただ【鬼神楽】は真Ⅳでは単体攻撃だけれど真Ⅲでは全体攻撃なので全体攻撃。
 アステリオス(真Ⅳ)【メガトンプレス】(全体攻撃)を持っているので全体攻撃でいいかなって
 当作品では全体攻撃≒範囲攻撃なニュアンスで。

ライガーファングは妖獣ヌエをベースにそれっぽい感じに設定

次回は3/17(土) 23時更新予定
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