悪魔は彼の中に住む   作:正体不明.

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夜遅くまで馬鹿騒ぎをしていた生徒も眠りに落ち、草木も寝静まる夜。
リューゲは杖先の微かな光と、ひんやりと冷たい壁を頼りに、真っ暗なホグワーツの廊下を歩いていた。
今いるのは獅子寮からだいぶ離れたところ。
リューゲはここに来るまでに、既に数人の教師とすれ違っていたが、いま被っている「透明マント」のお陰で全く気付かれる様子は無かった。まぁ最も、流石に足音までは消してくれないのでリューゲは音をたてない様に気を付けて歩いていた。




目的地である天文台まで残り僅かとなったところで、リューゲは話し声が遠くから聴こえてくるような感覚を感じ、足を止めて耳をすます。

「ーーです。先ーー」
「我ーーーてーーやー」

途切れ途切れだが話し声は確かに聞こえた。足音がこちらに向かってきていることに気付いたリューゲは光を消し、透明マントを深く被ると壁際に寄り、気配を消す。
リューゲがやり過ごす準備を終えた瞬間、夜の闇に包まれた廊下に二人の男と猫が現れた。まさに間一髪、リューゲは小さく溜息を吐く。

「にしても…本当にこんな夜中に出歩いている生徒がいるとでもいうのかね?」

人を馬鹿にした様な、嫌味たっぷりのねちっこい声に相変わらずの真っ黒な装い。
間違えようも無い、我らが魔法薬学教授のスネイプだ。リューゲは思わず呻き声を上げそうになる。よりにもよってここで会うのがスネイプとは最悪だ。
リューゲは頭の中でスネイプに腹痛になって地下に帰れ、と呪詛を送るが魔法使い相手では駄目らしい。スネイプはどんどん此方に近づいてくる。

何故ここまでリューゲがスネイプに遭遇したくないかというと、この透明マント、実力がある者には効果が無いのだ。世界に数点しか無いという超高級品なら兎も角、イギリス国内で購入できる品ではホグワーツの教師を欺くには到底足りない。
まぁホグワーツの教師の中でも実力差があるため、バレる人と騙せる人がいる。
リューゲがここまでですれ違ってきた教師はマグル学や数占いの教師だったので大丈夫だったが、スネイプやマクゴナガルといった寮監レベルになると誤魔化すのも無理がある。

ダンブルドア?論外だ。

リューゲはこの約四ヶ月で教師を観察していたが、ホグワーツの教師たちの実力差は、
ダンブルドア→→→→→→超えられぬ壁→→寮監→→→→→→その他教師
という感じだった。

ましてやスネイプは変なところで勘がいい。
現に今も、髪型を見るにリューゲが匿名で送った髪がアフロになるシャンプーは使ってくれた様子はない。
それ以外にも以前フレッドがキレて魔法でスネイプのマントに、スニベルスなる言葉を書いた時も、生徒に気付かれる前に気付き、フレッドは減点&二時間尋問コースを頂戴していた。

そんなやたらと勘のいいスネイプと天文台目前で遭遇とは最悪だ。
スネイプが此方に近付いてくる。警鐘のように鳴り響く心臓の音が、スネイプにも聞こえているような錯覚に陥っていたリューゲは必死に息を殺す。
そして…

「誰だ?」

バレた。
無性に頭を掻き毟りたくなる衝動に駆られるリューゲだが今動いたらヤバイ、と告げる本能に従いその衝動を抑えて、せめてもの反抗として出来る限り呼吸音を小さくする。

「? 先生誰もいませんよ?」
「フィルチ、向こうへ行っていろ」
「どうい「早く!」

廊下にスネイプの怒声が響く。フィルチは慌てた様子で逃げていく。

「隠れてもわかる、とっとと出てきたまえ」

さて、これでリューゲとスネイプは一対一になった訳だが事態は全く進展していない、という事実にリューゲは頭を抱える。むしろさらにヤバくなっている。一体この状況をどうすりゃ良いのだろうか。
リューゲはもう寮に帰りたいと思い始めていたが、残念ながらそうはさせてくれないらしい。

次の瞬間スネイプは杖を抜き、声を出さずに魔法を発動する。無言呪文、流石といったところだろうか。
とはいえそう簡単にやられるリューゲでは無い。スネイプが杖を抜いた瞬間にリューゲはあるものをポケットから取り出していた。

赤い閃光がリューゲの眼前にまで迫ってくる。スネイプも怪我をさせる気はない。恐らくこれは武装解除呪文、此方が透明マントを持っていると判断したからだろう。
魔法がリューゲに当たる30cm前でリューゲは手に持つ新型の煙玉を地面に向かって投げつける。
フレッドとジョージからのプレゼントだが有効活用するのなら二人も文句は言わないだろう。

そして残り10cmでリューゲは閃光を避ける。その瞬間透明マントが揺らぐが、もう大丈夫。
何故ならばその次の瞬間、廊下には物凄い異臭のする煙が立ち込み、スネイプはリューゲを見失うから。

煙は廊下にどんどん蔓延していく。
だがこの煙はスネイプに直ぐ消されてしまうだろう。だから今のうちに…逃げる!!
何処かの国には逃げるが勝ち、という言葉があるらしい。リューゲはそれを素晴らしい言葉だと思っている。
逃げるのは恥ともなるが最後に勝てばいいのだ。と、いうことで。

兎も角ダッシュだ。当初の予定ではゆっくりとした夜間ホグワーツ体験ツアーとなる予定だったのだが、スネイプのせいでリューゲのプランはぶち壊し。弾丸ツアーとなってしまった。

心の中で本日二度目のスネイプへの呪詛を吐きながらリューゲは走る。後ろから足音は聞こえていないので大丈夫だろう、とも思うが何があるか分からない。とっとと目的を終えて寮に帰って寝るのが一番だ。

走ったお陰か天文台にはあっという間に着き、リューゲは螺旋状になっている階段を駆け上がっていく。
星と共にある、ということは天文台の一番上にあるのは明らかだ。だが一つ問題があるのなら、本当にあるのか分かったもんじゃないということだ。
天文台は天文学の授業でしょっちゅう夜に授業で使われているが、そんなもの見たことないし、聞いたこともない。つまりは始まりの言葉、とやらを出現させる為の鍵となるものが必要になるわけだ。
リューゲは左腕に抱えている板を見る。予想が正しければこれが鍵となる。


漸く辿り着いた天文台の一番上は月に照らされ美しく輝いていた。
リューゲは鍵穴を探して辺りを見渡す。

が、なかなか見つからない。

「……もしかすると…成る程な」












6 夜の冒険と忍びの地図

一夜明け、リューゲは朝っぱらからスネイプに詰問されていた。

 

「では、本当に昨日の夜は出歩いていなかったと?」

「当然じゃないですかスネイプセンセ!俺は模範的で成績優秀な優等生ですよー?」

「…成績優秀 素行不良の問題児の間違いだな」

「またまた御冗談を!」

 

の、だが流れる様に自然に嘘が出てくる口のお陰でリューゲはいつも通りに、ニカニカ笑っていた。

無論矛盾点などないし、リューゲの嘘がバレることはない、筈なのだが…。

 

「嘘を吐くな。夜間外出と教師に対する不敬で15点減点」

「……もう一回お願いします」

「15点減点」

「…俺の耳ついにぶっ壊れたらしい」

「15点減点だ」

 

「ふざっけんなー!!」

「五月蝿い、プラスで5点減点だ」

「……加点してください」

「駄目だ」

「クリスマスプレゼントで本あげたじゃないですか」

「賄賂のつもりか?というかあの中々に面白そうな香水も貴様からだろう」

「……ノーコメントで」

「とっとと帰れ」

 

誠に遺憾なことにスネイプには通じないらしい。

こうしてグリフィンドールの寮杯への道は遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝っぱらからスネイプの説教を食らったリューゲは朝食を食べずに、寮の部屋に戻る。

机の上に広げてあったのは一枚に古びた羊皮紙だった。

これが昨日の帰り道に手に入れた戦利品。

 

暫くの沈黙の後、リューゲは苦労して得た合言葉を言う。

 

「我。ここに誓う。我、よからぬことをたくらむ者なり」

 

はたから見れば完全に痛い人だがこれはこの「忍びの地図」を起動させるため。

そして羊皮紙は動き出す。

黄味かかった羊皮紙に真っ黒のインクが浮かび上がる。インクは蠢き出し、次々に文字を作っていく。

 

数秒後…リューゲの前にあったのは古びた羊皮紙などではなく、正真正銘の「忍びの地図」だった。

 

どうやらこの地図、何処に誰がいるかも分かるようで今大広間にはマクゴナガルしか居ないのが分かる。

更に、ふと校長室を見てみるとダンブルドアとスネイプが話しているのが分かる。流石に内容までは分からないがこの地図は凄すぎる。いくら効果範囲がホグワーツ内部のみ、とはいえどうやったらこんな地図を制作できるのだろう。

 

 

苦労して手に入れた甲斐があった、とリューゲは安堵の溜息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日リューゲは天文台の一番上で鍵穴となるものを探していた。だがいくら探してもそんなものは存在せずリューゲは一言叫んだ。

 

二代目悪戯仕掛け人!、と。

そしてその瞬間リューゲが持ってきた彼らからのメッセージの文字が変化して先程の合言葉が浮かび上がったのだ。半ば破れかぶれでやったので正解だったのには当のリューゲも驚いた。

 

そして合言葉を手に入れたリューゲはその足でフィルチの部屋にも忍び込み、危険物に棚からこの羊皮紙を、忍びの地図を拝借してきた、というわけだ。

 

 

「最高のクリスマスプレゼントありがとさん、悪戯仕掛け人」

 

 

リューゲは忍びの地図を机の奥に突っ込むと寮の部屋を出ていった。

 

 

 




ーボツ案ー

ス…スネイプ
リ…リューゲ


夜の廊下で
《その1》

ス「早く出てきたまえ」
リ「(꒪ཫ꒪; )ヤバイ……」

ス「……三分間待ってやる」
リ「ム○カ大佐!?」



《その2》

ス「誰かいるのか?」
リ(やべぇ…もういっそのこと……)

リ「ルーモス・カークス 永遠の光よ!」
ピカッ!
ス「むっ……あ、あぁ!? め、目がぁ、目があぁぁーー!!」
リ「ムス○!?」





すみません、巫山戯ました。
今回は文字数少なめです。次回は長めになるかな?
お気に入り、栞有り難うございます。来週半ばには更新ペースをもう少し上げたいと思ってます。
春休みって最高ですよね!


3月18日 修正済み

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