彼らのルネサンス【完結】   作:ノイラーテム

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ジ・グラード

●意図せぬガード狩り

 モモンガ達が穴から先に暫く進んでいくと、途中途中に入り込んだらしき獣や亜人種の死体があった。

 古い物でも腐敗を始めた前後であり、まだゴブリンなど妖魔系か、それともエルフなど妖精系か容易に判別できる。

 

「シズ。傷口の形は? それと……足跡はどうなっている?」

「傷は地上と同じゴーレムサイズの剣。足跡はゴブリン達だけ。やっぱり無い」

 モモンガはシズの答を聞いて暫く考えて居たが、ややあってもう一つ付け加えた。

 表で暴れ回った奴であるならば、もう一つ確認しておくことがあるからだ。

「傷口の方向はどうだ? 全て奥からか?」

「ううん。中には入り口の方からもある」

 モモンガはそれを聞くと、手だけは動かして念の為にゴブリンシャーマンらしき死体をゴーレムに載せながら、幾つかの事態を想定した。

 シズはそれを手伝ってゴーレムの荷台に括りつけ、黙って聞いている。

 

「あまり考えたくないがガード用のゴーレムが外に出て居る可能性があるな」

「外?」

 シズは思わず首を傾げた。

 ナザリックに所属するNPCに勝手に行動する者はいない。モモンガ達に命じられて連れだされるのも、初めてであるくらいなのだ。

「理由そのものはいくつか考えられるが、追い掛けて出たのか、外も守るべき領域だと設定してあったのか」

 自分の理解が及ばない事なので、シズは静かにしておいた。

 ナザリックの外に出るなど考えられなかったが、なるほど言われてみれば侵入者を追って、ナザリックの別階層までならアリかもしれない。

 言われるまで考えた事も無かったが、例えばシズにとっては妹であるエントマなどは第二階層の黒棺に行ったことがある話を聞いた様な気が……。

 

「モモンガさま、ちょー凄い」

「あ、いや。そうじゃないんだ。……この手の手法に覚えがあってね……あってな」

 思わずもれた尊敬の声にモモンガの心がくすぐられた。

 大したことないぞと言いたいような、ギルメンから教えてもらった知識ゆえに自慢したいような。

「あーうん。そうだな、やはり教えておこうか。能力的に倒せない筈の存在や、自分達だけでは難しい集団を誘き寄せて倒す方法がある」

「分断?」

 シズとて愚かでは無い。

 モモンガのくれた情報から、誘き寄せて個別に倒すくらいは直ぐに思い付ける。

「それの亜流だな。モンスターが壊さない公共施設(パブリック)……特定の属性防御で壊せない所に引っ張り込むとか。ナザリックだとそうだな……」

「おお……」

 町の周囲まで超強力なワンダリングモンスターを引っ張って来て、NPCのシティガードや他のPCと一緒に倒す。

 あるいは呪われたアイテムで呼び出すポップ型レイドボスを、ギルドの中の狭い場所で倒すなどなど。そんな知識を披露すると、シズは凄い凄いと感心してくれた。

 

「そういう手法は良くも悪くもガード狩りとか拠点狩りと呼ばれて、やり過ぎたら運営に目を付けられるんだが。ま、まあ脱線はここまでだ。言いたいのはソレに近い状況だということだ」

 モモンガは足元の土に簡単なT字路を描いた。

 銀貨と紐を使ってガード用ゴーレムを現すマーカーを造ると、次いで銅貨を何枚かT字路の上に置いて状況を説明する。

「本来はこの通路を始めとした、内部のみで行動する予定だった。命令された範囲はそこそこに広い」

「穴が空いて、そこ行っている間にゴブリン来た?」

 研究者達も、な。

 モモンガはそう言いながら、先ほど見付けた穴を振り向いた。もしかしたら今もまた、ゴーレムは外に居るかもしれないのだ。

 

「神殿が出口で、神殿から少し行ったところまでは範囲だった。偶々外から研究者を見掛けて……なんだろう。単に外の警備として回ってる最中かもしれないがな」

「夢中になったら、めー」

 通路の警備が主任務であるならば、追撃したり、見掛けた相手を襲うのはやり過ぎだろう。

 事実、侵入者である二人が入り込んで居るのである。

「そういう訳で、何が起きているのかは判った。問題なのは……解決するのが面倒と言うか、して良いのか判らんことだな」

 問題なのは、与えられた命令が判らないこと。

 シズの常識に合わせて、ゴーレムの移動半径を適当に付け足したが……。そもそも目に着いた人間・亜人種を殺せと命じられている可能性もあるのだ。

「まあ最悪は姿を消せば済むか。飛んで逃げても良いしな」

 そう言いながら、改めて通路の大きさと、先ほどの穴のサイズを思い出す。

 状況に関しては把握できた。しかし、形状に関してまったく判って無いのである。少なくとも翼で飛ぶ魔獣ではないというくらいだ。

 

●それは聖なる塔ではなく

 やがて二人は通路を抜けて、大きな盆地と高い塔を見付ける。

 盆地には小さな穴が複数開いており、モモンガは妙な既視感を感じた。

 

「これはまさか……鉱山か? そうか廃鉱を利用したんだな」

 考えて見ればゴーレムを造るのであれば、有望な鉱山を利用するのは当然のことだ。

 だがどんなに有望であっても、いつかは掘り尽くしてしまう。

「廃鉱ならば誰も見向きもしなくなる。なるほど、流石はタブラさん良く考えたな」

 ゲームであるユグドラシルに置いても、無限にポップするのは下位の鉱石のみだった。

 七色鉱のようなレア鉱石は基本的に同じ場所に続けてポップしないので、暫くは生産PC以外は見向きもしなくなるのが定番。最初に占拠した時、そして封鎖された時に忍び込んだ時……。よく秘密基地みたいだなと話込んだものだ。

 

「んー。だとすると少し悪いことしたかな。このルートって、全部調べた後で解放される場所だよな」

「だから罠がなかった?」

 今まで来た道を振り返って見ると、納得できる物があった。

 本来はガブリエッラが言って居たゴーレム・コンペのような、別のイベントで紹介されてからこの道を見付けたのではないだろうか? だとしたらタブラが自慢したい秘密基地を、出撃路・兼脱出路から逆走してしまったのだ。

「まあしょうがないな。……もしそうだとするならば、あの辺が正規のルートで……闘技場ポイ場所はそのまま試練の間かな」

「モモンガさま、あそこ」

 タブラがノリノリでイベント形式の作りをしたとして、逆算していくと幾つか想像できることがある。

 その中でシズが指差したのは、塔の脇だ。

 

 もし飛行魔法で塔を登った場合、どうなるかが端的に判る。

 そこに在ったのは……。

 

「ゲッ。無数のガーゴイルかよ。……あれ面倒なんだよなぁ」

 ガーゴイルはクリエイト・スタチューで創造されるゴーレムの一種だ。

 最近良く見て居るクリエイト・サーバントで造られたゴーレムよりも、機能が限定されているからこそ強い。石で造られているがアイアンゴーレムよりも強かった。

「飛んで一直線に宝物殿ってのは駄目ってことだよな。……ガーゴイルは警備用だから魔法知覚のレベルも高いし」

「……わたし、隠れてる? 駄目?」

 モモンガならば攻撃されても困らないし、不可知化も上位で行えるから問題無い。

 しかしシズはそうもいかないのだ。回数の限られている不可知化でもガーゴイルに感知される可能性が付きまとうし、回数制限の無い不可視化ではほぼ見抜かれる。

 

「シズを置いて行くわけにはいかんさ。まあボスの間に直行するとしようか」

「……ごめんなさい」

 謝るシズに対して、そんなことはないさとモモンガは頭を撫でる。

 今回は偶々出口から逆走したからこうなっただけで、イベントに沿って正規のルートからくれば別だったろう。おそらくは攻撃してこない場所に移動できた筈だ。

「どっちみちボスとは戦う羽目になっただろうから気にするな」

「はい」

 建物の中に入れば連れて居るゴーレムはともかく、シズが隠れることの可能な小さなスペースもあるかもしれない。

 部屋を封鎖してしまえば問題無いし、ボスを倒せば中を安全に移動するルートもあるだろう。

 

 そんな事を思いながら塔の中に進むと、祭壇のような場所にボスらしき影。

 そして……今までやってきた場所から、けたたましい音が聞こえて来るのが判る。

 

「二体同時とはまた面倒な。……まあボス部屋に入った段階で、アラームがあったんだろうけどな」

「あっち先?」

 モモンガはその音を聞いた段階で即座に塔の外を確認した。

 もしガーゴイルも連動する様ならば、目立ちたくは無いが高レベルの魔法も必要だろう。動か無いのであれば、一度外に出てからガード用のゴーレムを倒した方が良い。

「良し、動かないな。さっき言った分断と同じだ。先に外のガードゴーレムを倒すぞ」

「了解しました」

 モモンガが冷静に指示をしたことで、シズも本来の冷徹さを発揮する。

 愛着を見せていたゴーレムも隅っこに退避させ、自身は障害物となる場所に身を隠す。

 

 暫くして現われたのは、腕と一体化した剣と盾もさることながら、大きな叉袋が象徴的な人型のゴーレムだ。

 股間にある叉袋は実に特異で巨大、あんなに巨大だったら困るよな……と思わなくもないが、ゴーレムだから別の機能があるのだろう。

 

「もしかしてジャガンナートの山車か!?」

 ジャガンナートの山車というイベントがあり、元は神様を祭るお祭りだったらしい。

 それをモデルに暴れ回る神像ゴーレムを止めると言うか、相撲と称するレイドバトルに挑んだものだ。その時にタブラとかわした会話も直ぐに思い出せるくらいだ。

『祭りがあったという現地では、俗世の苦労を嘆いて山車の前に身を投げる人々が居たそうだよ。これがジャガーノートの語源であり、イベントの元ネタと言う訳だね」

『神像だからって強過ぎませんかねあのゴーレム!? しかも山車は山車で妙に強いし!』

 そんな過去の話を思い出しながら、モモンガは戦闘パターンを想定した。

 イベントの時は複数回攻撃とか馬鹿みたいに高い耐久値に困ったものだ。それというのも山車型のゴーレムと神像のゴーレムは別物で、途中まではそれに気が付かせずに偽装情報を表示して居たのである。

 

「確かに台車に乗るよりも、あのくらいのサイズの方が狙い難いけど……。この場合は妥協の産物なのかな」

 叉袋が浮遊して、馬に乗る様な形で上に居るゴーレムが動いている。

 逆に言えば上のゴーレムは移動力の低いパワー型であり、60レベル強から70レベル弱だとしても、かなりの攻撃力を持って居るだろう。レベル差があるからそれほど通らない筈だが、モモンガにもダメージを与えられる可能性がある。

「シズは時々狙撃で下を狙ってくれ。ただし無理はしなくていい」

「はい。ピー玉を狙う」

 ア-アーアー! 聞こえなーい!?

 シズが直球を口にしたので、モモンガは聞いて無いフリをした。そして飛行用というよりは高速移動用に<フライ/飛行>を唱えて戦闘態勢に入る。

 

「まずはこのくらいから行ってみようか。<ワイデンマジック/魔法効果範囲拡大化><ライトニング/雷撃>」

 モモンガの放った雷撃は通常よりも幅広い。

 形状も一か所において炸裂する球型よりも、広範囲への放射型の魔法だ。かなり相手が早いので、まずは小手調べに当て易さ重視と言う訳である。

「おっ、上手いぞ。さすがにこのクラスだと馬鹿じゃないな」

 ゴーレムは高速で小さなターンを掛けて軌道を変えた。

 おかげで電撃の直撃を避けて、大した被害も出さずに接近を続けている。

「見えたかシズ」

「……はい」

 先制攻撃は他愛なく防がれてしまった。

 だがソレは意図してのことだ。魔法は最初から消費魔力を抑えてのモノだったし、一部始終を狙撃手であるシズが見守って居たのだから。

 

「じゃあ段階を上げて見るか。次は一応の上限で行くぞ。<トリプレットマジック/魔法三重化><ドラゴンライトニング/龍雷>」

「……」

 モモンガは先ほどよりも強烈な雷撃を放った。

 それは龍が空を駆けるように跳ね、先ほどよりも範囲こそ狭いが的確に回避機動を呑み込むように迸る。これ対してゴーレムは盾を構えて被弾面積を最小にすると、やはり直撃を避けたのだ。

「シズ。次は同じやつをもうちょっとキツクいくぞ。チャンスがあったら遠慮するな」

(……)

 もはや声に出して反応する事無く、シズはクロスボウを深く構える。

 当てる為に全ての感覚を投入し、その時の為に没入して行く。

 

 そしてゴーレムがモモンガの至近に迫り、猛烈なチャージアタックを掛けた時にチャンスが訪れる。

 

「私に構わずやれ! <マキシマイズ・マジック/魔法最強化><ドラゴンライトニング/龍雷>」

(っ!)

 チャンスを造る為、モモンガもまた最低限のブロックを掛けた。

 <フライ/飛行>による移動で僅かに距離を取り、片手に構えた小剣でゴーレムサイズの剣を受け止める。残る片手はシールドの根元である肩口に向けて解き放つ。

「モモンガさま、大丈夫?」

「痛っう。思ったよりも痛いな。だがレベル差もあるし単純な物理攻撃ごとき問題無いよ」

 シズはクロスボウを放った直後に移動を始め、モモンガは手を挙げて応えた。

 60レベルを越えれば物理無効化は意味を為さなくなるし、防具も現地に合わせて居るのでたかがしれている。だからといってモモンガが持つ斬撃耐性を無力化する訳ではない。

「しかし性能としては大したもんだ。これは二体に分けたことのメリットだな。レベルと威力重視型が火力担当、輸送型(ホバークラフト)が回避と移動力を担当した結果だ」

 プレイヤーを相手にするならば、もう一段階の強化が必要だろう。

 だが傭兵モンスターを相手にするならば問題無いし、現地の英雄級やノーマルなドラゴン・巨人であれば十分に通用するだろう。何よりゴーレムは魔法レベルさえあがれば、量産化可能なのである。

 

 そしてこの地のゴーレム製造魔法は、儀式化する事で本来よりも低レベルで可能。

 定期的に開催されるゴーレム・コンペによって、徐々にレベルUPや形状の進化を図れば、いつかこのランクに到達する事もあるだろう。

 

「徐々に高い目標を目指す様にさせればレベルも上がるし、もしかしたら儀式魔法も更に……」

「モモンガ様。そこは危険」

 へっ?

 ガードゴーレムからは十分に距離を取って居ると言うのに、不思議とシズから忠告が飛んで来た。仮に射撃武器が隠してあっても、問題無く避けられるし刺突武器の耐性は……。

「そこは本殿から射線通ってる」

(「熱っちぃぃぃぃ!?」)

 猛烈な痛みを受けると同時に精神の平常化が発動する。

 弱点属性である火炎ダメージには耐性がなく、アミュレットによってカット率を底上げしていても激しい痛みを受けたのだ。

 

「ここまで届くとは驚きだな。私の油断だが、むしろタブラさんの設計を褒めるべきだろう」

「……」

 <フライ/飛行>でゆっくりと本殿に続く入り口から離れれば、射線を切ると第二撃は無かった。

 さっきの攻撃は単発だったのかもしれないが、ここはチャージ式で時間が掛るのだと思っておこう。

「うん、そうだ。おそらく本殿の方もこいつと同じ形式だな。きっと火力を発生させるやつと、届かせる為の砲台は別物なんだ」

「その可能性はある」

 とはいえレベル差の問題があるので、シズの視線の方が痛い。

 今までにないダメージを喰らったと言っても、火炎ダメージ込みでものたうち回るほどではないし、むしろ威厳が損なわれかねない方が問題だった。

 

 モモンガは冷静に観察すると方針を決めていく。

 ここまでは予定通りだ。着実にガードゴーレムを無力化し、ボス・ユニットの方は力任せに倒す以外の方法を見せる余裕がある方が良いだろう。

 

「シズ。魔力弾の使用、場合によっては連射も許可する。確実に輸送型ゴーレムを潰せ」

「はい」

 現地レベル外なのと、MP消耗を避ける為に使用しなかったガンの使用を許可する。

 魔法のクロスボウ程度では破壊できなかった輸送型ゴーレムも、この攻撃ならば十分に通用するだろう。狙撃で落ちればよし、落ちなければ連射によって確実に潰す。

「上は利用価値があるので一時的に放置。お前に預けたゴーレムよりも足が早かったら牽制は任せる」

「了解しました」

 そういってモモンガはガードゴーレムを惹きつける為に通路側へと移動した。

 特化型で移動速度が無いかもしれないが、輸送型(ホバークラフト)が傑作だから載せた場合には歩行速度がそれなりにある可能性もあるからだ。

 

●製鉄の魔法陣

 移動力さえなければ、ガードゴーレムを無視してこの塔を守らせられる。

 そう判断して放置を決めたモモンガだが、塔を掌握するにはボスを倒す必要があるだろう。

 

「さてと。潰すとしたらどっちかな」

 予想が当たって居たとして、火力ゴーレムと砲台ゴーレム二台で一台のボスである。

 少なくとも片方を潰さないと撃破したことにはならないだろうが、後に活かすならば全て壊すのは惜しい。できれば利用できる方を残しておきたいものである。

「常識的に考えたら砲台の方なんだけど……。この距離を届ける射撃なんて思い付かないからなあ」

 右往左往しながらガードゴーレムの攻撃から逃れ、時折<グレーター・テレポーテーション/上位転移>も使って隙を造る。

 今はゴーレムもシズの攻撃を警戒して居るかもしれないが、時間が経てばルーチンワークの問題でいつか隙が出来る筈だ。

 

 そんな風に移動を続けながら時間を稼いでいると、シズの攻撃がついに叉袋を捉えた。

 輸送型(ホバークラフト)の動きがおかしくなり、次第に動きが鈍くなって行くのが判る。

 

(うぐっ。他人事なのになんだが気の毒な気がする。……もう俺には無いんだけどな)

 存在しない股間を心の中で抑えながら、モモンガは時折<グレーター・テレポーテーション/上位転移>を唱え始める。

 そして本殿からの射線が通る位置に差し掛ったあたりで詠唱完了。熱線が向かってくるのに合わせて『視界内へ』の転移を行った。

(もしかしたら<ディレイ・テレポーテーション/転移遅延>というオチもあるからな。念には念を入れておこう)

 <グレーター・テレポーテーション/上位転移>ならば記憶にある場所に転移することもできる。

 だが<ディレイ・テレポーテーション/転移遅延>と組み合わせて熱線を送り込んで居る場合、射線の中に飛び込まされるのがオチだ。

 

 確信は無いが過信もない。

 戦い慣れたモモンガはソレを警戒して本殿への入り口前に転移し、<パーフェクト・アンノウアブル/完全不可知化>を詠唱する。

 

(えーと中央のは炉として……砲塔つーか筒が向いてんな。で、本体は魔法陣の方か)

 中央に座す大型ゴーレムは手がなく釜というか鼎型。

 そしてこちらを向いているのは。複数の筒……その中にある魔法陣だった。<オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定>で鑑定してみないと判らないが、複数ある(・・)というのが大きい。

(んで炉の周囲にも別の魔法陣があって、あのゴーレムはあくまで受け止めるだけ……。いやレベルの問題で壊れないだけなんじゃないか)

 周囲にある魔法陣は恐ろしいほどの熱量を注ぎ込んでいるが、大型ゴーレムはビクともしない。

 モモンガがレベル差もあって無事なように、耐熱構造に加えてレベルによる防御力UPが一因ではないだろうか。

(なら遠慮は不要だな。炉に必要なのはレベルだけで、魔法陣が複数あるって事は、アレも量産が効くって事だし)

 できるだけ足を壊して動けないようにしたいが、確実に出来るとも限らない。

 ならば問題なのは効果範囲を広げ過ぎて、魔法陣そのもの……あるいは知識の記録装置を壊す事だろう。あのレベルのゴーレムを現在製造するのは不可能だろうが、タブラと合流すれば幾らでも可能と思われる。

 

「構造は理解した。シズをいつまでも待たせる訳にはいかん。消えてもらうぞ<マキシマイズ・マジック/魔法最強化><リアリティ・スラシュ/現断>」

 モモンガは複数ある中継用の筒型ゴーレムの内、炉である大型ゴーレムに近い個体を破壊した。

 これによって中継を根元から止めると同時に、本体周囲の視認を確保。これから行う攻撃による影響をリアルタイムで把握できるようにしたのだ。

「おおっと、そんなに慌てるな。お前の相手も今してやるからな……<リアリティ・スラシュ/現断>」

 不可知化を解いたことで大型ゴーレムが動き出した。

 ソレが熱を吐き出そうとするのだが、移送する為の筒ゴーレムは既に破壊されている。受け止められずに周囲が白煙で染まっていくが、モモンガは一足先に移動して、<リアリティ・スラシュ/現断>を使って足を一本ずつ切り落として行った。

 

 数本ある足の幾つかを切り落とすと、ズズンと自重で大型ゴーレムが尻もちをつく。

 それでも周囲の様子が変わらなかった為、溜息つきながら本体を破壊すると周囲の光が消えて行ったのである。

 

●新しい出逢いを求めて

 ガードゴーレムもボスを倒すことで、侵入者撃退の命令が一度リセットされるように成って居たらしい。

 そこまで判った段階で、軽く魔法陣を調べてからシズと共に塔の上まで登ることにした。

 

「モモンガさま」

「やっぱりあったか。まあそれは地下墓所(カタコンベ)に戻ってからだな」

 市場上の部屋に辿りつくと、見慣れたモノと石板による図書室があった。

 モモンガは言語翻訳用のモノクルを取り出すと、塔の上にある石板を読み始める。

「えーと、やっぱりここは鉱山だったのか。しかし……科学的な炉よりも魔法陣で造った方が良かったって……らしいといえばらしいけどさ」

 一番大きな石板には資料の全体区分と歴史的なモノが刻まれていた。

 派生する形でゴーレムの開発史や魔法陣の研究碑があり、開いている付近には最近の研究が刻まれた石板がある。おそらくは下の階に奉納すると、ゴーレムか何かが持って来るようになっているのだろう。

「最新の一番優秀な研究資料が並ぶってのはありがたいけど、優勝したところだけだと直接繋がらないよね……。まあタブラさんも万能って訳じゃないし仕方無いか」

 各工房の資料を常に並べて居る訳ではないので、奉納したらしき資料はチグハグになっている。

 だがそれはそれでタブラが苦労した跡が見えて、不思議と満足するモモンガであった。

 

 一通り石板のタイトルを見た後で、モモンガは思考を整理することにした。

 ここはタブラが用意した、ゴーレムの生産工場だ。いつか合流した時にアインズ・ウール・ゴウンの戦力を増やす為に準備したのだろう。

 

「この世界の住人達は死に易いが、意図した技や魔法を開発できる。誘導してやれば収穫する事も可能ということ」

 それが今回のゴーレム騒ぎで得た体験だった。

 タブラはゴーレム開発を選んだが、その過程で自分は人形遣い達の死体から高い確率で現地の魔法を得た。

「ランダムなのに覚えられたのは師匠と弟子で一子相伝だったからかな? ならそういう連中を使えば、俺も魔法を覚えられる」

 直ぐに狙い通りの魔法を造り、奪うことは難しい。

 だがやろうと思えば時間を掛けることで、意図した系統の新魔法を収穫できるだろう。

「じゃあ何の魔法を開発して欲しいとか、その為にはどうしたら良いとか直ぐには思い付かないけどな……」

 どんな世界なのかは判った、利用の仕方も。

 だがこれから何をしたら良いのかが皆目見当が付かない。

 

 そもそも濃い性格を持つギルメンの調整はともかく、自分で何かを考案するのは得意ではないのだ。

 それこそタブラであれば神話などのウンチクから思い付くだろうし、ぷにっと萌えなどは現状からでも最良の判断を下しそうな気はするのだが。

 

「えーと、まずタブラさんと合流。次に造物主が居た時の対策……でギルドの戦力向上。あとはこの世界の事を調べる……かな」

 オウム返しのように今まで得たことを並べて行く。

 だが答えが出ないのも同じである。答を求めたわけではないが、困り果ててつい言葉が漏れてしまった。

「なあシズ。他になんか良いアイデアあるか?」

「ハム助たちと一緒に冒険!」

 するとシズは手を挙げて熱烈に主張して来る。

 事情を考慮しない他愛ない言葉なのだが、不思議と共感できてしまうのは何故だろう。いや、モモンガ自身も余計なことが無ければそうしたいと思っていたのかもしれない。

 

「あとこの子(ゴーレム)もっ」

「そうだな。タブラさんの伝言でもなかったら、みんなで旅して情報収集を先にしても面白いかもな」

 荷台ゴーレムの上にシズが乗って、キメラの子供達を肩車。

 そんな光景を思い浮かべ、モモンガは思わず笑った。珍しく頬を膨らませたシズが怒っているので、馬鹿にしたわけではないと頭を撫でてやる。

「じゃあ持って行ったら駄目と言われても良い様に、何かお土産持って行かないとな」

「うん」

 そう言いながら本殿の入り口まで戻り、モモンガ達は町へと戻り始めた。

 次の冒険に向かう為に……。




 と言う訳で、シリーズの二期目終了に成ります。
後はタブラさん視点の外伝を付けて、今度こそ終わりになります。

 今回の舞台ですが、本来はゴーレム・コンペを終えた後で、先人の造った同ランクゴーレムとの奉納試合。
その後でデータを奉納する……という感じのイベントが起きる予定でした。
しかしながら思い付いたそのコースを辿っても面白くないのと、ロボット物のテストには乱入者がつきものだよね? ということでルートを変更しております。

1:地震か何かで地下通路に穴が開く
2:獣や亜人が侵入し、ガードゴーレムがパトロールするようになる
3:イシドロさんほか、各工房のゴーレム使いが襲われる
4:ゴーレムではなく、人間大の敵を優先して倒すという命令だったので、研究者たちが主に狙われた
(そもそもゴーレムは味方で、暴走の可能性があるので)
5:モモンガさん達は偶々か、遠距離知覚で勝てないと判った?
6:本殿に裏口から行くと、命令が書き変わって誰であろうと倒す
7:本体の炉ゴーレムを倒すと、命令が止まる
 と言う流れになって居ます。

●ガードゴーレム、三身合体『パンタローネ』
 性能が中途半端になる。
その問題を解決する方法として、特化型ゴーレムを輸送型ゴーレムで運ぶという方法を思い付いた人が居ました。
叉袋の形状をしたホバークラフトに乗って、上半身ムッキムキのゴーレムが殴りかかって来るのだと思ってください。
ちなみにモモンガさんは気が付いて居ませんが、知能の高い指示ゴーレムがもう一体居て魔法探査とか判断だけする為に、最初のモモンガさん達は無視されていました。

 モデルはバーチャロンのヤガランテと、TRPGのメタルヘッドに出て来るオートサムライになります

●ジ・グラード
 ラスボスとゴーレム生産用の妥協点。
それがこのゴーレムになります。レベルのひたすら高いゴーレムを炉心にして熱量を集め、筒型の砲台ゴーレムがソレを届ける。
単純なコンセプトであり、現地人にはほぼ破壊が不可能で、かつユグドラシルの人間にもダメージが行く可能性がある……というものです。
本体は魔法陣の方で、それほど高い技術はありません。魔法陣を乗っけたまま動くだけの存在であり、技術者さえそろえば再生産が可能になります。
(炉心の方は現在、製造できるゴーレムクラフトが居ませんが)

モデルは名前の通り、バーチャロンのジグラッド。

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