時は少し戻り、金美視点。
マスター対マスターの戦い。だがその実、魔術師対魔術師では無い。一般人対魔術師である。普通に考えれば、一般人に勝ち目はない。そんなこと私だって理解している。だが少しでも抵抗しなければ後が怖い。
「ん~、そうだ、君の名前聞いてなかった。僕はちゃんと自己紹介したよ?君の名前は?」
「私の名前?まぁ、あんただけ名乗って私は名乗らないのは少し不公平だから教えてあげる。私は坂田金美よ。」
「ふ~ん、金美って言うんだ。じゃあ金美ちゃん?君から先攻でいいよ?ほらやっぱ男女の力差って結構あるからハンデを上げるよ。さぁどうぞ?ここに頬があるよ~?」
ニヤついた顔で煽ってくる菅。その煽りは一級品のものだと思う。現に私はかなりイラついている。イントネーション、表情、仕草、それら全てが見下している。
「えぇ、分かったわ。なら、お望みどうりアンタの頬をぶん殴ってやるわ。精々ハンデを与えたことを後悔しないことね!」
腕っ節にはそこそこ自信はある、同い年ぐらいの男子には勝てるぐらいには。なぜかというと中学生ぐらいの頃、母さんが念の為と言って私に武道と言いながらステゴロの喧嘩を教えてきた。しかもかなり本気で。その時の母さんの目は真剣な表情をしていたので断るに断れなかったのをよく覚えている。強さとしては母さんの場合、蹴りで木を折ることが出来ていたと思う。だがそんなのがまさか役に立つとは思ってもみなかった。母さんに感謝だ。
「ふんっ!!」
菅に向けて一発、殴りを入れる。頬に入った。後退する菅。パンチが入った所が赤く腫れていた。
「つっ…!おいおい、マジかよ、想像以上にやべぇじゃねぇかよ。ゴリラか?」
女子に向かってゴリラとはなんだゴリラとは。失礼にも程がある。だが今のトーンは明らかに素のトーンだった。
「次いくよ!はぁっ!」
腹に入れる。菅がその場に倒れた。
「はぁ…はぁ…ってぇなぁ!…フフっ…だが金美ちゃん、あんたは今から俺に攻撃を当てることはできないよ。フフハ、ハッハッハァァ!そして君は今から僕に蹂躙、調理されるんだ。さぁまずは下処理だ!……」
コンテナに来た時と同じ事を最後に言っている。そしてその時と同じ表情で私を見る。だが、寝そべっている状況で何が出来ると言うのだ。私は顔に向けて蹴りを入れる。足に当たった感触がある。
「つっ…!!」
だがその蹴りが捉えたのは、菅の顔ではない。私の腹だ。何が起こっているのか理解ができない。何故、自分の蹴りが自分の腹に入るのか?頭が追いつかない。
「ふぅ…ふぅ…どうだ?自分の蹴りを自分で食らうのは?痛いだろ?怖いだろ?なんでそんなことが?って思ってるだろう?これが僕達の魔術だ!」
そう言いながら立ち上がる菅。私は痛みに我慢しながら、後に下がる。無闇矢鱈に攻撃してはきっとさっきのようになるだろう。
「ふ~ん下がるんだ。まぁ正しい判断だけど、僕には距離なんて関係ないから。」
「Gate set.」
菅が英語を呟く。それの意味がわからない。だが注意しておかなければならないのは確かだ。
「僕はここから動かず君を調理する。ここは全部僕のまな板だと思うといいよ。」
「そんなに私を舐めてるの?もう一発殴ってあげようか?」
一応、こう言っておく。じゃないと私の心が安定しない。魔術というのが理解できていない。未知との遭遇。私にとってはそうだ。地球人が宇宙人に会うぐらいには混乱している。人間相手ではあるが、あれは立派な私とは別の存在だ。
「だから、もう金美ちゃんは僕に攻撃はできないってのが理解できてないようだね。ハハハッ。さて。」
目が一瞬、冷酷な目になった、それは本当に向けられた者にしか分からない程のものだ。
「捕まえた。」
菅がそう言うと、突然首根っこが掴まれた感じがした。瞬きの一瞬。菅の顔が目の前にあった。彼との距離は5mは離れていたはずなのに。そもそも、後に引っ張られているのに、前にいた菅の目の前に来ること自体がおかしい話ではある。
「ほら距離なんて関係ない。おらっ!」
顔に一発もらう。そして続けざまに二発、三発、四発。殴りは素人の殴りだが、男の力だ。痛みがある。七発目の時にカウンターのスキを見つけた。見逃さずに殴る。だがそれは、菅の七発目のパンチとともに、私の顔に入る。
「いけないじゃないか~、僕に手を出そうとするなんて。だから自分に返ってくるんだよ?」
ヘラヘラ笑いながら私を殴り続ける菅。ついに私は膝を着いてしまう。
「あれ?もうへばっちゃった?下処理が楽だねぇ金美ちゃんは。」
スイッチが入った。私は思いっきり彼を睨みつける。まだ心は折れていない。折れてたまるものか。あの時私は決めた、この聖杯戦争、自分の事は自分でやると。ならこの状況下、自分で道を切り拓くことに力を注ぐ。
「へぇ~まだそんな目付き出来るんだ、面白いねぇ、でも、少しムカつくな。」
蹴りが私の側頭部に当たる。頭が少しフラフラする。だが戦意だけは消さない。こんな奴に私は好きにされたくはない。
「ちっ、このゲス野郎。そのニヤついた顔、今に見れなくしてあげる。」
「はっ!少し距離が足りないけど、関係ないね!!ほら!!」
菅のパンチが空間を割いて私の元へやって来る。だがそんな攻撃、所詮ただのパンチだ。空間を超えていようがいまいが、動きは捉えれる。
「さぁ今度は私が捕まえた。どう?掴んでしまえば、あんたのよく分からない魔術も意味が無いんじゃない?そう、距離が無ければね。」
思いっきり彼の拳を握る。その時、私の力はいつも以上に入っていたと思う。
「グアァァァァ、手が、手が!折れる!離せ!離せよ!」
「離すと思う?考えが甘いんじゃないの?」
「ちぃっ!!…close!!」
空間の裂け目が無くなると同時に彼の手も離れる。
「なんだよ、お前、魔術使えないんじゃ無かったのか!?」
「魔術?おかしなこと言うわね、あんた。私は魔術なんて使ってないわよ別に?」
怯えておかしなものでも見えたのだろうか。私はサーヴァントの召喚は本があったので出来ただけで、私自身、魔術はからっきしだ。
「じゃあ、なんだよ、その腕は?…なんで腕が赤いんだよ!?」
「はぁ?何言って……?!」
彼の言った通り、私の腕は赤かった。夜の暗さをほんのり照らす程度には光っていた。
「さぁ?分からない?」
平生を装うが正直自分が一番驚いている。一体これはなんなのか?意味がわからない。
「ちっ!もういい!gate,sッ」
「させるか!オラァ!!」
「もう遅い!空間は開かれた!!」
赤い腕で彼を殴ろうとする。だが間に合わなかったらしい。きっとこの腕は力が上がっているのだろう。私は自分の力以上の自分のパンチで彼に負けるのだろう。まぁ、この腕が何かの偶然で彼に当たるとこを祈ってはいるが、私に当たる覚悟は決めておこう。
バチッ、バチバチバチ!!
「な、なんだ!僕の開いた空間が!崩壊してる!?なぜだ!!」
なんだ?目の前の空間が一瞬、電気を発して消え去った。そしてすぐに元に戻る。なるほど、天に祈りが届いたのかな?これで、彼をぶっ飛ばせれる。
「吹き飛べ!!」
彼の顔に私のパンチが思いっきり入る。それにより、後ろの方へ吹き飛び、背中から強く打つ菅。死んではいないだろう。だが、かなり重症のはずだ。3ヶ月は見積もってもいい。
その時、コンテナから大きな音がしたと思ったら、そこには大穴が空いていて、ランサーが倒れ込んでいた。
「ぐっ…カハッ…。!?マスター!!すみません、すぐに!ぐっ!?」
血を吐くランサー、あっちもこっぴどくやったらしい。
「ちっ!ランサー!あんたはあとどれ位で動ける!?」
「マスターが望むならすぐにでも…くっ。」
「しょうがない、令呪をもって命ずる!この場から離れるぞランサー!」
「御意。」
みるみる、傷が塞がるランサー。それを確認しながら、私に向いて菅が言ってくる。
「君、絶対忘れないから、金美ちゃん。次はこうはいかないぞ。いいな!」
「はいはい、捨て台詞乙。」
最後に少し煽っておこう。
「大将!!無事か!?」
バーサーカーが来た。その姿を見て、少し緊張が解れる。力が抜けるのが分かる。
「やっと、来た…。」
そこで私は意識を手放した。
とりあえずランサー戦終了です。まぁ聖杯戦争は始まったばっかりなんで脱落されてもすごく困る
構想としてはきちんと全陣営華を持たせる予定ではある。クズっぷりの強いランサーのマスター、彼の願いはいかに!?
ではまた次回。