Die Zeit heilt alle Wunden《完結》   作:日々あとむ

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第二幕 蜥蜴人と山小人 其之四

 

「オラアアアァァッ!」

 ゼンベルは高く跳躍し、飛びかかってきた後ろ足に巨大な鉤爪を持つ爬虫類を右腕で殴り迎撃する。殴られた爬虫類は「ギャッ!」と悲鳴を上げ地面に叩きつけられるが、そのゼンベルの攻撃直後の隙を縫うように同じ姿をした別の爬虫類がゼンベルに飛びかかった。

「グゥ!」

 背中に伸しかかられ、バランスを崩しそうになる。後ろ足ほどではないが前脚の巨大な爪がゼンベルの背中に食い込み、鱗を引き裂き肉に食い込む。

「ウオオオオォッ!」

 だがゼンベルは引き倒されずに、腰に力を入れて逆に背中に伸しかかった爬虫類を背負い投げるように地面へ叩きつけた。叩きつけられた爬虫類は短い悲鳴を上げるが、即座に身を起こす。ゼンベルが殴り倒した爬虫類も同様に、既に身を起こしていた。ただし、そちらは顎が砕け口から血が滴り落ちているが。

「ギャアッ! ギャアッ!」

 二匹の爬虫類――デイノニクスはゼンベルを睨みつけながら、威嚇するように叫ぶ。ゼンベルは二匹の挙動を見逃さないよう、警戒しながら体勢を整える。

 そんなゼンベルとデイノニクス二匹の様子を、ゴンドにドドム、モモンガは見物していた。

 

 ――四人は今、ラッパスレア山を探索している。モモンガが評議国の友人から迷子の捜索を頼まれ、フェオ・ライゾを出る時にゼンベルとドドムに偶然会い、ゼンベルがその捜索の旅に付き合わさせて欲しいと頼み込んだのだ。モモンガは特に気にする様子もなく、快くゼンベルの頼みを引き受けた。ゼンベルくらいの実力ならば自分の身を自分で守れるからだろう。あるいはゼンベルの目的がそもそも武者修行の旅であったから、暇潰しに付き合ってやる気になったのかもしれない。

 ドドムは、ゼンベルとモモンガの二人の実力者がいるから、ついでに外の縄張りの調査をさせて欲しいと二人に依頼したのだ。現在、ラッパスレア山は不安定になっている。実力者がいる今の内に外の調査をしっかりしておきたいらしかった。上層部からもそう指令が下り、モモンガに多少の依頼金を払って護衛をしてもらっている。

 そしてゴンドは――何とか、モモンガからルーンについて他に何か情報が無いか、あるいは下心で多少打ち解けて欲しいという思いからついてきた。仲良くなれば、モモンガにとっつきやすくなるかもしれないと思って。

 モモンガはそのゴンドの思いに気づいていたか知らないが、了承した。曰く、護衛しなくてはいけないドワーフが一人二人増えても変わらないからだとか。この山に棲むモンスター達の強さは、モモンガにとってはびくともしない程度のものしかいないらしく、子守り(・・・)程度へでもないらしい。

 

 そして――ゼンベルは武者修行のために、遭遇するモンスターと戦っていた。基本、モモンガは手助けをしない。それどころか、モンスターを惹きつける臭い袋というアイテムを使って、逆にモンスターを呼び寄せている。

 曰く――「効率的なれべるあっぷ」らしい。モンスターを山ほど倒して経験値を稼いだ方がいいとかなんとか言っていたが、ゴンドにはよく分からない話だ。

「ギィッ! ギィッ!」

「グエグエグエッ!」

 二匹のデイノニクスが叫ぶ。鳴き声が変わったのを見たゼンベルは、即座に二匹に殴りかかった。狙いは顎を砕いた方だ。だがゼンベルが殴りかかる瞬間――茂みから三匹目が飛び出してきた。三匹目がゼンベルに襲いかかる。しかし――

「気づいてんだよクソがァッ!」

 ゼンベルは叫ぶと、片手で飛びかかって来た三匹目の喉を握る。「ギャッ!」と悲鳴を上げた三匹目はそのまま喉を片手で締め付けられ、口から泡を吹き出し始めた。その姿に慌てて二匹が飛びかかるが、ゼンベルは蹴りを繰り出し、その蹴りが顎が砕けていない方の胴体にめり込む。

 悲鳴を上げるデイノニクス。痛みに悶絶し地面に倒れたそれをゼンベルは足を振り上げて踏み潰した。「グエッ!」と叫び声を上げて踏まれ胴体が陥没した方が動かなくなる。同時、ボキリと骨が砕ける鈍い音が響いてゼンベルに喉首を握られていた三匹目が動かなくなった。仲間の無惨な姿にか細い悲鳴を上げ、顎が砕けている最後の一匹が逃げようとする。だが遅い。

 ゼンベルは背を向けて逃げようとする最後の一匹に飛びかかり、尾を掴んだ。そのまま尾を持って振り回し、近くの太い幹を持つ木へ叩きつける。最後の一匹も叫び声を上げて動かなくなった。

「ふぅー……」

 全て討伐し終えたゼンベルはそう一呼吸し、周囲を見回す。もう何かが襲いかかって来る様子は無い。例え他に仲間がいても、逃げ出した可能性が高かった。ゼンベルは何も襲いかかって来ないのを確認し、地面に座り込む。

「あー! もうダメだ! 動けねぇ! 無理! モモンガ、もう無理!」

「ふむ……疲労限界か。仕方ないな」

 汗だくで地面に座り込んだゼンベルを見つめ、モモンガは頷く。手に持っている奇妙な絵が描かれた袋をびりびりに引き裂き、臭い袋は役目を終えたのか消滅した。

「さて、ではここで一旦休息を取るとするか。――ちょっと失礼」

 モモンガが一枚の羊皮紙を広げる。ゴンドはチラリと羊皮紙を覗いたが、それは地図のようだった。ただ、なんて書いてあるのか分からない。少なくともドワーフ語ではない。どこの言葉だろうか。

 モモンガ――今は漆黒のローブを羽織り仮面とガントレットをつけた魔術師の姿をした男は、魔法を幾つも唱えていく。

「〈偽りの情報(フェイクカバー)〉、〈探知対策(カウンター・ディテクト)〉、〈物体発見(ロケート・オブジェクト)〉」

 モモンガは魔法を唱えると、広げた地図をじっと見ながら頷く。

「ふむ。やはり移動していないな。……数時間経っても移動してないとは……これは、あの馬鹿ども全滅したか」

「確か、特定の物体を捜索する魔法じゃったか? お主、聞いたこともない魔法を使うんじゃのう」

「まあ、世間一般には出回っていない高位魔法ですから。私はこれでも高位の魔法詠唱者(マジック・キャスター)ですからね。物探しは得意ですよ」

 ドドムが感心したようにモモンガを見る。ドドムも一応魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるため、モモンガの使う魔法に興味があるのだろう。ドワーフは引きこもりなので、多少知識が偏っているのだ。ゼンベルに至ってはお手上げという顔をしている。

「しかし移動していないのか? 怪我でもしておるんじゃろうか?」

 ゴンドが呟くと、モモンガは首を横に振った。

「いえ、探知場所の都合上――おそらく、全滅した可能性の方が高いですね。まあ、死体くらいは残ってそうですが。……やれやれ」

 面倒そうに呟くモモンガに、ゼンベルが気まずそうに告げる。

「全滅って、そりゃまずいんじゃねぇのか?」

「評議国には復活魔法を使える奴がいるから大丈夫だ。死体を持ち帰ってやれば、なんとかなるだろ。むしろ死体を持ち帰る方が面倒そうだ……」

 モモンガの溜息に、ゼンベルが「贅沢な悩みだな」と呟く。ゴンドも、ドドムもゼンベルの言葉に頷いた。少なくともドワーフの国には復活魔法を使える者はいない。やはり大国は軍事力が違う。

「っうかよぉ……どこに向かってるんだよモモンガ。なんか、どんどん熱くなってるけどよ」

 ゼンベルの言葉通り、モモンガが指示して向かう先は、何故か気温がどんどん上昇している。この気温はあり得ない。

「説明していなかったか? このラッパスレア山には空間の裂け目みたいなものが幾つもあってな。その空間の裂け目に入ると思いもしない場所に出る。空間が別の場所に繋がっているんだ。今向かっているのは、溶岩流のある場所だよ。地下数キロしか潜っていない場所でも、その空間の裂け目――私は転移門(ゲート)と呼んでいるが――それから、別の溶岩流と繋がってしまっているのさ。それが、この気温の正体だ。熱帯雨林と化している原因でもある」

「……空間の裂け目だぁ? とんでもねぇ山だな、ここ」

 ゼンベルの呆れた声に、ゴンドも頷く。ただ、モモンガの言葉でドドムはどこに向かっているのか気づいたらしい。

「……もしや、三つの難所の内の一つか?」

「三つの難所?」

 三人の視線がドドムに向かう。ドドムは首を傾げる三人に説明した。

 ――ドワーフの国の王都フェオ・ベルカナ。フェオ・ジュラからそこへ向かうには三つの難所が存在するのだとか。

 最初の難所は、大裂け目。巨大な谷が広がっており、そこに吊り橋をかけて渡るそうだが、その崖下には何があるか全く不明。調査隊を送ったが、誰も生還者はいないのだとか。迂回すると地中モンスターと遭遇する確率が当然跳ね上がり、非常に危険だ。唯一の安全な道は地上へ出るルートらしいが、地上のモンスターだけでなく飛行モンスターにも襲われるために、別の意味で危険である。

 次の難所が溶岩地帯。地下数キロという深度であるにもかかわらず、マグマが流れており凄まじい熱気が周囲を覆う。しかも、十メートルを優に超える超巨大モンスターがマグマの中に棲みついており、遭遇すれば死ぬしかない。

 最後の難所が死の迷宮。火山性ガスが噴き荒れる、洞窟の中に存在する天然迷路。致死の猛毒が所かまわず噴き荒れるために、生者は誰も攻略出来ないおそろしい迷宮こそが王都へ向かう最後の難所。

 ドドムの説明が終わった後、モモンガの言葉の端から感じられるのはおそらく――超巨大モンスターがいるという溶岩地帯のことだろうとゴンドは理解した。ゼンベルも驚いた顔でモモンガを見ている。モモンガはドドムの説明を聞いても何処吹く風だ。

「なるほど。そこかどうかは分かりませんが、似たような場所でしょうね。まあ、そのマグマを泳ぐ巨大モンスターに遭遇しても、オリヴェルと同程度の強さならどうとでもなります」

 ゴンドはオリヴェルという名前を聞いたことはなかったが、他の二人は違うらしい。モモンガの言葉にドドムもゼンベルも驚愕の視線を向けていた。

「どうにかなっちまうのかよ……えぇ……マジでぇ?」

アレ(・・)をどうにか出来るとは、本当、お主強いのう……」

 さすがは一人でアゼルリシア山脈を踏破していることはあるの、とドドムは呆れ声だ。ゴンドもアゼルリシア山脈を本当に一人で歩き回っているということが分かり、モモンガに驚愕の視線を向けるしかない。不可視化して姿を隠して歩いているという様子でもないことを、ゴンドも悟ったからだ。

 そうこう話をしている内に、モモンガはデイノニクス三体を力技で解体する。魔法で作り出した肉切り包丁などで肉を削げ落とし、骨や牙などを引き摺り出す。

「ほら」

「む、すまん」

 骨や牙を受け取ったドドムが〈清潔(クリーン)〉の魔法を使い、血を拭きとる。ゴンドはそれを見て慌ててドドムから骨や牙を受け取った。貴重な武具などの材料であり、あまり役に立てないゴンドが荷運び役を買って出ているのだ。

 そして、削ぎ落とした肉はモモンガが全て周囲に投げ捨てた。すると、周囲の茂みに隠れていた小型の肉食モンスターがやって来て、肉を咥えて再び茂みに隠れていく。フェオ・ライゾを出てから繰り返された光景だ。

 あの小型の肉食モンスター……先程のデイノニクスをかなり小型にしたようなモンスターだが、どうやらモモンガの周囲にいると肉にありつけると学習しているようで、ずっとゴンド達の後をつけているのだ。十匹以上の群れで活動しているため、襲われたらと思うと気が気でないが、彼らはこちらを襲う気配がない。少なくとも、モモンガやゼンベルと一緒に行動しているかぎりは襲われないだろう。

 茂みで肉を咀嚼する音を聞きながら、疲れ果てたゼンベルが寝転がる。そして寝そべったまま、嫌そうな顔をしながらドドム達が持って来ていた干し肉を齧り始めた。あまり陸上動物の肉は好きではないようだ。

 ゴンドとドドムもゼンベルの近くに座り、食事を始める。モモンガだけが食事をとることもせず、少し離れた場所へ座り地図を広げたまま何か考えているようだった。ゴンドはドドムとゼンベルが何か会話を始めているのを背にして、モモンガの隣へ座り直し訊ねる。

「他に何かあるのか?」

「いえ、ちょっと地図の修正をしているだけです。私に正確な地図製作(マッピング)技術はありませんから、来る度に情報修正する必要があるんですよ。特に今回はオリヴェルがいなくなったので、縄張りの変動が凄まじいですからね」

 そのオリヴェルというモンスターは、よほど大きな縄張りを維持していたようだ。ゴンドはそう話の内容から思い至る。だが――ゴンドは少し口をもごもごと動かした後、意を決してモモンガに話しかけた。

「なあ、モモンガ殿。お主はどうしてルーン技術を調べに来たんじゃ? 本当に単なる知的好奇心なのか?」

 ゴンドがそう訊ねると、モモンガは視線を地図から逸らさずに答える。

「ええ。本当に、単なる知的好奇心ですよ。評議国ではなく――私の遠い故郷でも、一応ルーン文字というものがあったのですが、何分私の故郷とは歴史的背景などが違う様子でね。あの剣もその故郷で職人が作った物ですが、既にその職人はこの世にいません。だから――まあ、再現可能なら面白いなと、そういう程度です」

 モモンガには何の気負いも無かった。本当に、ただ興味が少しあった程度の、その程度の感慨しか抱いていない。

 ゴンド達が持つ消えゆく技術にしがみつく、狂おしいほどの情念が――モモンガには欠片も無い。目の前の男は自分達職人の理解者などでは断じて無かった。

「そうか――」

 目の前の仮面の魔術師は、魔法で武器も防具も作る凄腕の魔法詠唱者(マジック・キャスター)。そんな彼からしてみれば、職人などいてもいなくても同じなのかも知れない。ゴンドはこの旅について行って、初めて――魔法詠唱者(マジック・キャスター)の理不尽さを理解した。いや、思い知った。

 ルーン技術が廃れたのは、悲しいくらいに必然であったのかも知れない。そう納得せざるをえないほどに、この仮面の魔術師は圧倒的であったのだ。

 もはや、ゴンドはモモンガに何かを訊ねる気にはなれなかった。何か質問しても、それはひたすらルーン技術が時代遅れの烙印を押され続けると言うだけならば、何も知りたくはない。

 ペンを片手に地図を睨み続けているモモンガを置いて、ゴンドは再びドドムとゼンベルの横へ座った。そして、二人と話す。暗い気持ちを振り払うために。

 

 

「朝ですよ、皆さん」

 次の日、ゴンド達は見張りをしていたモモンガに起こされた。太陽が出て、周囲は多少の明るさを維持している。

「さあ、ゼンベル。疲れは取れたか? 今日も始めよう」

 ゼンベルはモモンガが片手に臭い袋を持っているのを見て、口の端をひくりと動かしながら「せめて飯食わせてくれ……」と呟いていた。ゴンドはドドムと共に、少しゼンベルに同情しながら朝食を食べ始める。

「しかし、モモンガ殿。お主いつ寝たり食べたりしておるんじゃ?」

 ドドムが訊ねると、モモンガはマジックアイテムで食事や睡眠の必要性を無くしているのだと言った。故郷では山登りの必須アイテムであったらしい。

「そろそろ目的地も近いからな。今日中には辿り着きたいものだ。ゼンベル、あと十キロほど進むが行けそうか?」

「十キロ!? あと十キロか! 全然行けるぜ!」

「……途端に元気になったな君は。まあ、途中でちょいとトロールに遭遇するだろうが、頑張って倒せ」

「……あ、はい」

 モモンガの言葉で元気になったり、気が沈んだり、忙しいゼンベルであった。しかし、戦うことは嫌いではないらしく、本気で嫌そうにしているわけではない。

「さて、では出発するか」

 食事を終え、少し腹休みをしたのを確認した後、モモンガはそう告げるとびりっと臭い袋の口を開く。途端、周囲にモンスターを呼び寄せる臭気が漂い始めた。相変わらず鼻腔をくすぐる臭いで、なんとなく興奮する。ゼンベルはモモンガが臭い袋を破いたのを見て気合いを入れ、先頭に立って先へ進み始めた。ゴンドとドドムは間で、最後尾はモモンガだ。……正確には、そのモモンガの背後の茂みに更に小型モンスターの群れがついて来ているのだが。

 モモンガの指示に従って、先へ進む。ゼンベルは幾度もモンスターに襲われ、その度に迎撃し――時にゴンドやドドムが襲われそうになった時はモモンガの〈雷撃(ライトニング)〉が飛んで、襲って来たモンスターは即死する。そしてモモンガは全く襲われない。

 そうして先へ進みついに――岩の裂け目を見つけた。そこから、凄まじい熱気が溢れ出ている。

「この奥だな。……どうやら、本気でモンスターの腹の中にいそうだな」

「あー。あー。あー! あー! マジか! マジで溶岩地帯に入るのか! さっきヴォルケイノ・トロールに遭遇した時点で、もしやと思ってたけどよぉ!」

「諦めるんじゃな、ゼンベル。それとも、迷惑になってはいかんし、わしらはこの入口で待つか?」

「それがいいんじゃないか? モモンガ殿、ここで待っておった方がいいかの? わしら、溶岩も平気な熱耐性なんぞ持っておらんぞ」

 訊ねると、モモンガは少し考え込んだ後――頷いた。

「そうですね。溶岩の中にころっと滑って落ちて死体が蒸発しても困りますし。ゼンベル、お前はここでドワーフ二人のお守りだ。二、三時間で帰ってくるからよろしく頼む」

「……一応聞くけどよ、その時間内に帰って来なかった場合は?」

「ん? そんなもの、死んだと思ってさっさと帰れ。生きていたらフェオ・ライゾに行くさ」

 モモンガは平然とそう告げ、更にアイテムを取り出した。小さな角笛の形をしたアイテムだ。それをドドムへと手渡す。

「これはゴブリン将軍の角笛というアイテムで、角笛を吹いたらゴブリンを複数体召喚します。いざという時にでも使用してください」

「む、分かった。まあ、使うような事態には遭いたくないが」

「そうですね。まあ、囮くらいにしか使えないと思います」

 モモンガはそう言うと、「では」と告げて岩の裂け目へ消えていった。

「んじゃ、モモンガを待つか」

「そうじゃな」

 ゼンベルとドドム、そしてゴンドは岩の裂け目の近くで待機する。モモンガがいなくなると、茂みからあの小型モンスターの群れが姿を現した。

「キィ、キィ」

 小型モンスターの群れは三人を見回すと、つかず離れずの距離を取る。ただし、茂みには隠れない。じっとゴンドやドドムを見つめている。

「…………」

 ゼンベルが近くの小石を拾い、投げた。小型モンスターの群れは小石を身を翻して避けると、先程より少し離れた距離へ移動し、再び三人を見つめてくる。

「…………」

 その距離の取り方に不吉なものを感じ、ゴンドはごくりと喉を鳴らした。

「……面倒なことになりそうだぜ」

 ゼンベルの言葉が、ゴンドの耳に嫌に響く。天気は段々と翳り、真っ黒な雨雲が姿を現し始めていた。

 

 

 


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