Die Zeit heilt alle Wunden《完結》   作:日々あとむ

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第三幕 彼方より来たる 其之三

 

 王都の倉庫区――その幾つもの巨大な倉庫が並ぶ区画にある寂れた小さな倉庫の集まり。その小さな倉庫――とは言っても平民や農民の住む並みの家屋よりは大きいのだが――その一つに、一人の老婆が人を待っていた。

 いや、待ち人を人と呼んでいいのかは分からない。何故なら、彼は一〇〇年より前に存在し、そして今なお全盛期の亜人たちの国の冒険者。

 老婆――二〇〇年前にあった伝説の十三英雄の一人であり、『死者使い』という異名を持つ魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるリグリット・ベルスー・カウラウは倉庫の裏口であるドアがノックされた音に待ち人が到着したことを察し、「どうぞ」と声をかける。

 そのドアは開かない。しかし、リグリットの声が室内に響いた数秒後に、倉庫内で姿を現した存在がいた。漆黒のローブを羽織り、肌をガントレットと仮面で隠して決して見せない魔法詠唱者(マジック・キャスター)。即ち待ち人のモモンガである。おそらく、不可視化の魔法で姿を隠蔽し、別の魔法で壁をすり抜けたのだろう。モモンガはリグリットより幅広い魔法を行使することが出来る、凄腕の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。リグリットと同じようにより魔法系統を特化させて修得していた場合、彼はどれほどの実力者になったのだろうか。リグリットはそのような思いを時折抱く。

「待たせた。少し野暮用でな」

「気にせんでいいぞ。急に用事を頼んだのはわしじゃしの」

 それほど親しい間柄ではなく、王国から遠く離れた場所にいたモモンガを呼びつけたのはリグリットだ。リグリットにとって頼れる凄腕の魔法詠唱者(マジック・キャスター)がこのモモンガと帝国のフールーダしかいないので、必然モモンガに頼むことになる。大昔に何度か会った程度だが、もう片方は色々と性格に問題があるので。

 しかしモモンガはリグリットの言葉に首を横に振る。

「そんなことは関係ない。仕事の決められた時間を守れないのは問題だ。俺は遅刻をするのもされるのも嫌いなんだ。だからこそ、謝らせてほしい。すまなかったカウラウ」

「そこまで気にしなくていいんじゃが……まあ、その謝罪を受け入れよう。モモンガ殿」

 妙なところで神経質な男だ。モモンガの強さならイビルアイと同様に調子に乗ってもいいものだが、彼からはそういった気配はあまりない。ツアーの影響だろうか。

「さて、わざわざここまですまなかったの、モモンガ殿。〈伝言(メッセージ)〉で告げた通り、探し物を手伝って欲しいんじゃが……」

「どんな探し物だ。アイテムくらいならなんとかなるが、さすがに人探しは厳しいものがあるぞ」

「昔、わしが装備していた指輪じゃよ。あれを探して欲しいんじゃ」

 リグリットがそう告げると、モモンガは首を傾げる。

「うん? あの指輪か? よく知らないが、ツアーに貰った物なんだろ? どこかに引っ掛けて抜けたのか?」

「あー……その辺り、少し事情があっての。出来ればツアーにバレる前に回収したいんじゃ。ほれ、さすがにばつが悪いしな」

 あの指輪はツアーに貰った物なのだが、その昔共に旅をした友人から貰った物を無くしてしまって謝るのは最後にしたかった。まずは見つけてから謝るべきだろう。あの指輪はツアーが作った物で、貴重な指輪なのだが製作者のツアーでもどこにあるのか知る術は無い。そのため、道具探知の魔法が必要なのだ。なんとなく、どこにあるのか察してはいるのだが万が一もあり得る。これはモモンガ以外には頼めなかった。

「まあ、気持ちは分かる。友人から貰った物を無くすのは心苦しいし、本人の目を見て謝るのも苦痛だしな。俺も昔友人から貰ったアイテムをどこにやったか分からなくして――いや、まあ落としたと思っていたら、るし★ふぁーの奴が……今はそんな話どうでもいいな、うん」

 自らの記憶にある思い出話に思考が沈みそうになっていたモモンガが、気まずそうに呟く。そして懐から幾つか巻物(スクロール)を取り出した。

「確認するが、例の指輪を落とした場所に心当たりは?」

「たぶんじゃが、法国の可能性が高いの。拾われておるかも」

「ふむ……そうなると、少し警戒が必要だな。念には念をいれておくか」

 モモンガが幾つも取り出した巻物(スクロール)を使い、魔法を唱えていく。彼は用心深く、探知魔法を使う際は必ず幾つか魔法を発動させていた。以前見た時は精々三つか四つであったが、今回はそれに加えて更に魔法を増やしている。法国を相手にする時のモモンガは更に用心深い。

 ――もっとも、彼は本来これに更に特殊技術(スキル)による強化や対策をかけるのだが、法国が相手ならばまだそこまでの対策は必要ではなかった。

 よって――。

「〈物体発見(ロケート・オブジェクト)〉――――え?」

 瞬間、モモンガとリグリットのいる場所を中心に、倉庫区の倉庫が幾つも爆発した。

 

        

 

『――アルベド』

 ――まるで、神話の中にいるようなこの世の華美を全て詰め込んだかのような、そうとしか形容することが出来ない場所。一つの世界に匹敵するほどの能力を備えた玉座が飾られた間で、この主のいないナザリック地下大墳墓の統治を行っていた白い悪魔――守護者統括の地位を持つアルベドは、自らの頭の中に響いた硬質な声に返事を送る。

「どうしたの、コキュートス」

 コキュートスは第四階層の階層守護者だ。現在は別の用件のために護衛をつけて少し外に出ているのだが、普段はナザリックの警備を行っている。そのコキュートスからの珍しい、〈伝言(メッセージ)〉の魔法にアルベドは首を傾げた。勿論、内心ではコキュートスがそのようなことをする以上、緊急事態であろうと思い第七階層守護者の赤い悪魔デミウルゴスに連絡を入れようとしているが。

『私ニカケテモラッテイタ攻性防壁ガ発動シタヨウダ。逆探知ヲカケタ方ガイイノデハナイカ?』

「――すぐに姉さんに連絡するわ。コキュートスはそのまま警戒していてちょうだい」

『了解シタ』

 アルベドはコキュートスとの連絡を切ると、デミウルゴスにすぐに指示を飛ばす。

「オーレオール! 聞こえていたわね!? デミウルゴスに連絡を入れて! それから私をすぐに第四階層の姉さんのところまで転移させてちょうだい!」

 玉座の間を出たアルベドは、即座にナザリックの転移魔法を管理している領域守護者の手で目的地へと転移させられる。デミウルゴスならば先程の会話を伝えられるだけで何をするべきか判断するだろう。

 目的地へ転移したアルベドは赤ん坊の人形を掴み、扉を開ける。扉の中の部屋から赤子の泣き声が不協和音として響き渡り、黒い喪服の……それも顔面の皮膚を引き剥がされた女が巨大な鋏を携えて絶叫しながらアルベド目がけて疾走してきた。

「どうぞ、姉さん」

 アルベドが手に持っていた赤ん坊の人形を渡すと、女はアルベドの目の前で停止し、人形を受け取る。態度はころっと変貌した。

「私の可愛らしい方の妹、ご機嫌よう」

「ごめんなさい、姉さん。急いでいるの。すぐにコキュートスに情報収集系魔法を使用した相手を特定してちょうだい」

「あらそうなの。ちょっと待っていなさい」

 アルベドが姉と呼ぶ女……ニグレドは情報収集系の魔法に特化した魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。このよく分からない世界に来てたぶん数ヶ月ほど経過したが、ニグレドの魔法を防げるような存在は見つかっていない。いや、正確には一度遭遇したのだがコキュートスが皆殺しにしてしまった。レベル的に戦闘メイドであり神官職のルプスレギナの蘇生魔法に耐えられるレベルであったので、蘇生魔法をかけたのだが彼らは全く反応しない。緊急事態であったためにしょうがなかったが、惜しい存在を殺し尽してしまった。

 ニグレドが映像を流し、アルベドにも確認出来るようにする。そこはアルベドたちからするとみすぼらしい倉庫街のような場所で――爆発で幾つも倉庫が消し飛び大騒ぎになっている。

「生命反応は無いわ、妹よ。〈爆裂(エクスプロージョン)〉で犯人は消し飛んだんじゃないのかしら?」

「そう……誰か転移魔法を使用して逃げた形跡は?」

「無いわ。あれで死なないような強さの存在も見つからないし、周囲の生存者は全員一般メイド並みに弱そう。転移魔法で逃げた様子も無いんだからやっぱり死んだんじゃないかしら」

「そうね……ここはどの辺り?」

「手に入れた脳味噌で作った地図によると、たぶん王国の王都。向こうも探知妨害をしていたから少し手間取ったわ」

 ニグレドの言葉に、アルベドは眉を顰める。

「……探知妨害、してきたの?」

「ええ」

「失礼しますよ、アルベド。ニグレド」

 新たに室内にもう一人。アルベドが連絡を入れたデミウルゴスだ。

「コキュートスにはまた攻性防壁を仕掛けておきました。それと、オーレオールたちにも一時的な監視の強化を。件の犯人は見つかりましたか?」

 眼鏡にスーツを着た細身の男。デミウルゴスの言葉にアルベドは首を横に振った。

「いいえ。というよりも、さっきので死んでしまったみたい。場所は王国の王都よ。ただ――こちらからの探知妨害をしてきていたらしいわ」

「ふむ……そうなると、犯人は法国ですかね?」

「可能性としてはやっぱりそうなるかしら」

「現状、そういった経験がありそうな連中は帝国の第六位階を使用する魔法詠唱者(マジック・キャスター)と、法国くらいのものです。それと評議国ですね。まあ、勿論この周辺国家より更に視野を広げれば分かりませんが……コキュートスを探る必要があるような存在は、例の連中の仲間くらいでしょう。コキュートスには、指輪を持たせていましたし」

「あのマジックアイテムね。確か、一番強い槍遣いが持っていたアイテムだったかしら」

「ええ。コキュートス曰く彼が一番強かったのだとか。命令を飛ばすリーダーであったようですし。勿論、他の連中もそれまでに集めた連中と比べれば雲泥の差であったのですが……。やはり、シャルティアの件があったとはいえ短絡に過ぎましたね」

「仕方ないわ。コキュートスにそこまでしろ、というのは酷よ。むしろ彼はよくやったわ。一番厄介な世界級(ワールド)アイテム持ちに逃げられずに済んだんだもの」

「ええ。もしそちらに逃走を許してしまっていた場合、シャルティアはどうしても殺す必要が出てきました。御方々がお隠れになっている以上、戦力を減らすのは得策ではありません」

「……デミウルゴス、まだモモンガ様はお隠れになったと決まったわけではないわ」

「――失言でした、アルベド。ニグレドも」

「気にしないで」

 アルベドの言葉に、デミウルゴスが唇から血が滲むように噛み締めて頭を下げる。それをアルベドとニグレドは止めた。そうだ。まだ、ナザリックの誰も信じていない。ナザリック最後の支配者であるモモンガがナザリックを去ったなどと。

 証拠はある。自分たちの現在の居場所だ。明らかに『ヘルヘイム』ではない。外の世界のことはよく知らないが、異形種の楽園である『ヘルヘイム』でも『ムスペルヘイム』でもこの世界は無いだろう。

 主はナザリックを去ったのではない。自分たちの方が、予期せぬ転移をしてしまったのだ。

「他の死体とアイテムはナザリックに保管中ですし、さすがにナザリック内部を探知するのは不可能――ですね?」

「ええ。オーレオールやシズの話では不可能だそうよ。パンドラズ・アクターがこの場にいればもっと詳しい話が分かったのでしょうけれど……」

 アルベドの俯き気味の言葉に、デミウルゴスも顔を伏せる。それが無い物ねだりであることを知っているからだ。

「不可能ですね。私も詳しくは知りませんが、パンドラズ・アクターは宝物殿の領域守護者……。指輪を持たぬ私たちでは接触不可能です」

「マジックアイテムに関してはきっと彼が一番詳しいはずよ。宝物殿の管理をしているのだし……ナザリックの財政管理もしているはずだから、異常事態には気がついているかも知れないけれど……宝物殿から出るのは不可能なのが痛いわ。知恵を合わせることが出来れば、もっと良かったのだけれど……」

「仕方ありません。〈伝言(メッセージ)〉も通用しませんし……やはり、一度も会ったことが無いせいでしょうか」

「でしょうね。おそらく、至高の御方々以外にパンドラズ・アクターと連絡を取るのは不可能と見るべき、か」

「ならば我々だけでどうにかするしかないでしょう。ルベドやガルガンチュアが動かせるならば戦力としてはよかったのですが……」

 アルベドはデミウルゴスに首を横に振る。

「駄目よ。妹やガルガンチュア、ヴィクティムにオーレオールは御方々の命令無くして動かせないわ。というより、ヴィクティムやオーレオールを持ち場から動かさないといけないなら、それは致命的失策を私たちが犯したということ」

「分かっています。ルベドを動かすような事態とは、我々の籠城戦を意味しますからね。今のところ、その気配が見えないのが幸いですが……」

「……やっぱり、マジックアイテムに詳しいパンドラズ・アクターと接触出来ないのが苦しいわ。彼がいれば、シャルティアの現状もどうにか出来たかもしれないのに」

 今も夢遊病に侵されたように草原を彷徨っている階層守護者に、アルベドは沈鬱になる。それはデミウルゴスや横で二人の会話を聞いていたニグレドとて同様だ。アレは自分たちの手痛い失敗だった。

「幸い、刺激を与えなければいいというのを知っているは私たちだけです。ましてシャルティアなら戦って負けることはまず無いでしょう。命令が無いので一定以上の距離を行動しませんし。守護者としての使命は、まだ全うさせることが出来ます」

「…………ええ。彼女はまだ、ナザリックを守る守護者だわ。殺す必要は無い」

 二人はそう結論付けて、話を戻す。

「話を戻しましょう。探知しようとしたのは、まず間違いなくコキュートスに持たせている例の指輪ね?」

 アルベドの言葉に、デミウルゴスは頷く。

「間違いないでしょうね。私たちでは効力を少し知ることしか出来ませんでしたが、コキュートスやシャルティアのような戦士系に持たせることに意味があるマジックアイテムです。例の槍遣いが装備していたのも当然ですね。あのマジックアイテムは躍起になって探すでしょう」

「そうよね……。コキュートスには外から入手したアイテムはあの指輪しか持たせていないから、探知されるような物はそれしかないもの。そして指輪の持ち主である人間の強さと今の探知魔法の情報から、彼らは法国の連中と見ていいわね。やっぱり、最優先で法国を攻め入るべきかしら。法国ならばプレイヤーがいるでしょうし……私たちが知らない、あの世界を渡る秘奥を持っているかも」

「ええ。ですが、同時に警戒すべきです。そこいらの下等生物たちはどうでもいいですが、プレイヤーは私たちでさえ警戒が必要だ。まだ御方々全員がおられた頃、侵攻してきたプレイヤーども……連中は、第八階層で御方々が殲滅しましたが、私どもは破れました。無論、今度は敗北などしませんが……」

「分かっているわ、デミウルゴス。戦いは始まる前に終わらせること……戦うのは必勝の土台を用意してから、ね」

「その通りです。今の我々に――勿論、昔の我々とてそうですが――敗北は一度として許されません。欠員を出してしまえば、私たちが『ヘルヘイム』に帰還した際、慈悲深きモモンガ様はさぞ悲しまれることでしょう。まず必勝の策を用意し、それから戦闘を仕掛けるべきです。まずは情報収集で法国を丸裸にし、ドラゴンたちがいるという評議国は最後に回します。さすがの我々も、プレイヤーでなくともドラゴンを相手にするのは注意が必要だ」

「ええ、そうね。それで、一応王国に潜ませているセバス、ソリュシャン、ユリから何か報告はあった? 王国は裏だけ支配して、評議国の盾に最後まで残しておくのでしょう?」

 セバスにソリュシャン、ユリは見た目だけなら人間にしか見えない者たちだ。他にも人間にしか見えない姿の者はいるが、他は外には出せない秘密を抱えていたり、別の部署の方が役に立ったり……そういった者たちのために人間の国で情報収集はさせられない。

 更に、王国は魔法詠唱者(マジック・キャスター)を軽視しているために、見破られる危険性が少ない。冒険者なる存在とて、そうやたらめったら看破の魔法を使用もしないだろう。性格も柔軟で人間に対して問題を起こす可能性が少ないため、最適な役割分担だった。

 セバスとユリがその優しさのために少々問題を王都で起こしかけたが、幸いソリュシャンに言い含めておいたためにソリュシャンが二人を説得し、二人は件の人物に苦痛なき死を与えることで合意した。勿論、その死体は持ち帰ってナザリックで有効活用させてもらったが。ナザリックのために働けて、彼女も幸せだろう。

「王国についてなのですが、セバスからの報告で面白いことが分かりましたので、この後少し出てきます。これがうまくいけば、王国は裏表完全に支配出来そうです」

「そう、楽しみに待っているわ。エ・ランテルについてはどうするの?」

「そちらもティトゥスにアウレリウスをお借りして、対処する予定です。近い内にズーラーノーンでしたか? あちらごと根こそぎ持って行きましょう。ただ、エ・ランテルはしばらくは解決させない予定です。エ・ランテルにはしばらく帝国の盾になっていてもらいますから」

「分かったわ。ティトゥスに話を通しておきます」

「頼みますね、アルベド。ではお二方、また後で」

 デミウルゴスが去って行く背中を、姉妹二人で見つめる。見送った後にニグレドはアルベドに声をかけた。

「ところで妹、監視はどうする?」

「もういいわ。幸い、あの倉庫区は“八本指”の息がかかっている場所ばかり……何もしなくても、“八本指”のせいになるでしょう。それに、デミウルゴスが帰り際にどうにかするでしょう。私はコキュートスにもう警戒を解いてもいいと伝えてくるから。……姉さん、ありがとう」

「いいってことよ、妹よ」

 アルベドの言葉にニグレドは茶目っ気を出したように親指を立てて答えた。それにアルベドは苦笑し、ニグレドの部屋を去って行く。

 そんな妹の姿を見送って――室内に一人残されたニグレドは寂しげに呟いた。

「ああ……本当に、スピネルを動かすような事態にだけは、ならないで欲しいわ」

 スピネル……ルベドは、ニグレドとアルベドの末の妹は、自分たちとは全く違う創造の仕方をして作られた。あれは決して、胸襟を開いていい存在ではない。

 あれはきっと、ナザリックに大いなる災いをもたらすだろう。

 だから、あれは動かしてはならない。ルベドは起動させてはならない。もし自分たちが追い詰められることがあって、ルベドを起動して敵対者全てを粉砕したその後に――ナザリックは、彼女の存在によって滅ぶだろう。

「……早く、『ヘルヘイム』に帰らなくては。モモンガ様のもとへ……致命的な失敗を犯すその前に」

 ニグレドはそう呟き、赤子の人形をそっと抱き上げた。

 

 

 


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